ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第四十五話

 だんだんと空が白んできた早朝、凛はスマホの着信音で目が覚めた。

 

 目を擦りつつスマホを手に取った凛は通話アイコンをタップした。

 

「はい。もしもし?」

 

『朝早く悪いな凛。凍だ』

 

 電話の相手は凍だった。凛は意識を完全に覚醒させるために軽く頭を振る。

 

「おはよう、凍姉さん。今日だよね焔ちゃんが来るの」

 

『そうだ、今日の昼の便で行く、到着時間はこの前連絡したとおりだ。……凛、焔を頼むぞ』

 

「わかってる。焔ちゃんは僕が守るよ」

 

『ああ……それじゃあよろしく頼んだ。じゃあな』

 

 凍は自ら通話を断った。凛もスマホをベッドの上に一旦置くといつもの時間よりは少し早いが、寝間着の作務衣から黒のカーゴパンツと白のポロシャツに着替えた。

 

 そしてベッドの布団を綺麗にたたんだ後、凛はリビングへと足を運ぶ。

 

「えっと、焔ちゃんが来るのが三時くらいだから……じいちゃんの部屋の掃除は二時くらいまでには終わりにしないとな」

 

 カレンダーを確認した凛はリビングにこもった空気を入れ替えるため、ベランダをに続く窓を開けた。

 

 夏特有のにおいと連日の猛暑で暖められてあまり下がることのなかった暑い空気が肌にまとわりつくようだったが、時折吹く朝の風は心地よいものだった。

 

「さて、もう少ししたら朝御飯作って、ご飯を食べたら摩那と翠ちゃんと一緒に家に行かないと」

 

 凛はそういうとテレビをつけて朝のニュースを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前九時、凛の実家の庭に数十人の子供たちと時江、珠、凛の姿があった。勿論杏夏と美冬、夏世も一緒である。一方零子はというと、今日は用事があるとのことで出席はしていない。

 

 また、その中には以前関東会戦のときに避難した子供たちと、その子供達の面倒を見ている松崎の姿も見受けられた。

 

「では今日は皆でお家の大掃除をします。全部綺麗になったら皆でスイカ食べるわよー」

 

「はーい!」

 

 珠の言葉に子供達は元気一杯の返事をすると、それぞれ掃除用具を持って分担が決まった持ち場へと駆けて行った。

 

 その姿を見やりながら珠は松崎の下に行くと静かに頭を下げた。

 

「すみません松崎さん。大掃除につき合わせてしまって」

 

「いいんですよ、子供達もここの子達と会いたい会いたいと言っていましたし、私達も十分お世話になりましたから。これぐらいの事はやらせてください」

 

 松崎は優しげな笑みを浮かべると掃除用具をもって子供達の下に向かった。すると、珠は杏夏にも声をかけた。

 

「杏夏ちゃんもごめんね、お休みだったのに引っ張り出して」

 

「いえ気にしないでください。いっつも美冬がお世話になっていますからこれぐらいさせてください。それじゃあ、美冬、夏世ちゃん。お掃除に行こう!」

 

 杏夏は二人を連れて自分達の持ち場へと向かった。凛もそれを見やりながら摩那と翠に告げた。

 

「さて、それじゃあ僕達も掃除を始めようか」

 

「はーい」

 

「わかりました」

 

 二人が返事をしながら手を挙げたのを確認すると、二人と共に自分の持ち場へと向かう。

 

「んじゃ、私等も行くとしようかね」

 

「はい」

 

 時江と珠もまた自分達が掃除すべき場所へ進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、零子は菫に呼び出され彼女の自室へ赴いていた。

 

「それで? 話ってなに?」

 

 パイプ椅子に菫と向かい合う形で座った零子は彼女に問うた。すると、菫は耐熱ビーカーの中にコーヒーを注ぎながら話を始める。

 

「実はな零子。先日、エリア内で三件の殺人事件が起こった。しかも一日に三件だ」

 

「一日に三件……。確かにちょっとおかしいわね、しかも全部違う場所なわけでしょ?」

 

「ああ、確かに通り魔とかそのあたりなら三人が死んでしまうなんてことはあるがな。それで私も気になってね。未織に情報を流してもらったんだが……零子、被害にあったうち二人はお前も名は聞いたことがある人物達だったよ」

