ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第三十二話

 モノリス崩壊まであと一日と迫った時、零子は夏世をテントに置いて一人で菫の下を訪れた。

 

 地下室の扉を開けると同時に鼻を突く芳香剤の匂いに顔をしかめつつも、零子はパソコンを操作している菫の隣に座った。

 

「何をしているのかしら?」

 

「戦争で負傷した兵達の予想を立てているんだ。医師が足りなくなるかも知れないと政府から依頼があってね」

 

「ってことは菫も来るのね」

 

「まぁな。今の外には出たくないが、戦争で負傷者ばかりの外と言うのは私にとっての聖域(サンクチュアリ)だからな」

 

 菫はくつくつと笑って楽しげにしていた。だが、彼女の瞳に宿る眼光は真剣なものだった。

 

 しかし、すぐに彼女は零子のほうに向き直るとため息をつきながら聞いた。

 

「そういえば義眼のことを話したそうじゃないか」

 

「まぁいつまでも隠しておくわけにはいかないからね。それに凛くんだって近々力を元に戻す訳だし」

 

「力を戻す……ねぇ。一応彼の施術には私が出向こうと思っているが……何事もなければいいのだがね」

 

「けど注射を打つだけの簡単な施術って聞いたけれど?」

 

 菫の言葉に零子が首を傾げるが、菫は難しい顔をしたままペン回しを始めた。

 

「確かに手術自体にそれほどの危険はないよ。だが私が言っているのは精神論の話だ。いくら彼が覚悟を決めたと言っても、過去のトラウマはそう簡単に捨てられるものじゃない。今回の手術はただ注射をするだけだが、同時に意識も失うんだぞ?その間彼の精神に異常が起こるかもしれないだろう?」

 

「精神に異常って……精神崩壊みたいな?」

 

「そこまで極端ではない。だがあるとすれば……意識混濁や昏睡などだろうな精神と言うものはかなり繊細なんだ。自分が納得したと思っていても、それは理性で無理やりなっとくさせただけで、本能は否定しているなんてこともあるんだよ。

 現に私はそういった患者を診たこともある。まぁ何時かは起き上がるんだが、それがいつになるかはわからんがね」

 

 肩を竦めていう菫は最後に「凛くんが確実にそうなるってわけじゃないけどな」とだけ付け加えてまたパソコンを操作し始めた。

 

 零子はそれに難しい顔をしながら、四年前起こった出来事を思い出していた。

 

 四年前の夏、掠れて今にも消え入りそうな声で凛に呼ばれた零子は彼の実家へ赴いた。そのまま電話で指定された道場の中に入ると、彼は顔から下を鮮血に染めており、手にはべったりとこびり付いた血液がまとわり付いていた。

 

 あの時の彼の瞳は忘れようもなかった。まさに絶望しきったその双眸に光はなく、生きているのかを疑ったほどだった。

 

 すると、そんな過去の記憶から彼女を引き戻すようにスマホが鳴動した。

 

「もしも――『零子さん!! 今すぐに外に出てモノリスを見てください!!』」

 

 電話の相手は夏世だったのだが、彼女は零子の応答も聞かずにかなり焦った様子だった。その声はかなり大きかったためスピーカーにしていなくても菫にまで聞こえたようだ。

 

「外……ってまさか!?」

 

『そのまさかです!!』

 

 零子はその言葉を聞くと弾かれるように地下室を飛び出すと一気に外へと駆け上がる。普段地下から出ることがない菫もこのときは零子に併走するように共に外に出た。

 

 外にでて二人が最初に見たのは三十二号モノリスだった。だが、その三十二号モノリスにはここ、勾田大学病院から見てもわかるほど大きな皹が入っていた。

 

 ついにバラニウム侵食液に耐えられなくなったモノリスがいよいよ倒壊を始めたのだ。

 

「どういうこと!? 倒壊までは後一日あるはず……!」

 

 零子はそこまで言うが、不意に自分と菫の間を駆け抜けた突風に戦慄した。

 

「風……? クソッ! そういうことか!!」

 

