Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 果たして白野くんのサーヴァントは誰なんでしょうね?
 それは私の気分で決まります。


第一回戦:異なる二人

 一回戦二日目の午前中。

 校舎のどこかにジナコがいると信じて探し回っていると、岸波白野と間桐慎二が掲示板前にいた。視界に存在するという事実だけで神経を逆なでするあのニヤケ面と、どこか上の空な顔に何故かアサシンは興味があるらしい。気配遮断スキルを利用してコソコソと近寄っていく。(マスターの俺は気配を察知できるようだ)

 俺自身は階段の踊り場に身を潜め、様子をうかがう。

 一回戦で主人公がシンジと戦うのは決定事項らしい。

 友と呼びあった人物と殺し合うことに困惑する白野をシンジがこき下ろしているのだろう。妙に気取った声が聞こえてくる。

 まあ、サーヴァントの性能も魔術師としての実力もシンジの方が遥かに優っているわけであるから、単に強がっているというのでもない。実際、フランシス・ドレイクは宝具もそこそこ使いやすいし。初回プレイがキャスターだったから毎回即死させられたっけ……。

 なんて感慨に浸っている間に、白野のサーヴァントがキレて実体化した。

「そこまでにしておくがよいシンジとやら。余の奏者は寛大だが、余の方は貴様を松明にしてやらねば気が済まんほど怒り狂っておる」

 なんと……アイツのサーヴァントはネロだった。

 赤セイバーことローマ製ジャイアン、ネロ・クラウディウス。ローマ帝国衰退を招いた稀代の暴君にして自称芸術家の自称男装美少女。おい経歴の半分が自称ってどうなんだ。MUKASHIの英霊はどこまでもフリーダムすぎだろ。

 しかも松明って、それキリスト教徒弾圧した時の処刑方法だろうが。

 セイバーの剣幕に怯んだからか、シンジは捨て台詞を残して逃げた。幸い、校舎の中だけで行える転移を使用してくれたので俺が見つかることはなかった。

 白野たちも転移して姿を眩まし、アサシンと合流するため二階へ昇る。

『喋る海藻というのは随分と滑稽なものよ。そなたも間近で見れば良かったものを』

「シンジとは関わりを持ちたくない。あんな面倒な馬鹿に抱く興味もないしな」

 どうせ一回戦で消える奴にかかずらってる暇があれば、遠坂 凛やラニ=Ⅷの対策を講じている方がはるかに建設的だ。

『さて、喜劇を見たら小腹が空いた。食堂へ行こうではないか』

「どういう理論……ああ、笑ったら腹が減ったのか……。時間的には少し早いけど、空いてるからまあいいか」

 ここの連中はマスターもNPCもフレンドリーすぎる。いきなり相席で話しかけてこようものなら逃げ出す自信がある。

 ここはアサシンの要望通り、食堂で腹ごしらえをして午後のジナコ捜索とアリーナ探索に備えるべきだ。

 そうと決まれば善は急げ。さっさと地下に向かおう。

 

 

 

 

 いざ食堂に来てみると、既にマスターがちらほらといるではないか。

 嗚呼、俺の幸運はEだったらしい。

 マスターの中には、バーサーカー呂布を従えるラニ=Ⅷに加え、ガトーの奴までいる。どうやら地雷源に踏み込んでしまった俺だが、これが孔明の罠だとしたら慌てる訳にはいかない。

『我はそこの激辛麻婆豆腐を選ぶとする。そなたも早う決めてしまえ』

 そうだ。アサシンのように泰山と、否。泰然としていてこそマスターというものだ。

 俺はフルーツサンドとバニラアイスを注文し、トレーを手にしたまま隅の席に座る。ここなら誰も来はしまい。少なくとも、自己主張の塊みたいなマスターは。

「うわ~……その麻婆豆腐を頼むなんて物好きなマスターがいたものね」

 話が違うぞ!! 凛がこっちに来るなんて聞いてない!!

