三話
ああ…
人々の祈りが通ずる事は無い…
死はすぐそばまで来ている…
助かるためには戦う他無い…
拳を握れ…
銃を持て…
剣を構えろ…!
助かる為に命を刈り取れ…!!
死を遠ざける為に死で対抗しろ!
─────???の言葉
「B級ヒーロー、
マテリアルマンただ今参上!
悪は滅ぼす!」
皮の鎧を身に纏い、身軽さを追求し仮面を付けたヒーローがある怪人と対峙していた。
辺りには怪人の死体と肉片、同じくヒーロー達の肉片と死体が散乱していた。
自分達の他にも数人のB級ヒーローや1人のA級ヒーローが向かったと聞いたが…それらしき死体も辺りには転がっていた。
血の生臭い臭いと炎が燃え上がる音が辺りに鳴る。
町は完全に地獄と化した。
「ふーん、マテリアルマンねぇ…
雑魚そう」
一見、人間の様に見えるがその額には大きな角が生え、鍛え上げられた筋肉はがっしりとしながらも細身だ。
「この
災害レベル 『虎』
多大なる人々の危機が迫る程に強い怪人…しかし、この1人の怪人は明らかに『虎』のレベルを超えていた。
B級ヒーローでは歯が立たない怪人
だが、このヒーローには負けない自信があった。
勝てる事は無くとも時間を稼ぐ事が出来る自信があった。
それは隣にいる2人組のヒーローの存在である。
「し、し、師匠…
お、おれ、やり、ました、よ…
敵を、『虎』レベルの、ーー戦え、ました…よ」
片脚と片腕を無くし、息がたえたえになりながらもスチールフィンガーに微笑むアイアンフィンガー。
体から流れ出る赤く紅く朱い液体は今も流れ、その身体を冷えさせた。
残った傷だらけの腕を上げ、自分の師の手を掴み、語る。
「俺にも、出来ました…
頑張れ、ば、でき…る、のは、
本当、で…した」
「もういい、もう話すな!
辛いだろう!話すことも、目を開けることさえも!」
スチールフィンガーは自分の弟子がだんだんと冷えていく感触と、生気を失っていくその姿と、震えながらも話すその健気さに感動し、眼からは涙が溢れてきた。
自然に流れたその涙は顔をつたってアイアンフィンガーの頬に落ちる。
「な、泣いて、るん…ですか?
やめ、て、下さい…どうせ、なら、
笑顔で、見送って……ください」
もう目も見えない、感触すら感じられないはずなのにその師のオーラから感じ取った。
「ああ…!
後は任せろ!人々の平和を脅かす者は俺が倒す!」
弟子が命を削ってまで願った祈りを叶えるとスチールフィンガーは誓った。クソッタレの神に…
笑ってアイアンフィンガーの手を握った。
「………あり、が…とう………
ござ……いま………」
静かに微笑んでアイアンフィンガーは息絶えた。
最後まで命を輝かせて…
その笑みは今まで見たことのない程に美しく、儚く、綺麗な物だった…
「………………生存者はゼロか?」
「…ああ」
スチールフィンガーとポンチドリラーの間に起こった会話…
それは絶望を意味する言葉。
最終的にその数は数十人にも上る数が集まったというのに全滅した。
その己の志を貫き、鮮やかに散っていったヒーロー達の冥福を祈り、そしてその誇るべき英雄達がやり遂げようとした人々を守る事をこの肉体が血肉の一片になるまでやってやる事を誓った。
「……貴様ら人間も、友情とやらがあったのかよ…泣かせるねぇ
ま、俺には友情なんてものは存在しないけどね!」
不気味に嗤い、キチガイは構えた。
「さあ、来いよ?
俺たちの間に言葉はいらない、そうだろう?」
その言葉に反応し真っ先に動いたのはスチールフィンガーだった。
鋼鉄の鎧を揺らし、間合いを一気に詰める。自らの身体が煮えたぎる様に熱く、技を発動していないのに熱を帯びていた。
それを肌で感じ、キチガイの腹部を殴りつける。
しかし、腹筋だけでキチガイはその拳を受け止めた。
が、その強い衝撃と今迄に感じたことのない痛みと、拳に宿る熱に驚き、歓喜した。
身体を突き抜けた衝撃波は辺りのビルを破壊する程の威力を兼ね揃えていた。
キチガイの口から血が垂れ、内臓にはダメージがあるにも関わらず、
「ほう……人の身でそれ程までの力を持つとはな…
やるじゃねえか!」
と、軽口を叩いて余裕まで見せた。
まだ力が足りない事に苛立ちを感じ、キチガイの懐から距離を置き、
構えるスチールフィンガー。
が、その瞬間に腹に一発蹴りを入れられ、腹部の鎧は崩れ落ちた。
更に口からは血が噴き出し、腹の内部に違和感を感じた。
それでも…
足りないならば…
更に上の物を出す他ない…!
スチールフィンガーはその痛みを堪えた。そして再度構える。
また同じく構えるキチガイ。
「へッ!必殺対決といこうじゃないか!」
両者ともに拳を強く握り締めた。
その様子を眺める二人のヒーロー。
スチールフィンガーの気持ちを理解していた二人は身構えつつもその戦いに手を出さなかった。
手を出すことがあの熱きヒーローと、死んでいった弟子を侮辱する事になるから…
命よりも使命を優先するあの男自身から頼まれない限り、倒れない限り怪人倒しに手助けはしないと決めていた。
「赤く…!紅く燃え上がれ!!
「灯せ、青白き猛火よ!!
「誓った想いを乗せて敵を砕けッ!
「全てを焦がす猛火よ、敵を燃やせ
『スチールフィンガァァァ!!/バーニングフレアッ!』
放たれた拳と拳がぶつかり合う。
その腕に纏われた猛火は両者の肉体を焦がし、焼き、燃やした。
神経は悲鳴を上げ、スチールフィンガーの鎧は完全に潰れて消えた。
キチガイの纏っていた衣類は燃え焦げて消え、その肉体を直接焼き焦がす。その猛火は辺りの建物さえ焦がし、消し飛ばした。
しかし、両者共に引かなかった。
退く事は無かった。
力を緩めることは無かった。
が、優ったのはキチガイ…
僅かに力が上だったのが功をなし、スチールフィンガーを吹き飛ばした。だが、キチガイも倒れ、身体を震えさせるだけだった。
二人の横で眺めていたヒーローはスチールフィンガーを抱き抱え、その傷は酷くともまだ助かることを確信した。
「ふ…ふふふ、ハハハハハハハッ!
最期を飾るのには最高の殺し合いだった!スチールフィンガーとやら、貴様は更に強くなれる…!
せいぜい頑張ることだな!
預言者が死に、危機が訪れ、それを乗り越えた時にあの方が蘇る…
ああ……見たかったなぁ」
そう呟くとキチガイは息絶えた。
死んだ事を確認したパンチドリラーは手でマテリアルマンに合図し、
本部へと向かった。
その手にはあるヒーローが撮った映像を手にして…
その後、キチガイはその圧倒的な力から災害レベルを『虎』から『鬼』と判定され、それを倒したスチールフィンガーはA級ヒーローに認定された。その映像を見た者は語る。
──あれ程の災害は今まで見たことはない、と
まだヒーロー協会が始まって一年と数ヶ月、その浅い年月の間に大きな事件が起こった事はこの先に伝えられていくだろう…
その映像はA級ヒーロー達には語られ、スチールフィンガーを一目置かれる存在とさせた。
怪人の強さはこれでいいのだろうか?と少し気になりますがもう少し直したほうがいいということがありましたら是非教えて欲しいです。お願いします!