ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第三十四話

 翌日、東京エリアには日本がまだ日本と呼ばれていた時代、第二次世界大戦末期、広島と長崎に投下された原子爆弾のあとに降ったという『黒い雨』が降った。

 

 もちろん今回の雨には放射線物質などはまったく含まれていない。雨が黒く染まった理由はエリアの上空に立ち込めたモノリス灰の影響だ。

 

 身体には害がないらしいが、それでもこの黒い雨は世界の滅亡を表しているようで、先の戦いで生き残った民警たちの士気を下げるには十分すぎるほどだった。

 

 そして厚く形成されたモノリス灰は太陽の光を遮り、さらに人々を陰鬱とさせていた。

 

 しかしたとえそんな状況でも生き残った民警たちには仕事があった。

 

 それは生存者の確認と言う名の実質的な死体集めだった。政府からすれば人肉が腐敗して伝染病を招くのを防ぐためと、遺族に遺体を送り届けると言う意味がこめられているのだろうが、集まっている民警からすればその惨状に目を背けた気分だろう。

 

 蓮太郎もまた丁寧に死体袋に肉片を集めて回収していくが、彼の視界の先には特徴的な真っ白な髪が黒い雨によって灰色がかった色になっている凛の姿があった。

 

「凛のヤツ。俺達が入る一時間も前から死体集めと生存者の確認をやってたみてぇだぜ」

 

「黒霧……」

 

 蓮太郎の傍らにやってきたのは澄刃だった。彼も死体袋を持っており遣る瀬無い面持ちで目の前に広がる惨状を目の当たりにしていた。

 

 地面は抉れ、ところどころ焦げた痕跡も残っていた。破壊された戦車は鋭利な刃物で切られたように真っ二つになっていた。あの光の槍にやられてしまったのだろう。

 

 そのほかにも地面が陥没している箇所も多数見られた。昨日戦闘が終わってから木更たちと合流した際に蓮太郎はモグラと思しきガストレアがいたと教えられた。

 

 尤も、そのガストレアはティナと夏世が協力して掃討したらしいが、恐らくこの陥没した箇所はそのモグラ型のガストレアが穴を作り、その上にあった自走砲や戦車などの重みで地面が陥没したのだろう。

 

 陥没した地面から戦車は抜け出すことが出来ずにそのままガストレアの餌食となってしまった。というのが蓮太郎の大まかな予想だ。

 

「……本当にひどいもんだ」

 

 蓮太郎はため息をつくと生存者の確認と遺骸集めを澄刃と共に再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎達から離れて五十メートル程のところで凛は戦場の惨状を遺骸を集めていた。

 

 他の民警たちがやってくる一時間も前から遺骸集めを行っていた彼の髪の毛は灰色に変色し、実年齢よりも若干年を取ってしまったようにも見える。

 

 しかし彼はそんな事は気にせずに黙々と遺骸を集め、遺体を見つける度に手を合わせて祈った。同時に彼は心の中で「すみません」と謝罪をした。

 

「……僕が不甲斐無いばかりに、貴方達を死なせてしまって……本当に申し訳ありません……」

 

 消え入るような声で告げる凛であるが、彼の目には何かを決意したような光が見えた。

 

 ……やっぱり、もうとやかく言っていられない。一刻も早く力を元に戻すために聖天子様に――。

 

「なぁアンタ」

 

 そこまで考えていたところで凛は背後から声をかけられた。振り向くとそこには昨日凛が救ったプロモーターの男性がイニシエーターの少女に支えられながら立っていた。

 

「貴方は昨日の……具合は大丈夫ですか?」

 

「あぁ、幸い骨折だけで済んだよ。アンタに礼が言いたくてな……助けてくれてありがとう。お陰で俺もこの子も死なずにすんだ」

 

「いえ、助け合ってこそですから」

 

