二年前――。
季節は春。
東京エリアには暖かい春風がそよぎ、満開の桜が生き生きと咲き誇る。
そんなエリアの一角にある『黒崎民間警備会社』の前には一人の少女が緊張した面持ちで立っている。
彼女、春咲杏夏は適度に伸ばした黒髪を後ろで纏め、顔には必要最低限の化粧を施し、キッチリとしたリクルートスーツに身を包んでいた。
「ここ、だよね」
スマホに表示されている地図の上にある文字と、自身の目の前にある会社名を確認し、間違っていないことに「うん」と頷いた杏夏は、スマホの電源を落としてビジネスバッグにしまいこむ。
大きく深呼吸をして緊張で早くなった鼓動を抑えてから杏夏は一歩を踏み出し、事務所があるという二階に上がった。
事務所のドアには曇りガラスがはめ込まており、そこには外と同じように『黒崎民間警備会社』と刻まれたプレートが貼り付けてある。上に上って行く階段の壁には『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた紙が張ってあった。
だが今はそんな方に目を向けている場合ではない、と杏夏は事務所のドアに向き直る。事務所内では「カタカタ」というタイピングをする音が聞こえるので、従業員がいることはわかった。そして杏夏はもう一度深呼吸をすると、意を決してドアを三度ノックした。
『どうぞ』
帰ってきたのは男性の声だった。声の高さからして十代後半と言ったところだろうか。
「し、失礼します」
若干どもりながらも杏夏はドアノブに手をかけてドアを開く。事務所に入ると優しい香りの芳香剤が鼻腔をくすぐり、それに混じってコーヒーのいい香りがする。
一瞬それに頬が緩みそうになったが、杏夏はすぐにを表情を引き締めてドアを閉めてから声の主を探す。だけれど、あまり室内を見回すことなく声の主を発見することが出来た。
杏夏の視線の先には白髪を綺麗に切りそろえ、精悍な顔立ちの少年がいた。パッと見少しだけひ弱そうな少年ではあるが、その瞳は全てを見透かすように透き通っており、雰囲気もとても凛々しい雰囲気だ。体つきも筋肉がしっかりしていることがわかる。
「ご用件はなんでしょうか?」
つい見惚れている間にこちらが声をかけるよりも早く声をかけられてしまった。
「あ、えっと、本日こちらで面接をさせていただくことになっている春咲杏夏です。黒崎社長は……」
「あぁ、貴女がそうでしたか。申し訳ありません、現在社長はIISOに行っていましてまだ帰ってきていないんです。ですが、そろそろ帰ってくる頃だと思うのでそちらに掛けてお待ちください」
にこやかに言って来る彼に対し、杏夏は短く答えた後ソファに腰を下ろした。すると、彼は給湯室と思われる場所に消えた。数分後、彼はトレイを持って戻ってきた。
彼はトレイにのっていたコーヒーカップと、お茶請けのためのクッキーをガラステーブルの上に置いた。
同時に杏夏は彼に対して頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。ブラックが苦手でしたら、こちらのミルクと砂糖はご自由にどうぞ」
小さく会釈をしたのち彼は自分の席につこうとしたが、何かを思い出したのか振り返ってきた。
「自己紹介がまだでしたね。僕は断風凛と言います。変わっているでしょう、男で凛なんて名前」
「いえ、普通の名前だと思いますけど……あの断風さん、敬語は使わなくてもいいですよ? 私の方が多分年下ですし」
杏夏が言うと凛は一瞬キョトンとした後、頷いてから告げてきた。
「わかった、それじゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
杏夏は凛に対して軽く頭を下げる。一方、凛はデスクに戻らずに杏夏の斜め前の席に腰を下ろすと問いを投げかけてきた。
「春咲さん。君はどうして民警になろうと思ったんだい? これは面接の合否には関係ないから答えたくなかったら答えなくても良いからね」
その問いに対し、杏夏は少しだけ考え込んだ後口を開く。
「私が民警になりたい理由は人助けをしたいからなんです。私の家族がやっていた仕事は銃器の開発や銃弾を製作することだったんです。私もそれを継ぐために色々教えられていたんです……でも思っちゃったんです」
自嘲気味な笑みを浮かべたあと言い切った。
