ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第三十三話

 蓮太郎と同じく空を見上げた零子は『別動隊』と言う言葉にギリッと歯噛みした。

 

 ……どういうこと? ここまでガストレアが統率された動きを取るなんて、まさか、アルデバランにはバラニウム侵食液以外の何かフェロモンのようなものがあるって言うこと?

 

 眉間に皺を寄せた状態で考え込む零子だがそこで蓮太郎が声を上げた。

 

「黒崎社長! 俺達が行くからここは任せる!!」

 

 蓮太郎は零子の返答も聞かずに木更たちと共に別動隊の方へ駆けてしまった。しかし、零子はそれに舌打ちをした。

 

「成すべきことを成せとは言ったがこの場面でその行動は拙いわ蓮太郎くん」

 

「どういうことですか?」

 

 迫るガストレアに向けて銃口を向けている夏世が問うと、零子は難しい表情をして言い放つ。

 

「誰もがあのガストレアの別動隊に気がついていればあの行動は確かに褒められたものよ。しかし、この状況下であの行動は」

 

「……敵前逃亡と見られてしまうということですか?」

 

「可能性としてはね。しかし私たちまでここを離れるわけにはいかいし。今は彼らに別動隊を頼むしかないわね」

 

 悔しげに言った零子はすぐ後ろまで迫っていたガストレアの頭に黒き弾丸をぶち込んだ。そのあとに続くように夏世もショットガンの引き金を絞り、ガストレアを蹴散らしていく。

 

 ……無理はしないでね蓮太郎くん。

 

 零子たちの隣ではその一部始終を見ていた杏夏と美冬がガストレアと対峙していた。

 

「数多いなぁ」

 

「ですわねぇ、まぁピンポイントで射撃するためにあまり焦らないことが大切ですわね」

 

「だね。……というか間近で見ると凛先輩の戦いって本当にすごいよね」

 

「ええ、例えるならば削岩機でしょうか。襲い来るガストレアがあっという間に切り裂かれていますし」

 

 二人の視線の先には凛がおり、彼は迫るガストレアの波をまるで豆腐を斬るように切り裂き細切れにしていく。

 

 まさにその様子は先ほど美冬が言ったように削岩機のようだった。もはやガストレア自体との戦力差が大きすぎるのだ。

 

 しかし、そんな彼が一人でがんばっていてもさすがに二千体をゆうに超えるガストレアの軍勢を全ての民警が凛のように対処できるわけがなく、すでに周囲では恐怖の悲鳴を上げる者達もいた。

 

 彼らを救ってやりたいのも杏夏にはあるが、この混戦の中誰かを助けに行く事は完全に自殺行為だ。

 

 ……ごめんなさい。

 

 心の中で彼らに謝りつつ、杏夏は迫るガストレアの頭部に弾丸を射ち込んだ。

 

 的確に放たれた弾丸は甲殻をもつガストレアの僅かな隙間に入り込み脳に侵入、そして数秒も経たぬうちにガストレアの頭部が爆散した。

 

炸裂弾(バーストバレット)。調合しておいてよかった」

 

 倒れるガストレアの亡骸を尻目に杏夏はさらに他のガストレアを倒すために駆ける。

 

 先ほど彼女が放ったのは彼女自身が開発した弾丸、炸裂弾だ。榴弾のような大きなものではなく、小型化に成功したそれがもつ破壊力はガストレアの肉を焼き、四散させるほどだ。

 

 杏夏には精密射撃のほかに開発者としての素質もあり、その手際は未織も認めるほどである。

 

「蓮太郎達にも渡したかったけど、銃の形状も違うから時間かかっちゃうし」

 

 申し訳なさそうに愛銃に弾丸が装填されたマガジンを差し込んだ杏夏は小さく息をついて別の目標へと向かった。

 

 するとその彼女に両脇から二体のガストレアが飛び掛る。しかし、次の瞬間彼らの頭部には黒刃のナイフが深々と突き刺さっていた。見るとそのナイフには鋼線のようなものが取り付けられていた。

 

 二体のガストレアは脳を破壊されたことによってその場に倒れるが、今度は別方向からガストレアが飛び掛る。

 

「残念ながらそこも私の射程範囲ですわ」

 