 凛は薄く笑みを見せて男性に笑いかけると、男性の方も小さく頷いた。するとイニシエーターの少女が男性をゆっくりと放して、凛に深々と頭を下げる。

 

「本当にどうもありがとうございました」

 

「……どう、いたしまして」

 

 少女の真っ直ぐな言葉に凛は彼らから見えないように後ろで拳をきつく握った。

 

 男性もそれに釣られるようにもう一度頭を下げ、二人はその場からゆっくりと立ち去って行った。

 

 その後姿を見つめながら凛はギリッと歯を噛み締めた。

 

「僕にお礼を言われる資格なんてない……」

 

 するとそんな彼の呟きをかき消すような音が上空から聞こえた。凛がそちらを見上げるとテレビ局と思われるヘリが上空を旋廻しており、スライドドアからはリポーターが身を乗り出して何かしゃべっていた。

 

 だがそんな彼らを追い払うように蓮太郎と話していた玉樹がマテバ拳銃を撃っていた。

 

 その弾丸がヘリに被弾したのか、リポーターは短い悲鳴を上げてヘリの機内に引っ込んだ。ヘリはそのまま尻尾を巻くように逃げ帰っていったが、玉樹はヘリが思い通りにならなかったことに腹が立ったのか何か叫んでいた。

 

 彼らの行動に少しだけ笑みを浮かべる凛であるが、すぐに何処となく悲しげな表情になった。

 

 その後半日近く生き延びたプロモーター全員で生存者を探した結果、生き残った人々は計六十九人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生き残った自衛官達を医療班に渡した後、凛は蓮太郎達とは合流せずにふらりとどこかへ消えた。

 

 今、民警たちが待機しているのは戦場となった平野から少し離れた場所にある町だった。

 

 町といっても誰かが住んでいるわけではなく、すでに放棄された町だ。建物には亀裂が入り、アスファルトの隙間からは草木が生えてしまっている。

 

 もはや廃墟と化した町であるが、ひびが入った屋根や壁は崩れそうな様子はなく、雨風はしのげそうだっため民警はここに集結することとなった。

 

 その中にある中学校の体育館に負傷者は集められているようで、有志で集まった医師や看護師がてんてこ舞いで働いている。

 

 凛はそこから一キロ弱離れたビルの屋上に佇んでいた。彼はジッと三十二号モノリス跡を見つめるとスマホを取り出してあるところへ連絡を入れようとした。

 

 だが、電話帳を出すよりも早く連絡を入れるべきところからキャッチが入った。

 

 ゆっくりとスマホを耳に押し当てると、落ち着いた少女の声音が聞こえた。

 

『凛さん、私です』

 

「ちょうどお電話しようと思っていたところです。聖天子様」

 

 凛が言うと、聖天子は電話の向こう側で静かに問う。

 

『となると、アレの機能の停止ですね?』

 

「ええ。……本当はまだ時間がありますが、もうとやかく言っている時間はなさそうです」

 

『そのようですね……。しかし、こちらの不手際で今すぐと言うわけには行かなくなってしまいました。準備が整うまでには最低でも半日はかかるかと。全てが完了したときに連絡いたしますので、室戸教授と一緒にいらしてください』

 

「わかりました……では」

 

『凛さん』

 

 連絡を切ろうとした凛を聖天子が呼びとめ、彼はもう一度スマホを耳に押し当てる。

 

『ありがとうございます』

 

「……お礼なんて言わないでください。この惨状は僕が弱かったから招いたことです。もっと早く僕が克服できていればこんなことにはなりませんでした」

 

『そんな悲しいことを言わないでください。あの事件は誰にでも起こり得ることですが、貴方の場合は失ったものが大きすぎました』

 

「本当に貴方はお優しいですね……。では、準備が完了したら連絡をお願いします」

 

『はい』

 

 凛の言葉に聖天子が答えると、凛は通話をやめてスマホをポケットにしまいこむ。そのまま彼は三十二号モノリスの向こう側に撤退したアルデバランを睨むように一瞥したあと、杏夏達がいる体育館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方体育館では零子と菫がパイプ椅子に向かい合いながら座っていた。

