Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 一日遅れの第四話です。


第一回戦:欺瞞の玉座

「フッフッフーン。やっぱカルナさんパネェッス。毒食らっても即浄化しちゃうとかまじこんなんチートッス、チーターッス!」

「俺が凄いのではなく父が授けたこの具足が凄いだけだ。マスターとしてそのくらいは把握しておいてくれると訂正の手間が省けて助かる」

「カルナさんは謙虚すぎるッス。もっとジナコさんみいに胸を張るッスよ」

「むしろ胸より腹が張っている。助言はありがたいが俺は少食でな。お前のように四六時中何かを食べていられるほど胃袋が伸びきっていない」

「ボクは普通の女の子よりちょこっと燃費が悪いだけッス! レディにそう言うこと言っちゃダメッス!」

「燃費も悪く消費効率も悪いのか。レディという生き様がそれほどの苦行を伴うとは……感服して開いた口がふさがらない」

 ああ言えばこう言う漫才のようなやり取りをしながら、ジナコとカルナは第二アリーナの最深部を目指して進んでいく。先んじてアサシンと出口の側でたむろしていた俺は、遠見の魔術を使い二人の様子を見張っていた。

 母クンティーが願い、父スーリヤが授けた黄金の鎧と耳飾り『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』による絶対防御能力でカルナ本体への毒攻撃が効かないという確証を得た今、作戦は最終段階に入った。

 アリーナの構造自体は変わらず、風景は船の墓場と化した深海ではなく古戦場。カルナが宿敵アルジュナとの決戦を迎えた終焉の舞台、『クルクシェトーラの戦い』の再現だろう。

 何となくであって確証はないが、白野の第二層が相手のサーヴァントに関わっている以上、そうである可能性は捨てきれない。

 いたく暇そうにアクビをしながらアサシンは周囲の岩や戦車の残骸を回収していく。周回プレイを厭わず作業に苦痛を感じない廃人の性質を突いた罠にジナコたちがたどり着くまで、まだしばらくかかりそうだ。

「電子の魔術師とやらはよく知らぬが、あの牝豚の神経は理解に苦しむぞ。よもやアサシンの本領を知らぬのではあるまいな」

「それは大変だ。あんなに不用心じゃあ後ろから毒を食らってしまう!」

 警戒心のない相手のマスターの姿を見たアサシンは、情けないと言わんばかりにため息をつく。

 マスター殺しに長けたアサシンのことを知らないとは思えない。そんな初歩的なミスはあり得ない以上、考えられるのはこちらのクラスをキャスターと誤解している場合だ。

 AIの管理外とは言え、エネミーに対してあれだけ高度なハッキングが出来るのは一流の魔術師(ウィザード)かキャスター以外にあり得ない。最初の罠は期待していた通りの結果をもたらしてくれた。

 ランサーたちが蜂型エネミーばかり配置された脇道を降り始めたところで、アサシンに合図を送る。

「アサシン、そろそろ頼む」

「よかろう」

 白く優美な細指をパチンと弾くと、渦巻きになった坂の頂上に奇怪な人形が現れる。

 長すぎる胴体は左右非対称で、両の肩から生える肥大した多関節の腕はトゲに覆われている。異形の魔物はゆっくりと歩み、階下を目指す。

 第一層で捕獲したエネミーを多数使用した使い魔にランサーが気づいた時にはもう遅い。二人は宝箱がぽつんと置かれた袋小路に入っていた。

「ほばぁっ!? なんッスか、あの巨神兵をちっちゃくしたようなキモいエネミーは!?」

「キャスターの罠だろうな。向かい合って拳を交えるような戦い方をしない、ごくごく普通の魔術師らしい手だ」

「冷静に相手を分析している場合ッスか!? とととととにかくあの化け物をブッ飛ばすッスよ!!」

「主が奴の排除を望むならばサーヴァントとして応じるまで。使い魔であろうと手加減はしない……不器用なんでな」

 退路を塞がれて慌てふためくジナコの命に従い、カルナは僅かながら炎に包まれた手足を身構える。魔力放出で炎の威力を上乗せした槍の力を見たかったが、ワガママがすぎるか。

