Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 久々に戦場のヴァルキュリア3をプレイしたらブームが再燃してしまいました。
 もう続編はいいのでギャルゲ化して欲しいです。
 イサラと大佐のルート付きで。


第二回戦:絡み合う物語

 緑衣のアーチャーに関する文献を探しに図書室へ来たものの、クラスとイチイの毒しか手がかりがないせいか、どこの国の英雄なのかも分からない。

 それらしい書籍は片っ端から目を通したが、自分が求めている情報はなかった。

 途方に暮れる中、不意に背後から――

 

「……探し物か?」

 

 冷たく掠れた声に呼び掛けられて振り返ると、どこかで見たような暗い面持ちの男子生徒が立っていた。

 艶のない黒髪と光の失せた黒目がちな瞳、健康状態が心配な病的に白い肌のせいでホラー映画のワンシーンのようだ。

 不機嫌そうな表情からは友好的な雰囲気を微塵も感じられないが、かと言って明確に敵意を放っているわけでもない。

「まあ、そんなところ……」

 こちらの回答に男子生徒は半分しか開いていない目を動かして張り付いた、不自然に引きつった笑みを浮かべる。

「校舎でサーヴァントに襲われたマスターと会うとは思わなかったな」

「……ど、どうも」

 愛想がいいのか悪いのか判然としない。

 ただ、彼はスイスイと本を取り出しているあたりから察するに図書室の常連のようではある。

「何を探してるんだ?」

「ダン・ブラックモアのサーヴァントに関する本が欲しい」

「……それなら、これを読むといい。多少なりと、あの義賊に繋がる情報がある」

 手渡された本をパラパラと見てみる。

 大雑把にまとめると、ヨーロッパの民間伝承に登場する様々な英雄、義賊について記録した物らしい。その中に気になる記述を見つけた。

 

『祈りの弓について:

 イチイの樹で作られた短弓。

 イチイはケルトや北欧では聖なる樹木の一種とされ、これを素材とする事で「この森と一体である」という儀式を意味したという。

 また、イチイは冥界に通じる樹とされている』

 

 イチイの木に関係がある、ケルトか北欧の義賊がアーチャーの出自のようだ。

 男子生徒が義賊と呼称した通り、あのサーヴァントの手法は決して堂々としたものではなかった。反社会的、反体制的でありながら市民から支持された英雄らしい手口だ。

「ありがとう。助かった」

「ふん。……まあ、あの老騎士は本気だが全力ではない。上手くやれば勝ち目はある」

 礼を言うと、男子生徒は不機嫌そうな表情のまま意味深な台詞をこぼして、書架に並ぶ多数の書籍とにらめっこを始めてしまった。

 一応別れを告げて図書室を出ると、霊体化したままセイバーが警告してきた。

『奏者よ。あの男と関わるのは避けるがよい』

「どうしたんだ? なにか気になったのか?」

『あ奴の目はよくないぞ。余が好かん要素を全て持ち合わせている人間だとこのアホ毛も告げておる』

「……」

 セイバーが嫌う三要素は倹約・没落・反逆だ。言われてみればあのマスターは彼女と対照的な雰囲気ではあった。

 それに、見た目からしてどことなく胡散臭い。

 監督AIの言峰に通じる嫌な感じもしていたし、ここは素直に忠告を聞き入れておこう。

 この二回戦を勝ち残った場合、もしかしたら彼と敵対することになるかもしれないのだから――

 

 

 

 

 岸波白野にロビンフッドの情報に関わるヒントを与えてから適当に校内を散策する。昼間はマスターの大半がアリーナに潜っているので、多少うろついても差し障りはない。

 静かな昼下がりの校舎というのは何とも奇妙だ。

 普通なら、昼休みは暇をもて余した学生たちがはっちゃけるため、授業の直前まで恐ろしく騒がしいと相場は決まっている。こうも静寂では誰かの罠ではないかと不安になってしまう。

 一階の廊下を中庭目指して進む途中、ようやく調子を取り戻したアサシンが訊ねた。

『あの岸波に肩入れする意味があるのか? 件のブラックモアならばガウェインやランスロットに対抗できるはずだ』

『岸波白野は必ず勝つ。むしろロビンフッドにアリーナで追いかけ回される方が嫌だね』

『その自信の由縁は知らぬが、まあよい。して小僧、向かいからこちらに来ておる赤い小娘はどうするつもりだ?』

『赤い小娘?』

 アサシンに言われて前を見てみると、遠坂凛が俺に向かって歩いてくる。止まる様子がないどころか、こちらを見るなり「あ、いたいた」的な顔をした。

 この状況下で俺に与えられた選択肢は三つだけだ。

 

 1.逃げるんだよォ! スモーキーーーーーッ!!