 

「やれやれね、まったく」

 

「ガストレアの数は予想を上回っていたようだな。それに、自衛隊が減った分ガストレア軍も増えている」

 

「そうね。敵が二千以上に対してこっちに残っているのは五百人。普通に見れば絶望的な数字だわ」

 

 零子も疲れた様子を見せながら天井を仰ぐが、そこで菫が小さく笑みを浮かべて告げた。

 

「だが、ただ一人を残してその絶望的な数字を覆せるものがいるじゃないか」

 

「……凛くんね」

 

「ああ。彼の力が完全に戻ればアルデバランも倒せるだろうし、光の槍とやら、まぁ水銀だが、それを撃っているガストレアも容易に倒せるだろうさ」

 

「ちょっと待って菫。水銀?」

 

 零子が手のひらを菫に見せた状態で小首をかしげた。

 

「ん? あぁ、そういえばまだ言っていなかったか。実はなあの光の槍に手足を持って行かれた負傷者を診ていたんだが、どうにも難聴やら視野の狭窄。その他手足のふるえといった『水俣病』と同じ症状が出ていた」

 

「なるほど、それで水銀ってわけね」

 

 零子も納得したように深く頷いた。水俣病はその他三つの公害病と合わせて四大公害病とされていた病だ。

 

 その病と同じ症状が確認されたと言う事は、あの光の槍の正体は圧縮されて打ち出された水銀とでも言うべきだろう。

 

「さすがにあの速度で打ち出される水銀は凛くんでもどうかしらねぇ。斬ったり弾道を逸らす事は出来たとしても、刀の方が持たないでしょうよ」

 

「まぁだろうな。だがこうも考えられる。約五キロも離れている場所からの狙撃を可能にしていると言う事は、そのガストレアは狙撃に特化しすぎてしまったんじゃないか?」

 

 菫が問うと零子は彼女が言いたいことが理解できたのか静かに頷いた。

 

「……近接戦闘には向いていないってことね」

 

「そういうことだ、近くまで行くことができれば凛くんだけでなくとも、蓮太郎くんでも倒せるだろうさ。っと……凛くんが来たな」

 

 彼女の視線の先を追うと体育館の入り口に凛の姿があった。するとそこへ先ほどまでここで仕事の手伝いをしていた延珠や木更と交代した摩那が凛の腹部辺りに目掛けてすっ飛んで行った。

 

 凛は摩那を軽く抱きとめると手伝いをしていた彼女を労うように頭を優しく撫でた。さらにそこへ杏夏と美冬も加わって今度は三人が凛を労うように声をかけていた。

 

「モテるねぇ……蓮太郎くんとは大違いだ」

 

「まぁ顔はかっこいいし強さも申し分ないし、それに優しいからかしらね」

 

「蓮太郎くんは天地がひっくり返っても勝てそうにないな」

 

 二人が肩を竦めて笑い合っていたところで摩那たちと別れた凛が菫の下へとやってきた。

 

「零子さん、菫先生。お話があります」

 

 その声どこか決意を露にした声に二人は何かに気がついたのか、彼を見据える。

 

「やるのか?」

 

「はい。……もう僕が出なければならないと思ったので。それに、力があるのにこんなところで立ち止まるわけには行きません」

 

「じゃあ聖天子様に連絡は入れたのかしら?」

 

「ええ。ですが準備に少々時間がかかるそうです。準備が完了し次第、あちらから連絡が来て迎えも来るみたいです。その際菫先生もお願いします」

 

 菫の方を見ながら凛が言うと彼女は目を閉じてゆっくりと頷いたあと伸びをしながら負傷者の方へ歩いていった。

 

「さて、ではその時間になるまで治療を続けるとしようかな」

 

