Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 アンケート結果を改めて確認してみたら予想以上のるリクエスト数でビックリしました。
 五回戦からは原作+マンガ+作者の思い付きで話がこじ……展開されていきます。


第五回戦:無垢なる邪悪

 聖杯戦争も折り返し地点を過ぎ、校舎に残ったマスターの数も八人にまで減少した。一回戦当時の喧騒も今は消え失せ、月海原学園の校舎には賑やかさの裏にちらついていた緊張感もなくなっていた。

 強者の余裕とでも言うべき落ち着きの中で、西欧財閥が擁する黒衣の殺人機械が敗退したことを安堵する空気すら流れている。

 言峰神父による違反マスターへの私刑の最中にも数名の優勝候補が死亡しているが、それもユリウスの仕業という結論に着地したことに、俺は内心でほくそ笑んでいた。

 ここまで好都合な勘違いが起きようとは予想だにしなかったのだ。

「死人に口なしよ。あの狂犬めも愚かな主と契約したことを悔やんでおろうな」

 李書文にからかわれたのが相当癪に障っていたのか、セミラミスはご満悦だ。彼女は機嫌が良いと饒舌になり、頼んでいないのに話しかけてくる。

 ハサンが始末したモードレッド(反 逆 の 騎 士)ジークフリート(竜 殺 し)アルクェイド(真  祖)と、俺がアタランテを排除したことで入手した破格の報酬金は、全てインテリアへと消えていった。幾つかの高級家具を新調できたのも、セミラミスのご機嫌に貢献しているのだろう。

「そうだそうだ、忘れておった。お主の愉悦探しを始めねばなるまいて……」

「言われてみればそんなこと言ってたな。」

 バビロニアの英霊って、なんやかんや人生楽しんでる奴らばっかりだからその辺は安心出来る。他の事では色々と不安だが。

 俺の適当な反応に目くじらを立てることもなく、セミラミスは心底楽しそうに腰を上げる。シャーミレは仮面のせいで表情が見えないが、魔犬に餌を与えていた美紗夜が何故か食い付いてきた。

「愉悦探し? 貴方、まさか自分の楽しみも知らないなんて言わないわよね?」

「我が主でありながら、嘆かわしいことにその通りなのだ。この男は快楽を貪るどころか、何を快楽とするかさえ心得ておらぬときた!」

「残念……いえ、何もない人間なのね。道理で同情も哀れみもないわけだわ。こんな欠陥製品に助けられたなんて、輪廻転生しても拭えない恥辱だわ」

「楽しそうで何よりだ……」

 もうノリノリだなこの二人。変なハイテンションに付き合わされる俺とハサンのことを考えてもいいんじゃないかね? お前らの数倍に及ぶ仕事を不平一つ溢さずに働いてる。

 罵倒と皮肉の暴風雨に無視という傘は通じないらしく、安楽椅子で寛ぐ俺をセミラミスと美紗夜は全力でこき下ろしてくる。

 こんなことで意気投合されるのも困るが、変に対立されてもそれはそれで迷惑である。ここは大人しく言葉のサンドバッグとなる他にない。ついでに言うなら、この二人に口喧嘩でも腕っぷしでも勝てる自信がないし勝つビジョンも見えない。

 いつになったら飽きるのかと、釘を刺される糠、風に揉まれる柳の心で目を閉じる。俺の部屋なのに、なんでこんなに落ち着かないのかは……触れないでおく。

 精神衛生をこれ以上に損なう必要もない。

 怒りや不満をため息に混ぜて吐き出していると、やっとこさ端末が五回戦の対戦相手を知らせる飾りっ気のない電子音を発した。

 俺はこれ幸いに立ち上がり、セミラミスと共に個室から廊下へと出る。

 手の内が分かっている相手なら助かるんだが、自分の運勢が何より信用ならない。ココ一番でとんでもない貧乏クジを引いてしまいそうで、なんだか胃が痛んできた。

 もう見慣れた二階の掲示板前に着くと、二度と見たくない二人がいた。無視してやろうとしたが、案の定、スルーしたところで無意味だった。

「お前さんらが今回の対戦相手か! これも聖杯の導きっちゅうわけだな」

「お久しぶりです。変わり無さそうで嬉しいです」

 見るからに人畜無害な中性的少年と謀略や詭計とは無縁そうな筋肉ダルマに目を向ける。視界に入るだけで胃がチクチクと痛む。

 小さい頃から特定の誰かに会うとこんな具合に胃が痛む。別れたらすんなり治まるこれは何なんだろうと考えてみたが、答えは出なかった。

 こちらの無反応にも、伊勢三は残念そうな笑顔で返すだけであった。その穏和な顔さえも不愉快で、腹の奥底から何かが湧き上がってくる。形容しがたい負の感情に苛まれながら、俺は躊躇なく毒を吐く。