 

 菫の言葉に零子はビーカーを煽りつつ疑問を浮かべた。それもそのはずだ、ここ最近彼女の知人が死んだなどという話はないのだから。

 

「一人目は新国立劇場でオペラを鑑賞していた芳原健二、三十五歳。劇場内で心臓を刃物で一突きにされ即死。二人目は高村莢、二十八歳。自宅でショットガンのようなもので射殺され死亡。そして最後の一人が海老原義一、五十三歳。彼は高速新幹線に乗車中に狙撃。頭を撃ち抜かれこちらも即死……どうだ?」

 

 彼女の問いに零子は持っていたビーカーを実験用の机の上において静かに頷いた。

 

「……芳原健二と高村莢は新人類創造計画の元強化兵士」

 

 そう、前者二人は以前零子が菫から聞かされていた機械化兵士の手術を受けた人物だったのだ。

 

「そうだ。彼等は私の患者だ。しかし、最初は面食らったよ。なにせ機械化兵士が二人も殺されたんだからね」

 

「けど同じ日に二人ってのはある種の計画性があるわね」

 

「ああ、おそらくそのとおりだろう。彼等は計画的に殺されたんだ。しかし彼等は隠居生活を送っていた、それなのに殺されると言うのは妙だと思ってね、少し調べてみたらコイツに行き当たった」

 

 菫はそういうとクリップで留められた資料を机の上をスライドさせる形で零子に渡した。

 

 そこに書かれていたのは海老原義一の顔写真と彼のプロフィールだった。

 

「まさかとは思うけどコイツ公安警察?」

 

「ビンゴ。そう、その男は公安のお偉いさんだそうだ」

 

「だけどなんで公安のおっさんがこの二人に接触をするの?」

 

「そこだよ。調べてみたら海老原は、二人にスパイまがいの仕事をさせていたらしい。まぁ『らしい』というのはその男が死んでしまっているからだな。しかし、海老原の秘書が芳原と彼の話を盗み聞いたらしくてね。そのときにこんな単語が出てきたんだとさ『新世界創造計画』……とね」

 

 『新世界創造計画』――零子にはその名前に聞き覚えがあった。蓮太郎や蛭子影胤のような機械化兵士は身体の一部を機械化して絶対的な力を有している強化兵士だ。これが『新人類創造計画』だ。

 

 しかし、『新世界創造計画』はこれの更に上を行っているものであり、身体の半分以上。そしてゆくゆくは脳以外すべての帰還を機械繊維やメタルスキンなどを使用したものに変えるというものだったのだ。

 

「じゃあこの二人は『新世界創造計画』を調べていたけれど……」

 

「恐らく知ってはならないことを知ったんだろうな」

 

 二人の間になんとも言いがたい静寂が流れるが零子が静かに問いを投げかけた。

 

「でも何で私にそんなことを?」

 

「決まってるだろ、お前も私の患者だからだよ。まぁお前の義眼は試験機だから新人類創造計画に入っているようで入っていないものだけどな。二人とは違って命を狙われる事は少ないと思うが……気をつけろよ」

 

「わかったわ。教えてくれてありがとね菫」

 

「いや、礼には及ばないさ。まぁ限界点を突破できるお前のそれがあれば何とかなるだろうがね。しかし、慢心するなよ? アレをやり過ぎると脳が焼ききれるからな。だがアレを自力でオンオフできるお前には要らない心配か」

 

 菫は零子の眼帯の下にある試験型二十一式義眼を指差しながら静かに告げた。零子もそれに頷くと眼帯を押さえながら小さく答える。

 

「ええ……『二千分の一秒の向こう側(ターミナル・ホライズン)』は極力使わないようにするから安心していていいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実家の大掃除を開始してから三時間ほど経過し、凛は最後の持ち場である、祖父、断風劉蔵の私室の中にいた。

 

「使わなくなってたから随分と埃っぽくなってるなぁ……」

 

 確かに彼の言うとおり本棚や文机の上には埃がたまっているのが見える。部屋の四隅の一角には蜘蛛の巣が張っている。

 

「まっここで最後だからちゃちゃっと終わりにして皆でスイカを食べよう」

 

「だねー、それじゃあ最初は天井からだっけ?」

 

「そう。僕が埃を落としていくから、二人はそれを集めてね」

 