 その姿を見送りつつ、凛は菫に頭を下げた。そんな彼の肩に零子が優しく手を置きながら告げる。

 

「あと少しでシフト交代だからここで待っていなさいな。拠点のほうは澄刃君と香夜ちゃんが綺麗にしてくれてるみたいだから」

 

「はい」

 

 凛は頷いたあと、仕事に向かう零子を見送りつつ体育館内で苦しげにうめく人々を見て拳を握り締めた。

 

 ……僕ががんばらないといけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 澄刃たちが見つけた拠点は蓮太郎達が拠点としているホテルから数百メートルの位置にある民家だった。

 

 二階の屋根には穴が開いていて部屋が一つ使いものにならなかったが、それ以外は至って正常だったため、先に来た澄刃と香夜が掃除をしておいてくれたらしい。

 

 やがて凛達がやってくると、綺麗にされたキッチンに凛が立ち支給された食料でそれなりの料理を作って皆に振舞った。

 

 皆戦場で支給された食料とは思えないほど美味な料理に舌鼓をうったあと、杏夏が淹れたコーヒーを飲んでリラックスしている中、凛が皆に告げた。

 

「皆に伝えなきゃいけないことがあるんだけど聞いてくれる?」

 

 真剣な様子の凛の態度に皆が耳を傾けた。

 

 皆が聞く態勢に入ったのを確認し、凛は一度小さく頷いて話を始めた。

 

「実は少しの間……前線を外れることになったんだ。期間はまだどれくらいかわからない。だけど、絶対に戻ってくるから」

 

 凛の言葉に彼の秘密を知っていた杏夏たちは素直に頷いた。しかし、彼女達はゆっくりと澄刃のほうを見やる。恐らくこれを聞いた澄刃が怒り出さないかどうか心配なのだろう。

 

 だが、予想に反して澄刃は至って普通であった。すると彼は杏夏たちの視線に気がついたのか肩を竦めながらため息をついた。

 

「そんな心配そうな目でみんなよ。別に凛が何を言おうが怒鳴り散らすような事は考えてねぇよ。つーか、コイツがいなくなってくれて帰って俺の目立つ場が増えて嬉しいぐらいだぜ」

 

「そやなぁ、なんやかんや言うて澄刃、凛さんに負けっぱなしやし」

 

「うっせ。……けどまぁちゃんと帰って来いよ」

 

「……うん。ありがとう澄刃君」

 

 凛が彼に頭を下げると、澄刃は「やめろ」と言うようにパタパタと手を振った。

 

「それじゃあ、蓮太郎くんにもこのことを教えてくるよ」

 

「うん? あぁ待て待て凛。里見ならさっき我堂たちがいる中学校の校舎まで行ったぜ。なんか呼び出しを食らったらしい。だから、話をするんならそのあとの方がいいんじゃねぇのか?」

 

 澄刃の言葉に凛は嫌な予感がし、弾かれるように民家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎は我堂に呼び出され民警本部までやってきたのだが、どうも歓迎されているようではないらしい。

 

 それもそのはず、彼が呼び出されたのは蓮太郎のアジュバントが命令無視をしたということのけじめをつけろと言うものだったのだ。

 

 そのけじめとは、蓮太郎のアジュバントを解散処分とし、リーダーである彼を極刑に処するものという内容だった。

 

 無論それに蓮太郎が「はいわかりました」と言うわけがなく、彼は座っていた椅子を倒しながら立ちあがった。

 

「ふざけんなッ!! あそこで俺達が別動隊を倒してなきゃ皆――」

 

 瞬間、我堂の隣に控えていたイニシエーター、壬生朝霞が瞳を赤熱させ一瞬にして蓮太郎に肉薄し、彼の溝に拳を叩き込もうとした。

 

 だが、

 

「はいストップ」

 

 そんな声が聞こえると同時に朝霞の拳は蓮太郎に直撃する寸前でとまり、代わりに彼女の喉下に切先が突き付けられていた。

 

