ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第七話

「こんばんは……影胤さん」

 

 夕日に照らされる公園内で影胤と対峙する凛は笑みを浮かべたまま告げた。冥光には手を伸ばしておらず、至って楽な姿勢で影胤と小比奈を見据えていた。

 

「ヒヒ、本当に君は面白い反応をする。この状態で自分の得物に手をかけないなんてねぇ……」

 

 シルクハットのつばのところを軽く持ちながら笑う影胤だが、凛はそれでも態勢を変えることはしない。

 

 そういう彼は右手に黒い銃を持っており、いつでも打ち出せる状態になっていた。

 

 ……かなりカスタムされてるけど、形からして元はベレッタかな。触ったら痛そうだなぁ。

 

 影胤の携えている銃はいたるところにスパイクがつけられており、グリップ部分には邪神クトゥルフをかたどったメダリオンが埋め込まれていた。

 

「随分と痛そうな銃ですね」

 

「これかい? フフ、まぁね。こちらの銃はフルオートの射撃拳銃『スパンキング・ソドミー』。そしてこちらの銀色の方が『サイケデリック・ゴスペル』と言ってね。どちらも私の愛銃だよ」

 

 ホルスターに収まっている方の銀色の銃を見せた影胤は誇らしげに解説を始めた。しかし、彼の隣でずっと黙っていた小比奈がふと凛の隣にいる摩那を指差した。

 

「パパ。アイツずっとこっち睨んでくる、殺していい?」

 

 小比奈に言われ、凛は手を握っていた摩那を見る。

 

 そこにはいつもの快活な笑みを浮かべた彼女ではなく、犬歯をむき出しにし、真紅の瞳を小比奈に向け、赤い髪の毛を威嚇するように逆立たせていた摩那がいた。

 

「摩那!」

 

 凛が呼びかけると摩那はハッとしたように我に返り、むき出しにしていた口を閉じ、髪もいつものように降り、赤い瞳も消えた。

 

「……ごめん、凛」

 

 摩那は凛の腕を抱くように掴むと顔を伏せた。

 

「随分と興奮しているようだねぇ、その子は」

 

「多分、小比奈ちゃんに染込んでる血の匂いに反応しちゃったんだと思います……。摩那は人一倍匂いに敏感ですから」

 

 自身の腕にしがみつく摩那の頭を優しく撫でながら答える凛は影胤から目を離さない。

 

「ねぇパパ。アイツ斬っちゃだめなの?」

 

「ああ。彼女は斬ってはいけないよ。今日は戦いに来たわけじゃないからね」

 

「むー……」

 

 影胤の袖を引っ張り訴えかけた小比奈であるが、影胤はそれに首を横に振りながら答えた。小比奈はそれに少し不服そうにしながら頬を膨らます。

 

「聞いての通り、今日も決して君と戦闘をしにきたわけじゃないんだよ。ただ、君と話がしてみたくてね」

 

「銃を持っている人に言われましても」

 

「あぁ、これは失敬。君が刀を抜いた時応戦するためにね」

 

 影胤は『スパンキング・ソドミー』をホルスターにしまうと、仮面の位置を戻すように動かすし、凛に問いを投げかけた。

 

「断風くん。君に少し提案なのだが、私と手を組まないかい?」

 

「何故?」

 

「君と私は似ている気がするんだよ。それに、君はそんな序列で甘んじる男じゃないだろう?」

 

 凛を誘うように手招きをした影胤だが、凛はそれに対し首を横に振って返事をした。

 

「答えはノー、と言うわけかい?」

 

「そう受け取ってくれて構いません。僕は今の序列に満足していますし、それに僕にも守る人たちがいます。その人たちのためにも東京エリアを滅ぼす手伝いをするわけにはいきませんよ」

 

「そうか……。それは実に残念だ。……まぁいいだろう、では今日はこれで失礼するよ。次に会うときは本気で殺すよ」

 

 影胤はそういい残すと、踵を返し、凛達に背を向けた。

 

 それに従うように小比奈もまた振り返ろうとするが、彼女はもう一度凛達に向き直ると摩那に問う。

 

「赤いの。名前教えて」

 

