Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 CCC編リメイク第一話。
 原作ベースで改変入れつつ、白野とサクラと聖杯のお話。
 当然ながら周も愛歌も環もいるぞ。
 典型的な汎用救世主型主人公(フランシスコ・ザビエル)徹底的な無差別粛清型主人公(ヨシフ・スターリン)でお送りします。


Fate/EXTRA CCC編
PROLOGUE:Ⅰ


 気持ちよく晴れた朝の通学路。

 もう随分通い慣れたはずなのに、いまだに道を覚えられないまま、正門に着いた。

 時間はまだ十分にある。

 同じ制服姿の学生たちが、和気藹々としながら正門を通過していく。

 習慣(ルーチン)に従い、自分も正門に向かう。

 そこには、生徒会長であり友人でもある柳洞一成が立っていた。

 はて。今日は風紀の乱れを取り締まる運動、風紀検査はなかったはずだが。

「おはよう! 今朝も気持ちのいい朝で大変結構! 絶好の学生日和だ!」

 端正な顔立ちに似つかわしくない、熱血にすぎる挨拶だった。

「ん? どうした、その“なにか悪いものでも食べたか?”と言いたげな顔は」

「朝の風紀検査って、今日だったっけ?」

「これが俺の役割(ロール)なのだ。そちらの記録に齟齬があるのではないか?」

 彼がここに立っていたから、勘違いしたようだ。

 なんだか寝ぼけていたみたいだ、と一成に笑って、校舎に向かうことにした。

 同じように繰り返すやり取り。そう思っていたが、今日は変化があった。

「待ってくれ、実は頼みたい事があるのだ」

 足を止めて振り返る。

「悪いが、教室に行く前に一階の用具倉庫を閉めてきてくれないか? 鍵を閉め忘れてしまってな」

 一階の用具室……たしか、昇降口から左手に向かった廊下の奥だ。

 ホームルームまではまだ時間があるし、他ならぬ一成の頼みなら断る理由もない。

「分かった、自分でよければ」 

「そうか、それは良かった! 他の生徒たちはみな通り過ぎるだけでな、お前がきてくれて助かったよ」

「気にしないで欲しい、出来ることならなんでも手伝う」

「最後の登校日にすまん限りだ。……まったく、最近は妙な管理役が増えるし、通達も多くて俺も気苦労が絶えんのだ。岸波のような役員があと一人いれば、俺も保健室の彼女も助かるのだがな」

 独り言に気づいてハッとし、一成は我に帰ったようだった。

「む。いや、無神経なことを口にした。生徒会など、無理強いして入って貰うものでも無かったか。では、これが倉庫の鍵だ」

 小さな金属の鍵を受け取る。

 プラスチックのキーホルダーはネームプレートも兼ねていて、黒いペンで『一階倉庫』と書かれていた。

「ではな。最後に後悔のない、よい一日を!」

 涼やかな美男子は仰々しく礼を言い、また正門を監視する作業に戻った。

 最後までこの調子なのかと、感心してしまう。

 よく調整された機械のような生真面目さだ。

 一成に別れを告げて校舎に向かう。

 早春とも初夏ともつかない日射しに眼を細める。

 岸波白野の一日は、こうして始まろうとしていた。

 

 

「もういいです、ゲラウッ! やっぱりリアルに期待するコトなんてナニひとつねぇのデス!」

 散々に叫びながら、倉庫から閉め出された。

 そしてドアからガチャリと鍵の閉まる音がする。

 内側から鍵を掛けた様だ。

 用具倉庫室の妖精、あるいは喋るロッカー……そんな未知との遭遇。

 色々とだらしのない防御力の高そうなイエロー系エリートニートは、ちゃんと鍵を閉めてくれた。

 ジナコ=カリギリ。どうにも不思議な人だった。

 あんな参加者もいたのかと思いつつ、暗い倉庫を後にする。

「……?」

 いや、待った。

 いま、何か妙なフレーズを使った気がする。

 まだ寝ぼけているのだろう。

 今朝はいつにも増して気分が浮ついているようだ。最後の登校日ということも、影響しているのかもしれない。

 すれ違う生徒たちも、みなそわそわしているように見える。

 2年A組みの教室へ行こうと階段に足をかける。

 周囲に意識が向いて、頭上からの音に気づくのが遅れた。

 喩えるなら、女性ものの靴が勢いよく段差につまづいて、その弾みで足を踏み外してくるような。

 

「――あら、あらあら、あらあらあら」

 

 例えるなら、じゃなかった。

 今まさに人影が落ちてきている――!

