Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

13 / 53
 忙しいのにファンスタポータブル2iを買ってしまった結果、睡眠時間が……。
 グラールでもイムカは強いです。


第二回戦:不治の病

 ふと目覚めたら、1と0の海原に浮かんでいた。

 

 ――どこだここ……

 

 何もない空を見ながらボヤく。

 答えはなく、虚しい空に言葉は吸い込まれる。

 海原を漂っていながら、水の感触が一切無い。

 徐々に身体が沈み、光が遠のいていく。

 様々な情景が泡に混じり浮かんでは消えていく。

 

 ――どういう状況?

 

 ――うふふ、知りたい?

 

 水中のはずなのにクリアな少女の声がする。

 あどけない純粋さのする声は、空間にこだまして出どころが掴めない。

 気だるさと煩わしさに苛まれながらも、声の主を探そうとあちこちを見渡す。

 

 ――ここよ、ここ。私はここにいるわ

 

 ――だからどこに……

 

 鬱陶しく思いつつ視界を動かし、真上を見ると――

 

 

「見つかっちゃった」

 

 

 天使の衣を纏った悪魔が、俺を見下ろしながら笑っていた。

 

 

 

 

 この日は午前中から最悪だった。

 あんな夢を見たからケチがついたのかもしれない。

 朝食を食べに食堂へ行こうと個室を出た途端にフラットとエンカウントして、なんとか図書室に逃げたら今度はイスカンダルが、最終手段の保健室には美沙夜がいた。

「あらあら、こんな時間からお化けが出てるわ。ねえカレンさん、言峰神父を呼んできていただけます? お払いしてもらわないと」

「あんなムーンセルのダニにそこまで上等な真似は出来ません。ここは私が聖骸布で釣り上げてしまうのが最善かと」

「ちょっと待てそこの健康管理AI。お前が危害を加えてどうするんだ馬鹿野郎」

「失礼ですね。誰が野郎ですか。私のどこに男性らしさがあると仰るのです?」

 最悪最低の組み合わせが言葉の弾幕で攻撃してくる。男性マスターに滅法厳しい健康管理AIのカレンは豚を、玲瓏館美沙夜は狗を見る目で俺を見下している。

 確かに俺は戌年だが、牛乳を拭いた雑巾のような臭いのする捨て犬扱いするのは度しがたい。抗議しようと息を整えた直後、背後から何が激突して勢いよく保健室へ吹き飛んだ。

「い、痛ェ……。何が起きたんだ……!?」

「そなたが毛嫌いしておる阿呆がタックルをかましただけじゃ。そら、早う立て」

「グェフッ!?」

 アサシンが馬鹿を放り投げてくれたおかげで重荷がなくなり、痛む身体を動かして立ち上がれた。床に転がった馬鹿の顔に蹴りを放とうと右足を溜めると、いきなり馬鹿が俺の左足を掴んだ。

 顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 身体は大人、頭脳は子供か。

「なんでそんなに俺のこと避けイダダタダダダ!! 腕踏まないで!!」

 あまりにもガッシリと掴まれているので、足蹴にすれば離すのではないかと思い全力でフラットの右腕を踏みにじる。

 悲鳴を無視してさらに体重を上乗せようとしたが、言峰がしゃしゃり出てきても鬱陶しいので自重する。悶絶して力が緩んだ隙に拘束を振り払う。

「……楽しそうだな」

 にこやかな女性三人が喜劇でも見ているような笑顔になっていた。苛立ちを抑えながらアサシンに言うと、本人は無言で霊体化した。

 残るドS女たちは幸せそうに紅茶を楽しみながら談笑している。不愉快な馬鹿と腹立たしいドSに舌打ちしたくなるのを我慢してアリーナへ向かう。

 

 今日は何もかも最悪最低だ。

 

 

 

 

