異形の英雄──歪んだ瞳に映る物──   作:バルシューグ

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鋼鉄の英雄
第二話 鉄の英雄


二話

 

 

「沙耶ちゃん、今日もお疲れ様!

いつも真剣に頑張ってるねー!」

B級ヒーローのマテリアルマンという男が、沙耶という名のC級ヒーローの女の子に向かってそう言った。

 

「ありがとうございます!

いつもすみません…お兄ちゃんの代わりに私の訓練をしてくれて…」

汗だくになり、肩で息をしながらも笑顔でマテリアルマンにお礼の言葉を告げた。

 

「いやいや、気にしなくていいよ!

何たって君のお兄さんは私の命の恩人だからね!こんな事なら幾らでもするよ!」

マテリアルマンは笑いながらそう呟いた。その表情の裏には感謝の気持ちが見え隠れしていた。

 

「それに彼…スチールフィンガー君はB級ヒーローの中でもトップクラスじゃないか!そこには多大なる努力の結晶がある!」

友の力を誇らしげに語るマテリアルマン。

 

「そうなんですけど…

最近は帰るのも遅くて心配で…

いつも頑張ってるのは知ってるから中々言えなくて…」

しかし、沙耶の表情は暗く、俯きながらそう言った。マテリアルマンが誇らしげに語る姿を嬉しく思いながらも脳裏に映る兄の疲れきった姿が心配で仕方がなかった。

 

「ふむ、なら私から言っておこう。

何、私もB級ヒーローだしね!大丈夫だよ!」

その思いがマテリアルマンにはうっすらと伝わった。その兄想いの妹の姿に感心をしながら頷いた。

 

 

「本当ですか!?

ありがとうございます!一言でいいんです!お願いします!」

 

 

「ああ…では、家まで送るよ」

 

 

二人の男女は訓練所から出口に向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイアンフィンガァァァァ!!」

怒号の叫び声と共に轟音が鳴り響く。鉄の西洋鎧を身に纏う男が放つ拳、アイアンフィンガーを受け止める同じく西洋鎧を身に纏う一人の男…

 

姿の違いは鎧の頭部でしか見分けが付きにくく、他に見分けるとするならば鎧の色も若干であるが少しの違いのみだった。

 

 

「まだまだだな…

見せてやる!!本当のスチールフィンガーを!」

そう叫ぶとスチールフィンガーという名のヒーローは天高く腕を掲げ、腰辺りに腕を構えて力を込め始める。

 

一秒経つごとに熱を帯び、赤く輝き始めた。

 

 

彼…スチールフィンガーの技を受け止めようと弟子のアイアンフィンガーが構える。

 

「行くぞ!!!

鉄を貫き、岩を砕く鋼鉄の拳‼︎

スチィィィルッッッ、フィィンガァァァァ!!!」

掛け声と共に放たれた(くれない)の鋼鉄拳はアイアンフィンガーが構える場所に一直線に貫かれる。

鉄を身に纏うアイアンフィンガーのガントレットを砕き、その身体に直撃する。

鉄と鋼鉄という違いだけのはずなのにも関わらずその威力は明らかに違った。

 

 

「グアアァァァァ!!!」

 

アイアンフィンガーはその身に起こる苦痛に叫び、体は吹き飛ぶ。

 

そのまま地に落ちた弟子の元に駆け寄り、スチールフィンガーは弟子を抱えて立つ。

 

 

「し、師匠。やっぱ強いですね…

まるで歯が立たないや…」

アイアンフィンガーは弱々しく呟き、笑う。まだ敵わない事に悔しさを覚えながらも笑った。

 

「だが、以前よりも強くなっているぞ、アイアンフィンガー!

その拳は俺に小さくともダメージを与えた…確実に強くなっている!

これからも頑張ろう!俺たちで上を目指すぞ!」

スチールフィンガーはその感情を知ってか励ましの言葉を言い、熱く語る。

 

「は、はいッ!!」

 

 

アイアンフィンガーは地に足を付け、立ち上がるとスチールフィンガーと手を組む。

がっしりと掴んだ手は二人の決意を表していた…

その姿は一種の天才を表していた。

 

 

 

 

 

 

「では妹が家で待っているし今日はここまでだ!

さあ、帰るぞ!」

 

「はい!明日また会いましょう!」

 

「おう!」

 

 

暑苦しい男2人組は走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま!妹よ、帰ったぞ!」

 

「おかえり、お兄ちゃん!

今日もお疲れ様!」

 

「ああ、今日も遅くなった…

すまないな…」

 

「無事ならいいよ!

