Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 今月の三十日にFate/apocrypha四巻『熾天の杯』が発売されますね。目出度い目出度い。やはり全四巻から全五巻に増量するようです。

 ようやく表紙に出てくれて嬉しい限りです。













 シェイクスピアさんが。


第三回戦:The Beginning of The END

 俺の個室に入った美沙夜は、まずランサーの気配がないことに気づいて軽くではあるが取り乱していた。落ち着かせるのはセミラミスに任せ、俺は気配遮断から霊体化にシフトしたハサンの一人と念話で会話する。

 食堂で白野と美沙夜を待っていた時からずっと、俺の背後では固有スキルに『投擲(短剣)』を持つ玲霞のアサシンが待機していた。『夕闇通り探検隊』並に手間をかけたフラグ立てとイベント回収は、俺が望んだカタチでキッチリ報われたわけだ。

『今回は助かった。こっちはいいから、お前は自分のマスターを呼びに行ってくれ』

『は。それでは後程に』

 入退出用のコードを教えるとハサンは個室を後にした。時間を潰すために外へ目を向けると、窓から射し込む夕日が次第に薄れていき、ゆっくりと青暗い夜空に侵食されている。ムーンセルが見せる架空の月にもウサミ……ウサギはいるのだろうか。さして興味があるわけではないが、蟹の方が高級感がある気がする。

 カニは殻を取るのが邪魔くさいので嫌いだが。

 セミラミスに諭されてすんなり落ち着きを取り戻した(薬品でも嗅がせるか打ち込むかしたのだろう)ため、部屋は静かになる。ランサーの死を見ていたのはありすたちだけだが、少なくとも三回戦期間中はこの個室から出さないでおく。最終日に、何も知らない白野がたった一人と一体の目撃者を始末してくれるという流れだ。

 立ったままなのも辛いので、俺も愛用の安楽椅子に腰かけて適当な本を取ろうと腕を伸ばす。しかし、それは美沙夜の問いかけによって阻まれた。

「私はいまやサーヴァントのいないマスター、運営に見つかれば確実に消される存在よ。あなたも、私を匿ったことを咎められたらどうなるかは理解しているでしょう?」

「お前を運営に引き渡して追加の令呪でもせしめようかと思ったんだが、それもそうだな。折角の協力関係を崩すのも惜しい」

「何を言っているの? 私はムーンセルが許容しないイレギュラーの一つなのよ。削除されてしかるべきバグでしか……」

 ムーンセルから出られないならばせめて、潔く死ぬことが美沙夜の選択らしい。だが、こんな優秀な人材をみすみす手放すわけにはいかない。俺の才能では勝てない、サーヴァントの実力でも厳しいなら第三者の協力を取り付けるだけだ。

 

 元からそういう作戦だったわけだしな。

 