「死んでいなかったか。ユリウスも案外、役に立たない奴だった……。いや、むしろアイツにはその価値もないと映っていたのかもな」

 これで多少はマスター(伊勢三)サーヴァント(イスカンダル)、最低でもそのどちらかに感情的な怒りを抱かせることに成功しただろう。

 魔術師として俺より勝るマスターと、戦闘面でセミラミスより秀でたサーヴァントが相手なのだ。着実にどちらかを暴走させねば勝機はない。

 あちらの反応を伺っていると、端末にアリーナ第一層で一つ目の暗号鍵が生成されたという報せがあった。出来ることなら、コイツらのいない内に礼装や資金を回収してしまいたいところだ。

 アリーナに行こうと階段に向かうと、伊勢三に呼び止められた。それにわざわざ反応してやることもなく、一階まで降りる。

 

 ……さて、どうやって始末すればいいのやら。

 

 

 

 

 私はサーヴァントを失いました。

 三回戦の決戦で、遠坂凛に勝利することが困難と判断。師の命に従いムーンセルの破壊を行おうとしたものの、岸波白野の乱入によりエーテライト自爆は失敗。そしてバーサーカーを失い、マスターでもNPCでもない存在と成り果てた……ハズでした。

 

「あなたはもうお人形じゃないわ。心を持ったお人形なんて、出来損ないのアダムとイブじゃない」

 

 夢とも幻ともつかないどこかで、終末の日、天界から鳴り響く七つのラッパに呼び起こされ地上へ降臨する獣の王を従えた少女はそうため息をつきました。

 

「こんなお人形じゃああのお兄ちゃん、また怒っちゃうかも。どうしよう、錬金術ってあんまり得意じゃないのよね」

 

 何が起きているのか、理解が追い付きません。

 ムーンセル、より厳密に言えばセラフの中では夢を見ることができない。つまりこれは現実であり、ここがセラフのどこかであり、少女の背後にある神々しいまでの魔力を秘めたアーティファクトは――――

 

「ここはあなたが来るはずのない場所。聖杯戦争を勝ち抜いた最後の一人にのみ入ることの許された空間。えーっと、熾天の座って言えば伝わる?」

 最悪……であるかどうかは不明ですが、そんな気はしていました。檻の上からこちらを見下ろす少女が何かに支えられて、一際に大きな墓標に降り立ち、優雅に微笑みました。

 

「あなた、本当に運がいいわ」

 

 ――――ッ!?

 この痛みは、でも、そんなはずは――!!

 

「うふふ、これだから聖杯戦争ってたまらないわ。こんなお人形に惚れ込む英霊がいるんですもの。こういう番狂わせがあるから好きなのよ」

 

 何故、どうして、なんで――。

 いくら考えたところで、答えなんてありはしない。どのような理屈で、消滅したはずの令呪が再び宿ったかなんて、それこそ神でもなければ……。

 理解の範疇を越えた出来事に唖然とする私を見て、少女は天使の衣を脱ぎ捨て、奥に潜んでいた魔性を露に目を細め――

 

「五回戦のマスター、実は一人足りないの。だからあなたが幸せなお兄ちゃんに斃されて欲しいのよ。アトラス院のホムンクルス(お 人 形)さん」

 

 マスターが不在だから、私が再度サーヴァントを得て聖杯戦争に参加する……。理にかなっていますが、やはり不明点が多すぎます。

 

「あなたともう一人といたから、壊れてもいい方を選んだの。壊れたお人形なんて飾っても見栄えが悪くなるだけだし。まあ、そのまま捨てるよりはマシだと思わない?」

 