「わかりました」

 

 翠が頷き摩那も軽く敬礼をしたのを確認すると、凛ははたきを持って天井の誇りを落とし始めた。

 

 それに続いて本棚、文机と順々に上から埃を落としていくが、途中翠が声を上げた。

 

「凛さん! ちょっとこれを見てください」

 

「ん?」

 

 凛が翠のほうに目をやると、彼女の足元の埃が四角形の線を描くようにそこだけ埃がなかった。

 

 摩那も不思議そうにそちらを見ているが、凛はその線の上に手をかざす。

 

「……風が通ってる。まさか地下室?」

 

「かもしれません、あけてみますか?」

 

「うん、あけて見たいけど……力技であけるわけにもいかないし」

 

 凛は口元に手を当てて考え込む。同時に彼は部屋の中をぐるりと見回した。地下に部屋があるのであれば、ここにそれを開けるはずのスイッチのようなものがあるのではないかと思ったからだ。

 

 すると、彼は視線の先にある本棚に目が留まった。凛がそちらに歩みを進めると、摩那と翠も彼についていく。

 

「これは……」

 

 凛は本棚に並べられている本に目を凝らしながら、その本棚の本が揃っていないことに気がついた。

 

 凛の祖父、劉蔵は几帳面な性格でもあった為本などの整理整頓はきっちりとしていた。しかし、今彼の目の前にある本棚の本は数冊がバラバラに置かれているのだ。

 

「なにか変じゃないこれ? なんでこの本がこっちにあるの? 普通あっちでしょ」

 

 摩那もそれに気がついたのか本棚を見上げながら首をかしげていた。すると同じように首をかしげていた翠が提案した。

 

「このばらばらになっている本を元の位置に戻したら地下室に行けるんじゃないですか?」

 

「うん、それもあるかもしれないけど……ちょっと待ってて」

 

 凛はそういうと目の前の本棚の両隣の本棚もよく見て回る。同時に、彼は本の質感を確かめるように収納されている本を触って確認をする。

 

 本棚を調べ始めて数分、凛は一種類の本のまとまりに違和感を覚えた。

 

 ……ここだけ紙の手触りじゃない。

 

 不審に思った凛は本の一つを取り出そうとした。しかし、彼が少しだけ力を加えた途端、本の纏まりが全て引き出された。

 

 それに凛と摩那、翠が驚いていると本の纏まりが出され終わると同時に、その中から一風変わった形のキーボードと小さなモニタが展開された。

 

「なにこれ」

 

「多分これでパスワードを入力すれば地下室に行けるんじゃないかな」

 

「ですけどパスワードがなんなのか……あっ!」

 

 翠は何かを思い出したように声を上げて先ほど凛達がいた本棚に目を向けた。そして指で追う様にバラバラに配置された本をなぞっていく。

 

「やっぱり……このバラバラの本の背表紙に数字とアルファベットが刻んであります。多分上に刻まれた数字が下に刻まれたアルファベットが何文字目か表しているんじゃないでしょうか?」

 

「だろうね……じゃあ摩那、翠ちゃん。バラバラになってる本を一回全部出して、背表紙の文字を確認したら僕に伝えて。それで僕が一文字を打ったらそれに続いて本をあるべき場所に戻してくれる?」

 

 凛の言葉に二人は静かに頷くと配列がバラバラの本を本棚から出し始めた。

 

 そして、本を出し終えると彼女らの目の前には十冊の本が積まれていた。

 

「それじゃあいくよー、最初の文字は大文字で『T』」

 

 凛は頷くと摩那に言われたとおりにキーボードを打ち込んでいく。その後、翠と摩那交互に言っていくアルファベットや数字を打ち込んでいく。

 

 そして、凛が最後の文字を打ち込み、翠が最後の本を本棚に押し込む。瞬間、部屋のどこかから「カチャ」という何かスイッチが入るような音が聞こえた。

 

 数秒後、床の四角形の溝が数センチ沈み、そのまま奥にスライドした。スライドした後の床にはコンクリートで出来た地下へと続く階段があった。

 

「すんご……秘密基地みたい」

 

 摩那が興味津々といった感じでうんうんと頷いていたが、そこで凛が彼女に告げた。

 

