Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 なんとか前回の更新から一週間過ぎませんでした。
 apocrypha四巻の見所はやはりセミ様とカルナのやり取りに尽きましょうや。
 いえね、セミラミス様が最高の私としては主人公たちなんぞより女帝様が見たいのです。
 ……色々とややこしい事の起きた四巻でしたが、それも次巻で決着なのかと思うと寂しくもあります。
 とりあえずホムジークかアストルフォかジャンヌが絶望しながら死んで最終回なら大満足です。
 それでは、ラストはzeroが一番気に入っている作者の妄想しかない四回戦の終盤戦をお楽しみください。
 


狩猟ゲーム:緋色の御手

 少女の柔らかな身体から熱が去って逝く。

 制服は無論、二画目の令呪で強化された必殺の一撃は豊満な乳房を押し退け、強固な肋骨を粉砕して脈打つ心臓を握り潰したのだ。

 女体特有の吸い付くような感触は、瞬きするより早く死の温度に穢され、腕にブニブニと纏わりつく。

 腕を引き抜いた俺は赤色に染まった自分の指を見、ベットリと肘の辺りまで付着した血液の処理をどうするか思案する。服が水分を吸って重いのもあるし、これではまるで殺人鬼そのものだ。

 かと言って制服を汚すのは御免だし、さりとてこのままうろつくわけにもいかない。

 一先ず制服の上着を脱いで、シャツが汚れていないことを確かめる。白い生地に赤い染みがないことを確認し、塵となって消えていく少女の傍らを通り過ぎて別の場所へ移る。

 それまでに手空きのハサン・サッバーハたちを集結させ、『狩猟(ハンティング)』参加者の状況を把握しておく。

 アタランテはマスター死亡により消滅、さらにランスロットもマスターが疲弊しておりかなりの瀬戸際であるらしい。

 ……スパルタクスを暴れさせた結果、まさかこうなるとは想定できなかった。セミラミスの言う通りにしてみて正解だったな。

「識ったか小僧? これが真なる智謀というものよ。かつての我が幾度となく張り巡らせておった謀略に比すれば、これしきは児戯にも劣る手慰みだがな」

 そう言われても、古代アッシリアの賢帝と現代日本の一般人なら当たり前のような気もする。(新世界の(キラ)にならんとする話は別だが)

「沙条綾香は殺さないでおくか。戦闘に差し障るほど弱体化しているなら、わざわざ急いで始末する必要もないわけだし」

「……まあそれもよかろうて。嬲り殺しというのも、悪くはない」

 奥の手の一つを死に損ない相手に使うのも嫌だが、それ以上に、俺より弱くなった勢力が増えるに越した事はない。獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすと言うが、生憎と俺は獅子のように高潔じゃない。

 それはセミラミスも承知していることなので、この場で異論が出ることはなかった。

 人気のない図書室でサーヴァントを全て実体化させ、俺は適当な椅子に腰掛ける。素材に使ったエネミーが雑魚だったせいだろう。毒ガスの噴出は予想に比してかなり早く終わっていたらしく、既に空気が清浄になっていた。

 腰を落ち着かせて数分もしない内に、エリザベート探索に回していたハサンの一人から新しい報せが入った。

 三組の参加者が斃れ、一人のマスターがサーヴァントを奪われてリタイアしたこのゲームがついに最終局面へ突入したという報せでもあった。

『主よ、岸波白野がランルーと対峙しております。如何なさいますか?』

 俺の返答は決まっている。

 無論――

 

「先んじて討伐対象のマスターを殺害しろ」

 

 

 

 

 校内で誰一人として立ち入ろうとしなかった場所の一つ、校長室にサーヴァント・バーサーカーのマスターであるランルーくんは隠れていた。

 否、そこを拠点としていたのだ。

 血の伯爵婦人、エリザベート・バートリーが持つ固有スキルの一つ『陣地作成』で構築された新たなる監獄城。鮮血魔嬢の伝承にあるチェイテ城を記憶通りに再現した搾取の場。

 慌てて逃げ込んだ為に偽装がいい加減だったのだろう。白野とネロはハサンたちに監視されているとは露程も知らず、魔宮への扉を開いた。

 幾らバーサーカーの築いた工房とは言え、アサシン二騎では返り討ちに合うだけだ。セイバーのマスターが封印を破却したのをこれ幸いと、ハサンたちは気配遮断をしたまま忍び込む。

