異形の英雄──歪んだ瞳に映る物──   作:バルシューグ

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第九話 復活

九話

 

 

火の粉が空を舞い、煙と共に消え去っていく。辺りに充満する匂いは炎に焼かれ、焦げた臭い。

生臭い臭いは無く、ただただモノを焦がした臭いがこの街を包んでいた。

 

 

 

人々の死体が散乱するある場所では今まさに封印が解かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ダソード、ルルガ。

お前達にはアレが何に見える…?」

2m強の身長と屈強な肉体を持つヴァンパイアの男が、隣に控えている人間と大差ない体格の男女に問う。

 

 

「鬼…のように見えます。

しかし、鬼にしては…」

 

男は額に汗を滲ませ、驚愕していた。隣に立ち竦む女も口には出さぬだけでその姿からは驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 

()()が知る鬼という存在と、この封印されし鬼という存在は似ても似つかぬモノで有った。

 

 

 

鬼のように凶悪な顔をしている。

が、奴の顔から連想されるモノは龍のようなモノ。

鋭く太く鋭利な牙、天高く登りゆくように強靭な角、赤く紅に輝く鋭い眼光、一つ一つが針のように尖り逆立つ髪……

鬼であり、鬼で無い。

三メートルは優に越す鍛え上げられた肉体。更に肉体を覆うかの如く大きく力強い筋肉。

ソレを物ともしない屈強な極太の骨。

その肉体を彩る肌は血で染めたように赤い。

 

 

 

二人に興味すらなく、視線を向けられていないというのにも関わらず肌に震え伝わる恐怖の波長。

 

ソレからは濃密な妖気が漂っていた。

 

生物の生命を奪い取る死の覇気を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「汝が我の封印を解きし者か?」

脳裏に響き渡る程に鋭く低く威厳のある声が辺りに拡がる。

 

 

「ああ、我輩が解いた」

ヴァンパイアの男、レグレイ大佐

が答える。

 

「ほう…

我を前にして震えと恐怖を見せぬとは…唯の小童ではないようだな。

 

何故(なにゆえ)、ヌシは我の封印を解いた?」

鬼は吸血鬼に問う。

器を測り、見定めるようにして…

 

 

 

 

「人間を滅ぼす為にだ…!」

満面の笑みを浮かべてレグレイは言った。その笑みは少年が見せる笑いと近いモノであった。

 

 

「…では、何故に人間を滅ぼす?」

鬼は目を細め、再びレグレイに問う。

すると笑は嗤となり、語り始めた。

 

 

 

「我輩は何故、怪人が支配者として君臨していないのかが疑問だ。

力でも、知識でも、圧倒的に我々怪人が上だと言うのにな」

レグレイは鬼にだけでなく、近くで控える部下にも告げるように堂々と宣言する。

 

「これまでも多くの怪人が人間と戦ったが、被害を出そうとも数日という内に人間に殺されていった。

不思議に感じた。人間に有って我々に無いもの、ソレを探してきた。

その結果がシャープインサニティだったのだ。初代総帥はこう言った。

奴等が団結するように我々も団結し、戦おうと……

誰もが上手くいくと思っていた。

肌で、体で、心で信じて疑わなかった。だが…!

人間はそれ以上に団結し、決死の覚悟で挑んできた!!

惨敗…とまでは言わないが、組織の壊滅は間逃れなかった…

僅かの幹部を残して同胞達は亡骸と化した。

我輩は気付いた。

生命を捨てて戦う者の強さを…!

だからこそ、我々、真・シャープインサニティの怪人達は人間を命懸けで殺すモノのみだ!!

これで奴等に劣るモノは消えた…!

後は貴様が我がシャープインサニティに入れば絶対に成功する!

だから封印を解いた…!」

レグレイから語られた言葉を聞き、鬼は口元を歪ませるように笑うと

呟いた。

 

「ならば……志半ばで息絶えようとヌシの人間殲滅という野望が叶えば構わないのだな?」

不気味に微笑み、レグレイを見下ろして鬼は問う。

 

レグレイは頷き、その眼で鬼を貫くように見返す。

 

 

 

 

 

ただ、感じる違和感に首を傾げて…

 

 

 

 

 

 

鬼はその様子を満足気に眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲高い金属音が辺りにこだまする。

数度に渡り、響く音は暫くすると炎で掻き消された。

 

 

 

 

「おいおい、嬢ちゃん…お前の力はこんなもんか!」

アトミック侍の怒号がスレンを斬撃と共に襲う。

それをただ受け止める事しか出来ず、唇を噛み締める。

 

 

 

 

 

(この私が…押されている!

今は互角だけど、このままでは…)

 

 

 

スレンの脳裏に浮かんだのは自分の首がこの男の手により、落ちる瞬間である。

 

 

 

 

 

 

──ならない!

それだけはあってはならない…!

 

 

 

 

 

もし、仮にも殺されるならば鵞仙、と心から決めていたスレンは浮かんだ情景を振り払い、抗い、足掻く。

 

(…まだ、部隊が近くにいるのならば助けを求めるしかない。流石にこのレベルのヒーローは早々いないでしょ)

彼女に残っていたプライドを捨て、

腰から特殊な音を鳴らして援護要請を辺りに放った。

 

 

「無駄だぜ、嬢ちゃん」

鍔迫り合いの中、滲む汗を垂らしながらもアトミック侍は言い放つ。

 

「フンッ…何が無駄だと言うのだい?」

ソレに眉を顰めて問うスレン。

 

 

「当たり前だ、今頃俺の仲間が潰しているだろうからな」

ニマリと笑みを浮かべてアトミック侍は呟く。

 

 

「ッ………!」

男から告げられた言葉に歯軋りし、剣に力を込める。

 

一瞬の隙も許されない緊迫感の中、

それなのにも関わらず、自分と対峙するアトミック侍の勝利を信じて疑わない表情に苛立ち、体の奥底に殺意を膨れ上げるのであった。

 

 

 

更に、辺りから響く援護要請の音にアトミック侍の言った事が事実だと理解し、ソレが彼女の苛立ちを上昇させていくのだった。

 

 

「ブッッ殺す…!

お前は僕の手で殺してやる!!」

 

 

「ヘッ!やってみろよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?

何だこのバリアみたいなの?

…まあ、いいや。

害は無いみたいだし。それより腹減ったから飯食いにいこ」

中で起きている激戦の差中、バリアの前ではそんな呟きがあった…

 


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