 気づいた時にはすべて手遅れ、ただ未来を受け入れるのみだった。

 

「きゃ――――っ!」

 

 悲鳴と大きな音が、廊下に響いた。

 廊下にしこたま後頭部を打ちつける。

 脳が震えて目がチカチカしている。

 点滅する視界のまま、自分の状況を知ろうと手を這わせ――

 

「っ、あんっ……!」

 

 官能的な声が、濡れて聞こえる。

 

「まぁ……乱暴な手触り、ですのね。女のどこを触っているのか、分かっているのですか?」

 

 果たして、這わせた指は空を切らず、圧倒的なまでの質量に溶けるように食い込んだ。

 

「んっ……! そんな、もぎ取るような勢いで……恥ずかしい、(ワタクシ)も、力が入りません……」

 

 なんだこの、インパクトはっ。

 

「――――っ」

 

 蕩けるような手触り。

 

「あぁ、お許しくださいませ……このような公共の場でなんて、私……困ります……」

 

 押せば返す瑞々しい肉の感触。

 

「――――ッ」

 

 それでいて重さを支えた指は衣服から離れず、むしり癒着するかの如く食い込んでいくっ。

 

「指だけでなく、唇まで……ですが、乳飲み子のように求める魂を、一体誰が諌められましょう……」

 

 それはあまりにも豊かな――

 

「――――っっ」

 

 さながら、大地の実りを連想させる――

 

「ああ――指だけでなく、唇まで使うなんて――」

 

 大ボリュウムな、何かだった――――

 

「――――――――――」

 

「まるで底なしの黒洞のよう……いいえ、呼吸にあえぐ魚のような……魚の……ような……?」

 

「…………」

 

 本能が酸素を求めていた。

 柔軟性と質量で空気が遮断された中、ただ呼吸だけを要求していた。

 

「ふ、不覚です! 私の不注意でした、この胸で貴方の呼吸を妨げていたなんて。申し訳ありません、すぐに起き上が――」

 

 上へ持ち上がっていく超重量。

 大気に飢えた肺へ空気が流れ込む。

 

「あっ」

 

「――――☆!!!!?★!??」

 

 再度襲来する重みの幸福が、後頭部を床に叩きつける。

 

 

 

 

 

「……いたたた」

 

 ようやく起き上がる。

 いったいなにをしていたのだろうか、自分は。

 何かすごいものを受け止めて、前後不覚に陥っていた気がする。

 気を取り直して顔を上げると、目の前には見慣れない女性の顔があった。

「良かった、気がつかれたのですね!」

 如何にも尼僧(聖職者)といった、気品のある女性。

 禁欲的なイメージと相反し、ボディラインを強調した尼僧服が美貌を際立たせる。

「あぁ……ほっとしました。ありがとう、可愛い学生さん。お名前を伺っても?」

 女性は安堵の顔で、こちらの手を握ってくる。

 近すぎる顔と、かがんだ姿勢のせいで視界にちらつく実りでが声を上ずらせる。

「岸波……は、白野……です」

「岸波白野さん、ですか。良いお名前をお持ちですのね。このお礼はいずれ、必ず」

 深々と頭を下げられた。

「それでは、また後ほど。この先もどうかよろしくお願いしますね、素敵なマスターさん」

 去っていく美女。

 またしても、気になるワードが残された。

 さっきから耳にする『マスター』とはいったい何のことだろう。

 それを問い質そうとするが、割って入った声がすべてを持って行ってしまう。

「お久しぶりですね、ハクノさん」

「……」

「……」

 階段の上から、ゴミを見るように見下ろしてくる特注の赤い学制服はレオだ。

 最近転入してきた貴公子は、ブロンドの髪を朝日に輝かせながら、苦笑した。

 気まずいが、手を挙げて挨拶する。大事なコトだ。

「……や、やあ」

「おはようございます、ミスハクノ。朝からお盛んですね」

 天使の笑顔で告げて、レオは踊り場の上から微笑んだ。

 階段の上から一部始終を見られていたらしい。

 既にHRの鐘も鳴り、教室にいなければならない時間帯のハズ。

 いつも黒髪のお兄さんに送って貰っている彼が、何故こんなところに?