 聞こえたのは美冬の声であり、彼女は杏夏の脇に来ると、ナイフから伸びる鋼線を引き寄せて向かってきたガストレアの首にかけるようにしたあと、一気にそれを引っ張った。

 

 同時に鋼線がガストレアの首を断ち、ドチャっという音と共に首が落ちた。彼女はそのままナイフと鋼線を回収し杏夏と共に駆ける。

 

「相変わらずすごいナイフ捌きだね」

 

「ふふん、そうでしょう」

 

 美冬は誇らしげに言うと、斜め右前から迫るガストレアの頭にナイフを叩き込んだ。

 

「まったく、埒が明きませんわ」

 

「そうだね。だけどまだまだくるよ? いける?」

 

「見くびってもらっては困りますわ杏夏。貴女こそ大丈夫ですの?」

 

「もちろん! それじゃ、二人でがんばるよ!」

 

 二人は互いの手の甲を軽く合わせたあとガストレアに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二人から離れて凛と澄刃は迫るガストレアをいとも簡単に蹴散らしていく。

 

「里見達は別働隊の方に行ったのか?」

 

「みたいだね。それじゃあこっちはこっちで頑張ろうか」

 

「おう、ボヤボヤしてんなよ?」

 

「それはこっちのセリフだと思うけどっと!」

 

 凛は小さく笑うと自身の後方にいたガストレア五体を一気に切り裂いた。いとも簡単に敵を断ち切る様には驚嘆を覚えるが、見ると彼の持つバラニウム刀に大きなひびが入り、次の瞬間粉々に砕け散った。

 

「冥光がねぇのにやりすぎだろ。あと四本しかねぇけど大丈夫かよ」

 

「まぁそのときは適当になにか使うさ」

 

 そういうと彼は腰から二本目のバラニウム刀を抜き放って迫り来るガストレアにその切先を向けた。

 

「さて、君たちはどれくらい生き残れるかな?」

 

 その言葉と共に凛の瞳から光が消え失せた。隣にいる澄刃はそれに肩を竦めると自分も迫るガストレアを真っ直ぐと見据えた。

 

「なるべく楽しませて欲しいなぁガストレアさんよ!!」

 

「行くよ」

 

「おう!!」

 

 二人は同時に駆け出した。

 

 まず最初に襲ってきたのは蟹を思わせる硬そうな甲殻をもつガストレアだ。しかし、澄刃の前ではそんな甲殻による装甲など紙にも等しかったようで、

 

「邪魔だボケがぁ!!」

 

 彼はガストレアの甲殻が薄いところを狙って切り取ったあと、再生が始まる前にガストレアの脳に刀を滑り込ませて横薙ぎにした。

 

 どす黒い血が噴出しズンッという重々しい音と共にガストレアが地面に伏せた。

 

「とれーくせに俺の邪魔してんじゃねぇぞゴミカスがよ」

 

 死に至ったガストレアを踏み台にして澄刃は凛を追うが、既に凛は迫り来るガストレアを走りながら倒していた。

 

 その光景に口をあけて驚いてしまう澄刃だが同時に彼は多少なりの悔しさも味わっていた。

 

「……こうも力の差があるもんか……」

 

 澄刃とて決して弱いわけではない。しかし、比較対象である凛が規格外なのだ。

 

「さすがの俺も若干ナイーブになっちまうけど……そんな弱音も吐いてられねぇよなぁ!!」

 

 ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた澄刃は凛の後を追ってガストレアを狩りに向かった。

 

 一方、凛はガストレア達を切り刻みながら妙な感覚を覚えていた。

 

 ……妙だ。統率が取れすぎているのもそうだけど、一番気になるのはガストレア事態が恐怖を覚えていない。

 

 ガストレアも生物であることには変わりはない。生物にはもちろん恐怖と言うものが存在する。

 

 自分より力の強いものに対する恐怖で逃走を図ろうとする生物もいる。それはもちろんガストレアもそうであり、凛が今まで戦ってきた中でもガストレアは凛に恐怖して逃げ出した個体も多くいた。

 

 しかし、今彼が対峙しているガストレアにはその恐怖が見られないのだ。むしろ恐怖していると言うより一種の興奮状態にあるような状態を連想させる。

 