 いくら技術が向上したといっても未だに人類は気流の流れを完全に把握する事は不可能だった。

 

 JNSCは完全に風の流れを読みを誤ったのだ。

 

 だがそんな結論に至ったのも束の間、ついにモノリスは倒壊を始めた。

 

 ガラガラと瓦解する白く変色した壁が崩れていく様はスローモーションのように見えた。

 

 地表にモノリスが激突した瞬間、轟!! という程の吹き飛ばされるのではないかと言うほどの轟風と地鳴りが東京エリアを駆け抜け、さらにその後には衝撃波までもがエリアを襲った。

 

 咄嗟に零子は菫を守るように抱え込むと薄目を開けて三十二号モノリスをもう一度見やる。

 

 すでにそこにモノリスの姿はなく、変わりと言う様に天高く粉塵と土埃が舞っていた。

 

 始まったのだ――第三次東京会戦が。

 

 風がやんだのを見計らうと、零子はスマホを耳に押し当てて夏世に告げる。

 

「夏世ちゃん、聞こえるかしら!? そっちは今どんな状況!?」

 

『はい、私達のアジュバントは全員そろっています。ですが、里見さん達のほうはまだわかりません!』

 

「わかったわ。じゃあ今すぐに蓮太郎くん達と合流しなさい。合流が終わったら前線基地から一キロほど進みなさい。じきに自衛隊が砲撃を始めるはずだけど、もし私が行く前にガストレアが進行してきた場合は躊躇なく殺しなさい!」

 

『わかりました! では、零子さんもお気をつけて!』

 

 零子は夏世が返答したのを確認すると通話を切って菫の方を見た。

 

「菫、私は今から行くから。けが人とかの治療は頼んだわよ」

 

「あぁわかっている、……死ぬなよ親友」

 

「互いにね……」

 

 二人は拳をぶつけ合うとそれぞれ別の方向に駆け出した。

 

 零子は愛車であるランボルギーニ・アヴェンタドールに乗り込むと凄まじい勢いで猛牛を発進させた。

 

 まさしく荒れ狂う猛牛を思わせる豪快な唸り声を上げるエンジンの振動を感じながら、零子は逃げ惑う人々の間を縫うように車を操る。

 

 途中大きく曲がるところがあったがそこは持ち前のドライビングテクニックの一つ、ドリフトを敢行して曲がりきった。

 

「……間に合えよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零子との通話を終えた夏世はテントにいる凛達に告げる。

 

「皆さん、零子さんは今真っ直ぐこちらへ向かっています。私達は里見さん達と合流するようにとのことです」

 

「了解、それじゃあ行こう」

 

 凛はそれに立ち上がると皆の顔を見回す。すると皆はそれに答えるように頷いて立ち上がるとそれぞれ自分達の得物を装備して蓮太郎たちのテントへと向かう。

 

 前線基地はかなりの混乱状態であり、皆どうするべきかと手をこまねいているようだった。

 

「どうすんだよこの状況!」「知るかよ!」「自衛隊は大丈夫なのか!?」「だから俺に聞くんじゃねぇよ!!」

 

 他のアジュバントのメンバーが言い争っているのを尻目に凛達は真っ直ぐに蓮太郎たちのテントを目指す。

 

 しばらく進むと人ごみの中に蓮太郎達が確認でき、凛は彼らに声をかける。

 

 どうやら蓮太郎たちもその声に気が付いたようで、凛達の下へ駆け寄ってきた。

 

「蓮太郎くん、全員いるかい?」

 

「ああ、そっちは!?」

 

「零子さんがまだ来ていないけどすぐに来るよ。それで、零子さんからの指示だけれど聞いてくれるかな?」

 

 凛が言うと全員が頷いた。すると凛は傍らにいる夏世に説明をするように促した。

 

 夏世は一歩前に出ると軽く咳払いをして皆に告げた。

 

「零子さんから指示されたものは至って単純です。里見さん達と合流した後、ガストレアの襲撃に備えるためここから一キロほど進むとのことです。しかし、最終決定権は序列が一番上である里見さんに任せるとのことです」

 

「わかった……」

 