 最上級のNPCに与えられる校長室だったそこは、何体ものNPCが天井から吊るされ、壁に磔にされ、戸棚で亡骸を晒されていた。

 本来は一般の教室と同程度の広さを十分に体感できるハズであった。が、今や生者も死者も見境ない屠殺場も同然だ。

 血と臓物と死が混ざりあった濃密な腐臭に、白野は胃の中身をぶちまけそうになるのを堪え、ネロは醜悪極まりない嗜好に怒り――ハサンは無感動に監視を続行した。

 もう一人は周へ報告に向かわせている。

 残って監視役を引き受けたハサンの視界では、ケタケタと不愉快な笑い声を上げて手足をばたつかせる異様な道化の姿があった。その傍らでは、猟奇的な笑みを浮かべて白野とネロを見るバーサーカー。

 なるほど、この組み合わせでは暴走もしよう。

 まずマスターもサーヴァントも正気でないのだから、自分達が破滅するか周囲が全滅するかしなければ止まるはずがない。

 よほど血に飢えているのか、バーサーカーは甲高い声で何事か叫び、マイクスタンドも兼ねた槍を大きく薙いだ。セイバーは力任せの一閃を真紅の大剣で防ぎ、マスターの正面に立った。

 拷問の最中、もしくは終わった犠牲者たちもろとも刃で切り裂き、その返り血を頭から浴びて狂喜するバーサーカーの声が窓ガラスを破壊した。音波系のドラゴンブレスに白野は身体が軋む痛みを覚えて怯んでしまう。

 それしきで済むのは、エリザベートの血に混ざった竜の因子が、大したことのない雑竜のものであったからだ。

 剣戟に混ざる哄笑と狂笑、そして肉が裂ける湿気った音、骨の断たれる重い音が交差する中で、岸波白野は―顔は青ざめているが―真っ直ぐとした瞳で狂気に犯された道化を見つめる。

 口が動いているので会話していると見て間違いなさそうだが、監視を受け持ったハサンは読唇術を心得ていなかった。何とか声を拾おうと耳を済ませたが、案の定と言うべきか、マスターたちの声はサーヴァントの戦闘音に掻き消されていた。

(こうなってしまっては、周殿の采配を待つより他にあるまい)

 出来るだけ安全な入り口前に佇み、介入を断念したハサンは主の指示を待つことにした

 

 

 

 

 シャーミレに本日二度目の再指令を行った周は早足に校長室へ向かう。

 その傍らには、ようやく顔色が良くなってきたセミラミスもいる。美沙夜は個室で待機するようきつく言い含めておいたが、素直に受け持った言うことを聞くとは考えていなかった。

「あの小娘を放っておいてよいのか? 最悪、影共を失いかねんのだぞ?」

 気配遮断で姿を眩ましたセミラミスの言葉には、周の采配に否定的なニュアンスがあった。それも当然である。巨大な諜報・暗殺集団が南方周にとっていかほどに多大なアドバンテージであるかは言うまでもないのだ。

 彼ら群にして個の英霊はたった数時間に、優勝候補二名と求道僧一名を難なく始末している。

 これだけの奮闘も玲瓏館美沙夜が魔力供給を担っているからに相違ない。更なる活躍を望んだとて、彼女が死ねばそれでおしまいになってしまう。

 仲間を死兵として扱うことを嫌う周の性格からも、セミラミスには彼の行動がどうにも腑に落ちないのである。

「アイツもそこまで酷いバカじゃあない。好き勝手するにしてもこっちの迷惑にならない範囲に抑えるさ」

「買いかぶりでなければよいがな」

「いざとなればこっちで何とかする。まあ、そうなったら脚を切り落とすくらいはしておこうか」

 買い物ついでの寄り道を提案するかのように物騒な発言で美沙夜への処遇案を提示した周。笑うでもなく、怒るでもない無表情に宣言した。

 邪魔になるものは排除する。それが手なら肘から先を、それが声なら舌もろとも――必要ならば、実行すると。

 