「何者ッ!?」

 

 朝霞が身を翻して刀から逃れると、彼女の拳を止めた人物――断風凛は静かに刀を鞘に納める。

 

 するとその様子を見ていた我堂が周囲で銃や刀を向けていたアジュバントのメンバー達に銃を降ろさせた。

 

「君は確か、断風凛だったか? なぜこんなところにいる?」

 

「僕の友人である里見蓮太郎くんがあらぬ容疑をかけられているようなので、それを擁護しようかとおもって推参した次第です。我堂団長」

 

「あらぬ容疑? 残念ながらそれは君が間違っているな。彼は中隊長の命令を無視して単独行動に走ったのだぞ? 確かに彼らはガストレアの別動隊を殺し、民警の全滅を防いだのかもしれんが、端から見ればそれはただの敵前逃亡にも見える。この軽率な行為は民警の士気を下げることにもつながった。そのためのツケは払わねばならんのだよ」

 

 我堂が睨むように凛を見据えるが、凛は至って冷静に彼に問うた。

 

「では、貴方に問います。極刑などと言っていますが、本当のところ処刑する気などないんじゃないですか?」

 

「ほう……」

 

「貴方が本当に彼にやらせたいことは、光の槍を打ち出すガストレア、コードネームは確かプレヤデスでしたか。それを彼単独で殲滅させることなのでは?」

 

 凛の言葉にその場にいた全員が絶句した。彼は我堂が今から言おうとしていたことを全て言って見せたのだ。皆が驚くのも無理はない。

 

 しかし、我堂だけは小さく笑みを浮かべると静かに頷く。

 

「その通りだ。例えばアルデバランをキングとするなら、プレヤデスはクイーンだ。キングを獲ろうとすれば確実にクイーンが邪魔をする。それを防ぐためにも彼にはそうしてもらいたいのだよ。

 尤も、彼がこの件を拒否すればアジュバントは解体、里見くんには死が待っていて彼のアジュバントにも相応の処罰が下るがね」

 

「……随分とひどいことをお考えのようで」

 

「時として人は非情にならなければならんのだよ。……で、どうするかね里見くん。受けるか受けないか、まぁどちらに転んでも待っているのは地獄だが」

 

 我堂は涼しげに言うが、目だけは真剣そのものだった。決して冗談などではない蓮太郎を試しているような目つきだった。

 

 それに蓮太郎は逡巡したあと、大きく息をついて言い放った。

 

「……わかった。受けてやる。だけどな、俺がいない間に延珠や木更さん、他の皆に手を出したら例え死んでもテメェをぶっ殺す!!」

 

「ふむ、いいだろう。交渉成立だ。では荷物などはこちらが用意する、君は出発までに別れを済ませておきたまえ」

 

 我堂に言われ、蓮太郎は凛と共に本部を去る。

 

 中学校の校舎から出たあたりで、凛は蓮太郎に問う。

 

「本当にあれでよかったのかい?」

 

「……ああ。俺が延珠と木更さんをまもらねぇといけないんだ。命に代えてもな」

 

「……」

 

 拳を握り締めながら言う彼に、凛はこんなときに彼のサポートにもいけない自分の不甲斐無さを呪った。

 

 ふと蓮太郎がそこで凛に振り返った。

 

「なぁ凛さん、アンタ多分いなくなるだろ?」

 

「……どうしてそう思うんだい?」

 

「なんとなくだ。けど俺は別にアンタを責めたりしねぇ。けどさ、全部終わったらアンタのこと色々教えてくれよ」

 

 蓮太郎は微笑を浮かべながら言うと、そそくさと木更たちが待つホテルまでかけていった。

 

 彼の姿が闇に消えていくまで見送った凛は、誰にも聞こえない声で呟きを漏らす。

 

「……必ず話すよ。だから、君も生きて帰って来てくれ蓮太郎くん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