 先手は使い魔だった。

 右腕をしならせて大きく横に振り払い、カルナの横腹を狙う。しかしカルナはバックステップで一撃を回避する。アリーナの仮想大気を震わせる豪腕は空を切った。生じた隙は拳を打ち込むに十分すぎる。

 伝え聞くカルナの武勇をもってすれば、使い魔の緩慢な挙動を見切り、瞬く間に紅蓮の拳と脚を叩き込むなど容易いはずだ。しかし、ジナコ(マスター)が供給できる魔力の少なさと、自身の燃費の悪さからか全力を出すことが許されない。

 なまじ武勇にまつわる逸話が多く、それぞれが彼の卓抜した技能を伝えているが故、彼の行動には多大な魔力が必要になる。

 かの大槍さえ満足に扱えない素手のランサー(槍兵)はツギハギだらけの急増品と互角だった。それでもやはり英雄、これしきの紛い物など造作もなく打ち破り破砕してしまった。

「…………も、もういない?」

 宝箱の影で怯えるマスターの確認に、掌低を放った後の姿勢からいつもの棒立ちに戻ったカルナは「申し訳ない」と前置き目を伏せて答える。

「お前の命令通りブッ飛ばすことは出来なかったが、アレはもういない」

 額面通りに命令を捉えていたカルナの天然ぶりにジナコと俺は呆れ、アサシンはケタケタと声を出して笑っていた。

 

 

 

 

 暗殺者の英霊が(例外(李書文)を除き)保有する『気配遮断』スキルを解除したアサシンと、追い詰められてやむを得ず使い魔と干戈交え疲弊したカルナが視線を交わす。

「アマネさんの作戦は中々よかったッスよ~。いやホント、カルナさんをここまでバテさせたことだけ(・ ・)はトータルチャンプとして認めてあげるッス」

「流石は神廃人プレイヤー……この手のトラップは何度も経験していたか……」

 サーヴァントが単純に規格外の実力であったから助かったと気づいていないジナコの語りに付き合うのが、これほど不快感に苛まれるとは思わなかった。

 産業廃棄物とはこの豚足にこそ相応しい。

 ま、カルナは日本じゃマイナーだし、多少の配慮はしよう。

「まあアマネさんのサーヴァントがキャスターってのもマズかったッスね。カルナさんは対魔力があるし、耐久もAランクだからぶっちゃけ三騎士でもムリゲーッス。そんなチート鯖にキャスターじゃ勝ち目ないのは当たり前じゃないッスか。使い魔もぶっちゃけあの程度ならカルナさんは瞬殺余裕すぎてチャメシ・インシデントッス!」

「アッハイ」

 なんのこっちゃ。

 しかしだ。カルナの魔力放出は超高燃費、黄金の鎧も高燃費、神槍も高燃費という魔力喰らい(ソウルイーター)なのに、なんでジナコみたいな低ランクのマスターでああも動ける? おかしい。記憶違いでなければCCCのカルナは大幅に弱体化していたし、Apocryphaでもマスターを慮って宝具や魔力放出を控えていたはずだ。

 どこかにこの謎の答えがある。間違いなく前例があって、そこから打開策が見つかるはずだ。

 令呪を用いて魔力を補充すれば『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』だって使えるだろう。そうなるとこちらに勝ち目はない。やはり早々に闘技場での勝利を諦めて正解だった。

 年下である俺の前で、いい大人にしてはあまりに恥知らずな自慢話を繰り広げるジナコ・カリギリ。その身も肉体も魂も、骨の髄まで腐り果てた肉布団でしかないが、聖杯へ手を届かせるための踏み台にはなる。その無価値な命はかならず無駄で無意味に使いきってやるからな。

 

 

 

 

 今回の聖杯戦争に参加した多くのマスターが注視する人間は皆があの小僧の警戒しておる者だらけ。確かに、暇潰しで校内を散策した折に何人か目にしたが、あやつよりはるかに優れた魔術師であった。

