GODEATER2 AnotherBlood 作:Vekterアイギス
目立ったトラブルもなく、順調に行くと思われていたが…
裏では彼女の思惑が動き出していた。
「ふえ~すごいな。」
ロミオは感嘆の声をもらす。
それもそのはずだ。
目の前では神機兵がアラガミと交戦を繰り広げている。
俺達は安全圏からそれを眺めているばかりだった。
「確かに、凄いっすけど...神機兵の任務って住民の護衛じゃ?」
オレはふと、疑問に思ったことを口にする。
「ん~そう言えばそうだな。
まあ、俺らの代わりに戦ってくれるのは、ありがたいことじゃないか?」
「それも、そうですけど...」
オレは神機兵に目線を戻す。
ちょうど、ヴァジュラが絶命したところだった。
顔面が切り裂かれ、マントはボロ雑巾のようにズタズタなってしまっている。
神機兵が勝利の咆哮をあげた時だった。
「あ。あの雲...赤い...」
ロミオが指を指した方向、すぐそこまで赤乱雲が迫っていた。
「赤い雨...!全員シェルターまで避難しろ!急げ!」
後ろに居たジュリウスが叫ぶ。
同じ頃、
明かりの点いていない研究室に、ラケルは居た。
画面を操作しながら、ラケルは呟く。
「雨は降りやまず...
時計仕掛けの傀儡は、来たる時まで...」
画面には神機兵の内部図。
「眠り続ける。」
ラケルは微笑む。
その笑顔は、画面に照らされてより一層、妖しくみえた。
ジュリウスの誘導で、オレ達はシェルターまで退避していた。
「ブラッドβ、聞こえるか?状況を報告しろ!」
ジュリウスの呼びかけにシエルが応答する。
-こちらブラッドβ。敵残数、一体です。-
「赤い雨が来る。中央シェルターまで撤退しろ。」
-了解!シェルターまで撤退します。-
「皆こっちだ!早く中へ!」
クロサキ達の呼びかけに、住民が押し寄せる。
「先輩!コウタさんにつながりました?」
「ん、ちょっと待ってろ...よし!つながった!」
通信機にコウタの声が流れる。
-こちら、コウタ。周辺住民の護送が終わりそうだ!-
-後は、神機兵に任せて退避する!-
しかし、住民の避難が完了しかけた時、事件は起こった。
「おいおい...どういうことだよ...」
目の前の神機兵が次々と停止していく。
「なんで、神機兵が...!止まってく...!」
見回りに出ていたロミオが驚く。
その声は、通信機を通して聞こえていた。
「そんな...隊長!」
「ああ...他の所でも同じような事態が起きている。」
ジュリウスも困惑した様子だった。
-フライアから緊急連絡!全ての神機兵が停止していきます!現時点で原因は不...-
『人もまた自然の循環の一部なら、
人の作為もまたその一部、そして...』
赤い雨が降り出した。
「全員、避難し終えたか?名簿の照合、急げ!」
ロミオが頷き、避難名簿をめくる。
めくって行くうちに、あることに気付きロミオの顔に焦りの色が現れていく。
「居ない...!北の集落の人達が、爺ちゃんたちが居ない!」
「隊長!大変だ!」
他の隊員から報告を受けたギルが奥から走ってくる。
「どうした!」
「ノースゲート付近にアラガミが出たらしい。」
そこまで言うとギルは表情を曇らせる。
「あの白いアラガミ...マルドゥークだ。」
『ああ...やはり、貴方が王の為の贄だったのね...』
『ロミオ...』
「爺ちゃん...婆ちゃん...」
ロミオは意を決して、防護服を手に取る。
「ゴメン、ジュリウス!俺、ちょっと行ってくる。」
ロミオは赤い雨の中を、北の集落に向かって走り出した。
「あのバカ!何してやがる!]
