Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 十月二六月日刊ランキング三位ありがとうございます。投稿してすぐの頃はお気に入り登録100件もあれば良いと思っていたのは慢心でした。

 まんしん だめ ぜったい

 バサクレスが強すぎて辛いです。流石ギリシャは格が違った。


最終決戦:閉幕の調べ

 絢爛豪華な真紅と黄金の劇場を見渡す女子とライダー。瞬く間に展開されたセイバーの宝具を、二人は不自然なほど冷静に分析する。

 

 ―発動に消費された魔力からして、これは固有結界と似て非なる大魔術でしょう。それでも宝具、油断はできません―

 

 ―つまりこれは、世界を書き換えるのではなく上書きする対陣宝具ってわけね。なんとも微妙なセイバーなことだね―

 

 『招き蕩う黄金劇場(アイストゥス・ドムス・アウレア)』は魔術によって建築工程を飛ばした巨大建造物の投影である。だからこそ、魔力の乏しい岸波白野がマスターであっても発動可能なのだ。

「これは驚きだね。こういうのはキャスターの専売特許だとばかり思っていたよ」

「ふん。これしきで腰を抜かしていてはキリがないぞ魔術師よ。ここは『絶対皇帝圏』、余が全てを決定する場なのだからな」

 堂々と胸を張るセイバーに女子は爽やかな笑顔を返した。その脳内ではライダーの筋力と耐久が低下しているを宝具の効果と判断、逃げに徹するのが最善との決断に到達している。

 一方で、息も絶え絶えの白野は既にかなりの魔力を宝具発動に費やしており、長時間の展開(これ以上の負担)は難しいのが現状だった。

「そなたのように見目麗しい美女と干戈交えるのは趣味ではないが、余に刃向かう不届き者には罰を与えねばなるまい。手加減はせぬぞ、ライダー!!」

 奏者の魔力残量も考え、セイバーは短期決着に持ち込もうと凄まじい勢いで剣を奮う。それをライダーは全身全霊で回避する。

 足払いは後退で、首を狙われれば身体を捻り、袈裟斬りなら軸足で回転して斬撃をことごとくかわす。毛先一ミリすら掠めさせずにである。

 体重を感じさせない軽やかなステップと骨格を無視したおかしな体勢を絶え間なく披露するライダーの舞いは奇怪ながら、妖しげな色香があった。

 正しく喜劇じみた光景を眺める女子がここでようやく具体的な指示を出した。

「ライダー、少しだけ本気で攻めてごらん」

 命令への応答はない。言葉で返事をするまでもなく、ライダーは地面を蹴り、一直線にセイバーへ突っ込んだ。迎撃すべく振り下ろされた剣は美女の脳天を切り裂くことはなく、頭部を庇う両の腕に巻かれた鎖によって阻まれた。

「なんと!?」

「――――ッ」

  そのまま突進の勢いと馬鹿力で剣を弾き、セイバーを怯ませる。力比べでは筋力が元々低い彼女に不利であり、なされるがままに隙を見せてしまう。

 やむを得ず距離を取ろうとしたものの、ライダーの拳が腹部にめり込んで背後に吹き飛ばされた。

「セイバー!!」

 幸い宝具のおかげで坂道を転がり落ちることはなく、セイバーは自分の宝具の壁に激突し地面へ叩きつけられただけで済んだ。憔悴しきった白野とは逆に、女子は緩みきった態度である。

 

「君たちさぁ、ライダーに苦戦してちゃあ聖杯なんて無理だよ? 分かってる?」

「貴様はあの男のサーヴァントを知っておるのか?」

「あの男って誰さ。……僕が言ってるのは七回戦が終わってからの話だよ。君たちが聖杯に辿り着いたとしても、そこには『獣』がいる。今の君たちじゃあ、まず勝てないぜ?」

 

 ――さあ、どうする?

 

 女子はセイバーの傍らでしゃがんでいた白野の前に立ち、品定めするような目でニンマリと笑みながら見下ろした。

 少し離れた場所ではライダーが白野たちを見つめている。いつこの女子が「殺せ」と命じても対応できるよう、臨戦態勢である。

 セイバーは直ぐ様に立ち上がり、奏者を庇う立ち位置になるよう女子とライダーに向かい合う。

 黄金劇場は限界に達し崩壊した。セイバーが宝具を使えるのは一日に一度が限度である。

 ――打つ手なし、白野の脳裏に『敗北』の二文字がよぎったその時、

 

「マスター、時間切れです」

 

 ライダーと女子の身体が急に透過し始めた。動じるようすのない二人は徐々に薄らいでいく。消え行く女子は、もはやまともに見えなくなった姿でヒラヒラと手を振る。

 

「今の実力は把握したね? それじゃあ最後に一言。パワーだけが聖杯戦争じゃない。持てる全てを使い潰して戦うんだ――じゃあね」

 

 最後までフランクで謎めいた女子は、彼女のサーヴァントとともに消えた。残された白野は、ついに南方周の攻略方法を見つけた。 

 冷血で非道な最後の対戦相手が抱える唯一無二にして致命的な弱点、それは――――

 

 

 

 

 時刻は夕方、すっかり閑散として久しい校舎はAIたちの姿も減ってきたように思える。すぐに見つかるのは図書室管理のAI間目知識とアリーナ管理AI有稲幾夜、そして健康管理AIである鬼畜シスターのカレンくらいのものだ。

