Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 校舎とかも色々と変更していたり。
 まぁこの辺はフレーバーなので気にせずサラッと流してください。


PROLOGUE:Ⅲ

 落下には果てがない。

 ひたすらに流れでていく身体の熱。

 ひたすらに喪われていく生命のイメージ。

 方向感覚が消え、自己の認識が消え。

 視界はおろか、持ち物、記憶さえ――

 

 これが死――

 

 きっと、骨すら残らない。

 

 それはどうしようもない事実に思えた。

 どう足掻いてもゲームオーバー。

 

 なんてことだ、と自分を罵倒する。

 はやまった。あやまった。まちがった。

 押し寄せる後悔に、顔を塞いで涙する。

 それも無意味だ。

 こうなってはもう誰も。

 こんな自分を救えないのだから。

 

 

 一瞬か。

 それとも永遠か。

 他に比べるもののない空間での落下は、無重力に等しい。

 もう日の光も忘れてしまった。

 かつていた地上は、何億光年も彼方に去った。

 無重力の永さは、手脚の動きを奪っていった。

 麻痺、あるいは退化している。

 眼球も太陽を忘れ、とうに機能を終えた。

 そして心も。

 変化のない外界に飽きて、緩やかに閉鎖していく。

 身体は泥のようで、心は鉛のようだ。

 もう眠ってしまいたい。

 心を閉ざし。

 自分を忘れてしまいたい。

 永遠にこのままなのだろう、という絶望から。

 目を背けて狂ってしまいたい。

 ……けれど。

 けれど。心の奥底で、まだ温かい火種がある。

 自分では不思議だし、笑えてくるほどだ。

 この状況、この恐怖の中で、何をいまさら。

 一縷の希望を捨てずにいるのか。

 手脚は氷のように冷え切った。

 心も、思考も、屍のように停止した。

 もしもこの暗黒に幾ばくの光が射込もうと。

 もう完全に、自分には必要のないものだ。

 

 過ぎ去った。

 過ぎ去った。

 過ぎ去った。

 ――――――すべての希望は、過ぎ去っていった。

 もう、じゅうぶんすぎるだけの責め苦を受けた。

 永遠であれ一瞬であれ……もう、終わりにしよう。

 “終わらない”拷問はここで終わり。

 あとはこの、未練がましいばかりの独白を打ち切れば、すべてが片付く。

 さぁ、ただ一言――――“完”と呟けば良い。

 でも、何かが引っかかった。

 爪を剥がす程度の痛みが、終わろうとする自分を呼び止めている。

 よくよく目をこらせば、それはいつかの火種だった。

 胸に残った小さな火種は、まだ冷え切ってはいなかった。

 この火種は消せない。

 面倒だ。

 とにかく面倒だ。

 だから、使い切ってしまうことにしよう。

 希望は火種だから残ってしまった。

 一度燃やしてしまえばすぐに光を失い、すぐに胸の中もからっぽにしてくれるだろう。

 さぁ

 

 お前は何を告げたい――?

 

 ――忘れない――

 

 ……残念ながら、それは間違いだ。

 自分だって覚えていないというのに。

 いったい何を忘れないと言うのだろう――

 

『ああ、このようなところにいらっしゃったのですね。とてもか細い、吹けば飛ぶような小さき灯火ですが、その熱はけして光を忘れぬ者の証し』

 

 ……?

 いま、確かに声がした。

 それもただの声ではない。

 あまりにも慈悲深く。

 あまりにも力強い。

 耳にしただけで己が包まれるような。

 絶対的な『手』の存在。

 ……取り戻した火が、熱が、懸命に手を伸ばす。

 穏やかながらも、凛と響く声の主。

 誰かは分からないけれど。

 “彼女”を認識することが出来るのなら。

 この暗黒の中から抜け出せるのではないかと。

 最後の力を振り絞って目を開け――

 

『いけませんよ。ここは絶望と終焉の奥底。無抵抗なまま、目にすべきではない』

 

『あなたはとても眩い。故、光届かぬ闇の中では脆きに過ぎる。悪意にも似た影たちの恰好の獲物です。』

 