 小比奈に言われ摩那は一瞬震えるものの、やがて覚悟を決めたのか凛の腕を離れ小比奈を真っ直ぐ見据えながら告げる。

 

「天寺摩那。モデル・チーターのイニシエーターだよ」

 

「摩那、摩那……。うん、覚えた。私は蛭子小比奈、モデル・マンティスのイニシエーター。次に会ったら殺す。延珠と摩那、どっちを先に殺すか楽しみ」

 

 小比奈は屈託のない笑みを浮かべると、影胤のあとを小走りに追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 夜になり、凛は夕方に会った影胤たちのことを思い出していた。

 

「君と私は似ている……か」

 

 真っ暗な室内で天井に手を掲げながら影胤に言われたことを呟くいた。

 

 もちろん誰も答えるものはいないが、凛は掲げていた手をグッと握り締める。

 

 その時、部屋の扉が軽くノックされた。凛はベッドサイドの灯りをつけると、ノックの主に聞いた。

 

「摩那?」

 

「うん、入っていい?」

 

「いいよ」

 

 凛の返答に、摩那がおずおずと室内にやって来た。

 

 彼女は枕を両手で抱いており、表情も不安げだ。

 

「怖い夢でも見た?」

 

「ううん、違う。……ねぇ凛、今日は一緒に寝てもいい?」

 

 摩那の不安げな声に凛は静かに頷くと、軽くて招きをした。それを確認した摩那は少しだけ笑みを浮かべると、凛のベッドにもぐりこんだ。

 

 布団の中から顔を出した摩那の頭を軽く撫でた凛は、改めて彼女に聞いた。

 

「夕方のこと?」

 

「……うん。ゴメンね、反応しないようにしてたんだけど……あの子、小比奈ちゃんからすっごく濃い血の臭いがしてきて自分を抑えられなくなかったんだ」

 

「それはしょうがないよ。摩那は鼻が利くからからね。……だけど、これからあの子と戦うことになると思うけど、行ける?」

 

「大丈夫。あの臭いには慣れたから。凛もあの仮面つけた人と戦うんでしょ?」

 

「……そうだね、次会ったら問答無用で戦うことになるはずだよ」

 

 肩まで布団に包まる摩那に対し、凛はもう一度彼女の頭をなでる。

 

 それを安心した様子で受け入れている摩那は、緊張が解けたのか目を閉じた。

 

 その後、摩那が完全に眠るまで凛は彼女の頭を撫で、自身もまた眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、今日は摩那が塾に行くこともなく、凛も仕事がない休日であるので二人は出かけることにした。

 

 特に予定があるわけではないので行き当たりばったりの散歩と言う形だ。

 

「そういえば、摩那は何か欲しいものがあるんじゃなかったっけ?」

 

「うん、天誅ガールズのキーホルダーが欲しいんだよねー」

 

「天誅ガールズって確か摩那がよく見てるあのアニメだっけ? 魔法少女なのに赤穂浪士っていう」

 

 凛が聞くと摩那は「そうだよー」と言い、そこからアニメの解説をしていた。

 

 一通り説明が終わったところで凛は摩那に聞き返した。

 

「それで、摩那はその子たちの中で誰が一番気に入ってるの?」

 

「それはもちろん主人公の天誅レッドが一番好きかなー。ブラックも捨てがたいけれどもやっぱり王道だよね! ……それに凛と同じで刀使ってるし」

 

「え? ゴメン、最後の方なんて言ったの? よく聞こえなかった」

 

「な、なんでもないよ! そ、それよりもこのあとどうするの?」

 

 頬を朱に染めながら凛に聞き返すと、彼はある一点を指差した。摩那もそちらに視線を送るとそこは二人がたまに利用する大型のショッピングモールだった。

 

 摩那がそれに気を取られていると、不意に凛が彼女を肩車した。

 

「うわわっ!? な、なに!?」

 

「ん? たまにはこういうのもいいかなーって思ってさ」

 

「は、はずかしいってば!!」

 

「大丈夫だよ、ちょっと歳の離れてる兄妹がじゃれてる風にしか見えないって。さて、それじゃあオモチャコーナーにでも行こうか」

 