「……アルデバランはこのガストレア達に何かしらのことをしたってことなのか」

 

 凛はその考えに行き着くものの、すぐに頭を振った。

 

 ……いまはそんなことを考えても仕方がない。目の前のガストレアを掃討することだけ考えないと。

 

 彼は再び冷徹な視線でガストレアを見据えて刀を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼らから少し離れると摩那と香夜がガストレアをなぎ倒していた。

 

「あーもー! 疲れるからそんな来るなってば!!」

 

「モテモテやなぁ摩那」

 

「それはアンタも一緒でしょーが!」

 

 香夜の意見をため息をつきながら答えた摩那は向かってくるガストレアの目玉を潰した後、顎から頭を吹き飛ばす。

 

 その様子を一瞥した香夜もまたアサルトライフルをガストレアのちょうど額にあたる部分に突きつけて引き金を絞った。

 

 途端にオートで撃ち出された弾丸がガストレアの頭を抉る、

 

「弱いのにウチに挑んでくんなや」

 

 クスクスと笑う香夜に摩那は辟易した様子を見せつつも自らの力を解放して、一気に周囲を駆け抜ける。

 

 時にガストレアを踏みつけ、その脳漿をクローで抉り、頭を吹き飛ばす。赤い髪い振り乱して戦うその姿は美しくさもあった。

 

 だがそれでもガストレア達が止まる事はなく、少し離れたところからまたしても進軍をする姿が見られた。

 

「なんなのかなー! 普通こんだけやれば逃げるはずじゃん!?」

 

「そうやなぁ、なーんか全体的にロボットみたい言うかなんちゅうか」

 

 肩を竦めた香夜とげんなりとしている摩那であるが、そこで摩那が弾かれたように崩れたモノリスの方を見やる。

 

 香夜もそれに釣られるようにそちらを見た瞬間、彼女に凄まじいまでのGがかかった。

 

 見ると摩那が香夜を抱えてその場から離脱していたところだった。

 

「おわっ!? なにすんねん摩那!!」

 

「黙って!! 早くここから逃げないと!!」

 

「はぁ!? なに言うて――」

 

 香夜が言った瞬間、今まで彼女達がいた場所に光が迸った。

 

 音もなく飛来した光が駆け抜けた跡に残ったのは抉れた地面と、その光に巻き込まれたガストレアの残骸、そしてその先には人間と思しき体の一部が転がっていた。

 

「……なんや今の」

 

「わからない。だけど、あれは相当やばいよ。凛達にも連絡しに行かないと!」

 

 摩那が言うと香夜は零子達の方へ、摩那は凛と澄刃の下へ先ほどの『光』を知らせるために駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零子の下まで辿り付いた香夜は零子達に先ほど自分達が見た『光』を説明した。

 

「それはどれぐらいの物質かわかった?」

 

「ううん、それはわからへん。せやけどかなり大きなものやったってことはわかる。地面もかなり抉れとったし……」

 

「なるほどね。……美冬ちゃん、超音波使って索敵できる?」

 

「はい。やってみますわ」

 

 零子に言われて美冬は大きく息を吸い込むとモノリスが合った方角に向かって超音波を発した。

 

 途中ガストレアの軍勢がいたが今は無視だ。彼女はそのまま音の跳ね返りを集中して聞き取っているたが、瞬間彼女の顔が強張った。

 

「これは……」

 

「わかったの?」

 

「はい。ここから五キロ、私が索敵できる最大範囲ですが、それぐらいの位置に一体のガストレアがいます。アルデバランは途中で索敵できましたが、それよりも奥にいますわ。恐らくこれがその『光』を打ち出しているものの正体でしょう」

 

 美冬の説明を聞いていた零子達だが五キロ先と言う答えに内心驚いていた。しかし、次の瞬間夏世が叫ぶ。

 

「皆さん伏せてください!!」

 

 その言葉に弾かれるように地に伏した皆だが、それから一秒も立たないうちに彼女らの頭上を先ほど香夜が見た『光』が駆けていった。

 

 その光はまるで槍のように細長く、零子達の頭上を通過したあと、我堂英彦たちがいる辺りを吹き飛ばした。

 

「……あれが?」

 

 杏夏が香夜に問うと彼女は静かに頷いた。

 