 俺は安楽椅子に座ったままさらに続ける。美沙夜の悲壮な、誇り高き決意など意に介さない。

「それなら、俺が勝ち残れるよう手を貸してはくれないか? 俺がムーンセルを手にすればお前を外に出してやることも出来るし、それならまた聖杯戦争に挑めるだろう?」

「…………無意味よ。私の身体は長くない。この聖杯戦争が終わる頃には、父のかけた呪いが全身に回って、魂が戻ったら屍人に成り果てる運命なの」

「聖杯ならその呪いを無かったことに出来る。それでも死にたいなら好きにしろ」

 美沙夜が聖杯戦争に参加した理由は『呪いの除去』と見て間違いないだろう。

 興味も驚きもない俺は、伸ばした手を引っ込めて玲霞の到着を待ちわびていた。正直なところ、俺は他人の悩みを聞いても何も思わないので、こういう状況が大の苦手である。

 このシチュエーションに陥ると、人間の心は神が犯したミスの一つだと実感する。しかし、女心は輪をかけて酷い欠陥があったらしい。

 その証拠に、大雑把な造りの、背もたれすら無い椅子から立ち上がった美沙夜はいつもの高圧的な態度など忘れたように涙を流し、顔を紅く染めていたのだ。

 威厳もへったくれもない様には少し驚いた。あの玲瓏館美沙夜も涙を流すことがあるとは思っていなかったので、俺は思わずのけぞってしまった。

 恐る恐る何があったのか尋ねてみたが、返答はあまりにもそっけないものだった。

「どうした?」

「……気にしなくて結構よ。で、私はあなたにどんな協力をすればいいのかしら?」

 泣き出したと思ったらまた落ち着きを取り戻し、美沙夜は改めて俺はセミラミスに監視されることも厭わずに新品の椅子にストンと腰かけた。

 こちらから持ちかけた共闘の申し入れは、一先ずのところ成立したようだ。

 ようやく本題に入れると内心でげんなりしていたが、それを悟られるような真似はしない。嫌な思い出を脳内再生して気分を沈める。

 高揚感を鬱々とした感情で中和して、俺は三回戦の幕引きとなるセリフを口にする。

「サーヴァントの現界に必要な魔力供給の肩代わり」

「礼装もそれなりに魔力が必要だものね。出来るだけそちらに魔力を回したいと思うのは自然だわ」

 美沙夜は重大な勘違いをしている。今は敢えて指摘せずに玲霞を待つことにしておく。俺とセミラミスにまっとうな説得なんてまず無理だ。

 それからすぐに俺の対戦相手がサーヴァントを従えて個室に転送されてきた。コードさえあれば、誰の個室にでも入れるらしい。

 日に日にやつれている玲霞だが、その様もどことなく儚げで艶がある。ハサンは一人に集まり、襤褸のようなローブをまとい髑髏の仮面を被った女性になっている。

「ごめんなさいね。最近急になかなか上手く歩けなくなってきたのよ」

「ならその辺の椅子にでも座ればいいだろう」

 生まれたての子馬みたく頼りない玲霞をハサンが支えながら、飾りで置いてあった一人用のチェアにそっと座らせる。

 怪訝な顔の美沙夜に、セミラミスが事情を説明しているのか、耳打ちをしていた。美沙夜のために用意した偽の事情を話終えたセミラミスは玉座に収まった。

 あらかたの内情を教えられた美沙夜は、自分の右手の甲を見て、今度は俺の手を見てため息をこぼす。

「私もつくづく運がないわ。あなたみたいなクズと手を組むことになるだなんて……」

「何故そうなる。お前の不幸は日頃の行いが悪かったからだろうが」

 謂れのない言葉の暴力には毅然とした態度で対応する主義だ。つまらないやり取りはサックリと終わらせ、当事者たちが全員同意したサーヴァント・アサシン、十九代目ハサン・サッバーハのマスター替えを執り行うことにした。

 令呪と経路(パス)の分割を担当するのはセミラミスなので、俺も美沙夜もハサンもやることがない。淡々としたコンソールを叩く電子音だけが木霊する室内に流れる空気の気まずさが、この上なく辛い。

 今すぐ寝たい。もしくは気絶、それか失神したい。ブラックアウトでもいい。とにかくこの場から意識だけでも逃げ出せないかと考えている間にも、セミラミスは分割作業を終わらせていた。

 まだ終わらないのかと聞く決意を固めた瞬間に、電子音がぴったり止んでセミラミスは酒瓶を取り出していた。呆気ない終わりになるが、それの方が精神的負担が少なくていい。

 俺は立ち上がることなく、右手の甲に浮かんだ目玉のような令呪をかざし、再契約の詠唱を始める。ハサンは跪き、こちらに頭を垂れる。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」

「誓います。汝の供物を我らが血肉と成す。南方周、新たなるマスターよ」

 

 令呪のある辺りが鈍痛に襲われ、美沙夜は不快げに眉をひそめた。無事に俺の令呪と魔力を供給する経路(パス)は分割して契約が成立したようだ。その証拠に、サーヴァントを失った玲霞の肉体はボロボロと崩れていく。

 力なく肘掛けに身体を預けた姿から、もう魔力どころか命が限界だったことに気づく。

 これまでに一人も失わずに勝ち残ってきたものの、才能がないことには最後の一人となるのは無理だったようだ。もはや口を開くことさえ叶わないのか、ただただ穏やかな目で俺と美沙夜を見ているだけである。

