しかもやたら人間卒業した奴らが多いと。
え? 百の貌のハサン?
『
一回戦の組み合わせが発表されたと運営から通達があったので、二階の掲示板を確認しに足を運ぶ。何人かマスターが集まっているのがそうだ。
張り出された一覧の中に、俺の名前が記された紙があった。
『マスター:ジナコ・カリギリ
決戦場:一の月想海』
ほう、最初はジナコ・カリギリがマスターなのか。
…………。
………………。
……………………。
なんやて工藤!?
ちゃう。いや、違う。俺は西の高校生探偵ではないし、ここには東の高校生探偵もいない。
まずは落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。
ジナコ・カリギリ。登場はFate/EXTRAの続編にあたるFate/EXTRA CCC。サーヴァントはランサー、真名はカルナ。確かインドの大英雄で、槍兵のくせに多数の高性能な宝具を所持する優れたサーヴァント。
……いきなり詰みゲーじゃないですかヤダー!!
「お前が
聞き覚えのある静かな声。
その主は誰あろう英雄カルナその人だった。
ボサボサの白髪と不自然に白い顔、黒い身体と黄金の鎧が一体化した奇妙な出で立ちは間違いない。最期が不幸じゃない貴重なランサーである。
「となるとそちらはジナコ・カリギリのサーヴァントになるわけだ」
「そうだ。本人の弁では死ぬほど多忙なので、こうして代わりに俺が出向いた」
ボーッとした顔のランサー。これがエミヤなら説教のフルコース、アルトリアなら即死刑もおかしくないクソニートぶりだ。
個人的にはシンジよりジナコが消えるべきだと常々感じていたところだし、幸先がいい。
「用が済んだので俺は帰る。アリーナでジナコと会ったときはよろしくしてやってくれ」
挨拶をしてとことんいい人な黄金の神槍使いが去ってから、アサシンがようやく実体化した。どのみちアリーナで会うから隠れても無駄な気もする。
毒殺されたくないから言わないけど。
「一戦目からとんでもないサーヴァントと出くわしたものよ。して小僧、我のマスターを名乗る以上、当然の如く勝算の程はあるのだろうな?」
「当たり前だ。アイツは太陽神の鎧を取り上げられたから死んだ英霊……攻略法は確実に存在しているさ」
「一目見て、一言交わしただけであるというのに、もうそなたは目星がついていると申すのか?」
「間違いなくあのランサーはカルナだ。マハーバラタで『滅ぼされる側』として語られる太陽神の息子……ま、雷神の息子に殺られるんだが」
真名を当てた時点でマトリクスが全て開示されたらしいし、図書室に行く手間が省けた。それと同時に、端末トリガーコードの精製完了が伝えられた。
霊装とアイテム、資金の回収もしたいしアリーナに向かうとしよう。キャスターとしての宝具を完成させるための材料を集めないといけないしな。
▽
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アリーナの一層目はかなりシンプル、というかこれは殺風景すぎやしないか。
巨大な穴の真ん中にほんのちょっと入り組んだ通路が浮いているだけなのは知っていたが、いざ実際に踏み込んでみるとかなり気味が悪い。
アサシンもお気に召さないのか、さっそくエネミーを嬲っている。
俺が契約したアサシン、アッシリアの女帝セミラミスはかなりピーキーだ。まず筋力がE。逆に魔力と幸運はAで、敏捷と耐久がD、宝具はAだ。監督AIの麻婆、じゃなくて愉悦……言峰神父は教会があると言っていたし、多少は改善の余地がある。
次々に沸いてくるエネミーを毒で溶かして直に取り込むとかどう見てもメルトリリスです本当にありがとうございました。それでもまだ一番目のアリーナに出てくる雑魚の極みなわけで、そんなにプラスにはならない。
「あんまり入り口にいたらランサーと鉢合わせする。奥の方まで行って、そこでエネミーを狩ろう」
「正面切って戦うのは我の性にも合わぬしな。よかろう、では疾く案内せよ」
ひたすらエネミーを溶かしては取り込みつつ、アサシンは答える。ライダー戦の時と違いがなければそう複雑ではないハズだ。
ジナコみたいな駄肉も調子に乗れば厄介なマスターであることに変わりはない。
君子危うきに近寄らずの精神でいかないと。
ひとしきりアリーナを探索し、霊装などのお宝も全て回収した。リターンクリスタルがあることだし、もう少しエネミーを潰してから戻ろうかと出口付近を散策する。
アサシンの攻撃スキル『
「……小僧、我は疲れた。帰るぞ」
「分かった。今日はこの辺にしとこう」
女帝様はスカートの裾を翻し先に出口へ向かう。
彼女のヒールが踏みしめた床から、触ったらダメそうな黒い花が咲いては枯れていく。こりゃまた凄いが、かなり怖い能力だな。
