ここ最近の暑さに負けて万事が不調に陥っております。五回戦……今月中に終わるかなぁ……。
グダグダ回ですが、フラグ回の次は暴れる回にするのでお許しください……。
「姿を見せない対戦相手……ねえ。よっぽど自分のことをあんたに知られたくないみたいだけど、それってとても変な話よ」
五回戦が始まってからずっと、アリーナでも校舎でも誰かに見られている気がしてならない。追いかけたら逃げてしまうので拉致が明かず、保健室にいた凛とラニに相談してみることにした。
まず組み合わせ発表の掲示が破壊されていたこと。
アリーナに入った直後、とてつもない力が入り口前へ放たれたこと。
どちらもデータの欠損が尋常ではなく、復旧に時間を要すること。
これらの要因から凛が犯人として挙げたのはレオだった。
確かに彼のサーヴァントは七騎のクラスで最優のセイバーであり、その真名は騎士王の忠臣として名高いガウェイン卿だ。
彼の聖剣ガラティーンであれば、全力ならあれほどの破壊も可能だろう。しかし、マスターであるレオがそんな姑息な真似をするとは思えないし、ガウェインの独断とも考えにくい。
「周は……闇討ちするにしたってもっと確実に狙ってくるでしょうし、あのサーヴァントにそれほどの破壊が出来るとも思えないわ。となると誰がやったのかしら……」
「消去法はこの場合適切ではありません。相手との接触が困難な以上、こちらは万全の態勢を維持する他にないでしょう」
凛の言う通り、彼ならもっと狡猾で効率的な手段を講じてくるだろう。『
あの群体のサーヴァントとも裏で繋がっていたのだろう。周の神算鬼謀ぶりはレオと並ぶ驚異だからこそ、 尚のことあり得ないと思えてしまう。
「手ずから素性を隠す輩が素直に名乗り出たりはすまい。余としては甚だ不本意だが、あえてあちらに先手を譲ってやろうではないか」
「わざとアドバンテージを与えて油断させるのはアリよ。油断させてボロを出すのを待つってのは悪くないチョイスだわ」
凛とラニがいる間はカレンが男性マスターを保健室に入れたがらないのを良いことに、セイバーまで実体化して会話に加わってきた。だがその案は後手に回るものだが、現時点では最善の策でもある。
「ありがとう。また何か分かったら改めて伝えるよ」
一先ず様子を見ることにして、今日の探索を始めよう。トリガーも取れていないし、急がないと。
凛とラニに礼を告げて、保健室を後にする。
姿を見せない厄介な対戦相手とぶつかることになったが、それしきで立ち止まるわけには行かない。
これまでに幾度となく乗り越えてきたマスターたちと自分自身に恥じることのないよう、前を向いて進まなければ。
▽
▽
▽
白野たちが謎の対戦相手へどう出るかについて本人の前で話している頃、俺はラニから送られてきた礼装を確かめていた。
交渉の末、俺から白野にラニの事を明かさない代価として、ラニの持ち込んだ
とりあえず、この礼装をアリーナで適当なエネミーに試し撃ちする前に別の用件を済ませておかねばなるまい。
「伊勢三からの手紙にはなんて書いてあった」
「マスターとの対話を望む……とだけ」
丁寧に蝋封された封筒の中から出てきたのは、俺の対戦相手であるライダーのマスター、伊勢三からの手紙だった。新しい礼装のテストも兼ねてアリーナへ行こうとした矢先、個室の前にコレがあったのだ。
ハサンに内容を改めさせたところ、気に留める必要性のない戯れ言以外は記されていないことが判明した。
もしかしたら呪いの類でも仕込まれていると思ったのだが、杞憂だった。魔術師の思考回路が分からないのだから警戒できる部分は全て警戒していたのだが、今回は、不要だったらしい。
安堵した俺は二騎のアサシンを引き連れて個室から外の廊下へと出る。
絢爛豪華で壮麗ながら邪悪さの見え隠れする空間を後にした俺の傍らでハサンが耳打ちする。
『お気をつけ下さい。隣の教室にライダーとそのマスターがおりますれば』
「待ち伏せか」
『他にあるまい。どうするかはそなたが決めよ』
丸投げして行くスタイルのセミラミスにも慣れたもので、俺は何も言わず教室の前を通り抜けて階段を目指す。
鉄の意思を以て歩を進め、鋼の覚悟で伊勢三の声を聞き流す。甘ったれたマスターに毒の一つも吐きたいところだが、それをしては計画が無駄になってしまう。
念のために持ってきた傘がお荷物となるのは構わないが、自分で作ったプラモデルを自分のミスで壊してしまうなんてのは最悪だ。そうならないようにも自らを律さねばならない。そもそも、毒舌は俺ではなくセミラミスと美沙夜の仕事だろう。
追いかけてこないならそれでよし、追いかけてくるなら徹底的に無視してやる。何をされても無反応、空気として扱えば焦れてくる。
そこを突けば俺でも勝てるだろう。
……相手がまともだと本当に楽でいい。
▽
▽
▽
五回戦まで勝ち残った、もしくは生き残った魔術師はいずれも西欧財閥に対して否定的ではあるのだが、その価値観の隔たりからか同志どころか同じ世界の人間とすら認識していない場合も多い。
その具体例こそが遠坂凛と玲瓏館美沙夜の関係である。
周と白野がアリーナで探索を行っている頃、レオ、凛、美沙夜の三人が図書室で鉢合わせしていた。数いるマスターの中でも特に最悪の組み合わせであり、図書室の管理を行っている生徒会の間目智識は今すぐにでも準備室に籠りたかった。