「私の家の仕事は人助け程遠いんだなって。銃弾は人間を殺してしまう銃に必要なものです。でも、そう思った時には私の頭の中には銃器の知識が入っていました。だからこの知識を人助けのために使いたいと思って民警になろうと決意したんです。まぁ両親は病で死んでますし、親族もいませんから誰も止める人はいなかったんですけどね」
恥ずかしげに小さな笑みを浮かべながら言う杏夏だが、話を黙って聞いていた凛は深く頷いた。
「なるほど、立派な理由だね。じゃあ武器も銃かな?」
「そうですね。主にこのグロックを使います。既にライセンスも取得できています」
そういうと杏夏は内ポケットからライセンスを取り出して凛にそれを見せる。
「まだまだ駆け出しなので、序列はすごく低いですけどね」
「皆そんなものだよ。僕も最初はそうだったし」
「じゃあやっぱり断風さんも民警なんですね。只者ではない感じはしましたけど」
「うん。これでも一応はね。っと、社長が帰ってきたね」
外から聞こえてくる重低音のエンジン音とシャッターが開く音に凛が言いながら立ち上がり、面接の準備を始めた。杏夏もそれを見て、緩んでいた気を引き締める。
しばらくすると階段を上がるコツコツという音が聞こえたので、杏夏は立ち上がってから事務所のドアを見る。そして大きく深呼吸したあと、事務所のドアが開けられる。
「ただいまーっと。凛くんお客さんは……来てるみたいね」
事務所のドアを開けて入ってきたのは無骨なデザインの眼帯をつけた黒髪の女性、黒崎零子だった。なぜ彼女が零子であったのかとわかったかというと、先日電話で話した声と同じであったからだ。
「は、春咲杏夏です! 先に上がらせてもらっていました。すみません」
「別に謝るようなことじゃないわ。私が変なタイミングでIISOに行っていたのが悪いんだし。さて、それじゃあさっさと面接始めましょうか。座ってて良いわよ春咲さん」
零子は言うと窓際の一番大きなデスクの引き出しからA4の紙とクリップボード、ボールペンを取り出して杏夏の真正面の席に着いた。凛もすでに彼女の隣に腰を掛けており、彼もクリップボードを手にしていた。
それを見た杏夏はすぐさまソファに腰を下ろして二人に向き直る。
「それじゃあ面接を始めるわね」
その言葉を皮切りに杏夏の面接が幕を開けた。
「ふむ……とりあえずこんなところかしらね。お疲れ様」
軽くペン回しをしながら零子が告げ、長かった面接が終わった。いや、実際は三十分か四十分程度だったのでそこまで長時間というものではなかったのだが、緊張していたためか長く感じてしまったようだ。
「ありがとうございました」
「ええ。結果はそれなりに早く入れるから楽しみにしておいてね」
不適な笑みを浮かべながら言う彼女に対し、今日は苦笑する。
というか面接の結果とは楽しみにするものなのだろうか。むしろ心臓に悪そうなものだが。
そんな雑念を振り払い、杏夏はソファから立ち上がり再度頭を下げて「ありがとうございました」と告げた後、そのまま踵を返して事務所から出る。
「失礼しました」
最後にそれだけ告げ、杏夏は黒崎民間警備会社の事務所を後にする。
事務所から出た後、そのまま振り向くことなく歩いた彼女だがしばらく行ったところで大きなため息が出た。
「はぁ……緊張感すごかったぁ……。優しい人たちなのはわかるんだけど、社長さんの目つき鋭すぎだよ」
胸に手を当てて溜息をつく彼女の顔には明らかな緊張が見て取れた。
まぁそれも無理はない。何せ零子の視線は凛とは違い全てを射殺すような鷹のような光りを宿していたのだ。もし本気で睨まれたら大の大人でも萎縮してしまうのではないだろうか。
「でも、自分の言いたいことは言えたし悔いはないかな」
しかし杏夏もすぐに心を切り替えて満足げな顔をしながら帰路についた。
杏夏が帰った黒崎民間警備会社の事務所では、凛と零子が先ほどの面接の資料を纏めていた。
すると零子がタバコに火をつけながら呟く。
「いい子だったな」
「そうですね。受け答えもハッキリしていましたし、何より言葉に迷いがなかったです。それに摩那達のような子にも嫌悪感も抱いていないようでしたし」
「そうだな。だがそんなヤツならば履歴書の段階で蹴っているけどな。まぁそんなことをしなくても、大概の奴等は目を見ればどんなヤツか理解できる」
紫煙を燻らせ杏夏の履歴書をつまんだ零子は肩を竦めながら言う。すると、彼女にコーヒーを出した凛が問うた。
「ということは採用の方向で?」
