Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 Apocryphaを読んでるといつも思うのはセミ様が胡散臭いサーヴァントなのにマスターから信頼されなぁってことです。
 あの人の場合、愛妻願望あってもおかしくないですが同じ女性アサシンのアサ子が不遇だったので微笑ましい限り。


第一回戦:海賊騎士

 混雑を極めた食堂でなんとか二人分の空席を見つけて腰を下ろすと、黙々と例の麻婆豆腐を頬張る岸波白野と向かい合わせになっていた。

「……あ、あの……」

「ここ空いてるかしら白野くん」

「と、遠坂……」

 俺が断りを入れるより早く遠坂凛が割って入り、返事が来るより先に最後の席を占拠した。

 アサシンにざるそばの食べ方をレクチャーしつつ、この状況を俺は知っていると再確認する。そうだ。赤セイバーが白野の麻婆豆腐を食べて噎せ返り、凛が焼きそばパンを頬張っていた。

 次に来るのは――

「げっ……お前ら……。白野、まさかお前、こいつと手を組むんじゃないだろうな……」

「あら。アジア圏有数のクラッカーがずいぶん弱気じゃない? マトウシンジくん」

 凛の挑発にシンジは戦慄(わなな)く。

「うるさいぞ遠坂。ちょっと口先が達者なだけのくせに……!」

「ゲーム感覚の人よりはマシよ。まわりを見てみなさい。結構な大物もこの聖杯戦争に参加してるわ。警戒していないのは貴方たちだけね」

 お前が言うな発言に凛はあっさり切り返して白野、シンジ、俺を見た。

 言わせてもらうが、俺は警戒してるし対策も練ってるよ。いざというときに逃げ切れるよう、どうやってお前らを弱体化させるかについて。

 さらに白野と凛が聖杯についてああだこうだ話をしている。

 その間、ワサビを塊で食べようとしているアサシンに、ちょっとだけツユに溶かすよう説得している俺はまた別の闖入者が来ると直感した。

「その通りです遠坂凛。聖杯は僕たち(西欧財閥)の管理下に置かせてもらいます」

 中性的で品のある声に、食堂の空気が一変する。

 赤い制服に身を包んだ少年と白銀の鎧を纏った従者に視線が集まる。レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイと円卓の騎士が一人であるガウェイン卿とあればこのざわめきも必然だ。

 しかし俺はざるそばを食べる。

 あの二人に絡まれるより早く食べ終えないと、確実に蕎麦が不味くなって食欲に響く。

『よいのか? アレはカルナと同格のサーヴァント、手の内を知っておいて損は無いであろう?』

『ガウェインの弱点は太陽が出ていない状況、宝具は聖剣ガラティーンだ。こっちの宝具が完成すれば何も怖くない』

『そなたの目は千里眼か? こうも容易く素性を見破るとは大したものよ』

 念話でないしょ話をしながらレオを見る。凛と岸波しか眼中にないことを不快に感じたシンジが早速噛みついた。こらアサシン、笑ったらメンドクサイ奴らにバレるからやめなさい。

「お前! このボクをずいぶん無視してくれるじゃないか。言っておくけどね! このゲームで優勝するのは誰でもない、ボクなんだ! ハーウェイだかなんだか知らないけど生意気だぞ!」

 転校生に人気を根こそぎ持っていかれて腹が立つからつっかかる小学生か。あ、八歳だから小学生なんだっけこのワカメ。

 ややこしいな……。噛ませ犬のくせに。

「……それは失礼しました。申し訳ありません。そうとは知らず、不快な思いをさせてしまったのですね。……あなたのお名前(・ ・ ・)は?」

 ごく自然にレオは言い放った。

オマエ(・ ・ ・)なんて(・ ・ ・)知らん(・ ・ ・)』――と。

 プライドを傷つけられて憤慨するシンジを、アサシンはピエロを見るような、小馬鹿にした目で観察している。

『あの小僧、見た目の割り言いよるのう。……いや、あの海藻ならば致し方ないな』

『そりゃレオは騎士王クラスのサーヴァントを連れて、なおかつ自身も優秀な魔術師だ。たかだかアジア圏ゲームチャンプ程度の肩書きなんて気にしないだろうよ。サーヴァントも中の上がいいとこだし』

