一話
ヒーローとは?
貴方にとって『ヒーロー』という存在は何ですか?
人を超える力・知識・技術を持つ者
悪を倒す正義の者
人を救う者
と、考えるのが普通なのかもしれません。いや、もしかしたら別の考えを貴方は持っているのかもしれない。ですが、それだけが
───否
私は思います。
英雄という者はその身に大きく強靭な野望、欲望を持ち、それを行動に起こした者の事を言うと私は考えます。
たとえ殺戮を繰り返す悪だとしても、何か計り知れない別の大きな物の為にした行動であれば…
ある別の視点からは英雄となる。
悪と正義は紙一重なのです。
と、ある者は話した。
が、ある者はその意見に反対した。
正義は正義、悪と悪、それはちがう!と…
俺は思う。
正義だの悪だのどうでもいいと。
他人がどう思おうが、どう考えようが、大きな被害を受けようが俺に影響がない限り関係ない。
所詮、他人は他人でしかないのだから。
俺は思うがままに生きる。
手に持つ力を自分の為だけに使う。
と、中二病的な事を考えながら俺はある町のある場所にて座っていた。
静かで長閑な高台に俺は腰を下ろしていた。
ここはいい。
何か有ればすぐにわかるし、ゆったりと過ごせる。
俺は平和主義では無いが静かな場所は好きだ。
矛盾しているかもしれないがそんな事さえどうでもいい…
俺は俺、どう考えようが俺なのだから。それを否定するのは誰であろうと無理なのだから。
男がそんな風に思考していたその時、突然町に大きな火災が起きた。瞬く間に被害は大きくなり、町全体を覆い始めた。
「……」
男は静かにその重い腰を上げる。
そしてあり得ない速さでその被害の中心へと向かい始めた。
男はヒーローである。
この世にはヒーローを名乗る事が出来る。
ヒーロー協会という所にてヒーロー名簿に登録出来れば誰であろうと
ヒーローには実力ランキングや人気ランキングなども存在し、世間では常にヒーロー達の話題で盛り上がっているわけだ。そのため、ファンクラブを持つヒーローも少なくない。
ヒーローは戦闘能力や社会貢献度からS・A・B・C級にランク付けされている。
この男はその並ならぬ戦闘能力と怪人の撃退数からA級に位置していた。
他のA級ヒーローに比べると多くの者が知ることは無いが、知る人ぞ知る英雄として知られるこの男の名はーーー
───
飛べず、飼い慣らされた鵞じゃなく、常識にとらわれない仙のように非凡な物を持ち、自分を貫いて欲しいと付けられた名である。
男はその名で苦労し、またその意味を知って頑張る事が出来た。
更に鵞仙にはヒーローネームがあった。ある程度の力を持つとヒーローネームを名付けられる。
そのヒーローネームは『漆黒の殺戮者』といった……
人によっては(笑)を付けることもある。
「潰れろぉォォォォ!!!俺の力の前になァ!!」
町を破壊する異形の存在がそう叫ぶ。その怪人の災害レベル…いわゆる脅威度は『虎』
神・竜・鬼・虎・狼の順にランク分けされ、その怪人の災害レベルはまだ弱いレベルの『虎』だ。
が、『虎』であろうと多くの人命の危機が予想されるレベルであり、C級のヒーローでは倒すのは難しいだろう。
既に立ち向かったであろうC級ヒーロー数人が辺りに倒れている様子から伺える。
「何だァ?てめえは?またこのクズどもみたいにやられに来たのかぁ?このダイルアンガー様にな!!」
ダイルアンガーと名乗る異形の怪人は立ちはだかる鵞仙に威張り、そう言った。
「あ、あれは…鵞仙さんだ!漆黒の殺戮者が来てくれたぞ!」
まだ残っていた住民がそう叫ぶ。
首を傾げる者も居たが、残っていた住民の八割が歓喜をあげていた。
鵞仙はA級ヒーローの中で順位は14位、かなりの高さである。
しかし、知名度は低く、救われた者たちが多大なる支持を起こしているようだ。
「……消え去れ、愚物よ」
「あぁ!?」
鵞仙の言い放った一言にダイルアンガーは苛立ち、構える。
「調子こいてると死ぬぞォォ!!
おにいさんよォォ!」
ダイルアンガーはそう叫び、殴りかかる。鋭く、直線に放たれたその拳は鵞仙の身体を貫こうと迫る。
その一撃を見据えて紙一重で躱す鵞仙。
そのまま拳は地面に突き刺さり、辺り一面を崩壊させる。
その威力はヒーローでも当たればタダでは済まない程で有る、が、
「愚物よ…
その程度で威張り散らすか?
その程度の力で過信するのか?」
鵞仙は信じられないといった様な顔で呟く。鵞仙にとってはその程度レベルだった。
「強者で有るならそれ相当の風格と気品を持て…
貴様のその汚らしい物など塵でしかないぞ?こう言う私も大層な気品など持ち合わせていないがな」
当然のように言い、余裕の表情を見せる鵞仙。
「ッッッ貴様ァ!!!もういい!
シネエェェェ!!」
怒り狂ったダイルアンガーは鵞仙に襲い掛かるが、
「…この程度、か。
所詮は愚物。期待する事自体が馬鹿だったのだ」
と、溜息をつくと飛び掛かるダイルアンガーの胴体を殴り潰す。
その衝撃はダイルアンガーの内蔵と骨格を粉々に潰し、その巨体を垂直に吹き飛ばした。
更にダイルアンガーとの間合いを瞬時に詰め、頭部を叩き、完全に破壊する鵞仙。
決着はものの数秒でついた。
ダイルアンガーを圧倒的な力で鵞仙が叩き潰す結果で…
「………」
鵞仙はその死体を汚物を見るかの様に数秒眺めると、高台の方へと歩いていった。
「おおォォォーーー!!!
さすが鵞仙さんだ!もう終わったぞ!!!」
住民たちの歓喜の声の中をスルリと抜けながら歩く鵞仙…
その様子を眺めながら住民たちは喜んでいた。
待ち望んだ英雄が自らが住む町に居ることを…
そして、黒き英雄を讃えながら…