異形の英雄──歪んだ瞳に映る物──   作:バルシューグ

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第六話 絶望と希望

六話

 

 

 

 

 

 

 

その日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの町が怪人によって滅びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーロー同士の決闘から数週間後、

ある町が怪人の軍団により滅亡した。その時の怪人の数、約5000体である。

 

 

怪人達の纏まった動きに圧倒的な強さ、更に脅威的な幹部の存在によって怪人軍団の蹂躪に為す術もなく町のヒーローは倒れていった。

 

 

 

総勢、C級ヒーロー41人、B級ヒーロー13人、A級ヒーロー7人の者が死亡し、更に近くにいたS級ヒーローの金属バットが重傷で逃げ帰って来る事が精一杯であった。彼は気を失う前にこう言った。「怪人を…率いるトップの怪人は…俺では…歯が立たなかった」と……

 

 

その異常な事態にヒーロー協会はB級の上位陣、A級、S級のヒーロー全てを派遣して潰そうと考えた。

弱き者ではすぐに嬲り殺しになる為にC級ヒーローや、B級ヒーローの下位の者などは一般市民と共に避難を告げられた。

更にT市と滅ぼされたU市をシールドで囲み、逃げ出せないようにした。

中に残る市民はT市の端にあるヒーロー協会の地下シェルターに避難となった。

 

 

 

 

 

 

 

しかしどの道怪人軍団の向かう先はただ一つ、T市だけである。

そしてその町こそが鵞仙が住む町であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ!!

あの集団は…シャープインサニティは滅んだ筈だぞ!」

ヒーロー協会のとある一室にてある男が叫ぶ。

 

「残党がいた…という事だろう」

また別の男がそう言った。

 

「一体どうするのだ!?

当時、奴等をたった二人で壊滅に追い込んだ宮谷一族の当主とその妻はその戦いで敵のトップと相討ちで死んでいるんだぞ!更にあの滅ぼされた町では封印を守る預言者が殺されたと聞いた!

第一、それに何故ここには我々、二人しか居らんのだ!!」

怒り狂った顔で男は叫ぶ。

 

「他の奴等は避難だとよ…この作戦が失敗した時の為にとか言ってな…

馬鹿だと言いたいな!!この作戦が失敗すれば死ぬしかないのに…!

まあ、とにかくムカつくが、今は何とかするために考えるしかないだろう。俺たちだけでな。

それにまだ宮谷一族は居る。当主の息子がな…

更に以前よりも戦力は有るんだ!

残党ぐらい何とかなるだろう!!」

男は声を荒げながら言った。そうでもしなければ恐怖で潰れるからだ。

 

「しかし、S級ヒーローの一人が敵のトップにやられたのだ!!

もし、敵の本陣を叩くならばS級ヒーロー3人は必要だぞ!!」

 

「それでもやるしかないだろう!!

下手をすれば人類が滅びるぞ!」

 

「ならばここは─────!」

 

「────────────」

 

 

 

 

二人の男は数十分間、互いに意見を出し合い、

纏めた。その結果、最低限の戦力となる者で敵を抑え、その時にS級ヒーロー三人で本陣を叩く事にした。

 

 

「一刻も早く伝えるぞ!

間に合わなくなる前にな…!」

 

「ああ…!我々は勝たなければならないのだ!何としてでも…!」

 

たった二人しかいないというのにその一室に広がる緊迫感は計り知れないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『心して掛かれ!!

油断すれば死、有るのみだ!!!

生き残る為に怪人を殺せ!

何としてでも殺せ!!!

我々、人類が助かる道はそれしかないのだ!!!命を掛けて戦え!

俺たち二人も逃げない!!

もし作戦が失敗したのならばこの場で死ぬ!!』

 

ヒーロー協会から告げられた言葉は死を覚悟しろということと、今回の作戦リーダーの覚悟だった。

 

 

 

 

S級全員、A級、B級の一部の物以外はただ震え、恐怖で立ち尽くしていた。その中、S級ヒーローや、一部のヒーローはただ落ち着き、敵を倒す為に集中を研ぎ澄ましていた。

しかし、想像すら出来ない緊張感と死を覚悟しなければならないというプレッシャーに少なからず恐怖を感じていた。自分の力が果たして通じるのかもわからないのだ、恐怖しない者など存在しないだろう。

しかし、作戦に不満を言う者は誰一人居なかった。何故ならば作戦リーダーも命を掛けているからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、鵞仙はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、私を先に行かせろ……!」

 

一人、町に行こうとする鵞仙をヒーロー協会の役員が止めていた。

 

「一人では無理です!無駄死になってしまいます!どうか作戦決行までお待ちを!」

役員が必死に説得するも、

 

「だからなんだというのだ…!