 少女はそう言って、魂の深淵に記憶された恐怖の起源を思い起こさせるほど純粋な悪意を振り撒いた。次の瞬間には、視界が白く染まり行き――

 

「あ、あなたは一体……!?」

 

 答えを確かめる余裕もなく、ホワイトアウトした。

 

 

 

 

 無事に対戦相手と出くわすことなく五の月想海第一層の暗号鍵と宝物を回収し、校舎側のアリーナ出入り口に出ると、褐色肌の小柄な魔術師、ラニ=Ⅷと鉢合わせした。

 俺から見て右側の壁はクレーターが出来ていて、状況的にはラニ=Ⅷがやったとしか思えない。無論、俺はこのシーンを知っている。

 なので、取るべき行動もすぐに分かる。

「対戦相手に恨みでもあるのか? アトラス院のホムンクルスが照準ミスするほど憎いと感じる人間が、この聖杯戦争にいるとも思えないが」

「……貴方には無関係です。私の対戦相手に関心を払うなどという、非合理的かつ非効率な行為は推奨できません」

「それこそお前には無関係だろう。しかし……ラニ=Ⅷと関わり深いマスターとなれば、一人しか思い浮かばないな。名前は……」

 俺が岸波白野と口にするより数拍先に、ラニのボディブロウが俺の腹に直撃した。

「グェッ」

 衝撃に押し出された息とともに蛙の潰れたような声が漏れる。

「五回戦まで勝ち抜いた、それは確かに誇るべき功績でしょう。しかし、貴方程度の三流にも満たないマスターだからこそでもあると解らないのですか?」

『言われてみれば我もサーヴァントを相手に戦った記憶がまるでないな。……それはそれで驚くべきかもしれんが、うむ……』

 格下と嘲る態度を隠そうともしないラニは、踞った俺を冷たく見下ろしている。そのまま背を向けて去ろうとしたところで、セミラミスがマスターを殴られた報復を開始する。

「そなたは魔術師として見れば優秀であろう。だが、少なくとも拳を打ち込むだけで見逃す程度のやり方を選ぶ辺り、それ以外ではかなり劣っておるな」

「聖杯戦争において最も重要な魔術師としての才を持たない貴方のマスターが、私より勝ると?」

人間(・ ・)として見ればそなたなど我が主の足元にも及ばぬ。所詮は似せ物、本物には敵わん」

 ホムンクルスとして生み出され、人間から一歩足りないままのラニをセミラミスが嗤う。

 

 心がない故に悪意を理解できず、悪意を理解できぬが故に身を守れず、身を守れぬが故に俺より弱い。

 

 欲を知らない純真無垢な機械では、欲にまみれた人間の悪意が秘める無秩序な暴力性に対応できない。

 

 ラニは俺を覆すことの出来ない圧倒的な力でねじ伏せようとした。だが、俺は力で勝る奴らを知恵で排除してきたのだ。ただの力であるならば、容易にかいくぐれる。

 芽生えたばかりの穢れを知らない心なんて、いくらでもどうとでも処理可能だ。無駄ではあるのだが、なぜ対戦相手がラニではなく伊勢三なのかと悔やんでも悔やみきれない。

 腹を押さえながら、俺もよろめきそうになるのを堪えて立ち上がる。

「お前にとって嫌ではあるが不利にはならない事実を白野にバラす、と言われても対抗策を考えつくか? 脅しても無駄だからな。それこそサーヴァントの真名まで明かしてやる」

「実害を伴わない行為への対抗策はありません。ですが、妥協案ならばあります」

 ラニ=Ⅷに妥協案があるとは思いもしなかったらしいセミラミスは感心した風にクスリと笑う。どんな内容かはさておき、これで伊勢三へのアドバンテージを得られることは確かだ。

 自分の運勢からはあり得ないラッキーに見舞われると、途端にその後にやって来る反動が怖くて怖くて仕方ない。

 微妙に不安を抱きながらも、五回戦での立ち振舞い方が定まった。後はその通りに動くだけでいい。




 ラニが体術を使っているのはコミックス五巻にあったシーンから閃いたアイデアです。
 殴られて蛙の潰れたような声が漏れる辺り、周の主人公力(魂のイケメン度)がどんな程度なのか察していただけるかと思います。

 感想、評価ともどもお待ちしております。
 どうぞよろしくお願い致します。

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