 断罪と護国の鬼将を従えた玲瓏館などはなるほど確かに、我のような暗殺と間諜の英霊としてお粗末に過ぎるサーヴァントでは太刀打ちできぬ。あの小竜公(ドラクル)からすれば我は強欲と色欲、そして傲慢の権化故、いざ刃交えるとならば小僧もろとも、微塵の慈悲も容赦もなく伝説の杭にて貫かれてしまう。

 出来るならば早々に庭園の造営を終わらせ、速やかにリストの中でも一際危険とされておる輩を排しておきたいところ。三騎士のマスターは皆殺しでも良いやもしれん。

 アリーナから帰るなり小僧は図書室に籠りまともに出てこんし、まこと退屈よ。はてさて、あの赤い小娘を監視してみるか? 我は女帝であるが今はそれ以前にサーヴァント……業腹だが、多少の奉仕はしてやらねば心行くまで贅沢に耽溺しかねる。

 校舎を徘徊し、教会の正面にある噴水のそばにもっと面白い奴らがたむろしておる。

 ハーウェイの次期当主とその従者が、姿なき声と密談を交わしておるとは……これを見逃す手はあるまいよ。

「では兄さんは、ジナコ・カリギリを脅威ではない、と判断したのですね?」

『うむ。儂も同意見よ。あやつに怠惰を貪る他に能があるようには見えぬ。そなたも同じ考えであろう、太陽の騎士殿よ』

「はい。その点については私もユリウスとアサシンに賛成です。しかし南方周もまた、マスターとしては凡庸でしょう。秀でた才覚もなく、頼りに出来る友もいない孤独な方と聞き及んでいます」

「いいえ、それは違いますよガウェイン。彼は意図的に自分を隠しているのです。アバターもそこまで大きなカスタムはしていないので地味ですし、何より彼は誰とも繋がりがない」

 それはそうであろう。

 あれは思いの外に心を閉ざしておる。なんせ対戦相手に己の一切をひた隠し言葉の虚像で真実を見えなくしておるのだからな。卑劣で下劣な方策を取る者は往々にしてそういう気質であったしな。

「現時点で明確な脅威と認めるべきは遠坂凛、ラニ=Ⅷ、玲瓏館美沙夜、伊勢三さんの四名です。兄さんには彼らに重点を置いて活動を行うよう伝えてください」

『相分かった。確かに伝えておこう』

 面倒なサーヴァントは去ったか。我の言えたことでもないのだがな。

 しかし、我が主の名はなし、か……。ハーウェイ兄弟から意識されておらぬのは喜ばしいが、ふむ。やはり我のマスターが取るに足らぬと暗に言われてよい気はせん。

 八つ当たりをしてから帰るとしよう。

「つまらぬ餓鬼がつまらぬ騎士を引き、つまらぬ兄に助けられ、つまらぬ魔拳士を従えておるのう。そなた、王たるならばそれではいかんであろう」

「おや。僕はそんなに味気ないですか?」

「人間としての魅力も、王としての威光も持たぬ飾り物の王冠を被った餓鬼じゃ。まあ、貴様の座す壊れた椅子を崩すのは容易であろうよ」

「ならばお聞かせ願えますか? 貴女の考える王のなんたるかを」

「それを敵に問う阿呆は知らずともよいことじゃ。そこな愚物と仲良く幼稚な騎士物語ごっこでもしておるがよいわ」

 王などという民の奴隷になり下がりたいと望むことの意味をしかと考えよ。

 ガウェインが怒り心頭の様子だし、そろそろ引き際か。

「貴様らにもし王の在り方が理解できたならまた聞かせよ。精々、その時まで死なぬことだな」

 クックック。

 あの忠義者が最期の瞬間に流す涙はさぞ甘美な味がするであろうな。これは楽しみだ……小僧にはあの欠陥品までたどり着いてもらわねばならんぞ。




 レオの王道は、ギリシアやアジア圏出身の王様だったサーヴァントがこぞって否定しそうなものに思えてならなかったり。

 二回戦の相手をどうしようかと足りない頭を捻りながら次回を執筆しています。
 果たして周とセミラミスに勝ち目があるのか。
 周は何者なのか。
 謎だらけのまま、次回、一回戦五日目をご期待くだされば幸いです。

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