「摩那、母さんとばーちゃん、杏夏ちゃんと美冬ちゃん、夏世ちゃんを呼んできてくれる? あと懐中電灯も持ってきて」

 

「はいはーい」

 

 彼女は頷くとトタトタと珠と時江を呼びに行った。

 

 凛は地下室の入り口付近にしゃがみ込むと、その隣で翠がスンスンと鼻を動かした。

 

「……中からは紙とかのにおいがします。あとは……お金?」

 

「お札ってことかな?」

 

「恐らくそうかもしれません」

 

 翠がうなずいたを確認すると、凛も顎に手を当てながら考え込んだ。

 

 すると、摩那が五人を連れてやってきた。

 

「おやおや……コイツぁたまげたねぇ。まさかウチにこんなもんがあったは……」

 

「お爺さまがこんなものを作っているなんて」

 

 珠も時江も驚きが隠せないようだった。二人の脇から地下室への入り口を覗き込んでいた杏夏や美冬、夏世も同じようだ。

 

「とりあえず中に入って何があるか確かめてみるよ。摩那、懐中電灯貸して」

 

「はいよー」

 

 摩那は持ってきた懐中電灯を凛に放った。それをキャッチした凛はスイッチが入ることを確かめると、一度地下室内を照らすとそのまま階段を降りて行く。

 

 地下室に入りきると、凛は一度室内を照らしてみる。

 

「どう?」

 

「うん、危なくはなさそう。高さは二メートルくらい」

 

 珠の質問に答えながら地下室内を照らしていた凛は壁に蛍光灯のスイッチと思しき物を発見し、それを押してみた。

 

 案の定それは地下室を照らすための蛍光灯のスイッチだったらしく、室内は白い光に照らされた。

 

 室内が照らされると、地下室は八帖ほどでそれなりの広さがあった。しかし、壁際には何かの調査書のようなものや、大量のメモ帳や本が置いてあった。

 

 中には巻物などと言う時代錯誤の代物もある。凛はそれらを見やりつつ、部屋の一番奥に置かれた文机の上にある二つの封筒を見つけた。

 

 凛はとりあえず室内のものを全て持ち出すのは不可能だと割り切り、机の上に置かれていた二つの封筒を持って、一度部屋に戻った。

 

「なにかあったかい?」

 

「うん、じいちゃんからの手紙っぽいのが二つあったよ。僕に宛てたのが一つと、こっちは二人と子供達に書いたやつみたい」

 

 二つのうち一つを時江に渡した凛は腕時計を見て時間を確認した。

 

「ごめんばーちゃん、そろそろ焔ちゃんを迎えに行かないと」

 

「ん、もうそんな時間か。わかった、後はこっちでやっておくからお前さんは焔を迎えに行ってきな」

 

「ありがと、じゃあ摩那、翠ちゃん終わったら帰ってていいからね。僕もそのまま帰るから」

 

「はーい」

 

「……わかりました」

 

 摩那は普通に返事をしたものの、翠はやや緊張気味といった様子だった。恐らく自分の新しいプロモーターと仲良くできるのか不安なのだろう。

 

 すると凛は彼女の前まで行くと彼女の視線の高さまでしゃがみ込み、優しく告げた。

 

「大丈夫。焔ちゃんは優しい子だから、心配しないで」

 

 翠はそれが恥ずかしかったのかいつものとんがり帽を目深に被ってしまった。

 

 それに少しだけ笑みを見せつつも、凛は杏夏たちに後のことを任せて焔を迎えに行くためにバイクに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実家を出てから数十分後、凛は空港に到着していた。空港のロビーで適当なベンチに腰掛けた凛は飛行機が到着するまで待っていた。

 

 待つこと十数分、到着ホームの中から飛行機でやってきた人々が現れた。

 

 凛もベンチから立ち上がり、焔の姿を探す。すると、出口からオレンジ色のキャリーバックをガラガラと引っ張ってきた焔がやってきた。

 

 そして、彼が焔が気付くように手を挙げようとした瞬間、焔の瞳が効果音を受けるなら「キュピーン」と言った感じで光った。

 

 同時に焔はキャリーバックを引っ張りながら凄まじい速さで凛の近くまで移動すると、あと数歩と言うところで彼女は走り幅跳びをするように踏み切り、頭から凛に飛びついた。

 