「……違う……」

「じゃあ誰が食べるのよソレ」

「我だ。なにか文句があるなら述べよ魔術師」

 気配遮断を解いたアサシンが凛の真正面に姿を現す。いきなりサーヴァントが出てきたことに驚きもせず、赤い少女は――

「別に? 後悔しても知らないわよ?」

「は。冗談は顔だけにしておけ三流めが。粋がって吠えてみたとて、無様を晒すだけだぞ?」

 挑発してアサシンの情報を探りに来た。

 『あかいあくま』は伊達じゃないが、流石は遠坂を名乗るだけはある。その言葉を鵜呑みにしたのは間違いだ……。

 露骨に嘲笑してアサシン、麻婆豆腐を一口。

 さしものセミラミスを以てして耐えかねるほどの辛味であるか。

 こうなることを想定して、ひんやり冷たいフルーツサンドとバニラアイスを頼んでおいた。そっと二つを差し出し、アサシンに食べさせる。

 瞬く間に皿を空け、霊体化してしまう。

「えーと、食べる?」

「ゴメンね。私、お腹空いてないのよ」

 そして遠坂は逃走(・ ・ ・ ・ ・)か。

 シャレになってないぞコレ……。

 

 

 

 

 しばらく中華は食べたくない。

 あんなマグマみたいな料理のどこに需要があるのか知らないが、ともかくジナコはアリーナにいるという情報を頼りに、昨日と同じく軽いノリで扉をくぐる。

「この強烈な魔力……気を引き締めよ。ランサーめがおるようだ」

 そしてあなたは自然体なんですね。

 とは言っても、果たしてジナコが遭遇したから仕掛けてくる可能性があるのだろうか。そのまま逃げそうな気もする。

 適当にエネミーを蹴散らし、たまに取り込んで奥を目指す。トリガーの近くに来るとカルナを連れたジナコがいた。

 野暮なクロブチ眼鏡とあか抜けない服装。そして何よりも印象的な――

「何なのだ、あの醜い脂肪塊は……。だらしないにも程があろう」

 さぞ美容にうるさいであろうアサシンがドン引きの、ポッチャリとかグラマーという言葉では済まされないパッツパツの太ももや腹。良くも悪くもチートなキャラクターの多いムーンセルの中では珍しい凡人。

 ゲームが得意とかシンジと被ってるんだよ。

 ワカメと豚骨でお出汁コンビか。

「……だそうだぞ我が主よ」

「カルナさん、サーヴァントならそこは反論するとこッスよ」

「我が主ジナコ・カリギリが脂肪と怠惰の二重苦をこの横に長い一身で背負っているのは事実。しかし、本人も自覚しているので、あまり触れないでやってはくれないだろうか」

 大英雄から反論されると思ったら誠実に嘆願されたんだがお前らどう思う?

 こんなタイトル、ライトノベルにありそうだな。最近はスレタイ風にしたら売れると思われてるが、俺はそんな安直なタイトル、見向きもしない。

 タイトルだって選定基準の一つだ。

 それはともかくとして、然り気無く自分もジナコが心身ともにだらけていると肯定しつつ目を伏せるランサー。流石は徳深い『施しの聖人』……なのか?