 

 

 

 沙条綾香が瀕死だと聞かされた美沙夜は、ハサンに案内されて教会の裏手に脚を運んだ。同じ学校の後輩であり、そして脅威と感じていた相手の危機を確かめようと考えたのだ。

 噴水広場の美しさとは対極の、殺伐とした教会の裏側に息も絶え絶えの沙条綾香がいた。疲労困憊どころか、このまま放っておけば消滅していそうなほどに疲弊しており、次第に息が弱まっていく。

「大変そうね沙条さん。このままだと死んでしまうのではなくって?」

 上から目線の美沙夜に対して、綾香はうろんげな目で振り返る。サーヴァントが実体化しないのも、肉体を維持するだけの魔力さえ供給できない証だ。

 スパルタクスとアタランテの連戦中に、元より高燃費のサーヴァントが更に魔力喰いとなる、ステータス強化宝具を開帳したのだから無理もない。

 読み違えも甚だしい。まともな魔術師ならまずしでかさないミスである。だが、あの怪物に立ち向かったことは評価出来る。

 倒すべき相手を見定めることと、そして自分の決意に叛かないことは出来るようになったらしい。

 遅すぎる一歩ながら、前進できた後輩への褒美を手にした美沙夜は、感情の渦に歪んだ笑顔を浮かべる。

 自身の不運に対する嘲笑や、聖杯戦争から脱落したことへの無念、周という暗く澱んだ希望―吐き出しようのない心の声を押し殺し、美沙夜は魔力補給用の肉塊()を鷲掴みにした。

 それは、赤黒い血液が表面をテラテラとぬめらせる(ハラワタ)であった。黒魔術を用い悪霊憑きにした猟犬の臓物である。餌にされた他の犬たちの怨嗟を蓄積した魔犬の腹から取り出したそれを、美沙夜は躊躇いなく綾香の口へとねじ込む。

 ブヨブヨとした臓物を力づくで口内へ挿入()れる。自分の両手が血で穢れることも厭わない美沙夜は、綾香が咀嚼していないことに気付くと、自分だ咀嚼してペースト状にしてから口移しで流し込む。

 口元から手から服まで満遍なく血生臭くなると、ようやく全ての魔臓を綾香の胃袋へ納め終えた。

 二人の少女は噎せ返りそうになるほど強烈極まりない血反吐の臭いに満ち満ちている。常人ならばとうに嘔吐し、胃の内容物をそこらにぶちまけていただろう。

 狂気の淵へ身を投げた美沙夜は、とてつもなく濃い血と肉の味を堪えて立ち上がる。

 いつの間にか跪いていたことに気付くことなく、近くでマスターを見守っているランスロット卿に黙礼する。

 感傷と言われれば、否定するつもりはなかった。地上で魔術師・玲瓏館美沙夜と浅はかなるぬ縁があったのは、彼女しかいないのだ。もし死ぬのなら、誰かに命を奪われるのなら聖杯やハーウェイ財団より、不出来で未熟な小娘の方がまだマシである。

 徐々に顔色が回復してきたのを見届けて、美沙夜は口元にべっとりとこびりついた血液を拭いその場を去った。ハサンに見られていた以上、周にこのことは知られてしまうだろう。

 しかし女王は気にする風もなく、堂々と振舞っていた。




 書きたいことを書いただけの回です。割といつもです。
 
 次回で『狩猟(ハンティング)』は次回でおしまいです。
 ランルー君vs白野vs周の三つ巴ですよ、ええ。

 アンケートの期日は6月11日午後23時59分までとさせていただいております。
 ま5日ありますから、どうぞご回答はごゆるりと……。私は次回の冒頭を書き始めておりますゆえ……。

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