 蓮太郎は口元に指を当てて考えること数瞬、全員の顔を見回した蓮太郎は力強く言い放った。

 

「行こう。恐らく他の民警たちも動くはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全く予期しなかったタイミングでのモノリス倒壊により、民警が態勢を立て直すにはそれなりの時間がかかった。

 

 しかし、一キロ以上の高さがあるモノリスが倒壊しての現状は予想を大きく上回る程だった。

 

 白化したモノリスが崩れた影響によりモノリス灰が天高く舞い上がり、まるで雲の様に広がると太陽光を完全にシャットアウトしてしまっていた。

 

 時刻は午後七時を回っており、夏場であれば空が暗くなってくるころあいだ。

 

 既に零子も合流しており、今は凛達と同じように自衛隊が展開しているモノリス近くを見据えていた。

 

 あの後、凛達が移動するとほぼ同時に我堂長正から十個単位のアジュバントを纏めている中隊長に指示が下り、民警軍団は遠くモノリスの前でガストレア軍を待ち構えている自衛隊からの要請を待っていた。

 

「なぁ凛」

 

「なんだい?」

 

 凛の傍らで不機嫌そうな顔をして腕を組んでいるのは澄刃だ。彼は頭をガリガリと掻きながら未だ何も動きがないガストレア軍と自衛隊を見ていた。

 

「どっちが勝つと思うよ」

 

「……無難に行けば自衛隊かな。彼らは第二次東京会戦も経験しているからガストレア自体にはさほど遅れは取らないと思うよ。だけど、今回は予期していないことが重なってるからどうなるか」

 

「確かにそうですね」

 

 難しい顔をして言う凛に答えるように夏世が静かに言葉を繋いだ。

 

「明日であればまだ自衛隊が有利であったかもしれません。しかし、今回は今凛さんが言ったとおり全く予期せずにモノリスが崩壊しました。それにより舞い上がった土煙とモノリス灰のせいで自衛隊の視覚はないといっても過言ではないでしょう。

 それに、彼ら自衛隊が私達に援助を求めるとも思えません。彼らには彼らなりのプライドがありますからね。だけれど今はそんなことを言っている場合ではありません」

 

 夏世の大人びた発言に澄刃は短く「ヒュゥ」と口笛を吹いて見せた。

 

 その瞬間、砂塵の中からガストレア軍団の地を這うような唸り声や咆哮が聞こえ、民警全体が体を強張らせた。

 

 同時に砂塵の中で赤き光が迸った。

 

 そして耳にする戦争の音、自衛隊の遠距離武装である戦車砲、自走砲、機関砲、その他多数の銃火器が一斉に火を噴いたのだ。

 

 かなり離れている民警たちの下にまで届いた轟音が鳴り響き、砂塵の中で焔が舞う。

 

 滲み出るは紅と黒の境界線。まさに戦争、生き残るための死力を尽くした戦争が始まったのだ。

 

 隊列を組んで現れたガストレアは最初の列が吹き飛び、その穴を埋めるようにガストレアがなだれ込む。

 

 火焔の熱気が凛達の肌をなで、鼻腔につんと来る硝煙や火薬の香りが風に運ばれてやってくる。

 

 赤き戦場をじっと見つめながら誰も声を発する事はなかった。ただ皆は目の前で広がる戦場に息を呑んで見守ることしか出来なかった。

 

 そして砲撃が始まって凡そ五時間ほどたったところで、彰磨と玉樹が凛に声をかけた。

 

 三人は先ほどいた場所から数メートル下がると円を作りながら話し合う。

 

「どう見るよ、凛」

 

「どっちが勝つかってこと?」

 

「いいや。自衛隊からの要請がねぇことだ。さすがにおかしくねぇか? 相手は二千体もいるんだぜ? どう考えても自衛隊だけで済む話じゃあねぇ」

 

 腕を組んで眉間に皺を寄せる玉樹は大きくため息をついた。確かに凛も玉樹の言う事はもっともだと思う。

 

 自衛隊が過去にガストレアを退けたのは確かな戦果であるため民警の協力を得たくないと言うのが彼らのプライドの表れなのだろう。しかし、今回の敵はアルデバランだ。

 