私の住む故郷が…家が…家族の墓が今も破壊されようとしているのだぞ!!」

抑える事は出来ずに鵞仙を離してしまった。

 

「待って下さい!!」

役員の叫びは届かず、鵞仙は自分が住む町に走り行くのだった。

 

その姿を眺める鋼鉄の英雄もまた同じように鵞仙の後を続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る町、半壊するコンクリート、消し炭となる逃げ遅れた人々。

怪人が歩を進める音が炎が周りを焼き尽くす音と共に響き渡る。

そこには殺戮と死の臭いが充満し、僅かに生き残っていた人々は絶望して息絶えていった。

怪人達は逃げ惑い、殺されていくその姿を嘲笑い、歓喜の雄叫びを上げて招福した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああああ!!!」

齢11.12程の少女が幼き弟と妹を抱いて近づく恐怖の存在に叫んだ。

怪人はその叫びに笑い、歓喜していた。その腕には少女たちを庇い、死んだ父親の死体を掴んで…

手に持つ死体を投げ捨て、そのまま少女の腹を槍で貫き、抜いた。

少女は口から血を吐き出し、倒れる。

 

 

「逃げ…て…」

 

それでも少女は二人の為、頬に涙を流して必死にそう叫んだ。しかし、まだ幼き兄妹はただ泣き叫ぶ事しか出来ず、ただただその光景に小さな体の中に復讐心を抱いた。

それしか出来なかった。

 

少女が二人を庇おうと力を振り絞るもそのを怪人が片腕を踏み潰し、その身体を持ち上げて壁に向かって投げつける。

 

「かふっ!……や…めて」

少女は壁の下で倒れながら力無く叫ぶも怪人は聞く耳を持たない。

「ひゃあハハハハハハハハ!!!

死ねえ!死ねえ!死ねえ!

消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!

絶望の中で死ねえええ!!」

絶望と怒りに包まれる兄妹にそう言い、高笑いする怪人。

 

その姿を眺める少女の心は壊れかけていた。

その様子を横目に観察し、満足気に頷く怪人。

そして震える兄妹に向かって怪人が槍を振り下ろそうとしたその時、

 

 

 

 

「ゴミ屑が…!

地獄へと落ちて死ぬが良い!!」

鵞仙によって阻止された。

槍の矛先を掴み、腕力で潰すと怪人の脳天を殴り潰した。

 

その後、直様少女に駆け寄り、懐に用意していた薬にて傷を治した。

 

「大丈夫か…?

意識は有るのか?

他に傷はないのか?」

鵞仙はオズオズと少女に語りかける。少女はゆっくりと鵞仙の顔を見上げて、

「ありがとうございます!!

本当にありがとうございます!!

傷もありません!!」

と泣き叫んだ。

それに合わせて二人の兄妹も鵞仙に向かって抱き着き、同じように泣き叫んだ。

 

「お、落ち着くのだ…!

奴等が集まってくるぞ!

それに二人は怪我はないのか?」

と、落ち着かせて兄妹にも怪我がないか尋ねた。

 

兄妹は頷き、鵞仙の足にただ抱き着くのだった。

 

 

「そうか…

ならば三人共、この傷薬と小型護衛マシン八体を渡そう。

それを使ってこの地図の通りに行くんだ、いいな?」

 

「でも……怖いです。またあの怪人みたいなのが…」

少女は瞳に涙を貯め、そう呟く。

鵞仙は少女の頭を優しく撫でてこう言った。

 

「大丈夫だ。このロボットは一体で奴等二体を相手に出来る。

ただ、親父が作った最後のロボだからもう製造は出来ないがな」

鵞仙は三人に微笑む。

 

「でも………」

 

「…私は今から敵を倒しに行く。

だから此方の方が安全だ。

それにもう少しでヒーローが来る。

大丈夫だ…心配するな…!

生きる意思が有るのならば大丈夫だ」

鵞仙はそう言い、兄妹の頭も撫でる。

 

「さあ行け…!

私もそろそろ行かねばならぬ!」

鵞仙はそう言うと歩き出した。

 

 

「また…生きてたら会えますよね?」

少女は振り返り、背を向ける鵞仙に問う。

 

 

「ああ…生きていたら必ず逢える。

私が会いに行こう…」

と呟き、走り去った。

 

 

 

少女は鵞仙の姿が見えなくなるまで見送り、地図の通り、兄妹と共に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、希望は町に残っていた。

鵞仙という希望が……!

 


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