「えっ?」

 

「だって欲しいんでしょ? 天誅ガールズのグッズ。ホラ、しっかり掴まってないと落ちるよー」

 

 凛はそのまま摩那の返答を聞かず駆け出した。摩那も最初はそれに目を白黒させていたが、やがて彼に身を任せ二人はオモチャコーナーへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 数十分後、オモチャコーナーでの買い物を終えた凛と摩那はショッピングモール内をブラブラとあてもなく歩いていた。

 

「摩那がほしかったものは買っちゃったし……。あとは何かしたいこととかある?」

 

「うーん。あ、じゃあカラオケでも行かない?」

 

「カラオケか。いいね、久々に行ってみようか」

 

 摩那の提案に同意した凛は、そのままショッピングモールを出るために出口へ向かった。摩那もそれに続く。

 

 ショッピングモールから出た二人は、適当なカラオケ店を探すが、その中で凛は気になる人影を発見した。

 

「? どうかした?」

 

「ごめん、摩那。ちょっと気になることが出来た」

 

 凛は言うが早いか人影の方へ走る。

 

 その人物はゆっくり歩いていたからかすぐに発見することが出来た。

 

「延珠ちゃん!!」

 

 凛がその人物の名を呼ぶと、延珠は一瞬肩を震わせたが、ゆっくりと振り向いた。

 

 彼女は藍原延珠。蓮太郎のイニシエーターであるが、凛とは明確な面識はなく凛が一方的に覚えているだけだ。

 

「誰だ……? お主は」

 

「僕は断風凛。君の相棒の蓮太郎くんと同じ民警だよ。一度すれ違ったけど覚えてないよね」

 

「すれ違う……あぁ、お主はあの時の白い頭の男か。それで、妾になんのようだ?」

 

 延珠は覇気のない声で凛に聞く。その目にも以前すれ違ったときのようなあかるげな光は感じられない。

 

「こんな時間にどうしたの? 学校は?」

 

「っ! ……学校は早退した」

 

 早退したというものの、調子が悪そうには見えない。しいて言うのであれば、身体よりも心の方が病んでしまっているのかもしれない。

 

 ……何か学校で嫌なことがあったって考えた方が妥当かな。

 

 延珠の一瞬顔をゆがめたのを見逃さず、内心で考察した凛だが、ふと昨日小比奈が言っていたことを思い出した。

 

 ……摩那と延珠どっちを先に殺すか楽しみ……まさか!?

 

 一つの結果に辿り着いた凛は聞くべきか否か迷ったものの、彼女に問うた。

 

「延珠ちゃん、もしかして学校で君のことがばれたのかい?」

 

 延珠はそれに顔をこわばらせ、下唇を噛んだ。その行動から凛は全てを悟った。

 

 恐らく彼女のことをばらしたのは影胤だろう。でなければこんなことにはならないはずだ。早退は教師の救済措置なのだろうが、延珠からすれば学校からすぐさま出て行けと言われたようなものだったに違いない。

 

 延珠の目尻にはやがて涙が溜り悔しげに顔を歪ませていた。

 

 すると、その様子を見かねたのか、摩那が凛の袖を引っ張った。摩那は言葉には出さないが視線だけで凛に訴えかけた。

 

 凛もその意図を汲み頷くと延珠の手を取った。

 

「な、なにを?」

 

「ちょっとだけ付き合ってくれるかな?」

 

 凛が笑顔のまま言うと、延珠は怪訝な表情をするものの摩那が彼女の背中を押した。

 

「いーからいーから。ちょっとだけついて来て延珠ちゃん!」

 

「お、お主は誰なのだ!?」

 

「私? 私は凛のイニシエーター、天寺摩那。よろしくね」

 

 摩那の自己紹介に戸惑いながらも頷いた延珠はそのあと自らの自己紹介も始めた。

 

 

 

 

 

 

 やがて三人はある場所へとやって来た。そこは大きな和風の門があり、塀もかなり長く伸びている。門の表札には『断風』と書かれている。そう、ここが凛の実家である。

 

「ここは?」

 

「僕の実家。つれてきた理由は後になればわかるよ」

 

 凛は言うと門を開けた。

 