『愛は届かず。祈りは絶え果て。主の御手より遙か遠い辺獄』

 

『ですが、既にして奇蹟は為りました。眩い光には色濃い影がつき従う。理とは即ち神の意思、あとはそれを果たすのです』

 

『マスターにのみ赦された三度の奇蹟。貴方は思うがままに命じればいい。神の如く高らかに、我が意を叫びなさい』

 

 教え諭す女性の声に導かれ。

 意識は明確な答えを叩き出す。

 私はマスターだ。

 どうする。

 どうする。

 どうるれば――

 

 ――愚問。

 マスター。

 ますたー。

 ますたあ。

 何のことだか分からない。

 分からないけれど。

 マスターとして命じるしか、ない!

 暗闇の中でいる彼女に、すべてを託すため――

 

「マスターとして、命じる」

 

主よ、これより何処へ赴かれるか( Domine Quo Vadis )

 

「歩むべき場所へ。私が目指す、目的地へ。この深い闇の外へ――!」

 

御意のままに――( Amen―― )

 

 暗闇すら及ばない暗黒の影。

 それはソラにぽっかり空いたブラックホールではなく――

 目の前にいる、喪服姿のサーヴァントだった。

 

「お初にお目にかかります。

御身はなぜ虚数の海へ墜ちられたのでしょう。

これほどに真っ直ぐな目をしておられますのに」

「お名前は存じ上げております。

岸波白野様、ですね。

主従の契りを結んだのです。そのくらいはどうとでも」

「三画の令呪を以て命ぜられた通り。これより私はあなたのサーヴァントです。そして貴方は我がマスターとなられた」

 

 ちょっと待って欲しい。

 この女性が、自分のサーヴァント?

 いや、そもそもサーヴァントとかマスターとか言われてもなんのことだか――

 自分の状況もいまいち掴めていないのに!

 

「混乱なさるのも当然でしょう。目覚めたばかりでは右も左も同じコト」

 

 優しげに微笑みながら。

 けれど、何故か不安定な目だった。

 

「説明は、また後ほどにいたしましょう。貴方をお呼びする声も聞こえることですし」

 

 サーヴァント……サーヴァント?

 記憶の中には無いはずなのに、知っているような感覚。

 これから彼女と関係を持つことになると分かる。

 だからこそ、サーヴァントだけでは始めようがない。

 あなたの名前は、クラスは何なのでしょう?

 

「これは……失念しておりました。契約など随分と久しかったので……。そのような作法でしたね、失礼いたしました」

 

 記憶から抜け落ちるほどの永い時を、ここで過ごしたのか。

 どうしてそんなことに。

 疑問は募るが、タイミングが訪れない。

 

「私はバーサーカー。貴方の令呪がそうであったように。我が身も狂った英霊にございます。真名()はフアナ・デ・カスティーリャ。狂女王フアナ、と言えば通りも良いでしょう。クラスでも真名でも、どうぞご随意に及びください」

 

 漆黒のサーヴァント、フアナはそう言って薄れ始めた。

 この場から消え去るように。

 え――――ここからどうやって出ればいいの!?

 

「ご心配には及びません。私は誰よりも暗闇に通じております。あとはすべてお任せくださいませ」

 

 ええと、具体的には?

 

「こう唱えるのです。『もっと(Plus)先へ(Ultra)――』」

 

 バーサーカーの唇の動きを真似た。

 狂女王の紡いだ言葉をリピートする。

 恐れるな。

 一歩を踏み出せ。

 迷いなく、前へと進め―― 

 

 バーサーカーは一礼し、今度こそ姿を消した。

 何故だろう、私はもう彼女の言葉を信じ切っている。

 疑う余地もないのだけれど。

 契約する前から心を開いていたような。

 胸のからっぽ埋めてくれそうな気がした。

 何もかも流れでていった、この空洞を――。

 不可解不思議は数多い。

 けれど今はすべてあとにしたい。

 今はただ、身体にかかった虚脱感が消えていく。

 泡と散るように跡形もなく。

 

「月の裏側、虚影の海を征かれる方よ。私は貴方の影として太陽の下へ導きましょう。ですがどうかお忘れなく。光届かぬ闇は愛なき悪魔の巣窟です」

 

