異形の英雄──歪んだ瞳に映る物──   作:バルシューグ

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シャープインサニティ編
第四話 隣町にて


四話

 

 

 

 

 

 

 

ビルが建ち並び、人の波が渦巻く街道の中を道行く男が居た。

 

 

男の名は鵞仙…

 

 

ヒーローである。

 

 

 

彼が纏うは漆黒なる衣と真紅の衣類、そして手足には黒く輝き、強い艶を持つガントレットと重装歩兵が身につけるような大型のグリーヴを付けていた。

たった一人、ポツンとその様な姿でいる為に目立ったがこの世界にはヒーローが身近に存在するおかげで本の一瞬覗く様に見るだけで済んだ。

 

しかし、奇妙な物を見るかの様な視線を四方から受けているというのにも関わらず気にする素振りすら無く、歩き続けているのは彼が持つ異様な感性からだろう。

 

 

 

 

そんな鵞仙が何故、町中を歩いているのだろうか…

 

 

理由は単純だ。

 

 

 

食料(めし)の調達である。

 

 

生物として当たり前の行動だ。そこに疑問など起こるはずがない。

幾ら強い生命体であろうとエネルギーが必要なのだ。

 

 

 

 

 

 

ー可笑しい事など何一つ無い筈、何を奇怪に感じる?ー

 

 

 

 

 

鵞仙の周りに対する考えはその一点のみであった。地図に記されている道を歩きつつ、視線を忌まわしく思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから幾らか離れた場の道中にて人集りが出来ていた。

 

我先にこの光景を目に刻もうと集まる理由はヒーローと怪人の戦いである。

 

ヒーローはB級24位紫電丸、

対する怪人は災害レベル狼の雑魚、話にならない程に実力は開いていた。だからこそ一般人も見れるわけだが。

 

 

 

 

 

 

結果を言うとヒーローの圧勝である。怪人の渾身の一撃を逢えて受け、自らの強さをアピールする程にヒーローが強く、怪人は弱かった。

これがもし『狼』の中でも『虎』に近い存在ならば勝負と言える物となっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を数メートル先から数秒だけ見て、そのまま歩いていく鵞仙。

彼の興味を引くほどの事ではなかったのだろう。

 

 

 

 

 

だが、B級ヒーローこと紫電丸の眼にはしっかりとその姿が映し出されていた。

 

 

「おい、そこのヒーロー!

今すぐ歩くのを止め、何をしていたか話せ!」

紫電丸は鵞仙を指差し、問いただすように言った。

紫電丸の写真撮りで眼中だった周りの一般人達もその言葉でようやく鵞仙の存在に気づき、一斉に視線を動かした。

 

 

「…めしを作る為の材料と昼食を買う為に歩いていたのだ」

 

「ほう…だが貴様、ヒーローだろう?」

鵞仙の答えに少し眉を顰めながらも新たに問いかける紫電丸。

 

「ああ…」

何故そのような事を聞くのかさえ分からない鵞仙だったが無表情で返した。

 

 

「ならば…何故、助太刀に来なかった!?私が戦う間も自分の目的の為に歩いていたのか!?守るべき人々を守ろうとせずに!」

突然、声を荒げて言い放つ紫電丸にわけがわからないという表情で

「貴様の実力ならば私の助太刀は必要ないだろう。

それにあれほどの力の差ならば充分に守れると判断した、それだけだ」

と返す。

 

 

「たとえそうだとしてももしもの時の為に近くにより、声を掛けるべきだろう!」

 

「ほう…だが声を掛ければ気が散り、危険を生み出す。

 

…それ以前に一つ忘れているぞ、今までの言葉を聞く限り、危険だと言いながら何故貴様は一般人に向かって離れろと言わなかった?」

 

 

「うぐ………

確かにそれは俺のミスだ。

それにお前を言う事は確かに筋が通っている。

だけど、もし怪人に特殊能力があり、俺の隙をついて人々に襲い掛かっていたらどうするんだ!!

俺のミスに気付いていたのなら余計に近くに駆け寄るべきだろう!」

痛い所を突つかれた紫電丸は言い訳の様な事をいい、自分の態度と言葉の姿勢を崩そうとはしなかった。

 

その事に苛立ちを感じ始めた鵞仙だったが冷静に考え、何を言っても無駄だと判断して引き下がろうとした。が、

 

「いや、待てよ…

お前、そんな姿だけどC級ヒーローの新米だな!それならわかるぞ!

か弱いお前が戦闘を避けることぐらいな!まったく勇気の欠片もないな……立ち向かう事も出来ないなんて情けないにも程がある!

あー、悲しいな…こんな惨めでか弱いお坊ちゃ…間違えた、男がいたなんてな!」

紫電丸はいやらしく嘲笑いながらそう言い放った。

その言葉に納得したかのような表情を浮かべた人々。

 

 

その時、鵞仙の中で何かが切れる音がした。

 

自分よりも程度の低く、弱い者からの侮辱と貶す言葉、力量すら測れないというのにも関わらず決めつけて

嗤う行為…

 

 

自分にプライドを持つ鵞仙だが、何時もならば怒りで顔を歪めながらも引き下がるだろう…

 

しかし、腹が減っているのにも関わらず町の高台より少し上に位置する家から下り、辺りの店を回りに回ったが近い店はある町の支援の為に品揃えが悪いという事で仕方なく隣町まで歩いてきたのだ。

その道中も迷いに迷って、やっとの事でここまで来れたのだ。機嫌も悪いこの状況でそのような事を言われた鵞仙は静かに誰かが悟らないようにキレた。

 

 

 

「………そこまで言うのであれば貴様のような愚か者でも相手をしてやろう!!貴様が誰に挑んだのかを思い知らせてくれる…!」

ニタリと笑みを浮かべ、風で棚引く衣と共に手を広げて鵞仙は声を響かせた。

 

「ほう…!

言うじゃねえか!雑魚がな!

皆、下がっていてくれ!

此奴が口先だけのクソッタレな男だと俺が証明してやる!」

 

 

周りにいた人々は後退し、二人の戦う場を作る。

 

 

鵞仙と紫電丸は中心まで足を運び、接触までの距離が数メートルという所で足を止めた。

 

両者共に堂々と胸を張っており、自分の勝利を確信して疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

「さあ、始めようか…

貴様が心体共に粉砕する哀れな決闘をな…!」

 

「ヘッ!そっくりそのままの言葉を返してやる!」

 

 

 

 

 

こうして決闘は二人の合図によって人々の歓声の中で始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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