「行くぞ、ギル!」
追いかけようとするギルとクロサキを、ジュリウスが制止する。
「待て、俺が連れ戻す。
お前達は、ここでアラガミの侵入を食い止めてくれ。」
+++++
『ロミオ...貴方は、この世界に新たな秩序をもたらす為の礎。』
走るロミオの前にガルムが立ちふさがる。
ガルムの攻撃をかわし、そのまま着地する。
が、そこに別のガルムが飛び掛かってきた。
その時、ジュリウスが現れ、ガルムを切り裂く。
ガルムはそのまま倒れ、沈黙した。
二人は顔を見合わせ、静かに頷く。
『貴方のおかげで...新たな歯車が回り出す...』
そこにガルムを引きつれた、マルドゥークが姿を現す。
マルドゥークが咆哮と共に、二人に襲い掛かる。
対抗するが、その力に二人とも弾き飛ばされる。
『ああ、ロミオ...貴方の犠牲は、世界を統べる王の名のもとに...』
立ち上がろうとするジュリウスにマルドゥークが牙を剥く。
『きっと、未来永劫...語り継がれていくことでしょう...』
ゆらりとロミオが立ち上がる。
目の前には、ジュリウスが倒れていた。
『お休み、ロミオ...新しい"秩序"の中で、また会いましょう...』
ロミオの頭の中に走馬灯のように記憶が巡る。
-俺はジュリウス・ヴィスコンティだ。これからよろしく頼む。-
ロミオはマルドゥーク達と対峙する。
-ロミオ先輩!はい、おでんパンあげる!-
ロミオは最後の力を振り絞って、神機を振りかぶる。
-ロミオさん。報告書がまだですよ。-
赤い光を纏った斬撃がガルムを切り裂いた。
-ロミオ!もっと、敵の動きを見ろ!-
しかし、マルドゥークを足止めするには至らない。
-ロミオ君がそこまで言うなら、私も精一杯歌わせてもらうよ!-
マルドゥークの爪がロミオを捉え、ロミオの体が宙を舞う。
-また、何時でもおいで。なんなら、うちの子になるかい?-
そこにもう一度、爪の攻撃。
ロミオは地面に打ちつけられた。
-先輩!頼りにしてますよ!-
それでも、ロミオは立ち上がる。
その異様な気迫にマルドゥークが後ずさる。
(皆...は...俺が...)
ロミオの中で力が覚醒する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ロミオの叫びはサテライト中に響き渡り、アラガミ達はそれに呼応するように去って行った。
+++++
しばらくして、ジュリウスは降りそそぐ雨の音で目覚めた。
「くっ...俺は...ロミオは...?」
ジュリウスは辺りを見渡す。
倒れているロミオを見つけ、すぐさま駆け寄る。
ロミオは血まみれで、息も絶え絶えだった。
見ると腹部からの出血がひどかった。
「おい、ロミオしっかりしろ!」
ジュリウスの呼びかけに、ロミオが目を開ける。
「...ジュリウス?ゴメン...アイツ、倒せなかったよ。
あ、爺ちゃんたちは...?」
「ああ、無事だ。お前のおかげでな...」
実際のところはまだ分からない。
だが、真実を言ってしまえば、何かが終わってしまうような気がした。
「ヘヘッ...良かった...
なあ、ジュリウス...ゴメンな...俺が勝手に...」
「もういい...それ以上、喋るな...」
腹部からの出血は先程よりも酷くなっていた。
「最後まで、皆に迷惑かけて...弱くてゴメンな...」
「そんなことは無い!お前が...皆を守ったんだ。」
ロミオはその言葉に微笑む。
「ありがとう...」
ロミオはゆっくりと目を閉じる。
「ロミオ...?ダメだ...一人でも欠けたら、意味がないんだ...」
ロミオの手が力が抜けたように下がった。
「逝くなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ジュリウスの悲痛な叫びは、雨の音の中に消え去った。
赤い雨はまだ、降り終わる素振りを見せなかった...
次回、二章最終回です