 

 2. 戦場(キリングフィールド)から脱出(エスケープ)だぜィエーーーーー!!

 

 3.あ~ばよぉ~とっつぁ~ん

 

 選ぶ意味がなかった。

 即座に回れ右をしてダッシュ。脇目もふらずにひたすら走る。

 後ろから「無視すんなやゴルァァァァ!!」みたいな怒鳴り声がしなくもない。

 しかし――

 

 

()には、退けぬ時がある!!」

 

 

『逃げながら言うな、逃げながら』

 アサシンの呆れたと言わんばかりのツッコミに反応する間もなく、中庭へ通じる扉を蹴破り噴水の前に躍り出る。そのまま慌てて花壇の中へ隠れ、ホログラムを呼び出して個室へと転移しようと急ぐ。

 俺の固有スキル『気配遮断〔A+++〕』は万全に機能しており、噴水前で辺りを見渡す凛は的はずれな所を漁っている。

「どこに行ったのよあのマスター!! やっと見つけたと思ったらいきなり逃げるとかどういうつもり!?」

『君子危うきに近寄らずだよ馬鹿野郎』

『その判断もあの形相を見てしまっては否定できんな。いやはや、般若をも越えた修羅と化すなどとは……。当世の魔術師も恐ろしいのう』

『おいやめろ。想像しちゃったじゃないか』

 アサシンのボヤきのせいで、修羅と化した凛を想像してしまい手の震えがとまりません。

 ともかくこの場から逃げないと。見つかったらただじゃすまないのは確かだ。

 手が震えてしまい『個室』の欄が押せないでいると、教会から面倒な奴が出てきた。

「主よ、目を合わせてはなりません」

「……そうだね」

「ちょっとそこ! 聞こえてるわよ?」

 沙条綾香とランスロットが可哀想な目で凛を見ながら凛を避けるように噴水の横を通る。

「ねえ、そっちで黒髪黒目の辛気臭い顔したマスター見かけなかった?」

「いたっけそんな人」

「見覚えがありませ……ん」

 ランスロットと目が合った。

 間は一瞬だったが、それを凛が見逃してくれるはずもない。

 魔術師に対する世間様のイメージを男女平等パンチ(幻 想 殺 し)する勢いで跳躍し、花壇目掛けて飛び込んできた――!?

「逃がさないわよ!!」

「捕まってたまるか!!」

 あかいあくまに捕まりたくない一心から、ヤケクソで転移先を適当に指定してしまった。

 我が身を庇おうと反射的にかざした左腕に凛の右手が触れた感触があった瞬間、ムーンセルによる転移が始まり視界が白く染まる。

 

 

 

 

 転移した先は当初の目的地だった個室だが、招かれざる客のせいで色々とぶち壊しである。

 顔バレしているアサシンが実体化したのだが、凛も凛でランサー(兄貴)を実体化させて対抗してきたので話が拗れてしまう。

「あのカルナに宝具なしで勝った魔術師が無名なんてワケないでしょ?」

「それはハーウェイとお前の情報網があんまりにもスッカスカなだけであって、俺が大それた人間ってわけではないんだよ」

「あり得ないわ。ハーウェイにマークされてない霊子ハッカーは二回戦にいないのよ? なのにアンタは西欧財閥のリストになかった。おかしいに決まってるじゃない」

「何度も言わせるな。俺が無名なのはお前らの目が節穴なだけだ」

「こっちは一人でも仲間を増やしたいから組織間の繋がりが強いの。優秀な魔術師がいればすぐに見つかるし、連絡網で各地に広まるわ。あなたはそれすらも掻い潜ったって言うワケ?」

 ……面倒だ。

 俺の預かり知らぬところで、一回戦はカルナと契約したジナコが勝つと皆が予想していたらしい。凛は勘ではなく、何かしらの計算式に基づいて予想を建てたがために気になっているようだ。

