Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 やったぜフラン!

 この結果はまるで予想していなかったため喜びもひとしおです。
 読者の皆様の期待を裏切らないよう、完結目指して参ります。


最終決戦:大地の杖

 空中庭園のバックアップでセミラミスのステータスは大幅に強化された。最高ランクの知名度補正と無尽蔵に引き出せる魔力で無理矢理にバーサーカーを封印し、たった今その鎖を解き放った。

 鳴り響く反骨の凱歌。

 有りとあらゆるものは彼を縛ること能わず、万象は己が理をねじ曲げられる定め。

 その骸は同志と共に街道へ晒されたが、圧政者への抵抗は死してなお、狂気に堕ちてもなお忘れ得ぬ不変の性質。

 困難の道にあって絶やさぬ微笑みは、艱難辛苦の果てにある勝利への希望があるからこそ。

 帝国最大規模の剣奴反乱を指揮した反逆者は穏やかに、しかして筋肉(マッスル)な肉体を引っ提げてセイバーと対峙した。

「おお我が友よ、遂に反逆の時が来たのだね」

 謁見の間に現れた狂戦士はにこやかに問う。

 友と呼ばれた魔術師は、不健康な顔色でその巨躯を見上げて答える。

「そうだとも。彼女は君がかつて反逆した国でも最悪の暴君だ。好きにするといい」

「素晴らしい。この機会を与えてくれた君はまさしく反逆の道を共に歩む同朋だ」

 二人が結んだ協定はとても単純だった。周の令呪とセミラミスからの魔力供給によって現界を保つから、スパルタクスは彼らに力を貸す。その代わり、周は反逆すべき圧政者を探し、連れてくる。

 たったそれだけの協定だ。

 トラキアの災禍と恐れられた剣奴は、暖かな笑みのままはち切れんばかりの筋肉を更に膨らませた。二メートルを優に越す筋肉の鎧で覆われた巨体がセイバーを捉える。

「インペラトゥールが何するものぞ、我が前に立つ圧政者をその御座より引きずり下ろそう。さぁ、貴様の傲慢が潰える時がやって来たぞ!!」

 咆哮が空中庭園に響き渡る。

 窮地の味方は奮起し、大勢なる万軍は恐れ戦く疵獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)

 それは無論、岸波白野も例外ではない。

 魔力を含んだ空気砲による大気の震動が身体に襲い掛かる。セイバーが前に立ってくれなければ無傷ではいられなかっただろう。

「そなたの気高き叛逆精神は称賛に値するが、皇帝たる余に剣 奴(グラディエーター)風情が刃向かった罪は変わらんぞ。もう一度、貴様の骸を去らしてやろうではないか反逆者よ」

 紅蓮の皇帝は真紅の大剣を構え、即座に駆けた。

 Aランクの敏捷は伊達ではなく、斧剣が如き小剣(グラディウス)の一撃を左に飛んで回避し、そのままスパルタクスの右腕を駆け上がる。

 一発の破壊力は絶大だが、如何せん鈍重なスパルタクスでは捉えきれず、たちまちにセイバーの放った斬撃がバーサーカーの眼球を切り捨てた。

 二つの眼窩から赤い体液が散るが、不屈の巨体に変化はない。圧倒的な頑健さはEXランクの耐久パラメーターに恥じぬ鉄壁である。

 人間の域を越えた肉体は誇り高き叛逆精神の顕れ。その極地こそ対人宝具『疵獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)』なのだ。スパルタクスの蒼白い屍人同然の肌色をした肉体に刻まれたダメージの一部を魔力へ変換、蓄積する能力に岸波白野は気付かない。