 しかも話に聞く限りでは戦闘機でアルデバランを直接叩こうとしても、途中で戦闘機が撃墜されてしまったらしい。これによりアルデバランのほかにもう一体何か強大な存在がいるのではないか。

 

 もちろん自衛隊もそんな事はわかっているのだろうが、それでも彼らは民警たちに援助は求めたくないのだろう。

 

「この戦いで意地を張るべきではない。皆で協力すべきだろうに」

 

 彰磨が小さくため息をつきながら未だに鳴り止まぬ砲撃を見据えていた。

 

 時折聞こえるのはガストレアの轟吼に奇声、そしてその中に混じって断末魔も聞こえた。

 

「つーか、要請が来たとしても中隊長がアレじゃあな」

 

 玉樹が顎でそちらを差すと、そこにはメガネをかけてグレーの外骨格に身を包んだ男性と、彼の傍らに佇む少女の姿があった。

 

 男性の名は我堂英彦、他でもない我堂長正の実子だ。しかし親である長正の豪快さは全くなく、端から見るとナヨナヨとしたイメージが強い。

 

 彼はずっと何かを祈るように手を合わせていた。大方自衛隊が勝つことを望んでいて自分に何も来ないことを祈っているのであろう。

 

 実際彼は訓練時でも命令が遅いなどの不安要素が多かった。しかし、もっとも危険なのは決断力がないことであろう。

 

 長正であればきっぱりと決断できる場面であっても、彼はわたわたとするのも多かったのだ。

 

「あれじゃアジュバントの統率なんて無理だぜ」

 

「……残念だがそれに関しては俺も同意だ」

 

「……まぁあの人先頭向きではなさそうだしねぇ」

 

「あんなのが中隊長やるぐらいなら零子さんがやったほうがいいぜ」

 

 肩を竦めてかぶりを振った玉樹に凛と彰磨はそろって苦笑した。

 

 瞬間、急に先ほどまで鳴り響いていた砲撃音が聞こえなくなった。

 

「凛!」

 

 摩那がこちらに手招きをする姿が見えたので彼らがそちらに行くと、彼らの目の前に広がったのは砲撃による紅ではなく、黒々とした夜の闇だった。

 

「どうなったの?」

 

「わかんない。急に段々音が小さくなっていって今はもう全然」

 

 全てを見ていたであろう摩那が困惑した表情でいると、蓮太郎が英彦の下まで行くのが見えた。恐らく何かしらのアクションを起こしたほうが良いとでも助言をしにいったのだろう。しかしそんなことが彼に通じるかどうか。

 

「さて……自衛隊はどうなったかしらね」

 

 零子は神妙な面持ちで目の前に広がる闇を見ている。すると杏夏の傍らで彼女の手を握っていた美冬が緊張した様子で皆に告げた。

 

「二キロほど先に人影がありますわね。それも五十人近く」

 

 蓮太郎が弾かれたように美冬を見て彼女がコウモリの因子を持つイニシエーターであることを思い出す。

 

 さらにそれから数分の後、鷲の因子を持つ香夜とフクロウの因子を持つティナも同じように説明した。

 

 だが、やはり夜行性ではない鷲の因子はいまいち夜向きではないのか香夜は若干苦戦しているように見えた。

 

 そして皆が緊張した面持ちで暗闇を見つめていると、暗闇から先ほど三人が言ったように五十人ほどの自衛隊員が姿を現した。

 

 暗いため表情はうかがえないが、人間が出てきてくれたことに民警は皆どこか安堵した表情を浮かべていたが、凛達はいまだに緊張を解いていなかった。

 

 ……何だろう妙に胸がざわつく。

 

 凛が胸を握り締めていると、隣のアジュバントからイニシエーターの少女が自衛隊員を労おうとしたのか駆け出す。

 

 しかし、それから数秒後に凛の隣にいた摩那が駆け出した。

 

 地面が抉れるほどに大地を蹴った摩那の瞳は赤熱しており、力を解放していることがわかった。

 

