ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第十五話

 親睦会から数日。今日は凛と蓮太郎が二人で聖天子に今回の任務を了承することを伝えにきたと同時に彼女に呼ばれていたのだ。

 

 しかし、聖居に近づくにつれ蓮太郎の溜息がドンドン多くなっていった。

 

「その様子からすると随分気乗りしないみたいだね」

 

「……まぁ叙勲式のとき色々あったしな。流石に忘れることは出来ねぇし」

 

 蓮太郎が言っているのは自らが叙勲式のときにやってしまった聖天子に掴みかかろうとしたことだろう。

 

「あれはねー、僕と零子さんも見てたけど確かにやっちゃったよねー」

 

「笑い事じゃねぇって」

 

「でもそんなに気にすることもないんじゃない? 聖天子様優しいし」

 

 凛は小さく笑っていたが、蓮太郎はいまだに気乗りしていないのか溜息がやむことはなかった。

 

 その後、凛と蓮太郎は聖居前までやってくると、門の前に控えていた守衛に用件と名前を告げた。それを聞き取った守衛は中と無線で連絡を取り合うと、凛と蓮太郎は守衛に挟まれた状態で聖居内へと向かった。

 

 二人はてっきり以前と同じく玉座に通されるのかと思いきや、通されたのは記者会見室だった。

 

 しかし、報道官やカメラの姿はなく、壇上では聖天子と秘書官のような人物が数名立っており、どうやら会見のリハーサル中のようだった。

 

「……聖天子様もリハとかするんだね」

 

「……まぁあの人も人の子ってわけだよな……うおっ!?」

 

 小声で話していた二人だが、蓮太郎がずらりと並べられたパイプ椅子の背もたれに体重をかけた瞬間、体重のかけ所が悪かったのか大きな音を立てて椅子が倒れた。

 

 その場にいた全員の視線が蓮太郎にそそがれるが、聖天子は二人の姿を確認するとクスッと笑いかけた。

 

「ごきげんようお二人とも。時間通りですね」

 

「どうも聖天子様」

 

 凛は彼女に頭を下げるが蓮太郎は掴みかかろうとしたことが脳裏をよぎったのか、後頭部を書きながら彼女に謝罪した。

 

「その、この前は悪かった」

 

「いいえ、気にしていません」

 

 聖天子が頷きながら答えると、蓮太郎は謝罪するように軽く頭を下げた。

 

 すると、聖天子の隣に控えていた鋭角的な眼鏡をかけた女性が凛達を見ながら聖天子に問うた。

 

「聖天子様、この方たちは?」

 

「清美さんは初めてでしたね。白髪の男性の方がIP序列666位の断風凛さん。そして、こちらがステージⅤから東京を救った里見蓮太郎さんです」

 

「里見蓮太郎って元歌のお兄さんでゲイバーのストリッパーのっ!?」

 

 清美と呼ばれた秘書官らしき女性が口元を抑えて驚愕の表情を浮かべるが、蓮太郎はそれにいらだたしげな声で言い返した。

 

「ちげぇよ!! なんだよ元歌のお兄さんでゲイバーのストリッパーって!! 最近ネットで色々言われてるけどどれもこれも身に覚えがねぇわ!」

 

 蓮太郎は大きな声で否定していたが、凛は持っていた携帯で『里見蓮太郎 ゲイストリッパー』で検索してみたところ、かなり多く検索結果が出てきた。

 

 恐らくネットで広まるうちにあらぬ尾ひれがドンドン付いていった結果変なうわさが広まったのだろう。その他にも『元シイタケ栽培技師』とか『元開運アドバイザー』とか『元アニマルセラピスト』などと言ったものがあった。

 

 ……変に情報規制されてたからすごいことになってるなぁ……。と言うか元歌のお兄さんでゲイバーのストリッパーってどうかと思うけど……。

 

 肩を竦め携帯をポケットにしまいこんだ凛は聖天子の前に歩み寄る。

 

「聖天子様、今日は依頼の了承をしに参りました」

 

「ありがとうございます、お二人とも」

 

 彼女はそういうと周囲の人間に視線を向け、皆を下がらせた。

 

 壇上に聖天子以外がいなくなったところで、彼女は凛と蓮太郎の下に近寄った。

 

「実は明後日、大阪エリアの代表である斉武大統領が非公式で東京エリアに訪問します」

 

「それはまたどうして?」

 

「ご存知かとは思いますが、現在この日本は札幌、仙台、大阪、博多。そしてここ東京の五つに分かれていて、それぞれに国家元首がいます。そして、その中の一人である斉武大統領が先日急に東京エリアに寄るという事で私との会談を申し込んできたのです」

 