 憐れ愚かな海藻は、怒りに任せて従者を呼びましたとさ。

 胸元を大きく開いた赤いコートに毛先のはねた赤い髪。顔にはこれまた大きな傷跡。クラシカルな2丁拳銃携えし其は騎兵の英霊(ライダー)

 名をフランシス・ドレイク。

 英国を征服せんと迫り来るスペイン無敵艦隊(グラン・フェリシジデ・アルマダ)を撃退せし海賊騎士にして、世界一周を果たし手に入れた数多の財を以てイギリスを大国に導いた星の開拓者(破格の女傑)

 

 ……なんて言えば聞こえはいいが、ドレイクは近代の偉人だからステータスはそんなに突出してないんだよ。

 伝説の騎士王を盟主とした円卓の一柱が相手では部が悪い。

 ガラティーンの一閃を受けたのか、ドレイクは脂汗をかいている。これ以上見ていても意味はないし、蕎麦もご飯も食べ終えた。

 アサシンに目配せし、人混みに紛れて食堂を後にする。

 もし凛や白野と知り合いだなんて勘違いで注目されたら、後々に動きにくくなる。

 

 

 

 

 食後の運動がてらアリーナに行こうと扉へ手を伸ばす。

「あのー……ちょっといいですか?」

「!!??」

 突然呼び掛けられて驚いた俺はつんのめって顔を鉄の扉に叩きつける。

『…………よもやそなたも道化であったか』

 悶絶するマスターを眺めため息をつくアサシンは霊体化を解かず、俺を起こしてくれたのは、昨日ここですれ違ったマスター、沙条綾香のサーヴァントであるランスロットだった。ところでサーヴァントってなんだっけ?

「怪我はありませんか? 宜しければ保健室にお送りしますが」

「だ、大丈夫だ……問題ない」

 よそのマスターの身を案じるサー・ランスロットはサーヴァントの鑑。ただ鎧のせいで差し出された方の手を握った掌がちょっと痛い。あと頭が割れそう。

 校舎でダメージを負うことはないのが幸いだった。現実なら骨にヒビが入っていてもおかしくない。

「で、俺に用事でも……?」

「はい。あの、このくらいの背丈で金髪のセミロングで水色の目で薄緑のロリータ服を着た女の子を見ませんでしたか?」

 

 

 …………………………。

 

 

「やけに具体的ではないか。そなたの知り合いか?」

「知り合いって言うか……実の姉です」

「ミタコトナイナ」

「そうですか……ご迷惑おかけしてすみません。用はこれだけなので、私は失礼します……」

 申し訳なさそうに沙条綾香は去っていく。

 ランスロットも一礼してマスターを追う。

 その背中に俺は心の内で言葉を投げかける。

 

 ――見つからないといいな。お前の姉さん。

 

 

 

 

 頭痛が引いたら胃痛がしてきたような気がする。

 なんだろう、こう、二日続けて悪夢が現実になってしまった感じ……。

 沙条綾香の姉、愛歌がPrototype本編中に契約していたのは確かビーストだった。所謂『666の獣』だな。しかしここは月の中。サーヴァントの選定はムーンセルによって決定される以上、より精神性が近いか性格面で相性がいいサーヴァントになる。

 ガトーのような例外が二度も起こるとは考えにくいし、まあそこまでヤバい英霊ではあるまい。ギルガメッシュは封印されてるし、カルナはジナコと契約している。極刑王は知名度補正が得られず……詰むとしたらヘラクレスかスパルタクス、あとは精々、アンリマユくらいか? 