「ああ。今まで見てきた志望者の中では一番の人材だろう。それに弾丸を制作できるというのはいい」
にやりと笑った零子は引き出しからハンコを取り出し、朱肉に押し付けた後、杏夏の履歴書にポンと押す。
そしてハンコをどけたところには「採用」の文字が入っていた。
ちょうどその頃、横断歩道を渡っていた杏夏は人助けの真っ最中であった。
彼女の片手には大きな風呂敷が持たれており、隣には腰の曲がったおばあさんが申し訳なさそうにしていた。
「お嬢ちゃんわるいねぇ、荷物持ってもらって」
「いえいえ。困った時はお互い様ってヤツですよおばあちゃん」
笑顔を向けて言うと、おばあさんも安心したように柔和な笑みを浮かべていた。そして横断歩道を渡りきったところで杏夏はおばあさんに風呂敷を返す。
「本当に渡るだけで大丈夫?」
「大丈夫だよ、あとは真っ直ぐだからね。いやいや本当に助かったよ、ありがとうね」
「気にしないで。それじゃあ気をつけてね」
「あ、待っとくれ」
踵を返そうとしたところで呼び止められた。それに振り向くとおばあさんは風呂敷の中をまさぐって菓子パンを渡してきた。
「お礼だよ。就職活動中なんだろう? あんまり足しにならないかもしれないけどそれ食べてがんばってね」
そういい残すとおばあさんの方が先に行ってしまった。杏夏はもらった菓子パンに目を落とした後、満足げな笑みを浮かべて歩き始めた。
家に帰る間、アパートの冷蔵庫事情を思い出しつつ今晩の夕食を何にするか考えていた杏夏だが、ふと耳に怒声が飛び込んできた。
「このバケモンがッ!」
「なに人間様のいるところうろついてんだクソがぁ!!」
声は薄暗い裏路地からだった。見るとガラの悪そうな男達が小さな女の子に殴る蹴るの暴行を加えていた。少女は逃げ出す気力も体力もないのか、それとも既に絶命してしまったのかピクリとも動かない。
その光景に杏夏は下唇を強く噛む。彼等が暴行しているのは、ガストレアウイルスを体内に宿す少女たち、『呪われた子供たち』だ。
大戦後に生まれた彼女達はガストレアウイルスを保菌しており、酷く迫害されている。中には彼女達をエリア内から一掃しろという過激なことをほざく連中もいるという。
それに対し、杏夏は本当に馬鹿馬鹿しいと思った。なぜならば彼女達の中には民警として働いている子供たちもいる。彼女らは成人男性を軽く凌駕する膂力を持っているため「イニシエーター」と呼ばれ、「プロモーター」と呼ばれる監督役の下で日々危険な任務に身を投じている。
なのにそんな子供たちを一掃してしまって誰がエリアと守るというのだろう。プロモーターや自衛隊、警察だけではガストレアを倒しきるのはハッキリ言って無理だ。だからこそガストレア因子を持つ彼女達の力が必要なのだ。
「……本当に人間って勝手で残酷だよね……」
小さく言いつつ杏夏は裏路地に足を踏み入れる。すると、男達がこちらを睨んできた。
「あんだテメェ? なにこっち睨んでくれちゃってんだよ」
「オレ等と遊んで欲しいんじゃネ? かなり美人だし楽しめそうだぜ」
「あぁそういうことか。ちょっと待ってろよ、このバケモンを掃除したらすぐに相手してやる」
下卑た笑みと生理的に受け付けない舌なめずりをした男達に杏夏は大きなため息をつく。そして彼等に呆れ口調で告げる。
「あんた等みたいな社会のド底辺の連中と誰が遊んであげるって言うのよ。群れることと暴力しかのうのないバカがえらそうなことほざいてんじゃないわよ」
すると男達はそれがムカついたのか、近場にあった鉄パイプを握り締めてこちらに向けてきた。
「行ってくれんじゃねぇかおねえちゃんよ。前言撤回だ、おいテメェら。この女にわからせてやろうぜ、オレらを舐めるとどういうことになるかってことをよ」
「あら意外。前言撤回なんて言葉知ってたんだ。本能のまま生きるサルみたいな連中かと思ったけどそれなりに知識はあるのね」
小馬鹿にしたような笑みをを向けて言うと、ついに男はキレてしまったのか鉄パイプを高く振り上げながら声を張り上げる。
「上等だクソ女! 気絶した後に散々まわしてやるよぉ!!」
怒声を浴びせてくるものの、そんなもの杏夏からすれば大した問題ではない。迫り来る鉄パイプも大振りであるし、筋肉もあまりついていないようで、体の軸もぶれてい。完全に戦闘面は素人だ。