 アリーナの最深部まで来れば流石にフラットも追ってはこなかった。分岐点の前に立ち、アサシンの魔術弾で消し飛ぶエネミーを見送る。

 この辺りは動かせるオブジェが少ないせいで宝具の建築がまったく進んでいない。その事はアサシンも不満らしく、エネミーへの仕打ちはいつにも増して苛烈さを極めている。

 高い魔力パラメーターに物を言わせた火力攻めは嫌いではないが、戦争らしくもある。いくらなんでも畑から魔力が採れるわけではないが。

 大通りにひしめく異形が魔力の砲弾による爆撃で瞬く間に消えていく。スツーカにやられるソ連の戦車はこんな感じなんだろうか。

 ……そうか、ドイツと日本は空に魔王がいるのか。

 考えてみれば、確かにどっちも強いな。

「おい小僧、背後が万全とは言え隙だらけとは良い度胸をしておるではないか。あのバーサーカーに一撃でも当てられようものなら死ぬぞ」

「マスターはエネミーの攻撃が掠っただけで死ぬよ。それに、あの怪物がこの爆撃で生き残れる可能性はないから安心しろ」

 対魔力DではAランクの攻撃魔術を喰らったら一たまりもあるまい。なんせ、十九世紀初頭に記された物語が原点なんだから、神秘としてはギリギリだろうよ。

 固有スキルの『ガルバリズム』も万能でなし、そもそもマスターがジナコとは違った方向で酷い。隙まみれの油断だらけである。

 俺が得意の考え事に逃避している間も、作業が苦手らしいアサシンは先程から頻繁に話しかけてくる。別にそれが嫌なわけではないが、出来れば正面には警戒しておいてほしい。

 まあ少なくとも、セミラミスにファンタシースターポータブル作品は向かない。あれは全ミッションクリア後の武器収集がメインだ。これしきで音を上げては収集王は名乗れない。

 特に、運とスケドが頼りの∞ランクフリミを周回するなんて彼女には到底無理だろう。コクイントウ完全体があれば辛うじて問題ないかもしれないが。

「小僧、そなたの天敵が来よったぞ」

 フラットの気配を感じ取ったアサシンはようやく爆撃を止めた。正面は建物も何もない更地であり、1944年のスターリングラード状態である。

 立ち込める土煙が薄れると、大通りの向こうから現れる人影が二つ。執拗に俺を追いかけ回すフラットとそのサーヴァント、バーサーカーだ。

 青を基調としたコーディネートのフラットは気さくに片腕を挙げて挨拶をしてくる。

「やっと見つけた! 探したよホント」

「俺は会いたくなかった」

「つれないコト言うなよー。寂しいなぁ」

「敵とじゃれる趣味はない」

 目に悪意を満たして睨むが、僅かでも通じている様子はない。バーサーカーは唸りながら俺とアサシンを警戒している。狂化されたサーヴァントより馬鹿となると、もう救いようがない気がするな。

 白けた俺のことなどお構いなしにフラットは近寄ってくる。その躊躇と警戒心のなさ、どうにかしておいた方がいいぞ。

 こちらも遠慮なくアイテムフォルダから刀を取り出し、一気に抜刀して切っ先を突きつける。

「あ、危なっ!?」

「近寄るな。お前ら指一本でもそこから動かしてみろ、首にこの刃を突き刺す」

 この警告は通じたらしく、フラットもバーサーカーも身じろぎひとつしなくなる。これではサーカスの猛獣と同じだ。 人間が相手にするような存在ではない。

 両手を挙げたまま静止したフラットに―不本意ながら―こちらから接触する。

「そんなに俺の願いが気になるなら決闘して勝ってみろ。拳銃型の礼装で相手の腹を撃つなら致命傷にはならないはずだ」

 あれがコードキャスト専用の礼装であることは把握している。エネミー一匹仕留められない火力なら懸念事項はない。

 フラットもチャンスを与えられただけでも満足なのか、キラキラと目を輝かせている。

「お前が勝てば質問に答える。俺が勝てば、決戦日まで何があっても話しかけるない。それでいいな?」

「もちろん! てことはやっぱりガンマンスタイルでやるのか!? 荒野の決闘!?」

「そうだ。分かったら銃を片方貸せ」

 興奮で顔がリンゴのように紅潮したフラットは、俺が刀を鞘に納めるとすぐにリボルバーの方を渡してきた。

 黒く重く、ズシリとくる。 パイソンに近い外見のそれを眺めながら相手と向かい合う。

「絶対に俺が勝つ!」

「馬鹿が図に乗るな」

 自信満々のフラットは勝利を宣言し、俺がそれを否定する。

 同時に経路(パス)を閉じ、サーヴァント両名を霊体化して安全策は万全だ。後は予定通りに動けば俺の計画は上手くいく。

 軽く一礼し、背中合わせになる。

 相手の歩調に合わせて一歩踏み出す。

 そして――

 