 重厚な音を立てて門が開くと、その奥には延珠が予想だにしない光景が広がっていた。

 

「……これは」

 

 延珠は門の中に広がっていた光景に口をあんぐりと開けて驚いていた。

 

 それもそのはず、門を開けたところに広がっていたのは、延珠や摩那と同じくらいから、それよりも年下と思われる子供たちが楽しげに遊んでいたのだ。

 

「僕の家は身寄りのない子供たちや勉強がしたくても出来ない子供たちを集めて、勉強を教えたりしてるんだよ。まぁ今は休み時間みたいだけど」

 

「あの者達は皆、妾のような存在なのか?」

 

 延珠の問いに凛は静かに頷いた。それを確認した延珠はもう一度広い庭で遊んでいる少女達に目を向ける。

 

「その……ここを経営しているのは凛の親なのか?」

 

「うん。僕の母さんとばあちゃん二人でやってるんだよ」

 

「その二人は妾の様な『呪われた子供たち』が恐ろしくないのか?」

 

「恐ろしかったらこんなことしてないよ。まぁその辺りがもっと詳しく聞きたいなら本人達から聞いてみて」

 

 凛は庭の一点を指差した。

 

 そこには一人の年老いた風貌の女性と、彼女の隣でこちらに手を振っていたまだ若い女性がいた。

 

「とりあえず、こんなところに突っ立ってないで中にはいろーよ!」

 

 摩那は言うと、延珠の手を引き二人の女性の方へかけていく。凛もそれに続くが、途中凛の登場に気付いた子供たちに囲まれてしまった。

 

「凛にーちゃんだー」

 

「ねーねー、あの子だれー?」

 

「新しい子?」

 

 口々に言われる疑問の言葉に凛は答える。その顔は全く煩わしそうではなく、とても明るい笑顔を浮かべていた。

 

「ううん、あの子は僕の知り合いの子なんだ。っと、ゴメンねみんな。ちょっと先生とお話があるから遊ぶのはまた今度ね」

 

 凛は駆け寄ってくる子供たちの頭をなでつつ、二人の女性の方へ駆け寄った。すると、老人の方が凛に声をかけた。

 

「おかえりさん、凛」

 

「ただいまばあちゃん。元気そうだね」

 

「当たり前だってんだい。まだまだあんた等若いもんには負けやせんよ」

 

 口を開け「かっかっか」と笑う白髪に若干黒髪が混じった老人は断風時江。凛の祖母である。かつては武術の達人であったらしく、今でも時折見せる眼光は鋭いものがある。

 

「まったく、来るならもっと早く連絡しなさいな」

 

「しょうがないでしょ。何せ急だったんだから」

 

 彼女の隣で凛に対し嘆息気味に言った眼鏡をかけた黒髪の女性は凛の母親、断風珠だ。以前は小学校の教師をしており、とても真面目でしっかりものである。

 

「まぁいいわ。それで、電話で言ってた子はその子かしら?」

 

「うん、藍原延珠ちゃん。天童の民警会社ではたらいてるイニシエーターの子だよ」

 

 天童と聞いた瞬間、茶を啜っていた時江が半眼を開けた。

 

「天童ってぇと、木更の嬢ちゃんがやってるところだったかねぇ」

 

「木更を知っているのか?」

 

「あぁ。小さい頃は凛とよくあそんどったよ。それよりもだ、嬢ちゃん一体なにがあったんだい?」

 

 時江は延珠の顔を真っ直ぐ見据えたまま彼女に問うた。延珠はそれに口を真一文字に噤む。まだ、いえる覚悟が出来ていないのだろう。

 

 それを察した時江は延珠に近くに来るようにと手で誘った。延珠はそれに首を傾げるものの、そのまま時江の近くまで行く。

 

 そして、延珠が時江の手が届く距離まで来た瞬間、時江は延珠を抱きしめた。突然抱きしめられ、困惑の表情を浮かべる延珠であるが、時江はそれを落ち着かせるように彼女の背をなでる。

 

「無理をしなさんな。嫌な事は全部ぶちまけちまった方が楽になるよ」

 