 セイバーの剣が舞い、スパルタクスの血潮が踊る光景を周は冷ややかに眺めている。

 機動力と敏捷性は高いが一撃が軽いセイバーと、高火力重装甲なれど重鈍なバーサーカーは互いに相性が悪い。片や仕留めきれず、片や当てられぬ。これでは泥沼試合だ。

 周はそれを望まない。

 自らの手で岸波白野に幕引くのは、可能ならば程度の些細な願望だが、このバーサーカーの宝具が危険であると知っている。なので必要以上に時間をかけたくなかった。

「岸波白野、俺を殺したいなら来い」

 正々堂々と、白野を挑発する。

 どちらも魔術師としての実力などゴミに等しい。勝敗を決める要素は礼装の性能と運用方法だ。真っ正面から挑むのが得意な白野にアドバンテージがあるようで、蓋を開けてみれば南方周と大差ない。

 三種類の決着術式(ファイナリティ)と三騎のサーヴァント。この圧倒的な戦力差を容易く覆せる状況にあって、白野はレオから託された剣を構える。

 対する周は美沙夜が改造したフラットの拳銃を手にしている。

「死ぬのはお前だ、南方周」

 コード・キャストで移動速度を強化した白野は複雑な起動で周に迫る。それに動じる彼ではなく、冷静に白銀に輝く短銃の引き金を引いた。

 銃口から発射された弾丸は赤い残影を伴って標的へと駆ける。合計五発の魔弾は湾曲した軌道で、どこを狙っているのか読めない。白野は咄嗟に剣を盾として構え直した。

「……チッ。防いだか」

 周は舌打ちしながらも手早く次弾の装填を完了、再び五連続の魔弾で更に足止めを行う。そこに躊躇いはない。容赦も情けも、誇りすらもかなぐり捨てた、勝利することだけを見据えた戦法である。

 これで王の刃は届かなくなった。

 奏者の不利を察したセイバーはバーサーカーから距離を取った。狂乱の檻に囚われた反逆者は鈍重であるが故、それ自体は実に容易い。問題は――

 

「貴様! セイバーを逃すとは何事か!?」

 

 玉座から腰をあげてバーサーカーを叱責するキャスターだ。奏者と連携をとれないのは問題だが、相手もマスターとサーヴァントを分断してしまえば少なからず不利になる。

 白野から敵サーヴァントの目を少しでも逸らしたいセイバーはセミラミスを狙い突撃した。

 流石の女帝もこれには即応し、神魚の鱗盾を展開して斬撃を耐えた。

「貴様という者がいながら何故に我がこのような真似をせねばならぬ! 役に立たぬ木偶の坊めが!!」

 癇癪を起こして怒鳴り散らす暴君らしいセミラミスは自分の手で首筋を切り裂いた。吹き出す血潮はどす黒く、生者のそれではない。

 玉座の周囲に出来上がった血の池は瞬く間に床と壁に染み込み、極細の溝を走る。宝具によって劇毒と化した彼女は体液でも一際に毒性の強い血液が、それと知られることのないままに空中庭園全域に張り巡らされていく。

 大怪我も大神殿クラスの工房から際限なく供給される魔力のおかげで直ぐ様に癒える。

 それを見たセイバーは、

「血の宝具か。見た目通りに悪どい趣味よ」

「貴様如き小物には余りに惜しいからのう」

 セミラミスと睨み合う。

 自らの障害となり続けた母親(アグリッピナ)の面影を見ているセイバーにとって、玉座からこちらを見下ろす冷徹にして残忍な女帝は徹底的に相容れぬ存在だった。

 

 ――何より毒がいかん。美しくない!

 

 生前の経験からか、セイバーにとって毒には悪いイメージしかない。セミラミスからすれば、赤い皇帝に思うところなど微塵もない。何もかもが自分に劣る噛ませ犬。精々可愛がってから殺してやろうとしか意識していなかった。

 だからこそ双方の表情には天と地ほどの隔たりがあった。

 露骨に敵意を剥き出しにしたセイバーと余裕の笑みで悠然と構えるセミラミス。

 それを遠目に確認した周は改めて白野と向かい合う。周の右手には銀色の短銃、左手には赤黒い短剣。白野の右手には蒼銀の長剣、左手には最後の一画となった令呪。

 これは覆し難い差だ。

 ドイツの民謡を元にしたオペラで知られる『魔弾の射手』からヒントを得た百発百中の必中礼装『外れぬ呪詛(デア・フライシュッツ)』と、屍人化した美沙夜の血を刃に仕込んだ『異次元からの色彩(カラー・フロム・アウタースペース)』 による遠近の両立は、白野に与えられた近接戦での優勢を打ち砕いた。