 聖天子の言葉に蓮太郎は驚いていたが、凛は落ち着いた様子で口元に手をあて考えこんでいた。同時に彼は室内に入ってから菊之丞がいないことを思い出した。

 

 ……確か菊之丞さんはロシア辺りに訪問中だっけ。なるほど、斉武大統領が『いま』くるのは菊之丞さんがいないのが原因か。

 

 昔菊之丞が言っていたことだが、二人は大戦前からの因縁関係にあったらしい。その敵のいない留守を狙ってくるということなのだろう。

 

 どうやら聖天子もそれはわかっていたようで、蓮太郎に話していた。

 

「で? 護衛ったって何処をすりゃあいいんだ?」

 

「はい。お二人には移動中の護衛、斉武大統領との会談の席では後方に控えていて欲しいのです」

 

「なるほど、凛さんもいいか?」

 

「うん。僕は大丈夫」

 

 凛は頷くが、蓮太郎が思い出したように聖天子に問うた。

 

「まぁ俺達がアンタの護衛をするのは別にいいんだけどよ。アンタにはもう護衛がついてんじゃねぇか」

 

「ええ。ですからそれを今紹介しようとしたところです。入ってきてください」

 

 聖天子が促すと、軍靴をならしながらすばやい動きで男達が会見室に整列した。テレビのニュース番組などでよく目にする聖天子付きの護衛官達だ。

 

 彼等の装いは白い外套に制帽で、腰には銃が差してある。パッと見では護衛官と言うよりも第二次大戦の頃の憲兵達にも見えてしまう。

 

「ではご紹介します。こちらが隊長の保脇さんです」

 

 聖天子が言うと、保脇と呼ばれた長身の男性は人のよさげな笑みを浮かべ蓮太郎と凛の前に歩み出ると、握手を求めるように右手を差し出した。

 

「ご紹介に預かりました、保脇卓人です。階級は三尉で護衛隊長をやらせていただいています。任務中もしも何か起こったときはよろしくお願いしますね。里見くん、断風くん」

 

 にこやかな笑みを浮かべている保脇であるが、蓮太郎は保脇が出している右手を無視した。凛はそれに小さく笑うと、それに謝るように保脇と握手を交わす。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。保脇三尉」

 

 凛の方もとても人のよい笑みを浮かべていはいるものの、内心では保脇が見せたほんの一瞬の苛立たしげな表情を見逃さなかった。

 

 同時に、凛は保脇が自分達のことを快く思っていないということも見抜く。

 

 ……明らかに僕達のことを邪魔者としてみているみたいだね。だけど、一番気に食わないのは蓮太郎君のことかな。

 

 保脇との握手を終えた凛は聖天子のほうを見やる。どうやら蓮太郎が保脇の握手を拒否したことを咎めている様だ。

 

 それを見た保脇は聖天子に首を振りながら蓮太郎の行動を咎めることはしなかった。

 

 すると、聖天子が時計を確認し先程の秘書官を呼んだ。秘書官は蓮太郎と凛に一枚の紙を渡した。

 

「では、こちらに必要事項などを記入した上で後ほどご連絡ください」

 

「私もそろそろ次のスケジュールが押していますので、これで失礼しますね」

 

 聖天子はそう告げると護衛たちをと共に記者会見室から出て行ってしまった。その場に残された蓮太郎と凛はその姿を見送るが、蓮太郎が呟いた。

 

「……出口どっちだよ」

 

 しかし、凛はそんな彼の肩を軽く叩くと、

 

「大丈夫。道順は此処にくるうちに覚えてるから」

 

「結構記憶力いいな凛さん……」

 

「そうかな? まぁでも用は済んだことだし行こうか」

 

 その言葉に蓮太郎も頷き、二人は記者会見室を後にした。

 

 聖居の中を出口を目指して歩く凛と蓮太郎は二人で互いに話し合っていた。

 

「どう思う?」

 

「護衛任務の依頼か?」

 

 凛はそれに頷くと廊下を歩きながら語る。その瞳は真剣そのもので有無を言わさない迫力があった。

 

「なーんか嫌な予感がするんだよね。前回みたいに聖天子様が何か隠しているわけではなさそうだけど、何かがおかしいんだよね。例えば、既に結構やり手の護衛官があんなについているのにわざわざお金を払って僕達民警を雇う理由とか」

 

「金がらみではなさそうだよな。けど、護衛官のやつらならまだしも護衛任務なんて早々回ってこない俺等にとっちゃ結構重責だよな。そんなのを任せられるか?」

 

「どうだろうね。けどまぁそれは――」

 

 凛は小さく不適に笑うと、目にも止まらぬ速さで冥光を鞘のまま腰から抜いた。その行動に蓮太郎はぎょっとしてしまうが凛が自分に目配せをしたことを感じ取ると、右に飛び退き壁に背中をぶつけた。少し強く飛びすぎたようだ。