「背徳への囁きを拒むも聞くも、すべては岸波様ご自身のお心次第――」

 

 バーサーカーらしからぬ理知的な忠告が遠のく。

 溶けゆく意識の断片が拾い上げたのは、光を失った令呪の痕だった。

 

 

 

 

 旧校舎の会議室。

 茜色の旧校舎でも、一際に広い部屋は殺伐としていた。

 間違っても俺のせいではない。

 だが、言い方が他にあった可能性も、否定は出来ない。

 しかし――レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイにも感情があったらしい。

 王としての機能に落とし込んでいると思っていたが、意外だった。

 微笑みが消えて口を開けたまま、押し黙っている。

 こちらは何も喋らない。向こうのリアクションを待つ。

「……聖杯戦争の停止、ですか」

「ああ。既に決ったことだ」

 事前に告知しておけばいいものを。

 他人に任せるからこんなことになる。

 俺とマドカで得られる信用なんて紙くず以下だろうに。

「理由をご存じであれば、聞かせてもらえますか?」

「より効率的な人類の観察形態を採用した。ただ消費するだけの闘争から、生産も含めた生存へ移行する」

「ハッキリ言えば、SE.RA.PHを一般に開放して新世界にしちゃおうってワケ」

「そして我が新世界の王として君臨する」

「沙条愛歌は聖杯の、セミラミスが世界を管理する」

 メドゥーサは黙ったままだった。

 口を挟むようなことでもないか。羨ましいな。

 レオとガウェイン、それにユリウスを同時に相手するのは疲れる。

 人形みたいな美少年だが、中身はもう支配者として完成しているんじゃないか?

 絵に描いたような金髪碧眼も俺には恐ろしいだけだ。

「ある時期を境に消息を絶っていたが……ムーンセルにいたとはな」

「それでは西欧財閥も捕捉しようがありません。ですが厄介な状況ですね……」

「事象選択樹を手にしたまま、放置も出来ん」

「表に戻ってどうするかはそちらの勝手だ」

「おや。彼女の配下である以上、あなた方も排除対象ですよ?」

「……容赦ないな」

 そういう取捨選択の容赦無さは知っている。

 全体を生かすために少数を……とは違うか。

 王というシステムである以上、人間の感情よりも責務を優先する。

 それは正解だが、セミラミスの前で言わないで欲しかった。

 いちいちこっちで止めるのも面倒なんだがな。

「小僧、貴様のつまらぬ王道を語る赦しを与えた覚えはない。我に挑むとは即ち、月のすべてに挑むも等しい愚行と心得よ」

「毒婦風情が笑止千万。世界を富と欲に糜爛させるだけの君主など、もはや誅すべき怪物と同じ。その腐りきった覇道、我が剣の一太刀で葬ってくれよう」

「そう毛を逆立てるな忠犬、日の光の下で吠えるだけならば豚でもこなすぞ?」

 ああ……ああ……売り言葉に買い言葉だ。

 令呪も使いたくはないし、こうなったら俺が言っても止まらない。

 レオもニコニコ顔だが、ガウェインを止めない時点で腹の底は知れている。

 マドカにどうにかしろと目線を送ってもコイツはコイツで役に立たない。

 腕時計を弄るな馬鹿。周りを見てくれ、お前も死にかけてるんだよレオと俺のサーヴァントのせいで。責任は向こうに九割あるが、ともかく。

「……別に、沙条愛歌に味方しているわけじゃない。アイツと戦うなら勝手にしてくれ、俺は関わらない」

「王は常に一人ですよミナカタさん」

「その通りだマスター。そなたも我が主である以上、王たらんと志す者を然るべく処さねばならぬ」

「いまさら地球に固執してどうする。資源量で言えば――」

「僕の目指す王とは、聖杯とSE.RA.PHの双方を手にした形です」

 宣戦布告されてしまった。

 今ココで愛歌が来て、いい感じに始末してくれやしないだろうか。

 寝返りを宣言してもあのガウェインとユリウスが裏切り者を信用するはずもない。

 どうすればいい。

 何を言えばコイツは矛を収める?