「ほれ、早う来ぬか。そんな花、欲しければ後で幾らでもくれてやるわ」
サーヴァントに急かされ、俺は急いで出口の光の中に入る。
つーかジナコと会ってないぞ俺……。
ワカメと誰か変わってくれ。頼む。
イライラして胃潰瘍になるわこんなん。
▽
▽
▽
すべてのマスターがムーンセルから与えられる完全な自由空間、
普通の教室と同じ素っ気ない内装で、女帝としては不安があるようだ。
溶かした机や椅子、黒板とエネミーの一部まで利用した大改装が行われた結果、どう考えてもアッシリア帝国の王宮を再現したであろう絢爛豪華な玉座の間に早変わりである。
葡萄酒を注いだグラス片手に、悠然とした面持ちで月光に照らし出されうっすらと輝くグラウンドを眺める最古の毒殺者。固有スキル『
俺は自分が使えるコードキャストを整理し終え、今後の方針を練っている。
整理と言っても、サーヴァントの魔力を強化するgain_mgi(16)と、相手をスタンさせるhack(16)しか習得していない。明日はアリーナで遠見の水晶玉を作るのに必要なソースを回収、あわよくば何かしらのキャスター的なトラップを仕掛ける予定だ。
酒の肴にでもするつもりなのか、新しい酒瓶を取り出したアサシンは俺に声をかけた。
「のう小僧、そなたは勝算があると言うたが、どのようにしてあの鎧を打ち破るつもりか? さしもの我とて、太陽の具現化たるアレがあっては毒を打ち込めぬ」
「アサシン、悪いが俺はカルナと戦うつもりなんて無い。初めからマスターを狙っていくが、不満か?」
俺の答えにアサシンはニンマリと目で笑う。
策謀、計略、詭計……策略と智謀に彩られた暴君があんな顔したらマスターでも怖い。
具体的には『何かされたのか』と不安になる。
「ふん。小賢しいだけかと思うておったが……戦略眼は確かであったか。命拾いしたな」
さりげなく今、俺は解答次第で殺されていたと言われた。
CCCのギルガメッシュじゃないんだから、選択肢間違えて死亡なんて勘弁してほしい。
あの黄金の鎧がある内は、たとえ毒を打ち込んでもカルナの体内を満たす浄化の炎ですぐに無力化されてしまう。
最終宝具『
どうあがいてもジナコを攻めなければ勝ち目はない。
しかもより確実に、より精密に仕留めるなり心をへし折るなりしなければダメだ。
必死になって作戦を練っていたせいか、いつの間にかこっちの玉座の肘掛けに座りながら俺を見下ろすアサシンにちっとも気が付かなかった。
「しかしだ……マスターが男で真によかった。手ずから籠絡し、虜にする楽しみがあるからな」
「!? ちょ、なッ……何物騒なこと軽いノリで言ってるんですか女帝様」
「そういう冷たい眼をした男は嫌いではないぞ? ククク。精々足掻き、我を興じさせよ小僧」
Fate作品においてキャスター陣営は仲がいいというジンクスがあるが、この場合もそれが適用されたりするんだろうか? そうであるに越した事はないが、セミラミスが相手だと大切な何かを失いそうな気がしてならない。
男としてソレは決して嫌じゃあないんだが、うーん…………。
一回戦からいきなりお前かよと。
では予告通りにキャラ紹介をば。
・第二主人公:
Fateの世界が創作である時空からセラフに転生した少年。
元の世界に帰るべく聖杯を求めており、勝利のためには手段を択ばない。
容姿はちょっとマイルドになった長身のユリウス。人と会話するのが苦手で、自分から他のマスターに接触するのが苦手。
現在習得しているコードキャストはgain_mgi(16)とhack(16)の二つ。
【サーヴァント】アサシン
【真名】セミラミス
【キーワード】最古の毒殺者
大魔術師
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:A 宝具:A
【クラス別スキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。
隠密行動に適しているが、攻撃行動に移ると大幅にランクダウン。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。
毒薬をはじめとした薬物の精製に特化している。
【固有スキル】
複数のクラス適性を持つ英霊が稀に獲得するスキル。
女帝セミラミスはアサシンとキャスターのクラス別スキルを獲得している他、ステータスへの補正も受けている。
最大の恩恵はムーンセルで召喚されるサーヴァントは一体につき宝具は一つという制約も受けておらず、アサシンとキャスター、それぞれの宝具を持ち込めたこと。
攻撃用の戦闘スキル。
対象に魔力で錬成した猛毒を放つ。
判定によって数ターン猛毒状態が続く。魔力ステータス次第で効果時間は変化する。
防御用の戦闘スキル。
数ターンの間、自身の耐久を強化する。
また効果中は被ダメージの一部が相手に還元される。