だから杏夏はあえて手加減をしてやった。まず鉄パイプを握る男の手首を骨が軋むほど握り、男が離した瞬間を見計らって手首を解放してやり、男がよろめいたところで、ショーツが見えることも厭わずに強烈な回し蹴りを男の顎先に掠めさせるように打ち抜く。
快音が響き、男がよろめいたのを見てから適当に体を押してやるとあっけなくその場に倒れこむ。先ほどの一撃は脳震盪を狙ったものであり、上手く決まったようだ。まぁ上手く決まっていなくても大ダメージには変わりはないが。
すると男の仲間が焦りながらも怒鳴る。
「て、テメェよくも俺たちのダチを!」
「倍にして返してやるからかかってこいやクルァ!」
最後の方は興奮していたようで日本語かどうか怪しかった。しかし杏夏はそれに聞く耳を持たず、懐からグロックを抜き放って男達の足元に数発を打ち込む。消音機がついているので大通りに音が漏れることはないだろう。
だが、男達を萎縮させるには十分すぎるほどだ。銃という簡単に人を殺せる武器を前に彼等はあまりにも無力である。そして杏夏は最後の一押しを告げた。
「この馬鹿をつれてさっさと消えなさい。もし次にその子達と同じように他の子供たちに危害を加えたら、不能にしてやるわ」
今までの声とは一転ドスの効いた声音に男達の顔面は蒼白になり、杏夏の下で伸びている男を連れてそそくさと逃げていった。
それに対して大きなため息をつくと、杏夏は少女の倒れこんでいた少女に駆け寄ってそっと抱き上げる。少女の傷は既に回復を始めていた。呪われた子供たちは体内のガストレアウイルスによって回復速度も尋常ではないのだ。
だからと言って彼女が受けた心の傷が治るわけではない。杏夏は意識のない少女を抱えたまま立ち上がり、一目散に知り合いが経営している診療所へと向かった。
夕暮れにそまる診療所の待合室の椅子に腰掛けた杏夏はぼーっと天井を眺めていた。するとそんな彼女の頬にヒヤッとしたものが押し当てられる。
「うわひゃ!?」
いきなりのことに椅子から跳ね上がってしまった。改めて確認すると、いつの間にか隣には牛乳瓶の底のようなビン底眼鏡を掛け、無精ひげを伸ばした白衣の姿の青年がいた。
「相変わらず君はいい反応をしてくれるね。仕掛けるこっちも面白いよ」
「もう、なんでいっつも悪戯ばっかりするんですか諸星先生!」
諸星と呼ばれた青年は杏夏に対してケラケラと笑ったあと、缶コーヒーを放って来た。杏夏はそれを受け取った後、今一度諸星を見やる。
来るのはヤのつくおじさんとか、後ろめたい過去をもつ人とかその辺らしい。
「それで先生。あの子は大丈夫でしたか?」
もらった缶コーヒーのプルタブを開けながら問うと、一成はボサボサの髪をガリガリとい掻いた。その際ちょっとだけフケのようなものが飛んでいたが気にしないようにしよう。
「まぁ彼女達の生命力と回復力はすごいからねぇ。幸い頭の大事なところや心臓とかへのダメージは少ないみたいだから、生活に支障は出ないと思うよ。ただ、今晩はここで安静にしてもらうことになると思うけどね」
「そうですか、よかった……」
ほっと胸を撫で下ろすと、急に喉の渇きが襲ってきたためもらった缶コーヒーを一気に飲み干した。すると、一成は真剣な声音で告げてくる。
「それにしても、君はお人よしにも程がある。確かに可哀想だとは思うけど、一歩間違えれば君が危ない目にあっていたかもしれないんだよ?」
「それはわかってるけど、目の前であんなふうになっている子を放ってなんかおけないよ」
「まぁそれもわかるけどね。とりあえずその話は置いといてだ……今日は面接だったみたいだけどうまくいったかい?」
問いに対し、杏夏はすぐさま頷いた。
「それは大丈夫。自分の言いたいことは言えたし、受け答えもハッキリできた。ただ、ちょっと社長さんが怖そうだったけど……」
「面接なんて怖そうに見えてしまうものだからね。けど上手くいったならよかったよ。受かっていればいいね」
「うん、ありがとう先生。それじゃあそろそろ帰るね。あの子のことよろしく。そうだ、あともうちょっと身体を綺麗にしといたほうがいいよ」
それだけ告げて杏夏は今度こそ家路についた。
その日の夜。杏夏の元に一本の電話が入った。特に気にせずにその電話に出ると電話の主は零子だった。そして彼女はこちらが出るやいなや告げてきた。
「春咲さん合格だから明日の午前十時に事務所に来てねー」
ブツッという音と共に通話は断たれてしまったが、スマホを持った杏夏はただ一言漏らした。
「結果出るの、早すぎない?」