 こちらの疑問を雰囲気で察したのか、王子様は「どうやら、まだのようですね」と呟く。

 虚しい現実逃避に走りながら、レオを追う形で教室に向かって行った。

 

 

 2年A組の教室に入る。

 色々あったがHRはまだ始まっていない。

 自分の机に座って、気を落ち着けてると友人の間桐慎二が話しかけてきた。

「やぁハクノ。めずらしく今朝はギリギリじゃないか。真面目なだけが取り得のクセに」

 ずいぶんな物言いに聞こえるかもしれないが、しかし悪意を感じさせないのが彼の美点だ。

「ああ、もしかしてPiece Journalに嵌っちゃってた?」

 Piece Journal、通称“PJ”と呼ばれる巨大掲示板のことだ。

 情報共有のための掲示板ではなく、ディープでマニアックな知識層……自称・専門家のサロンのような場所である。

 実際、慎二のような本物が集っているから、私のような凡人には無縁の世界だ。

「はは、やめとけって。あそこはお前みたいな凡人が行っていい世界じゃない、アレは選ばれたプレイヤー……そう、一握りのゲームチャンプだけが発現し、信者を得るべき場所だからね!」

 世界第二位のお言葉通りだった。

 現在バトルスコア七千八百万、ワールドランキングでもNo.2という天才の城だ。

 前にログを見せて貰ったが、この世界二位、すべての煽りに丁寧に煽り返している。

 律儀なのかなんなのか、少し感心するほどだった記憶がある。

 こんな風に、自意識過剰とエリート思想と自己顕示欲が焦げるまで煮詰めたような人物だ。

 何故か自分とは長年の腐れ縁で、互いに話しかけあっている。

 大口に似合うだけのマルチな才能を学業、ゲーム双方で発揮している。

『あれで空気が読めていれば本当にアイドルなのに』

 ……というのが女子達の総意だとかなんとか。

 女子達の総意に私が含まれていないところは、少し引っかからなくもない。

「おや、相変わらずネット上で無双しているのですね、シンジは――ふっ」

 今日も絶好調の慎二に、レオが含みのある笑いを投げかけた。

「は? なんだよ今の笑い。、レオ、お前なにか言いたいことがあるのかよ。文句があるってなら是非ともスコアで語ってほしいね」

「いえ――先ほどリアルで無双している方を見てしまいまして。格差社会の残酷さというものを、再認識しました。僕も考えを改める事になりそうです」

 ……レオの涼しげな笑顔はこちらに向けられている。

 やはりさっきの階段での一件を言っているのだ。

 レオ・B・ハーウェイ。つい最近、この学園に転入してきた美少年。

 世界有数の巨大財閥の御曹司にして、飛び級の天才児。

 はじめこそ育ちの違い、能力の違いに怖じ気づいていたが、今は何気ない世間話を出来る仲になっていた。

 なにかのきっかけで自分たちとレオは打ち解けたのだが、すぐに思い出せない。

 ということは、どこにでもあるような出来事によるのだろう。

「ところでシンジ。PJではまだ例の――聖杯戦争、とかいう噂は立っているのですか?」

「あぁ、立ってるよ。“いざ競い合え魔術師たちよ。聖杯は勝ち残った最後の一人の、いかなる望みをも叶えるだろう”なんて、手垢のついた触れ込みでさ。運営すら謎だし、参加法もさっぱり。胡散臭いったらないよ」

 聖杯戦争――

 その響きは、どこかで――

「ですが興味は湧きますね。いかなる願いも叶える、ですか。もしハクノさんなら、どんな願いを口にしますか?」

「私? 私は……」

 そう言われて、考える。だが思いつくこともなかった。

 欲しいものはいくらでもある、けれどどれも『努力すれば手に入るもの』に過ぎない。

 どんな願いも、という言葉には『どうやっても手に入らないもの』というニュアンスがあるように感じる。

 私は、そんな大それたものを求めるほど大きな人間じゃない。

 強いて挙げるなら、学食の年間フリーパスくらいだ。

「そうですか。ハクノさんらしいですね」

「そういうレオはどうなんだよ。みんなが驚くような願いとか、あるんじゃないの?」

 私も慎二の問いに興味がある。

 世界でも指折りの大富豪、その御曹司はどんな願いを持っているのだろう?