 このままでは勝ち目がない。

 

 白野の決断は迅速だった。

 保健室に運んだ沙条綾香から手渡された、極上の魔力を限界まで貯蔵した刻印蟲を取り込む。激痛と共に気を失いそうなほど大量かつ高密度のマナが全身に満ちる。

「刻印蟲を使ったか。死にたいならせめて介錯だけはしてやる」

 冷静沈着に白野を観察する周が『外れぬ呪詛(デア・フライシュッツ)』 の銃口を向ける。が、直ぐに諦めて下へ向けた。

「ああそうだ。聖杯を求めることが俺にとって自殺行為なのは知っている。勝っても死ぬのは分かっているが、お前だけは殺す!!」

倒す(・ ・)のではなく殺す(・ ・)か。出来もしないことを宣言しては後で恥をかく事になる」

 生真面目に忠告したのか、それとも冷やかしたのかは分からない。普段と代わり映えしない不機嫌そうな表情は、決着術式(ファイナリティ)が起動する光景を静かに見つめている。

 

「魔性よ震えろ。貴様を払う光が東に昇る。万人に仇なす邪悪を滅する太陽の聖剣が、ありとあらゆる不浄を日輪の威光を以て焼き払う――決着術式(ファイナリティ)聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)』!!」

 

 人を守護し、魔を断つ者こそ真の英雄。彼らが担う希望の具現たる輝きの聖剣が煌めく。時を経ても変わらぬ英雄への信仰を再現した最高の術式が起動する。

 空中庭園を制御する謁見の間はたちまち炎の壁(ファイアー・ウォール)に囲まれた。燃え盛る神聖なる焔が内と外を隔て、何人も、この壁を越えることは出来ない。聖剣クラスの宝具ならばそれも可能だろうが、残念なことに周の契約したサーヴァントに該当する英霊は一人もいない。

 が、彼の読みではこの結界の持続時間は長くても一分以内。それ以上ともなれば、魔力枯渇で息絶えると踏んでいた。

(あのレオが三分なら、刻印蟲のブースト有りで一分持てば上々か)

 一分だけ耐えきれば勝つ。ならばと周も惜しみ無く美沙夜が勝手に製作した決着術式(ファイナリティ)を取り出す。

 毒蛇を思わせるデザインの装甲をした小手を両腕に装備、魔力を流し込む。右の小手から走る一本の経路(ライン)が周の全身を駆け巡り、左手の小手に帰結する。一匹の蛇を宿した魔術師は、そっと目を開く。

「轟く角笛の旋律(ギャラホルン)を聞くがいい。我を棄てた天上の神々は亡び、我を孕んだ地上の巨人は消える。今ここに最終戦争(ラグナロク)の時、来たれり。――決着術式(ファイナリティ)破滅杖・呪詛吐く大蛇(ミズガルズ・ヨルムンガンド)』」

 

 破滅をもたらす者として神々が海に棄てた蛇は世界を呪った。三度戦鎚を打ち付けられて果てる時、吐き出した怨嗟の毒に雷神は斃れる。

 周の澱んだ瞳が妖しく光る。

 人ならざる異質な魔力を宿した魔術師と、その身に過ぎたる力を手にした魔術師が対峙する。

 

 魔と人の最終決戦が、始まる――――




 周のアレは北欧神話に出てくる世界蛇が元ネタです。勝手に産み出されて勝手に棄てられたら恨みもするだろうという作者の妄想。

 キャメロットの効果はただの結界に過ぎず、周は初めて正面切って戦う覚悟を決めた最終決戦も後わずかです。
 それでは次回にご期待くださいませ。

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