 その瞬間、凛の脳裏に最悪の光景がよぎり彼もまた駆け出すと顔を綻ばせている民警たちの背筋を正すような一喝を入れた。

 

「総員!! 戦闘準備!!!!」

 

 恫喝が響き渡り、民警たちは一瞬なにを言っているんだ? と言うような顔をしたが蓮太郎たちはその意図が理解できたのかそれぞれ自分の得物を構えた。

 

 それと同時に最初に駆け出した少女が目の前にいる自衛隊員の異常に気がつき、彼の眼前で足を止める。

 

 自衛隊員の空虚な瞳を何処に向けることもなく歩いており、その首から下は真っ赤な血がこびり付いており、腹からは血塗れた臓物がこぼれ出ていた。

 

 少女は振り向こうとしたがその瞬間、彼女をあざ笑うかのように二本の黒い鋏が彼女の首を刈り取った――はずであった。

 

 見ると少女を摩那が頭を引っ込めさせるように抱え込んで低い態勢のまま体を反転させていた。彼女の頭上には鋏があったが、摩那はそれに恐れることなく彼女がいたアジュバントまで彼女を運ぶため疾走する。

 

 途中凛とすれ違った摩那に凛は頷くと、そのまま異形の鋏を携えた自衛隊員――いや、自衛隊員だったものと対峙する。

 

 瞬間隊員の体が内側から爆散し中からサソリと思しき姿のガストレアが姿を現した。

 

 ガストレアは品定めするように凛の体をその赤い瞳で見る。

 

 だが、残念なことにサソリのガストレアはこの世に生を受けたこの瞬間、その命を散らすこととなった。

 

 凛が容赦のない刀の一閃を放ったのだ。

 

 真っ二つに引き裂かれたガストレアの死体からはどす黒い血が噴出す。しかし、凛が真っ直ぐに前を見据るとそこには赤い光が列を成していた。

 

 それらは上下しており移動していることがわかる。さらには先ほどいた五十人近い隊員たちも皆ガストレア化しすでに複数のアジュバントに飛び掛っていた。

 

 背後で聞こえる悲鳴に凛が顔をしかめていると、先ほど助けた少女を送り届けた摩那がクローを装備した状態で戻ってきた。

 

「あの子は?」

 

「無理。戦いには参加できそうにないね、かなり震えてたし」

 

「プロモーターの人は何だって?」

 

「さすがにこのままじゃ可哀想だから自分達は退くってさ」

 

 賢明な判断だ。凛は彼女のプロモーターが良心的でよかったと心の中で安堵した。

 

 すると、長正がいる中央列から照明弾が放たれそれに呼応するように中隊長達が照明弾を発射した。

 

 その光に照らされ、いよいよガストレア軍の姿が垣間見えた。

 

 まさに無数とも呼ぶべきガストレアの大群が約一キロ程先におり、こちらに着実に進撃を開始していた。

 

「多いねぇ」

 

「ざっとで三千……いいやもっといるかな」

 

 この絶望的な状況でも凛と摩那は冷静に対処しており、焦り一つ見せなかった。

 

 やがて背後にいた蓮太郎達が凛の元までやってくると同時にガストレアたちが吼えた。

 

 二千を超えるガストレアの咆哮は大気を揺らし、民警たちに絶望を運んでくるようだった。

 

「うそ……だろ……」

 

 蓮太郎が茫然自失といった表情で呟くが、すぐに自分の頬をはたくと余計な雑念を振り払う。

 

 そして彼はそのまま深呼吸をするとXD拳銃を抜き放つ。背後では上ずった声で英彦の「そ、総員! 戦闘配置!!」という声が聞こえていた。

 

「行けるかい?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

 凛が問うと蓮太郎は若干緊張した面持ちながらもガストレアをにらみつけた。距離は凡そ二キロを切った。

 

 すでに他のメンバーは自身の得物に手をかけていたり、戦闘態勢に入っていた。

 

 この間にもガストレアの大群は迫り、感覚は残り一キロとなった。

 