 そもそも愛歌がいないならそれが最高だけど……。

 憂鬱だ……。

「明日あたりには次のアリーナが開かれる頃であろう。どうだ? 作戦とやらは順調か?」

「それは問題ない……。ジナコの心を決戦日の前にへし折る準備はカンペキだ。宝具の完成度は今でどのくらいだ?」

「まだ基礎すら出来上がっておらぬ。次のアリーナに手頃な資材があればよいのだがな」

 ジナコが仕掛けてこないなら、最低でも魔術工房として機能させられるまでは出来て欲しい。セミラミスは対サーヴァントじゃあのラピュタモドキがないと話にならないんだからな。

 アリーナで回収したリソースを元に遠見の水晶玉を作ったセミラミスは、学校の敷地内でたむろしているマスターやNPCを監視して遊んでいる。いちゃついているカップルを把握したり、サーヴァントのヒントがないか漁っているのだ。

 悪趣味だが、別にいちいち注意する必要もない。

 アサシンやキャスターへの対策を怠ったソイツが単に間抜けだったか、自分の力量すらまともに把握できない阿呆か、そもそも遠見の魔術を知らない馬鹿だ。

 端的に言えば『油断した方が悪い』

 ムーンセルが開催する聖杯戦争はその名の通り、決闘(デュエル)ではなく生存競争(サバイバル)……息抜きは必用かもしれないが、気を抜くことは許されない。そのための個室があるわけだしな。

「のう小僧よ、そなたはいずれのマスターを警戒しておるのだ? 我としてはやはりレオとリンは外せぬと思うぞ」

「レオより、兄のユリウスが厄介だ。李書文の圏境もユリウスの暗殺者としての実力も恐ろしい。あとはラニ=Ⅷの従える呂布奉先も脅威だな」

「ではこの玲瓏館美沙夜はどうだ」

「ヤバいな」

伊勢三(イセミ)(ナニガシ)とやらは?」

「危険だ」

 嫌がらせみたいにプロト勢がいる……。玲瓏館美沙夜と伊勢三って、原作では確か、クー・フーリンとペルセウスがサーヴァントだったよな。兄貴の原点と宝具祭りとか勘弁してつかあさい。割と本気でやめてください死んでしまいます。

 しかし凛が兄貴だった場合、美沙夜はどのサーヴァントに変わっているんだろう。絢香がプロトアーサーからランスロットになってたくらいだ。おちおち気を抜けない。

 大真面目に焦っている俺はさぞかし面白いらしく、セミラミスは逸話に違わぬ淫蕩な笑みを向けている。

「ま、サーヴァントのマトリクスを探る作業に手を貸すのはやぶさかではない。しかし、策を練るのはそなたの仕事だ。よいな」

「そりゃあ少しはマスターらしくしないと俺もプライドが傷つく。それに、俺は貴女を楽しませないといけないしな」

 このサーヴァントは何の見返りもなしにマスターに従いはしない。

 最低限の指示は聞くし、必要とあれば知恵も手も貸す。

 ただし、常に何かしらの報酬を支払わなければ彼女に背後から毒されてくたばる未来が待ち構えている。

 俺が用意すべきは愉悦。聖杯戦争が始まってすぐ、自分を楽しませろと、確かにそう口にした。 ならばなすべきことは一つ。喜劇的な悲劇を演出する、それに尽きる。

「己の立ち位置をよく理解しておくのだな。貴様は我が主であり聖杯戦争に参加するマスター、我が見るに能わぬ茶番に興じておる暇はないぞ」

「他の奴らと本気で仲良くするつもりなんてない。どうせ俺以外のマスターはムーンセルに消されるんだ」

 セミラミスの射し貫く眼光に臆さず、真っ直ぐ見返して答えた。今の解答に満足したのか、またいつもの邪悪で妖艶な笑いを浮かべてこちらを眺めはじめた。

 明日はセカンダリトリガーの取得にアリーナ探索、次の罠を仕掛けてとやることが多い。色々あって疲れたし、今日は早めに寝てしまおう。




 前回の綾香に続きまたpPrototypeのマスターがちらほら。この先出番を用意したいですね。サンクレイドに
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 前半の食堂での部分はコミックスにあった一幕。台詞を一部いじくってはいますがだいたいあんなカンジでした。白野はなぜあの麻婆豆腐を平然と食せるのか気になるパートです。

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