 例えるのであれば『光の槍』とでも言うべきだろうか。恐らくアレを食らえば人間など姿すら残らないだろう。

 

 するとそれを見ていた零子は先を行く凛と摩那と澄刃を呼び戻した。危険だと判断したのだろう。

 

「……あんなのをどうやって防げばいいの」

 

 杏夏は絶望こそしていないものの悔しげに唇を噛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別動隊を掃討し終えた蓮太郎は木更達と共に戦場へと戻ってきていた。

 

 あちらこちらから剣戟音や叫び声が聞こえていたが、ガストレアの軍団の一角に一箇所だけ異常なまでに欠けたところがあった。

 

 ……まさか凛さん達だけでアレをやったってのか?

 

 そんなことを思っていると蓮太郎に声がかけられた。

 

「蓮太郎くん!」

 

 すぐにその声に皆が反応してそちらを見やるとそこには数人のプロモーターとイニシエーターの少女を背負っていた凛達の姿があった。

 

 プロモーターの中には腕や足がなかったものもいたが、幸いガストレア化は進行していないようだ。

 

 しかし、どう数えてもプロモーターとイニシエーターの数が合わない。だが蓮太郎はすぐにそれを悟ったのかやるせない表情を浮かべる。

 

「今のところ救えたのはこれだけ。中にはプロモーターの人が殺されてたりガストレア化してしまっていた子もいたよ」

 

 凛は救うことができなかったことを悔やむように拳を握り締めていた。

 

「いや、アンタのせいじゃねぇ。それよりは中隊長の我堂英彦は――」

 

 と、そこまで行ったところで蓮太郎は先ほどまで我堂英彦がいた丘の上が大きく抉れていることに気がついた。

 

 そして凛の傍らでカタカタと震えている英彦のイニシエーター、心音の姿があることにも気付く。

 

 凛は蓮太郎の質問に答えるように彼に言い放った。

 

「残念ながら我堂英彦さんは戦死してしまったよ。『光の槍』にやられたらしい」

 

「『光の槍』?」

 

「なんだよそりゃあ」

 

 蓮太郎と玉樹が訝しげな顔をすると、零子が彼らに説明をした。それを聞き終えた蓮太郎達は信じられないといったような顔をしていたが、大きく抉れた丘がそれを物語っていた。

 

 すると彼らから見て斜め右上の方向にその『光の槍』が飛来し、地面とその場にいた民警たちを根こそぎ削っていった。

 

「……アレが『光の槍』」

 

 誰からともなく息を呑む音が聞こえた。

 

「僕達はこれから他の人たちを援護しに行くよ。蓮太郎君たちも行ってくれるかい?」

 

 凛が問うと蓮太郎は逡巡したあと木更たちと顔を見合わせて頷いた。

 

「ああ、わかった。それじゃあ前に決めたメンバーでって感じだな?」

 

 蓮太郎の言葉に凛が頷くとその場にいた全員が事前に決めておいたグループに分かれた。

 

 グループ分けはこうだ。

 

 蓮太郎、延珠ペアと凛、摩那ペア。

 

 玉樹、弓月ペアと澄刃、香夜ペア。

 

 彰磨、翠ペアと杏夏、美冬ペア。

 

 そして木更、ティナペアと零子、夏世ペアといった組み合わせだった。

 

「それじゃあ行こう」

 

 凛の掛け声と共に全員が別方向に駆け出し、それぞれ苦戦を強いられている民警たちの援護に向かった。

 

 蓮太郎は凛と並走している途中で彼に問うた。

 

「凛さん。あのガストレアが欠けてる部分はあんたがやったのか?」

 

「……僕だけじゃないけどね。澄刃君と一緒にってところかな」

 

「……そうか」

 

 蓮太郎は改めて凛がでたらめまでの力を持っているのだと再確認した。少なくともあの欠けた部分のガストレアの屍骸はゆうに百は越えていただろう。

 

 それをこの短時間で片付けたのだ。凄まじいとしかいいようがなかった。

 

 すると傍らを走っていた摩那が凛に声をかけた。

 

「凛! 蓮太郎!」

 

 二人が摩那が指を差すほうを見ると、泣きじゃくっているイニシエーターの少女がいた。

 