翌日の午前十時。零子に言われたとおり事務所に顔を出すと「IISOに行くわよー」と言われ、そのままトントン拍子に車に乗り込み、あっという間にIISO東京支部につれてこられた。
近代的な建物のなかに入り、幾つかのセキュリティを越え、二人がやってきたのは真っ白な空間だった。真四角の空間は照明の跳ね返りの光りのせいもあるため眩しいほどだったが、目が開けられないというほどではない。
「少々お待ちください。ただ今貴方のイニシエーターを連れてきます」
係員の言葉に頷き、強化が前を見ていると零子が後ろに下がって壁に背を預けた。
「とりあえず向こうの扉からつれてきてもらえるから待ってなさいな。あと一つ言っておくと私昨日これから会う子に会ったんだけど……」
「だけど?」
「かなりキャラクターに個性があるから。順応するの大変だと思うわ」
彼女はそういうものの若干頬が緩んでいるのはなぜだろう。というかこの人楽しんではいないだろうか。
そんなことを思っていると向かいの扉が重厚な音を立てて開いた。そして係員に連れられてやって来たのは、輝く金髪とちょっとだけ気の強そうなツリ目の少女だ。髪はどういう原理なのかクルクルと捩じれており、所謂縦ロールというやつになっていた。
すると、彼女はその強気な視線をこちらに向けるとニヤリと笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
目の前までやってきた彼女は、今一度杏夏を値踏みするように眺めた後告げてきた。
「どうも初めまして。わたくし、秋空美冬と申しましゅの。これからよろしくお願いいたしますわ、わたくしのプロモーターさん」
途中若干舌足らずな言葉遣いであったが、自己紹介はしっかりしていた。しかもお嬢さま言葉で。同時に彼女は手を差し出してきた。握手を求めているのだろう。
杏夏もそれに頷いた後柔和な笑みを浮かべながら自己紹介をする。
「私は春咲杏夏。よろしくね、えっと美冬ちゃん」
言いながら美冬を握手を交わそうとしたところで、美冬の瞳がギラリと光り、悪戯っぽい表情が覗いた。
しかし、それに気づいた時には既に時遅く、彼女は浮遊感と共に宙に投げ出されていた。そして数秒の間、宙を待った後杏夏は背中から床に落ちた。
何とか受身を取ったから痛みはそこまでではなかったものの、それよりもなぜ投げられたのかがわからなかった。
するとそんな彼女に答えるように美冬の声が聞こえた。
「そんなのでわたくしのプロモーターが務まるんですの? 不安になってきましたわ」
溜息をつく声と共に聞こえた美冬の言葉でやっと理解が出来た。どうやら彼女はこちらの技量を試したかったらしい。だが、技量を試すならばもう少しマシな方法があったのではないかと、杏夏の中で若干の苛立ちが湧き上がってきた。
そして彼女はゆっくりと立ち上がった後美冬に向かって、眉間の辺りをヒクヒクとさせながら告げる。
「上等だよ美冬ちゃ……いや、美冬。そんなに腕を試したいなら、こっちだって本気でやってあげる!」
「フフン、たかが人間ごときがわたくしに勝てると思って?」
「やってみなきゃわかんないでしょ!!」
こうして腕試し、という名のただの喧嘩が始まった。IISOの職員はオロオロとしていたが、零子は壁際でタバコを吸いながら楽しげに笑みをうかべていた。
今回は美冬との出会いまでですかね。
凛はまだ髪が白かった時代です。摩那は多分アレでしょう、凛のウチで勉強中です。
美冬は本編ではおしとやかな感じですが、当初はこんな感じのおてんばちゃんです。途中チンピラ相手に杏夏が戦いましたが、彼女はそれなりに肉弾戦も出来ます。恐らく義眼や義肢をい解放していない蓮太郎よりも若干劣るくらいと考えていただければおkです。
あとはアレですね、途中に出てきた諸星さんは本編では一度も出てきませんが、死んではいません。そのうち出てくると思われます。
というかIISO東京支部とかあるのだろうか……その辺はお任せします。
次回は美冬と組んでの初任務ですね。
まだまだ凛との恋話にはたどり着きません。
零子さんは平常運転です。
そして大問題発生。
まだまだ完結していないものがあるのにここに来てSAOの二次が書きたくなってしまっていると言う病に陥っています……
あぁ、なんやかんやあれ書きやすそうなんですよね……
ではでは感想などありましたらよろしくお願いいたします。