 何を以て納得、せめて休戦なり一時停戦に持ち込める?

 ふざけやがって、一度岸波白野に負けておいて偉そうなことばかり言いくさる。

「じゃあ賭けようぜ。もしレオが黒幕を倒せたら、アマネはレオに譲位する。けれど、もしも出来なかったら……君は、世界から削除される。存在そのものが消えて無くなる」

「だそうだが」

「交渉するまでもありませんね。元よりそのつもりでいるのですから」

「決裂したら爆裂だけどオッケー?」

 ……助かった。

 念のために仕掛けさせておいて正解だった。

 自分の強さを自覚している人間はここまで頑固になるとは。

「おやおやおやおやおや!! おンやアァァァァ!? 脅迫とはこれまたコトですぞマスター様!? わたくし、これでも平和主義者なのですがねェェェェェ!?」

 けたたましく笑い転げる白面の異相。

 毒々しいナリの道化が実体化する。

 北上マドカ、もう一騎のサーヴァントが宝具をちらつかせて首を傾げた。

「どうぞそこなお坊ちゃまも騎士さまもお兄様も聞いてください我が身の不幸!! わたくしご覧の通り心の根っから平和と日常を愛して止まないサーヴァントの中のサーヴァント、そんなピースマンに向かってまさか月の裏側に落っこちてきて気絶している方々に爆弾を仕掛けろだなんてマァなァ――んて惨い!!」

「仕えることで右に出る者なしと自負している忠義者ではゴザイマスよ!? ございますけどそういう道を外れた悪行は諫めなければと心を鬼にいたしまして『いけませんぞ』と教え諭せば令呪で無理強いなさるんですものこれを外道と言わずになんと言う!!」

「ですのでハイそういう事情と背景で皆様のお身体に私の宝具『微睡む爆弾(チクタク・ボム)』が設置完了している次第!! ちょっとでもご機嫌損なえばさん・にい・いち・パァァァァァッ!! 世界は終わり!! そんな具合になっておりますお分かりいただけましたでしょうかァァァァァァァ????」

「つーわけなのよね。人の話聞かないタイプだと思って保険掛けといたけど正解だったわ。じゃあ最後の質問いっちゃって」

「聞きますよコレがファイナルチャンス!! 共闘しますか!? しませんか!?」

「「白黒選んで!! さぁどっち!?」」

 仲良くうるさい奴らだ。

 妙にリズムに乗っているのが余計に鬱陶しい。

 爆弾魔が口で「チキチキチキチキ……」と時計の音を再現している。うるさい。

「一時休戦、それでよろしいですね」

「ああ、十分だ。元からこっちは襲う予定もなかったんだがな」

「だから言ったじゃん。使えるようにしとこうって。それを嫌がってさぁ?」

「ええまったくもってお人好しったらありゃしない!! こんな思いをさせるのが不憫だから女帝の毒で静かに旅立たせてさしあげようだなんてこのメフィストメフェレスあまりの慈悲深さに心打たれてついウッカリ三〇発分ぜぇーんぶ使ってしまいましたですよ!?」

「アガりすぎて真名言っちゃってんのバッカでぇこのアサシン!?」

「真名バレたらクラスもバレるに決ってるでしょうおバカさん!?」

 このやり取りをセミラミスはどんな顔で聞いているのだろう。

 少し興味もある。だが命はなにより惜しい。

 好奇心で自分のサーヴァントに殺されるなんて論外だ。

 黙ってカップの紅茶を啜っている。

 似たような性格、ということなのだろう。

 月に来る前からマドカはこんな性格だった。

 さて……レオたちの表情はさておき、岸波はいつ起きるのやら。

 この様子では誰が紅茶のお代わりを用意してくれるのだろう。

 まさか自分でやるのか?

 面倒くさいが……サクラを呼ぶのも不味い。

 最後の一杯、ありがたく飲むとしよう。




 オリ鯖です。
 どうもムーンセルの令呪はクラスごとになってるので、元々の契約鯖もバーサーカーとなります。
 狂女王フアナはマイナーではないはず。
 逸話は狂ったエピソード全振りですけど大丈夫大丈夫。

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