「勿論です。僕はそのために月海原へ転入して――」

「え? レオは確か――」

「……おかしいな、僕の転入理由は父の都合……でしたよね?」

「お前、どうかしたのか?」

 そうじゃないか、と慎二が答える。

 レオは彼のお兄さんと二人で月海原へ転入してきた。

 半年だけの在籍だが、その事実だけははっきりと記録している。

「ええ。きっと思い違いでしょう――そうだ、次はユリウス兄さんに聞いてみましょうか。兄さんはあれで、面白い願いを持っていそうですし」

「ユリウスさんか。確かに気になるな……」

 ユリウス兄さんことユリウス・B・ハーウェイ、レオの兄である。。

 曰くレオの執事兼お目付役であり、身の回りの世話はすべて彼が行っているとかなんとか。

 高級車で正門前まで送り迎えするその姿は、全校生徒の憧れの的だ。

 教職員免許もあり、一度だけ代理で社会の授業を受け持ったこともある。

 それが人気に拍車をかけているのは事実だ。

 やや影のある二枚目は本来の担当教諭と変わらないはずだが……。また格差社会だった。

「……あのさァ。なんで、そこであの陰気な兄ちゃんの話になるわけ? 今の流れで“どんな願いがあるの?”って次に聞かれるのは僕だよね!?」

「はいはい、それじゃあどんな願い?」

「は、お前も頭が悪いねハクノ! 僕の親友でありながら、そんなことも分からないなんてさ!」

 ナンバーワンチャンプになって出直せ、と言った方が面白かったか。

「僕の願いは一つ――『この地上で、誰もが目を見張る成果(スコア)を残すコト』さ!」

「なるほど。でしたら、欧州のゲームチャンプを倒さなくてはいけませんね」

アイツ(じな子)はただの凡人、素人と同じだ。磨き抜かれた純粋なテクニックと判断力、天性のインスピレーションじゃ僕の圧勝さ。プレイ時間が膨大なだけの廃人なんて蹴落として、来週にはこの僕が晴れてナンバーワンプレイヤーだ」

「確かに次のキャンペーンはシンジの独壇場ですね」

 ――じな子?

 何か、つい最近も最近、今朝そんな名前を聞いた気がする。

「頑張ってください。世界(ワールド)チャンプの暁には、僕もお祝いをしましょう」

「ホントだな!? 聞いたかハクノ、来週はレオの豪邸でシンジOH祭りだ! 楽しみにしておけよな!」

「うん。楽しみにしてるね」

 そんな、益体のない話をしていると、HRのベルが鳴った。

 まぁベルが鳴ろうと鳴るまいとあまり変わらなかったりする。

 今日も、我がクラスの担任の野獣のような足音が廊下から響いて――

「……あれ?」

 ――こない?

 不審に思っていると、ドアが静かに開かれ、スーツ姿の人物が入ってきた。

 その鬱々とした顔色が放つ雰囲気に気後れしているのか、誰も一言も発さない。

 男性――見た目からして、十代後半から二十代前半だろう――は無感情な眼差しを真っ直ぐに、教壇に向かう。

「藤村先生の代理として自分がHRを行なうことになった」

 黒板に名前を書くこともせず、淡々と出席簿を開く。

 社会科教諭、葛木宗一郎の痩せた長身がこの時間に教壇にあろうとは。

 

 今日は色々と食い違いの多い日だ。




 Fox tail要素はないです。
 ただしちょっと駆け足気味。
 原作まんまのところダラダラやっても仕方ないでしょ的な。

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