 攻防共に優秀な黄金のランサー相手に、キャスターでどうやって太刀打ちできたのか。その仮説を組み立てる途中で俺がこの世界じゃ無名同然である事実に行き着いたと思われる。

 ハーウェイのスパイかもしれないという可能性が排除されれば、もしかしたら解放されるかもしれない……。

「才能があっても、使わなければ無いのと同じだろう。ここにいるのは、たまたま聖杯に興味が湧いたから、ムーンセルにアクセスしただけだ……」

 賭けに勝てば幸運、負ければまた別の嘘を用意すればいいだけだが、あまり根掘り葉掘り質問されたんじゃボロが出そうだな。そろそろ畳み掛けてしまうか。

 凛は疑いの目で俺を睨んでいる。それなら俺は鬱陶しいと言いたいのに気づいているはずだが、そんなにうっかりが進行しているのか?

 時臣みたいに少しは優雅さを身に付けて、人を信用してみたらどうなんだ。

「ハーウェイにも反西欧財閥にも関わりはない。魔術師としての実力を把握したのも聖杯戦争に参加してから。ついでに、カルナはマスターの魔力枯渇が原因で敗退したんだよ」

「……どうなんだか。まあ? 二回戦はあのフラットらしいし、その結果で判断させてもらうわ。逃げても無駄よ。必要なら拷問だってするんだからね」

「勝手にしろ。精々、ユリウスに背後を取られないよう気を付けておくんだな」

 去り際の凛に忠告をすると、一瞬だけ表情が強張ったが、すぐにいつものすまし顔でどこかへ転移した。

 ランサーも主人に続き、邪魔者が消えたことで殺気を引っ込めたアサシンは玉座に腰かける。俺も安楽椅子に身を委ね、ゆったりとする。

「面倒な輩に目をつけられたな小僧。どうする? 必要ならば我が手ずから始末してやるぞ?」

「まだいい。遠坂凛は誰かとつるむ気質ではないから、まだまだ注目が集まるようなことはないさ」

 どうせ校舎で仕掛けるなら悪魔ランサーを焚き付けてからだ。

 あの馬鹿はどのみち放っておいても運営が処分しようとするだろう。そうなればあの言峰は必ず動き出して、何らかの形で特別な趣向を凝らした余興を披露する。

 しかしなぁ……。セミラミスはアサシンらしい戦い方がかなり苦手だし……。

 山脈積みになった本から一冊手にして別の場所に積み直しながら思考する。せめてあと一人くらいサーヴァントがいればいいのだが、俺の魔力ではこれ以上は負担するのは難しい。

 魂喰い以外でサーヴァントに魔力供給をする方法があればいいんだが、何かないのだろうか。ムーンセルからある程度の知識が得られるアサシンなら知っているかもしれん。聞いてみよう。

「魔力供給の方法が何種類あるか知らないか?」

「ととと唐突にどうしたとたいうのだ!? 藪から棒に妙なことを聞きおって!!」

「もし経路(パス)を絶たれたらどうしようかと心配になったんだ。これは死活問題だろう?」

「むむ……。そ、それはまあ、確かにそう……じゃな。流石の我も庭園の外ではまともに現界できぬ」

 何故か顔を赤らめて身を乗り出したアサシンは、質問の意図を聞いたら落ち着きを取り戻した。ていうか、庭園の中なら魔力供給いらないんだ……。

 敢えてツッコミは口にせずアサシンの話を聴く。

「まずは契約時に結ばれる経路(パス)を通じて魔力を送る方法よな。後はマスターやNPCから搾取する魂喰いや人食い、体液の交換か?」

「体液? ああ、吸血か」

 それは確かstay nightで何人かやってたような。

「血液よりは唾液がよい。さらによいのは精液じゃ」

「…………そ、そうなのか」

 後半から随分と楽しそうに語るアサシン。それは自分の好みだからいいのか、それとも単純に効率がいいのか。それによって俺の反応はガラッと変わる。

 やっぱり油断ならないな、セミラミスは。




 モードレッドとアルトリアの関係に納得がいかずあれこれ調べたら、モルガンさんが未来に生きていると判明しました。
 しかし私はアサ子派です。

 久々に出てきたザビーとネロですが、またしばらくお休みに……。

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