 モノリス灰に覆われた影響で星明りも何もなく、真っ暗な町並みの一角にある少し他の建物よりも背の高いビルの屋上。

 

 そこにはランタンを持った凛の姿があった。彼は一度周囲を見回したあとに告げた。

 

「そろそろ出てきても大丈夫だと思いますよ」

 

 その声に呼応するように、屋上に一人の人影が現れた。

 

 そこにはワインレッドの燕尾服にシルクハット。趣味がいいとは言えない装飾があしらわれた二挺の拳銃『スパンキング・ソドミー』と『サイケデリック・ゴスペル』。そして一番に目に付くのはニタリと笑みを浮かべているような仮面をかけた男性が悠然と佇んでいた。。

 

 男性はシルクハットのつばを軽く持った状態で静かに言い放つ。

 

「こんばんは、我が親友。断風くん」

 

「どうもこんばんは、蛭子影胤さん」

 

 かつて東京エリアに未曾有の惨事をもたらさんとした魔人--蛭子影胤に対しても、凛はまったく臆することなく挨拶を返した。

 

「今日は小比奈ちゃんはいないようですね」

 

「あぁ眠ってしまったよ。まぁ子供というのはそういうものだ。それよりも……随分と民警諸君はやられてしまったようだねぇ」

 

「ええ、あなた方が昨日の戦いに参加してくれていればもっと被害も少なかったんですが」

 

 凛が言うと影胤は面白そうにくつくつと笑った。しかし、凛はある程度彼がこういった反応を取るだろうと予想は出来た。

 

「残念ながら私は見物をさせてもらっていたよ。もとより参加する気もなかったしね」

 

「まぁ貴方はそうでしょうね。でも別に貴方のやり方にとやかく言うつもりもありません」

 

 軽く肩を竦めつつ凛が言うと二人の間に数瞬の沈黙が流れる。

 

 するとその沈黙を破るように凛が影胤に投げかけた。

 

「影胤さん。貴方に頼みごとがあります」

 

「ほう? 君が私に頼みごととはねぇ。おもしろい、話してみたまえ」

 

「実は蓮太郎くんがプレヤデスという圧縮した水銀を打ち出すガストレアを倒しに行きます。それも単独で。不躾だとは思いますけど、貴方には彼の援護をしていただけないでしょうか?」

 

「ふむ。プレヤデスか、そういえば今日の午後軽く未踏査領域を見てきたときにそのようなガストレアがいたね。まぁ私は戦うことが出来れば一向に構わんが。その頼みごとを完遂するに当たって、君は私に何をしてくれるのかな?」

 

「以前言ってありましたね。僕の過去を話すと、それを今ここでお話します。そのほかにもあるのであれば謝礼金も――」

 

「いいや、その話だけで結構だ。では話してくれるかい? 君の過去とやらを」

 

 影胤は屋上に座り込むと凛に話すように促した。凛は話だけですむとは思っていなかったのか面を食らったような顔をしていたが、すぐに影胤と向かい合うように座り込む。

 

「ではお話します。僕は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の深夜、蓮太郎はプレヤデスを倒すために未踏査領域へ。

 

 翌日の明け方、凛は聖天子によって手配された車に菫と共に乗り込み一路聖居に向かった。

 

 それぞれの覚悟を胸に。




はい、ではこんな感じで。
影胤さん最後で出せましたしよかったよかった。

凛の過去明かしまではまだありますです。
次回は凛の体内に仕組まれたアレの話をやって、蓮太郎と影胤さんの絡みをそれなりにやれればいいですかねw
出来ればプレヤデス掃討あたりまでやりたいですが、そうすると後半が原作飯になってしまうのでもしかしたら視点が違うかもしれません。

やっぱり影胤さんはいいキャラですなぁ。
あとアニメでの小比奈ちゃんかわいかったです。危うくティナから小比奈派になるところだったぜ……

ではでは感想などありましたらよろしくお願いいたします。

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