「に・い・さーーーーんッ!!!!!!」

 

「ゴファッ!!」

 

 凄まじい勢いで飛び込んできた焔を咄嗟に支えることが出来なかった凛は、そのまま彼女に押し倒される形で空港の冷たい床に倒れこんだ。

 

「ああ! 十年ぶりの兄さん! 兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん!!」

 

 凛に抱きつきながら何度も「兄さん」を連呼していた。普通に考えれば明らかに異常なその光景だが、凛は後頭部を摩りながら起き上がると、未だに「兄さん」を連呼している焔の頭をポンと撫でた。

 

「久しぶりだね焔ちゃん、随分と大きくなった」

 

「はい! 兄さんと会うために毎日お肌の手入れもして髪も高級なシャンプーで洗って、ちゃんと身体も動かして勉強も頑張りました。そして兄さんのどんなせいへ――」

 

「ストーップ! 焔ちゃん、ここだと目立っちゃうからいったん僕のバイクが停めてある駐車場まで行こう」

 

 凛が言うと焔は「あっ」と言うようにあたりを見回して他の客の目が集中していることに気がついた。

 

「すみません、兄さん! 私ったらつい……。かくなるうえはこの命でお詫びを!」

 

 焔は懐からクナイを取り出して首筋にあてがおうとしたが、凛がそれを制した。

 

「いいから! そんなことしなくていいから! ホラ、行こう」

 

 スッと凛が手を差し伸べると焔はパァっと明るい表情を見せ、凛の手を包み込むように握った。

 

 凛もそれを確認すると二人はそのまま駐車場に向かって歩き始めたが、焔はと言うと、

 

 ……あぁ! 感じる。兄さんの体温、兄さんの濃密な香り、兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん……。

 

 絶賛暴走中だったりした。

 

 

 

 

 バイクのところまでやってくると、凛は焔のキャリーバックを座席の後ろ側に縛り、焔にヘルメットをかぶせた。

 

「よし、それじゃあ僕のマンションまで行こうか。母さんは挨拶は明日でいいって行ってたから、明日行こう。今日は僕の家でゆっくりしてて」

 

「はい! あの、兄さん? イニシエーターの子はいるんですよね?」

 

「うん。焔ちゃんもちょっと緊張してる?」

 

「あ、はい……。上手くやっていけるかなーって少し心配ではあります」

 

「平気だよ。翠ちゃんはいい子だし、君もそうだ」

 

 凛は焔に優しく告げると自分もヘルメットを被り、バイクに跨って焔に乗るように促した。

 

「それじゃあしっかり掴まっててね」

 

 焔はそれにうなずくと凛の腰に手を回して彼と密着する。凛はバイクのギアをいれてアクセルを回した。

 

 そのまま空港から一般道に出た凛だが、彼の後ろでは焔が「にへらー」と笑みを浮かべていた。

 

 ……兄さんが近いよおおおおおお! 最高おおおお!! あぁもっと顔をうずめてクンカクンカしたいよぉぉぉぉぉ!! 兄さんの汗とか体液とか血もペロペロしたいぃぃぃ!! ハッ!? ダメダメダメ! これからイニシエーターの子と会うんだから変な風に顔が緩んでたら嫌われちゃうよ! あぁでも……兄さんいいにおい……ぐひひ。

 

 頭の中では制御が効いているようで効いていない焔であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてバイクに揺られること数十分、凛と焔は彼の自宅の玄関の前にいた。

 

「ここが兄さんのご自宅ですか」

 

「うん。部屋は用意してあるから、今日はそこを使ってね。それじゃあ、開けるよ」

 

「は、はい!」

 

 焔は若干緊張した様子だったが、凛は玄関を開けてリビングへと向かった。

 

「摩那ー、翠ちゃーん帰ったよー」

 

 言いながらリビングへ通じる扉を開けると、天誅ガールズを鑑賞していた摩那と翠が駆けて来た。

 

「おかえりー」

 

「おかえりなさいです」

 

 二人に言われ凛が返事をすると、彼は横にずれて後ろの焔を二人に紹介した。

 

「紹介するね、この子が露木焔ちゃん」

 

 凛が二人に言うと焔は二人に軽く頭を下げた。

 

「初めまして。露木焔っていいます。呼ぶときは焔でいいからね、えっと……」

 