 優しく延珠の耳元で言う時江に、延珠は一瞬身体を震わせた。同時に、今まで我慢していたのか、目から一気に涙が溢れ出した。

 

 彼女は声こそ出さなかったものの、その瞳からはとめどなく涙が流れ相当辛かったのだということが伺えた。

 

 やがて、延珠は泣き止んだ。同時に、今日学校であった事をポツリポツリと語りだした。

 

 時江はそれにただ頷き、全てを受け止めていた。そして、延珠が話し終えると彼女の頭をポンポンと軽く叩いた。

 

「よく話してくれたねぇ。ありがとうよ。さて、これからどうするかねぇ」

 

「とりあえず、学校には戻らせない方がいいと思うんだけど……」

 

「いや、嬢ちゃんはそうしたくないだろうさ。そうだろう?」

 

 時江が聞くと、延珠は頷いた。

 

「妾は……自分がガストレアと同じであるなどと学校の皆に思わせたまま学校を去ることは出来ぬ」

 

「それだけ小学校に思い入れがあるんだろう」

 

「ですが、御婆様。流石に一人で行かせては危険かと」

 

「そりゃあそうだ。子供といえど、馬鹿な大人共に間違った知識を植えつけられちまってるからねぇ。恐らく嬢ちゃんが戻っても罵倒の嵐だろうさ」

 

 やれやれと首を振る時江はお茶を啜る。すると、延珠が二人に問う。

 

「気になっていたのだが二人は妾のことが怖くないのか?」

 

 その問いが可笑しかったのか、時江は口に含んでいたお茶を思わず吹き出して笑った。

 

「かっかっか! 嬢ちゃんみたいなちんちくりんなんざ、毛ほども怖かないねぇ!」

 

「なっ!? わ、妾は『呪われた子供たち』なのだぞ!?」

 

「それがどうしたい? アタシからすりゃ、普通の人間となんら変わりはないがねぇ」

 

 肩を震わせながら笑う時江は延珠の問いが本当に可笑しかったのかまだ笑っている。延珠未だにそれがうまく理解できていないのか、首をかしげていたが、珠がそれを補足した。

 

「延珠ちゃん。私たちは貴女みたいな子達の事を怖いなんて思ったことはないわよ。寧ろ、怖いのは貴女達みたいな存在を勝手にバケモノ扱いしている今の大人たちのほうが怖いわ」

 

 真剣なまなざしで塀の外を見やる珠は大きく溜息をついた。

 

「自分達の都合だけで小さな子供たちを見捨てて、さらには迫害するなんて私は絶対にしたくないの。それに、寧ろ貴女達は被害者よ。望んでそんな風に生まれてきたわけじゃないのにぞんざいに扱われて……。私一人が謝って済むとは思っていないけど、謝らせてくれるかしら」

 

 珠はそういうと延珠に対し頭を下げた。すると、延珠は慌てた様子でそれに首を振った。

 

「な、なぜ珠が謝るのだ!? お主は何もしてないではないか!」

 

「そうかもしれないけど、不甲斐ない大人たちのせいで貴女のような子供に辛い思いをさせてしまったのもまた事実だから。けじめをつけさせてちょうだい」

 

 頭を下げ、謝罪する珠の姿は真剣そのものだった。

 

 そして、珠が頭を上げると彼女は凛に疑問を投げかけた。

 

「延珠ちゃんのプロモーターの子には連絡はしたの?」

 

「あっ!? しまった、やってない。というか蓮太郎くんの番号知らない……」

 

 凛は肩を落とし、どうしたものかと困惑するが、そこで延珠が告げた。

 

「妾が知っている。携帯を貸してくれ」

 

「よかったー。じゃあ、話は僕がするから番号だけ打ってもらえるかな」

 

 安堵したようにホッと胸を撫で下ろした凛は延珠に携帯を渡した。延珠はそれを手馴れた様子で操作すると蓮太郎の番号を打ち込んだ。

 

「よし、これでいいはずだ」

 

「ん、ありがとう」

 

 延珠から携帯を受け取ると通話ボタンを押し耳にあてる。

 

『も、もしもし!?』

 

 数コールの後、慌てた様子の蓮太郎の声が聞こえ、凛は彼に話し出した。

 