レオの光と凛の熱と美沙夜の圧が凄まじく、AIであるにも関わらず間目は胃腸が痛んでいた。
「フラット・エスカルドスとダン・ブラックモアが敗退するなんて読めなかったわ。これはいよいよ大番狂わせが起きるわね」
「馬鹿と死に損ないがやられたくらいで五月蝿い牝狗ね。まあ、
「僕としては大した問題には思えません。ユリウス兄さんにしてもサー・ダンにしてもミスター・エスカルドスにしても、相手が悪かったのでしょう」
盗み聞き程度ならこれが普通に聞こえるだろう。
だが各々の表情まで見てしまうとそうもいかなくなるのだ。
いや、レオ単体ならばそれほど堪えないかもしれない。そこへ少年王の腹を探るつもり満々の凛と、その凛を牽制しつつレオを挑発する美沙夜を加えたらとてつもないことになる。
レオ自身は二人の事を意に介していない。他のマスターやAIと同じように接しているのだが、それがなおのこと気まずいのだ。
「僕はミス・カリギリの一回戦敗退が驚きでした。彼女の実力もカルナの性能如何では無視できたはずだと思っていたのですが……南方さんが勝利するとは」
「アイツが正攻法で戦うと思う? 一回戦開始の後から例のバーサーカー討伐中までずっと影でコソコソ動いてたんだから」
ハサン・サッバーハ軍団のカラクリと周との関係がバレていないため今はまだ憶測の域を出ないものの、優勝候補三名を殺害した張本人が南方周ではないか、という声は少なからずある。
無名のマスターがバーサーカーのマスターを討ち取り、山の翁ともども達成者になったことを怪しむ者は多い。無論、岸波白野たちも同意見である。
まず周は何においても人相が悪い。
三人を密かに監視しているハサン・サッバーハたちも思わず頷いてしまうほど性格が顔に出ている。いくらサーヴァントと言えどもフォローにも限界があるのだ。
鼎談はさらに続き、今度は聖杯に託すに相応しい願いとは何なるや、という地雷でしかない話題で議論は白熱していた。
聖杯への願いとは即ち、西欧財閥による管理社会を認めるか否かである。
「聖杯の力を正しく認識し、正しく扱える人間が必ず勝ち残るなら問題はありません。聖杯が危険なのは、正気ではない者の手に落ちる可能性が無視できない確率で存在していることです」
「だからってハーウェイ家の管理下に置くのが最善とは言えないわ。貴方は正しく扱えるでしょうけど、後の管理者もそうとは限らないでしょ」
堂々巡りではあるのだが、この二人はかたや停滞と安定、かたや進歩と不定の双極を司るが故に否定しあう他にない。
そして、この二人とも異なる美沙夜がせせら笑う。
「いくらハーウェイが宇宙への門を塞いだところで、千人近い人間がムーンセルに入っていたのよ? 貴方たち西欧財閥の支配なんてただの自己満足ではなくて何だと言うのかしら」
完全無欠の少年王を遠慮なく嘲る美沙夜は毒舌の矛先をレオから凛へと向ける。怜悧な血色に濡れた瞳には、レオの輝きにも凛の熱にも劣らない強烈な圧があった。
「貴女も貴女よ遠坂凛。支配されることを望む民衆に、自分と同じ程度の強さがあるとでも思って? ただ生き方のみを示し、その先へと導かないのは暗君にも劣るただの無能よ」
突き刺さる言葉の刃は氷のように冷たく、鋭い。
「民衆を支配する者には彼らを導く義務がある。生き方だけではなく、生き甲斐を与えてこその統治者。それを理解しない王にも英雄にも、聖杯を手にする資格なんてないわ」
もはや我慢の限界だったのだろう。レオの背後で、彼に付き従う形で実体化したガウェインは怒りを抑えた顔だった。
「ミス・レイロウカン。貴女の仰る王道はつまり、かの征服王の如く覇道に生きることが王の在り方であるということですか?」
「それもまた正解よ。少なくとも、人としての欲を見せつけて臣民に熱を与える王道の方が無欲な王道よりマシね。『王』という名前を冠した
現実主義の美沙夜らしい考えに、レオと凛は改めて彼女が東洋の女帝と呼ばれる理由に納得する。
落ちぶれても東の支配者だけあってか、その思想は
「ミス玲瓏館、我々はそれぞれが異なる方向ではありますが、少なくとも当人なりに人類の行く末を案じているのも事実……。三者とも平行線である以上、議論に意義はありません。そこで僕から一つ提案を」
「アンタが妥協案を出すなんて珍しいわね」
「妥協ではありませんよ? 誰が最も正しいかは議論の余地などありませんから。お二方に理解してもらうためにすぎません」
凛の冷やかしにも丁寧に応対して意図せずに彼女を煽ったレオは、軽く咳払いして話を戻す。
「我々が知る限り現時点で生き残ったマスターに二人、凡庸な方がいます。彼らの意見を確かめてみるのは如何でしょう?」
「まあいいんじゃない? そっちの息がかかってないのは確かだし」
「好きにするといいわ」
赤い魔術師二人はそれぞれ同意し、レオは満足げに頷いた。
ただ、凛と美沙夜はあの少年たちがまず明確な答えを出すとは思っていなかった。
岸波白野に王の在り方など理解し得ない事であり、南方周にとっては王の在り方は興味の対象になり得ないからだ。
それでもレオの提案を受け入れたのは、彼らの考えがあるのなら、少し興味があるからだ。
周がまた礼装をゲットしました。
次回でぶっ放せるかもしれません。
感想、評価いつもありがとうございます。
今後とも完結に向けて邁進して行きますので、今しばらく私の妄想にお付き合い下さいませ。