「私は天寺摩那、凛のパートナーだよ。んで、こっちが翠」

 

「初めまして、布施翠です」

 

 翠は少し恥ずかしそうに会釈をすると、とんがり帽を深く被った。

 

 すると、その行動が焔の何かに火をつけたのか彼女は翠の脇に手を入れて彼女を高い高いするように持ち上げた。

 

「わひゃあ!?」

 

「すんごいかわゆいー! なにこの子すっごいかわいいです兄さん!」

 

 驚く翠を尻目に焔は彼女を抱きしめてみたり、くるくると回ってみたり、頬ずりしてみたりとやりたい放題だった。

 

 しかし、そんなことをすれば翠のとんがり帽が飛ぶのは必然であった。翠の頭からとんがり帽子が取れ、彼女の秘密である猫耳が顔を出した。

 

 瞬間、翠が頭を手で隠したが、焔は彼女を降ろしてただ一言声を上げた。

 

「猫耳キターーーーーッ!!」

 

 焔の反応に翠がビクゥ! とするが、焔は翠を抱き上げるとその柔らかい頬に自分の頬を当てて再び頬ずりを始めた。

 

「こんなにかわいいのに猫耳ってもう最強ですよ兄さん!」

 

「うんわかった、わかったから焔ちゃん。いったん翠ちゃんを降ろしてあげて目を回してるから」

 

 凛の言うとおり、翠は焔の反応が予想できなかったのか目を回していた。焔はそれに気がつくと翠をソファに座らせた。

 

 翠は座った直後までは目を回していたが、すぐに戻ったようだった。それを見計らい、焔が翠に謝罪した。

 

「ごめんね、いきなりやっちゃってびっくりしたよね?」

 

「は、はい。びっくりしました……けど、嫌じゃありませんでしたよ」

 

「ほ、ほんとに? 怒ったりしてない?」

 

「はい。全然です」

 

 翠が見せた微笑みに焔はほっと胸を撫で下ろすと、翠をまっすぐ見据えて真面目な声音で告げた。

 

「翠ちゃん、兄さんから話は聞いているかと思うけど、一応私が貴女のプロモーターとして来た訳だけど……翠ちゃんはどう? いやじゃない? 嫌じゃなかったら私のイニシエーターになってくれるかな?」

 

 焔が言うと、翠は微笑みをそのままに小さく頷いた。

 

「はい。嫌じゃないです。だから、私は貴女と組みます。これからよろしくお願いします、焔さん」

 

「おおお……! ありがとうね翠ちゃん! 私頑張るから!」

 

 焔は翠の手をギュッと握って真剣な顔で宣言した。翠もそれに笑いかけ、焔もまたそれに笑みを浮かべた。

 

「とりあえずは何とかなったっぽいじゃん?」

 

「だね、よし。それじゃあ今日の夕飯は少し豪勢に行こうか」

 

「お、やった。じゃあ肉お願いね!」

 

 焔と翠のやり取りを見守っていた凛と摩那も互いに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四人で夕食を済ませ、それぞれが風呂に入って皆が寝静まったころ。

 

 凛は一人ベランダに出て昼間地下室で発見した劉蔵からの手紙を広げていた。

 

 手紙はかなり簡素なもので、A4の紙を四つ折りにしたものが封筒の中に入っているだけだった。

 

 凛はそれを一言一句逃さないように読んでいく。

 

『凛よ、これをお前が読んでいるという事は儂はもうこの世にはおらんのだろう。まぁそれがどのような形であれ、お前や子供たち、時江に珠が生きているのならそれでよい。

 さて、この手紙でお前に教えておきたいことがある。それは忠告だ。凛よ、五芒星と羽根を持つ者達に気をつけろ』

 

「五芒星と羽根を持つ者達?」

 

 凛は思わず声に出してしまったが、そのまま読み進める。

 

『彼奴等の名は『五翔会』。世界を転覆せしめんと目論んでいる悪しき者達だ。彼奴等は世界中にその根を伸ばしている。無論、この東京も例外ではない。恐らく五翔会は聖天子様の暗殺や菊之丞達天童の抹殺もい目論んでおるはずだ。よいか、彼奴等の思うようにさせてはならん。