 手足の先から徐々に黒いノイズに飲み込まれ、完全に消滅する間際まで、その温かい日溜まりのような笑顔が崩れることはなかった。

 それまでの居心地が悪い静寂とは異なった空気に支配された中で、ハサンの透き通る声が俺に届いた。

「周どの、どうか六導玲霞の悲願を聖杯に届けてくださいませ。彼女の祈りを、私はどうして叶えたい」 

「そういう取引だ、承知している。ハサン、お前の力は頼りにしている」

 略式の臣下の礼をとったハサンは無言で頷き、長く青い髪を揺らす。

「これでそなたには二人の盟友が出来たわけだ。これまでのような騙し討ちも構わんが、劇には見せ場がなければならんと思わぬか?」

「私の手を借りるのだから、優雅に勝利なさい。それくらいは当然の義務としてこなしてもらうわよ」

 いい空気をぶち壊して上から目線な発言を繰り出したセミラミスと美沙夜に頭痛がする。が、幸運なことにこれからは理解者がいる。

 霊体化して呆れているハサン・サッバーハである。




 これで三回戦は晴れておしまいです。
 次回からは周の活動も本格化する、かもしれない。

 そんなわけで、まずは前回にて予告していた一回戦から三回戦で周の立てた作戦とその目的を説明いたします。

 一回戦:ジナコ&カルナ
  作戦:サーヴァントのクラスを誤解させ、『ランサーなら余裕』と油断させる+マスターが凡人であると気づかせてジナコの心に隙を作る
  目的:令呪の強奪
  補足:令呪を奪うためにはジナコがアリーナに出向く必要があるため接待バトた。また上げて落とし絶望させる狙いもあった。

 二回戦:フラット&フラン
  作戦:1.毒ガスによる麻痺→そのまま中毒死(失敗) 2.決闘を持ちかけて騙し討ち
  目的:1.バーサーカーとの直接戦闘を避ける 2.フラットを一刻も早く殺す
  補足:この時に作成した毒ガスプロクラムを破棄されていない。また、フラットを撃破したことで遠坂凛に目をつけられた。

 三回戦:玲霞&百の貌のハサン
  作戦:周を排除しようとアリスが襲いかかってきた際に玲瓏館美沙夜も巻き込む
  目的:玲霞から持ちかけられたサーヴァント譲渡の取引でハサンの提示した条件をクリアするため
  補足:原作での三回戦後におけるルート選択イベントのパクり。故意の辺りに周の性格が滲んでいる。

 ここからは感想にあった質問と解答のまとめです。

Q.岸波白野はいるの?
A.います

Q.セミラミスはヤンデレ?
A.CCCのギルガメッシュに近いです

Q.EXTRAの黒ランサーはいるの?
A.いません。極刑王がおられました(・ ・)から。

Q.カルナ復活がもしかして……
A.七回戦までにその予定はありません。

Q.CCCはやるの?
A.未定ですが、やる可能性は高いです。

Q.アストルフォ愛でてただけのセレニケがゴルドより無能って……
A.一族全体への貢献度はゴルドの方が上ですから、シナタナイネ。

Q.ユグドミレニアのマスターに出番は?
A.脇役なら可能性はあります。

Q.幼女ハサンは出るの?
A.作者の気分次第です。

Q.シャーミレがセミ様のクラスを知ってたのはなんで?
A.周が取引の際にバラしたから。マスターが死にかけなので慢心していたのです。

Q.周のランス&ガウェインで連戦になったりしない?
A.しません。流石にレオと綾香は騙し討ちじゃ殺せませんしね。サーヴァントが優秀ですから。

Q.後書きの評価&感想ネタが尽きたの?
A.気分でやってたので、たまたまです。

 サーヴァントのリクエストは全部ではありませんが、四回戦でストーリーに反映させまする。四回戦でなかったらCCCがありますしおすし。

 それでは後書きはこの辺で。
 評価、感想も婚約者の手の指を折る程度の軽い気分でジャンジャンどうぞ。おまちしております。

 追伸
 モバマスとクトゥルフ神話のクロスオーバーが読みたくて仕方ないです。

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