 一回戦の頃はシンジのような遊び感覚のマスターが多くかなり騒がしかったし、あちこちに一般のAIたちも待機していた。

 本戦が始まってから一度も立ち寄らなかったこの教室も、今や俺一人。予選期間中の知り合いは誰一人として残ることなく消え去った。

 どんな目的でムーンセルに接触したのかは知らないし、どういった願いがあるのかも分からない。ただ、それらはまとめて潰えたのだ。

 今となってはどうでもいいことだが。

『聖杯戦争もついに終幕へと近づいたが、そなたも願いの一つは出来たか?』

『ないな。これと言って欲しい物も、叶えたい悲願もないままだ』

  セミラミスはこの期に及んで俺に何か期待しているような口ぶりだが、始めから俺は聖杯に託す祈りを持ち合わせていない。これが冬木やスノーフィールドやトリファスでの聖杯戦争ならどうなっていたことか。

 今更ながら、寒気がする。

 恐ろしい空想を消し去って窓際最後尾にある自分の席に座ると、まるで教室が無人に見えてくる。いや、俺がいるのだから無人なのはおかしいのだが。とにかく、自分以外の誰もいない夕暮れ時の教室というは、不思議な感覚になる。

 本を読むくらいしかすることなどありもしないし、したこともないのに。

「なんじゃこの椅子は。なんと座り心地の悪い」

 白野とネロに見られているのをいいことに、ちゃっかり実体化して安物の椅子に腰かけたセミラミスは文句タラタラだ。自分から座っておいて、相も変わらずワガママなサーヴァントである。

「日本の学生の椅子はみんなそんなもんだ。俺だって十年近くその椅子に座って勉強していた」

 ムーンセルに来る前は現役の高校生だったから間違いはない。この硬質な感触は少し懐かしいが、やはりセミラミスには合わなかったか。

 もしも気に入られたらそれはそれで反応に困るので助かった。不貞腐れているのは……どうしたらいいんだろうか。

 不満げな表情をため息で消し飛ばしたセミラミスは、俺の机を肘掛け代わりにしてくつろぎ始めた。

「しかし、やはり願いはないか。まるで覚者か哲学者よな、そなたの性格は」

「そんな立派な人間かよ。自分で言うのもなんだが、俺は友達がいない男だ」

 セミラミスは俺をそう評価するのか。……味気ないのは同じくらいかもしれないが、彼らのように高潔な生き方など望むべくもない。

 それが証拠に、ムーンセルでも嫌われている。これに関しては自己責任かもしれないが、真面目な話、裏切るのにこれっぽっちも躊躇しない奴には誰も近寄りたくもないだろう。

 俺だって嫌だ。

「誉めておらん。それでも、つまらん我欲にまみれておるよりかは遥かにましじゃ。欲深な男ほど気に食わんものはない」

「……それはニノス王のことか?」

「他に誰がおる」

 セミラミスを求めた事で彼女の最愛の夫を自殺に追いやったニノス王は、自身の望み通りにセミラミスと結ばれ、セミラミスによって殺された。 夫の仇を好けるほど、この女帝陛下も寛容ではない。

 どうも俺が気に入られたのは欲のなさもあったからのようだ。

 ……待て。つまり俺は老将と同じ扱いか。

 そんな馬鹿な。まだ十七歳だぞこちとら。

「強欲は悪徳だが、無欲は罪にはならん。その謙虚さは大事にしておくがよい」

 遠くを眺めるセミラミスはそれきり沈黙したまま、霊体化してしまった。

 どこまで気まぐれなんだ、このサーヴァントは。

 

 

 これに呆れるのも何度目なんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 どことも知れぬ時の境目に立つ二人。

 清潔感のある黒髪ショートヘアに足首まであるロングスカートの女子は、傍らに侍る薄紫色の長い髪と美貌の女性と手を繋ぎながら先に進む。

 その表情は明るく、足取りは軽い。

 ライダーはやはりバイザーのせいで表情こそ読み取れないが、声音はとても穏やかだった。

「良かったのですかマスター。その気になればあちらのマスターを仕留められたのですよ?」

「いいよ別に。どうせボクがどうこうしなくっても岸波白野は死ぬんだし、それに――」

「私が怪我をするのは嫌、ですか」

「うん。ライダーに何かあったら落ち込むよ」

 サーヴァントはマスターの剣であり盾である。だが、このマスターは自分と契約したライダーに剣と盾以上の価値を見出だしていた。

 人々から様々な形で信仰される英霊たちに魅了されるマスターは少なくないが、一目惚れしたのはムーンセルの記録でも彼女が初めてである。おまけにライダーも細かいことを気にしない質なので、相思相愛の仲にある。

 仲睦まじい二人はそのまま時の流れを無視した空間を真っ直ぐ進む。元いた世界へ戻るため、残してきた二人に会うために。

「ですが、彼はあのアサシンに勝つのでは?」

「それはないよ。ボクの鏡写しに勝てるもんか」

 ライダーの懸念を女子は一蹴する。

 自分に絶対の自信があるがために、名も知らぬ鏡写しのマスターに不動の信頼を寄せていた。ある種のナルシストだが、ライダーにそれをたしなめるつもりはなかった。正直、彼女の魅力はそこなのだから。

  そのまま立ち止まって抱き着き、首筋に甘い吐息を当てながら湿った声で囁いた。

「岸波白野は人間なんだ。彼の対戦相手はボクの鏡写し……ライダー、君なら分かるだろう?」

「ええ。不要な心配でしたね。……マスター、せめて覗き見されない場所にしませんか?」

 純白の太股を這う女子の手にライダーの手が重ねられた。アンニュイで静かな美女の舌がマスターの無防備なうなじを舐める。

 経験者からの意趣返しを食らったマスターは、予想外の攻撃に痺れて声を出すのはおろか指先一つ出なかった。

 




 そろそろクライマックスですね。
 ライダーさんは皆様が予想しているあの眼鏡の鬼ですが、パラメーターは原作よりアンバランスになっています。

 百合百合しいのは作者の趣味です。
 高身長の美女大好きなんです。はい。
 今回も懲りずに感想、評価お待ちしております。

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