でも、出来るだけ早く帰ってきてね!」

 

「もちろんだ!努力はしよう!」

 

ハイスピードテンポで繰り広げられる会話と行動…

生活でさえ無駄な行動が少ないという徹底した動きに一般人ならば違和感を感じるだろうが、二人の間ではこれが当たり前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場にて一人の怪人が腰をかけていた。

人間に近い姿をしているがその身体から流れ出るオーラは人に出せる物とは掛け離れている。

瞳を閉じ、静かに座り続けているその姿は生きているのかさえわからない程動かなかった。

 

「時は…満ちようとしている。

もう…後少しで我の出番が来る。

我の力が…必要とされる時が…!」

 

鋭くも威厳のあるその声は辺りに響き渡った。木々は葉を揺らし、風が辺りを吹き散らす。

身を潜めていた虫達はその身を蠢かせ、騒ぎ始める。

 

 

 

 

 

その日、天候は晴天から雷雨へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日もパトロールを始めるかな!」

西洋鎧を身に纏い、町の中を歩くアイアンフィンガー。

 

町中ではその姿を知る者が度々サインやら写メを申し出たりするも、アイアンフィンガーは全て受け持ち、

やり遂げた。

 

 

自分が担当する町中はだいたい見終わった頃に突然、遠くから叫び声が響く。アイアンフィンガーは声が響いてきた場所へと駆け出し、向かう。同じくヒーロー達が数人向かうのを横目に確認しながら怪人が現れたであろう場所に辿り着いた。

 

 

 

人々の叫び声と泣き叫ぶ声が辺り一面に響き渡り、まるで地獄絵図の様な破壊と殺戮が怪人によって引き起こされていた。

怪人達は全員で8、1人は奥の方に頭らしき怪人がおり、

其奴の指示で行われている事が確認出来た。近くに居た数人のヒーローは既に怪人に組み付いており、ある者は必死に殴りかかり、ある者は為す術もなく散った。

 

 

頭に立ち向かったC級ヒーローはたった一撃で腕を引き千切られ、頭部を握り潰されて息絶えた。

辺りに血が飛び散り、真紅に彩られる。その様子を満足そうに眺める頭と歯を食いしばりその部下を倒すヒーロー達。

今までヒーローの死に直面する事が無かったアイアンフィンガーはただただ震えて佇んで居た。

自分よりも弱いはずのC級ヒーロー達が果敢に立ち向かい、そして死んだ。その事実が深くアイアンフィンガーの心を抉った。

息が荒くなり、頭の中身が整理されていく…手が小刻みに震え、体を奮い立たせた。

 

アイアンフィンガーが辺りの様子を再び眺める頃には敵の部下は死に、

ヒーローの3分の2が動かぬ肉片と化していた。

 

「び、B級ヒーロー…

あ、アイアンフィンガー参上!」

腹に力を込めて大声で話したはずの言葉は小さく、震えていた。

が、その場にいたヒーロー達が奮い立つのには充分だった。

 

同じ様に名乗り上げるヒーロー…

アイアンフィンガーの様に恐怖で引きつりながらも己の正義を貫こうとする者、屈指の精神で死んででも敵を倒すと覚悟を持つ者、その場には様々なヒーローが立っていた。

 

 

怪人の頭はそんなヒーローを眺めながらニタリと笑みを浮かべ、

「おいおい、楽しくなってきたねぇ

これならあの方を呼ぶことも出来る」

とその口を開き、不気味な声で呟く。

 

 

 

 

「さあ、掛かって来いよ…

ヒーローさん達?君らの覚悟と強さをみせてもらうよ!」

 

怪人が手を広げ、歩を進めた事が合図となり、ヒーロー達が一斉に立ち向かった。

その中にはアイアンフィンガーの姿も確認された。

 

 

 

 

一方、マテリアルマンとスチールフィンガーの二人も向かっていた。

別の町へと居たが故郷の危機と聞き、その場に居たA級ヒーローの

ポンチドリラーと共に3人で向かっていた。

救援を求める報告には最悪の事態が予想された。

『多数のヒーローの死』

この事実は数ヶ月振りの事だった。

 

その死人の中に弟子が居たら…

と僅かに心配がスチールフィンガーの中に産まれたが、昨日の交わした想いがそれを否定した。

心の中でその心配を振り払い、二人よりも数歩先を走った。

 

その様子を眺め、マテリアルマンはスチールフィンガーに駆け寄り、肩を叩いた。

その行動でスチールフィンガーは落ち着きを取り戻し、焦りが消えた。

 

 

その様子を後ろから暖かくポンチドリラーは見守り、

「先を急ぐぞ」

と、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




少し暗い雰囲気を漂わせてしまったか?と思いますがこんな感じでいきます。

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