 

 

 

 

 素早く手にした抜き身の日本刀をフラットの首に突き刺す。

 

「……ゴハッ!?」

「馬鹿は死んでも治らない……。いや、正確には死んだら治らないか?」

 刀を引き抜き、血で濡れた刃を眺める。

 バーサーカーの反撃が来るより先にリターンクリスタルを起動し、アリーナから退出する。

 まだ二日もあるが、それまでの騒々しさを忘れるにはちょうどいい。オールナイトで図書室に籠るとしよう。読み終えていない本が山ほどある。

 無駄に費やすことは許されない。

 

 

 

 

 図書室の隅で本の山に埋もれる幸せは何物にも代えがたい至福の一時だ。

 フラットのストーキングがしつこいせいで作戦変更を強いられたのは業腹だが、またしてもサーヴァント同士で一戦交えるより先にマスターを撃破できたのは僥倖だった。

 決戦日の一対一による決闘(デュエル)形式に誤魔化されがちだが、これは戦争だ。本来、戦争とは問答無用の殺し合いである。

 より確実に相手を殺すため剣は青銅から鉄へ、銃はマッチロックからオートマチックへ、投石機はミサイルに進化し、策略の在り方は無限に広まった。その中でもとりわけシンプルな『騙し討ち』を警戒しないのは(モンキー)以下のド低脳である。

 貧弱なんて話ではない。

 才能と運しか取り柄がない脳内お花畑のカスと、才能も取り柄もないが容赦なく狡猾な凡人なら勝負は明確だ。

 目障りなゴミが片付いてスッキリした俺の脇に立つアサシンは気配遮断をしたまま、念話を用いて感慨深そうに一人ごちた。

『死者が死んだままである定めは覆せなんだか。まあ、分かってはおったがな』

『…………』

 かつてセミラミスが惚れたアルメニアの美麗王アラの逸話は、彼を手に入れるための戦争で戦死した彼の復活が起きないまま幕を閉じている。

 二度も起きた愛した男の死と、果たされなかった死者の復活を経験したセミラミスには、虚ろなる生者(フランケンシュタイン)がどう見えていたのだろう。

 それは憧憬か、それとも他の何かかもしれない。

 だが、俺は共感さえ出来やしない。

 

 何かに心奪われたことが久しくなかった身に、過去を思い出して感傷に浸るなど逆立ちしても無理な話である。

『どうした小僧。そなたが何も言わぬとは珍しいではないか』

『どう言えばいいのか分からなくてな。いや、割りと本気でこういうのは慣れてない』

『慰め合う友も、忘れたい過去もないのか。そうかそうか。しかし、案ずるでないぞ我が主よ』

 突然に元気を取り戻したアサシンは、見えずとも声音だけで背筋が凍るほど邪で淫らに笑った。

『妾もこれで慰めるのは得意である故、そなたの空虚な魂に火をつけてやろうではないか』

『…………遠慮しておく。取り返しがつかなくなるのは勘弁だ』

 




 これにて二回戦は終了です。
 次回からは三回戦ですが、そろそろサーヴァント同士の戦いが欲しいところでもあります。

 感想でもapocryphaのサーヴァント参戦を望む声が多いですね。あとギリシャ組。
 EXTRAにアタランテさんもいましたし、ギリシャ無双も悪くない気がしている今日この頃……。

 三回戦も楽しみにしていただけたら幸いです。
 感想も評価も、片手で児童の頭を潰すような気軽さでどうぞ。
 お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。