異形の英雄──歪んだ瞳に映る物──   作:バルシューグ

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第八話 拳と剣

八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やむを得ない。

S級ヒーローの出撃を許可しよう」

今作戦の指揮官に当たる男が目を閉じ、静かにそう告げる。

その額からは冷汗が流れ出ていた。

 

 

「最初からそう言えばいいのよ!」

 

腕を組み、眉を顰めながら誰かが指揮官に怒鳴る。

彼女は黒いドレスコートを身に付け、緑色のくるりとしたパーマネントなヘアースタイルが特徴的な小柄の女性。

 

 

彼女のヒーローネームは

『戦慄のタツマキ』

”S級ヒーロー二位”であり、ヒーローの中で最も強い実力者の一人である。

 

 

「何を言うか!全く…

幾ら強くても限界があるというのに一人で行こうとするなんて正気の沙汰ではないぞ!?」

指揮官は呆れた表情で呟く。

 

「うるさいわね!

だから仕方なく他のS級ヒーローと一緒に行くわよ!あんたは黙ってそこから見てなさい!」

タツマキは指揮官の言葉に反論するかのように一方的に怒鳴りつけるとその場から立ち去って行った。

 

 

 

 

「はぁ……何故、あそこまで自分勝手なんだ…

それにまだB級、A級ヒーローは大多数が恐怖で震え、戦えない状況。

それに加えてA級ヒーローのある二人はもう突撃しているし…

今度はS級ヒーローの今いる全員で出撃とは…何故待てないのだ!」

指揮官は困り果てた顔で苛立ちを感じていた。

その自分勝手で我儘な行動を悩ましく思った。

なまじ、圧倒的な力を持つ為にソレに従うしかない自分の非力さも彼の苛立ちを増長させていた。

 

 

 

「指揮官殿!!

町の方から生き残りの者が歩いて来ました!!どうやらあのA級ヒーローが守ったそうです!」

 

 

「なにぃ!?」

 

突然、扉を壊す勢いで部屋の中へと入ってきた数少ない部下。

その口から告げられた事実に驚愕し、席を勢い良く立ち上がると指揮官は部下の方に駆け寄った。

 

 

「…その者の体は大丈夫なのか?」

 

 

「はい、どうやらヒーローが手当をしていたようで…」

 

 

「そうか…」

指揮官は部下の返答に何か考える素振りを少し見せると、

「S級ヒーローは全員行ったのか?」

と、部下に問うた。

 

「はい、現在、この場に来ていた者全員が戦慄のタツマキの後を追いました。たった十三人で作戦を決行するようです」

 

「…わかった。

A級ヒーロー達の中でも動けるものを集めてくれ、一時間後に第二陣として出撃させる」

 

「了解しました」

部下は返事を返すとそのまま立ち去った。指揮官は椅子に座り、考え込み始めた。

 

自分の考えが間違っていたのかと、考え始めていた。

 

 

 

もう町に生き残りは居ないと考えていたが、実際はもっと早く出撃していれば救えた命があったのかもしれない。

 

 

彼の中ではこの事実が深く刻まれた。判断を誤るリスクの大きさと責任の重さを…自分が抱えているモノの価値を…

長年の人生の中で得た知識と経験を持ってしてもソレは彼には重過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガフッッッ!!」

口から声が漏れるほどの一撃をくらい、スチールフィンガーは地面にゆっくりと倒れた。

頬にコンクリートのザラザラとした感触を味わいながらも立ち上がろうとするが、

「あらあらあらあら、まだ足掻くの?まだ僕に足掻くと言うの?

馬鹿なの?死ぬの?殺されたいの?

まあ、そっちの方が好都合だけどね」

 

スレンがソレを貶すような視線で眺める。

 

「なんと…言われようとも…!

諦めないぞ!!」

スチールフィンガーは立ち上がり、

握り拳を掲げる。

腰に腕を構え、力を込める。

 

その様子をスレンは眺めながらまた小細工でもするのかと思い、剣を前に突き出す。

 

「鉄を貫き、岩を砕く!!

正義の鉄槌を今ここに…!

スチールッ!フィンガアアアア!」

高速でスレンの懐まで潜り込み、突く。

「!?」

(しまった!?油断した!)

 

スレンは直様剣を構え、対応しようと動く。

 

 

が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その鉄拳(スチールフィンガー)、魔剣に届かず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みぞおちを狙った一撃は直線に叩き込まれたかに見えた。

しかし、接触僅かの所で体を揺らし、接触地点を変える。更に拳の流れに乗るように体を動かす事で威力を最大限に抑えたのだ。

スレンは技で隙が出来たスチールフィンガーの腹部を蹴り上げ、吹き飛ばす。

 

「残念…!

君の拳を真面に受けたなら危なかったけど半減されたモノなんて怖くないよ!まあ、掠れた部分が衝撃波でちょいと痛いけどね……

さて、お遊びはここまでだよ!

シネ」

 

 

地面に降り立ったスチールフィンガーは猛攻でボロボロに欠けた鎧を身に付け、至る所に出来た傷で血みどろにながらも不敵に笑み、スレンに宣言する。

 

 

 

「俺たち『ヒーロー』は貴様ら怪人には負けん…!!絶対にな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

町を…

 

 

 

人を…

 

 

 

生命を燃やし尽くす猛火を背景にスチールフィンガーは立つ。

 

 

その思わず目を逸らすような傷を負った身体で…!

己の持つ力では傷を負わし、

弱らせる事しか出来ない程に強い怪人を前にして恐れを見せる素振りすら見せずに……

 

 

 

 

「あっそ。

 

 

まあ、あんたは僕に殺されて負けるわけだけどね。

 

さあ、僕の剣技を前に平伏し、息絶えるといい」

スレンはスチールフィンガーの前に立つと剣を振り上げ、軽口を叩いた。その眼からは完全に興味を失われていた。

 

 

 

 

それも束の間、無慈悲にも鋭き刃で切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンクリートの地面を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良くやった。

 

よく耐えた、A級ヒーロー

『鋼鉄の英雄』

お前が切り裂かれていた時間は無駄では無かった。お陰で何とか助太刀に間に合ったからな…」

 

日の丸の国に古くから伝わる者の風貌をした男が彼を抱きかかえ、助けた。腰には刀らしき物を差し、その身に漂う雰囲気は強者のオーラを醸し出していた。

 

 

 

「さあ、鬼の嬢ちゃん。

こっからは選手交代だ……

俺が相手をしよう」

腰から刀を抜き出し、スレンに向ける。その様子を笑いながら眺めるスレン。

 

 

「へぇ〜、おじさんが相手をするの?まあいいけど。

同じような武器同士だし僕の剣技の強さを確かめられるから丁度いいかな!!」

スレンは堂々と仁王立ちし、余裕の表情で侍を挑発する。自分の勝利は揺らがないものと信じて…

 

 

「嬢ちゃん…

あんまり俺を舐めて見てると痛い目に合うぜ?」

侍は眉を顰め、彼女に呟いた。

彼は背後のスチールフィンガーに下がっていろと合図を送ると、刀を構えた。スレンもまた剣を構える。

 

 

「俺はS級ヒーロー四位、

『アトミック侍』だ。

お前を殺す為にここに来た」

 

「僕はスレン少尉。

貴方たち人間を抹殺する為にここまで来たよ」

 

 

互いに覇気を纏い、殺気を醸し出す。その緊迫感は辺りを震えさせるかの如く強さだ。

S級ヒーローと災害ランク鬼以上の対決…

勝者は誰にも予想が出来ない実力者同士の戦い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、殺り合おうじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S級ヒーロー…

ここに見参。


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