 既にアサルトライフルを構えたアジュバントがガストレアを迎え撃っていたが、最前列が破れればその穴を塞ぐように次々にガストレアが顔を出すため減っているためしがない。

 

 すると零子が蓮太郎の肩に手を置いて静かに告げた。

 

「いい? 蓮太郎くん。いちいち他人の許可を取る必要はないわ。自分が成すべき事、信じたことを成し遂げなさい」

 

 彼女は言いながら眼帯をほどき、二十一式義眼を解放する。そして両手に持つは黒き愛銃。彼女の隣にいる夏世はショットガンを構えた。

 

 ガストレアとの距離五百メートル。

 

 そこで動いたのはまたしても凛と摩那であり、さらにそれにくっついていく様に澄刃と香夜も駆け出した。

 

「じゃあとりあえず敵部隊を少しでも減らしてきますね」

 

「蓮太郎たちは後から来る奴等お願いねー」

 

「さぁて久々に暴れるかぁ!!」

 

「あんま無理せんといてなぁ、澄刃」

 

 四人はガストレア軍の眼前まで行き着くと、そこで凛と澄刃がそれぞれバラニウム刀を抜いた。

 

 それと同時に放たれた剣閃がガストレア軍の一角を斬り飛ばした。

 

「そら行くぜぇ!! 耐えてみろやぁ!!」

 

 澄刃はにやりと笑うと空いた穴を塞ごうとするガストレアの頭を吹き飛ばした。そんな彼を横から押しつぶそうとするようにガストレアが雪崩れ込むが、そこでガストレアが一瞬にしてばらばらにされた。

 

「澄刃君周りにも気を配らないと」

 

「わーってんよ。つーかアレぐらい俺でも対処できるっつの邪魔すんな」

 

「それは失敬、次からは気をつけるよ」

 

 肩を竦めた凛であるが、彼はしゃべりながらもガストレアを斬り刻んでいく。

 

「二人ともさっすがー。私達も負けてらんないね香夜」

 

「せやなぁ、まぁぼちぼち頑張るとするかえ」

 

 摩那はクローでガストレアのやわらかい腹部に潜り込むと下からアッパーカットをするように斬り挙げた。

 

 ガストレアは断末魔の叫びを上げるが、摩那はそれを。

 

「うるさいッ!!」

 

 と短く言い放ち首を抉った。

 

「ひゃーエグイなぁ摩那……」

 

 と香夜がそこまで言ったところで彼女の背後からガストレアが飛び掛るが、次の瞬間その体は蜂の巣にされた。

 

「ウチもなんやけど」

 

 口元を押さえてクスクスと笑った香夜はそのまま次の標的へと向かう。

 

 まだ戦闘が開始されて間もないが、この時点で狩られたガストレアの数は十を軽く超えていた。

 

 四人の羅刹のような戦いぶりに口を半開きにさせたまま蓮太郎達が驚いていると、その背中を杏夏が軽く叩いた。

 

「ホラ、ぼさっとしてないで行くよ蓮太郎!」

 

「あ、あぁ」

 

 杏夏に言われ蓮太郎達も彼女達に続いて駆け出し、ガストレアとあと少しといったところでティナが空を指差して声を張り上げた。

 

「お兄さん! 空を見てください!!」

 

 その言葉に反応したのは蓮太郎だけでなく、零子たちもまたしかりだった。するとちょうどよく照明弾が発射され空にいるガストレアの姿があらわになった。

 

 空を飛ぶ飛行型ガストレアだが、蓮太郎達にとって一番気になったのはその足の持っている丸い物体だった。

 

 ……まさか!?

 

「別働隊だって言うのかよっ……!」

 

 その蓮太郎の呟きをバカにするかのように空では飛行型ガストレアが旋廻していた。




東京会戦開始ィィィィィィィィィッ!!!!!

しょっぱなから死ぬはずだった幼女を救ってみました。アブネー……
次は光の矢が出てガストレアが一時撤退するところまで書いてって感じですかね
あとは予告としてもう一つ、あの人たちが出るかもです。 ハレルゥゥゥヤァァァ!!!!

では感想などあればよろしくお願いします。

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