 彼奴等を止められなければ世界が終わる。そして、愛する子供達の未来さえも失われてしまう。凛、どうか五翔会を打ち倒して欲しい。お前は強い。だからその力で彼奴等を倒し、どうか子供達を……いいや、世界を救ってくれ』

 

 『五翔会』という聞きなれない名が出てきながらも、凛は至って冷静に手紙を読み進めていく。

 

 そして、手紙はついに最後の文に差し掛かった。

 

『最後に、ここで儂が調べ上げた五翔会の一人を記しておく。いいか、彼奴と遭遇するときはくれぐれも用心しろ。一人目は、大阪エリア大統領斉武宗玄。

 これだけでは少なすぎるかもしれんが、斉武は用心すべき男だ。絶対に油断はするなよ。

 では、ただお前に託すだけになってしまったが、どうかこの老い耄れの最後の願い。聞き入れてくれ』

 

 手紙はそこで終わっていた。凛はそれをたたみ直し、封筒に入れると作務衣のの懐にしまいこんだ。

 

 そして、劉蔵に答えるように呟く。

 

「……わかったよ、じいちゃん。じいちゃんの願いは僕が継ぐ……五翔会は、僕が潰す……」

 

 凛はまだ見ぬ敵『五翔会』に宣戦布告とも取れる言葉を吐いて、このエリアの何処かに潜んでいるかもしれない者達を睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日のまだ世が開けきらないころ、東京エリアに一人の男が潜入した。

 

「あーあー、こちら『リジェネレーター』から『ネスト』へ。潜入成功しました」

 

『聞こえている。そんなでかい声を出すな。いいか、『リジェネレーター』お前の役目は断風凛が出てきた場合の保険だ。決して余計な騒ぎは起こすなよ』

 

「了解、ようは獲物が出てくるまで引っ込んでろってことでしょう?」

 

『そういうことだ。いいか、念を押すが決して余計な騒ぎを起こすなよ』

 

 『ネスト』と呼ばれたスマホの向こう側の男はそれだけ言うと連絡をたった。そして自らを『リジェネレーター』と名乗った男も肩を竦めるとスマホをポケットにしまいこむ。

 

 だが、ちょうどその時声をかけられた。

 

「おいそこのお前、こんな時間にこんなところで何をやっている」

 

 『リジェネレーター』がそちらを見やると、背後に二人の若い警察官がいた。しかし、『リジェネレーター』はそれに対し残忍な笑みを浮かべて小さく呟いた。

 

「……まぁでも人がいなけりゃ殺してもいいわけだ……ヒヒヒ」

 

「え?」

 

 その呟きが聞こえたのかわからないが、警察官が疑問の声を上げた瞬間、『リジェネレーター』は警察官に向かって身の丈ほどもある大鎌を振りぬいた。

 

 瞬間、警察官二人の胴体が横にずれ真っ赤な鮮血が飛び散った。二人は声を発することも出来ないまま絶命したが、『リジェネレーター』は頬に飛び散った血をべろりと舐め取ると君の悪い笑いをもらした。

 

「ケヒヒ……やっぱり最高だなぁこの肉を切る感触はぁ……さぁて断風凛? お前は俺に何処までやれるのかなぁ……ケヒ、ケヒケヒヒヒ!」

 

 薄気味悪い笑い声を漏らした彼はそのままどこかへ消えていった。




はい、いよいよ逃亡犯編突入でございます。
といってもまだ蓮太郎くんが捕まったり木更さんがお見合いしたりはしてませんがw
今回は新キャラたちのお披露目って感じですかねw
そして零子さんスゲェ! ターミナル・ホライズン使えるんだって!!(ヲイ
まぁ試験機と言うこともあってリミッターは当初ついていない訳だからできないと言う事はないんですがねw

書いてて思った……
焔がヤンデレなのか猟奇的に凛がすきなのかわからないw
ま、まぁヤンデレ成分は後から出していけばいいかなウン!
とりあえずは凛が五翔会の存在を知ることが出来ましたしまぁよかったよかった
そして最後、『リジェネレーター』さん人に見られていなければいいけどあんま殺したらダメダメよー。
というか今の時点で若干目立ってますが、それも個性の一つとしましょう。あとでネストが片付けてくれるだろうし……。

次は何処までやりましょうかねw

ではでは感想などありましたらよろしくお願いします。

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