「蓮太郎君? 凛だけど今何処にいるのかな?」

 

『今か、今はちょっと延珠を探しに外出てる。わりぃんだけど、急いでるから早めに要件言ってもらってもいいか?』

 

「あぁうん、延珠ちゃんなら今僕の実家にいるから今から言う住所まで来てくれるかな」

 

『はぁ!? え、延珠が今そこにいんのか!?』

 

「うん、いるよー。今はちょうど摩那とアニメの話してる」

 

『アニメって……。何やってんだよあいつは!!』

 

 蓮太郎は相当心配していたのか、安堵から来る怒りを声に出していた。しかし、凛がそこで彼に告げた。

 

「延珠ちゃんを怒らないであげてね蓮太郎くん。連れて来たのは僕だから」

 

『え、なんで凛さんが?』

 

「街でさびしそうに歩いてたからちょっとね。それよりも、今から住所言うから迎えに来て上げてね」

 

 凛は言うと蓮太郎に実家の住所を教えた。蓮太郎はそれを聞き終えると、「すぐ行く!」と言い残し電話を切った。

 

「これでよし……。延珠ちゃん、蓮太郎くんすぐ迎えに来るって……」

 

 そこまで言いかけたところで、凛は小さく笑みを零した。

 

「やっぱり天誅ガールズで一番いいのはレッドだよ!! なんと言っても王道は外せないでしょ」

 

「レッドも素晴らしいが、妾的にはブラックもオススメだな! あのニヒルな感じがたまらん!!」

 

「あー、ブラックもいいよねー。そういえばレッドとブラックって同じ形のポーチしてるけど過去になにかあったのかなぁ?」

 

「かもしれんな。どちらにせよこれからの展開に目が離せんよな!!」

 

 延珠は摩那と二人で縁側に腰かけながらアニメの話に華を咲かせていた。先ほどまでの不安な表情は何処へやら、一気に明るい顔ぶれになった延珠はとても楽しげだった。

 

 それから数十分後、蓮太郎がやってきて延珠は彼と共に帰っていった。その頃には既にあったときのような暗い顔は見えなくなっていた。

 

「さてっと……じゃあ僕達もそろそろ帰ろうか。摩那」

 

「だねー。じゃあタマ先生、時江ばーちゃんまたねー」

 

「はいよー。凛、また暇な時来んさいな」

 

「摩那ちゃん! ちゃんと出しておいた宿題終わりにしてくるのよー! あと、凛! 栄養バランス考えてご飯作ってあげるのよ!!」

 

「わかってるよー。じゃあまた来るよ」

 

 凛と摩那は門を出るまでずっと手を振り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、延珠。お前そんなキーホルダー持ってたっけ?」

 

「うん? あぁこれか! これはだな、摩那がくれたのだ! 天誅ガールズのブラックだぞ!」

 

 帰り道、延珠のカバンに見慣れぬキーホルダーが下がっていることに疑問を思った蓮太郎が彼女に聞くと、延珠は嬉しそうに蓮太郎にそれを見せ付けた。

 

「摩那って凛さんのイニシエーターのあの子か」

 

「うむ! 摩那とは話が合ってな、天誅ガールズについて飽きずに語っていたぞ!」

 

「へぇ……よかったな」

 

「ああ! 摩那とはもっと話をしてみたいものだ」

 

 鼻歌交じりに言う延珠は心底嬉しそうだ。蓮太郎は自分の先を行く延珠の背中を見つめながら先ほど見た凛の実家の光景を思い出していた。

 

 ……もし、普通の学校が無理だったら凛さんの実家で……。

 

「……いや、これは最終的には延珠が決めることだ。俺が口出すわけにはいかねぇ……」

 

「おい、蓮太郎! 何をやっている、早く帰るぞ!」

 

「あぁ! わかってるよ!!」

 

 延珠に呼ばれ、蓮太郎は小走りに延珠のあとを追った。




長くなってしまい申し訳ないです。
二つに分割すべきでしたかねw

とりあえず、次の次くらいには未踏破区域での戦闘に入れればと思っております。

感想などありましたらよろしくお願いします。

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