 だが、その誠実な姿勢にセミラミスは感心していた。為政者ってのは謙虚だとか誠実な人間が好きなのかね。

「貴様の徳に免じそのマスターへの更なる言及はすまい。して小僧、敵と遭遇したが如何する?」

「ジナコ、お前が望むならばこの場にて我が槍の暴威を示す。どうするつもりだ?」

「俺に戦う意思がなくても、あちらがやる気ではどうにもならんさ。さっき来たばかりで脱出というのもあり得ないわけだが……」

 アサシンは「正論よな」と頷いて、切れ長の瞳でジナコの弱気な目を見る。カルナの眼光と俺の三白眼もそれに続く。

「う……あー、え~っとッスね~……」

 ジナコ・カリギリの目が泳ぐ。

 普通の人間からすればとにかく目付きが鋭い悪人面の三人に睨まれているんだから、無理もない。カルナは指示を待ち、アサシンは恐怖心を煽り、俺は急かす。

 取り付く島もない状況に追いやられて出した答えは

「んじゃジナコさんはお先に失礼するッス~。お疲れちゃ~ん」

 無様で無難な豚根性が丸出しだった。

「別段異論はないが、プライマトリガーはどうするつもりだ?」

「あ、明日にとればいいッス。ほらカルナさん、帰るッスよ」

 リターンクリスタルを使いランサー陣営は姿を消した。カルナは相変わらずの無表情だったが、果たしてその心中たるや如何なるものか。

「そなたが主であってよかった。ああも阿呆なマスターではうっかり毒殺しておるだろうて」

「そう言ってもらえて幸いだ。では俺たちもやるべきことをやってしまおう」

 この世界の古代アッシリア人はうっかりで相棒を毒殺するというのか。これだからFate世界のうっかりは侮れない。それとも、つい殺っちゃうのか? 教祖か。ピエロはランルーくんだけで十分です。

 もんもんとしながら、カード型のトリガーをボックスから取り出し、ポケットに突っ込む。これで最低限のノルマは達成した。次は遠見の水晶玉の素材を探さないと。

 あれがあるかないかでアリーナ探索の効率が激変するから、出来るだけ早い内にゲットしておきたい。トレジャーハントやエネミーハンティングではお世話になりました。

 靴の方はまだ構わない。それほど広いアリーナでもないし、使うだけ俺の魔力が無駄になる。

 アサシンは昨晩の打ち合わせ通り、俺がスタンさせたエネミーに道具作成スキルで精製した様々な毒を打ち込む。キャスターとしての能力をフル活用した罠をありったけ仕込み終えた頃には、俺の魔力もアサシンの魔力も底をついていた。

「本日はこのあたりでよかろう。購買で肴を買って個  室(マイルーム)に戻るぞ」

「これ以上出来ることはないしな。別にいいけど……あんまり高いのは厳しいぞ……」

 ギリギリまで働いてもらったし、多少の出費は仕方ない。

 腹を括った俺は、買いすぎて余ってしまった無数のリターンクリスタルを使いアリーナから退去する。

 

 

 

 

 アリーナ入り口前に転移されると、脇に一組のマスターとサーヴァントが立っていた。扉に手を伸ばそうとしていることから察するに、これから探索に向かうのだろう。

「ど、どうも……」

 すれ違いざまに軽く会釈されたので、俺も会釈で返そうと視線を向けて―聖杯戦争が開幕して以来初めて―戦慄した。

 眼鏡をかけた日本人らしき少女は固まったままの俺に不安を感じたのか、傍らに佇む幽鬼のよ(・ ・ ・ ・)うな顔色(・ ・ ・ ・)の黒騎士(・ ・ ・ ・)に伺いを立てる。

「セイバー、私どこか変?」

「いいえ、我が主のご尊顔は変わりなく麗しくあります。どうかご心配なきように」

 このアンニュイな表情と深く厚みのある重低音の声、そして漆黒の甲冑はあの英霊で間違いない。もう色々おかしすぎて、指摘するのもバカらしい。

 怪訝な顔でアリーナへ入っていった少女のマスターとサーヴァントは俺のよく知る連中だった。納得がいかないのはその組み合わせである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういった手違いで沙条綾香(・ ・ ・ ・)と湖の騎士ランス(・ ・ ・)ロット(・ ・ ・)が契約してムーンセルの聖杯戦争に参加してるんだ!?




 白野に立ちはだかる最後の壁がレオであるならば、周にも似たようなキャラが欲しい。
 ↓
 原作のまんまじゃ捻りがないか?
 ↓
 ガウェインの対局としてランスロット、レオの対局として絢香がちょうどいいかな。←今ここ


 白野の対戦相手が原作と別人のルートはありません。彼が苦悩しながら前に進むのはあのメンバーが最適でしょうしね。
 
 感想、評価お待ちしています。(筋肉微笑(マッスル・スマイル)

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