 だがすぐ近くまでガストレアが押し寄せている。このまま走っていたのでは間に合わない。

 

 しかしそれは普通の人間が走っていればの話だ。こちらにはスピード特化の二人がいる。

 

「蓮太郎! 妾と摩那が行く!」

 

「……わかった、気をつけろよ二人とも!」

 

「二人とも! 『光の槍』には注意してね」

 

 蓮太郎と凛の言葉に頷いた摩那と延珠は足に力をこめて速度を上げた。

 

 それを見送ったあと、凛と蓮太郎も別の民警たちを救いに行くため紅蓮と轟音に包まれる戦場を駆けた。

 

 戦場はまさに地獄と呼ぶべきものに等しかった。

 

 無残な姿に引きちぎられ、食われ、裂かれ、押しつぶされ、すり潰され、体が四散し、脳漿が飛び出していた死体が当たり一面に転がっていた。

 

 濃密なまでの死臭と血臭。そして火薬の煙と火炎が肉を焼く臭いが鼻を突いていていた。

 

 摩那と延珠の救出劇は目まぐるしいものがあり、摩那が人を担げば延珠がそれを援護。延珠がけが人を運べば周囲のガストレアを摩那が掃討していた。

 

 同じスピード特化と言うこともあって阿吽の呼吸で二人は次々に負傷者を救出していた。

 

 だが彼女らだけでは救えない命や、切り捨てなければいけない命ももちろんあった。

 

 時にはガストレア化しかけたプロモーターの傍らに寄り添っていた少女を見かけ、蓮太郎がプロモーターを人の姿のまま殺してやろうと銃口を向けたが、少女がその前に立ちはだかって「やめてくれ」と泣き叫んだ。

 

 その姿に蓮太郎は躊躇してしまったが、凛は全く躊躇する事はなくプロモーターの首を刎ねた。

 

 イニシエーターの少女がそれに怒りの声を吐くが、凛はそれを気にする様子もなく別の民警たちを助けに行く。

 

 だが、民警たちを救出する中で火焔の向こうから飛来する『光の槍』と呼ばれる攻撃を何度も目撃した蓮太郎は内心で震えていた。

 

 勝てるわけがない。と。

 

 明らかに人智を超えたその攻撃に息を呑み、前を走る凛を見ていた彼は凛にまた問いたくなった。

 

 ……凛さん、アンタならあれを斬ってくれるんだよな?

 

 それはむしろ問いと言うよりも懇願に近かった。「斬れる」といってほしい。少しでも勝機を見出したいと言うことから来る願いだった。

 

 するとそんな蓮太郎の考えを吹き飛ばすように地を這うような咆哮が木霊した。

 

 その声を皮切りにガストレア達が動きを止め、同時に民警達も声のしたほうを見る。

 

 そこには小山のようなシルエットを持つガストレアが苦悶に身をよじっていた。

 

 遠目から見てもわかるその大きさに周囲の民警たちが息を呑んでいるのが感じられる。

 

 アレがアルデバランで間違いないだろう。

 

 途端、周囲にいたガストレア達が後退を始めた。その途中で人間を襲うよな者はおらず、彼らは一目散にアルデバランに取り付いてその巨大な体を守護するように壁を形成して下がっていた。

 

 やがて戦場からガストレアが全ていなくなり、異様なまでの静けさがはびこる中、誰かがポツリと呟いた。

 

「助かった……?」

 

 その声にこたえるものはいなかったが、蓮太郎は緊張を解かれ小さくため息をついたあと凛の方を見やる。

 

 凛は静かにアルデバランが去っていた方向を睨みつけており、その目には確かな殺意があった。




ハレルゥゥゥヤァァァ!!!! が出ると言ったな……アレは嘘だ。

……はい、というわけで申し訳ない頑張ってあの人だそうかと思ったんですが出るところまで書くと二万行きそうなので断念しました。
期待してくださった方々には大変なご迷惑をかけ申しわけありませんでいた。謹んでお詫び申し上げます。

今回はそれなりに幼女を救いました。
心音も生き残ってますが、原作との違いを出すために『光の槍』に貫かれたのは英彦さんということにしました。
申し訳ない英彦さん……。

次はいよいよ「あの人」がでます!!
これは絶対です!
では感想などあればよろしくおねがいいたします。

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