 

 しかし、背中をさすりながらも蓮太郎は目の前に広がる光景に目を見開いた。

 

 そこには先程聖天子といなくなったはずの護衛官の一人と、そんな彼の喉仏に刀が納められている鞘の先端、小尻を突きつけている凛の姿があった。

 

「――この人達に聞いたほうが早いかもね」

 

 ニヤリと笑った凛であるが、喉仏に刀を突きつけられた護衛官の男はその笑みに若干の恐怖を覚えたのか一方後ろに引き下がった。

 

「さぁて、なんで僕達を襲おうとしたのか聞かせてくれませんかね?」

 

 首をかしげながら聞く凛であるが、男は凛から視線をそらした。

 

「そこまでだ」

 

 ふと凛の後方でカチッと言う拳銃の撃鉄を起こす音が聞こえた。凛はそれに振り向かないが、蓮太郎が凛の背中を守るように立ちはだかり、XD拳銃に手をかける。

 

「あれ? 護衛官が聖居で銃を撃とうとしていいんですか? 保脇三尉」

 

「ふん、僕の部下が襲われているんだ。これぐらいは出来るに決まっているだろう」

 

「……ざっけんな。最初に襲ってきたのはそっちだろうが」

 

 蓮太郎がはき捨てるように言うと、保脇は憎々しげに二人を睨むと「おい」とだけ告げ、凛に刀を突きつけられている男を下がらせた。

 

 凛もそれに反応し冥光を納めると蓮太郎と同じように保脇と向かい合った。

 

「単刀直入に言う。貴様等今回の依頼を受けるな」

 

「それは無理なご相談です。この任務は拒否することは出来ないと言われているので」

 

「フン、そんなもの何か理由をつけて断ればいいだろう。それに、聖天子様には我々護衛隊が付いている。貴様等民警の力など借りずとも守り抜ける。……だが、一番気に食わないのは貴様だ里見蓮太郎」

 

「あぁ?」

 

 保脇に銃口を向けられながら蓮太郎は彼を睨むと、保脇は更に眉間に皺を寄せ憎悪を込めた言葉を吐いた。

 

「何故貴様があの方の後ろで護衛をする? 貴様などたまたまあの場にいただけで、偶然レールガンが当たったに過ぎないじゃないか。あそこに僕がいればゾディアックを倒したのは僕だ。何が英雄だこの成り上がりのガキが」

 

 先程の笑顔は何処へやら。

 

 まるで親の敵を見るような目で蓮太郎と凛を睨む保脇は更に続けた。

 

「第一、僕は天童閣下に任されたのだ。なのに何故だ? 何故貴様のようなヤツに聖天子様の護衛をさせなければならない?」

 

 保脇の言葉には明らかにある感情が出ていた。それは怒りでもあるが、一番の感情は『嫉妬』だ。自身だけが聖天子の傍にいる最大の特権を奪われてしまったことによる醜い嫉妬。

 

 それに気が付いた凛はやれやれと言った様子で肩を竦めるが、保脇が急に笑みを浮かべた。しかしそれは、幸福から来るような物ではなく、もっと暗く、人間の淀んだ感情からきている笑みであり、彼は開いた口からべろりと生理的に受け付けたくない舌なめずりをした。

 

「なぁ貴様等、聖天子様も16歳だ。そろそろ世継ぎを残されるべきだとは思わないか?」

 

「……なるほど、結局はそういう魂胆かよ」

 

「……うわー、キモイですねー。さっき握手した時も手がべたべたしてたし……」

 

 蓮太郎は舌打ちをし、凛は先程握手を交わした手を汚いものを触った後のようにパタパタと振った。

 

 その行動が保脇をさらに怒らせることとなったのか、彼は額に血管を浮き立たせわなわなと拳を震わせていた。

 

「貴様等ぁ……!! 僕を馬鹿にするのも大概にしろよ!」

 

「馬鹿にも何も……実際キモイこといってるのは事実じゃないですか。ねぇ蓮太郎くん」

 

「だな、三十過ぎのオッサンが十六の聖天子様に欲情するとか目も当てられねーぜ」

 

 二人のその言葉についに堪忍袋の尾が切れたのか、保脇は目を血走らせながら部下に命じた。

 

「やれ、お前達! あいつ等の四肢の骨を砕け!!」

 

 その掛け声と共に保脇を取り巻いていた男達が一斉に凛達に襲い掛かってきた。凛は小さく笑うと蓮太郎の肩をたたいた。

 

「左はよろしく」

 

「ああ」

 

 二人は同時に駆け出し、凛は冥光を鞘に抑えたまま向かってくる護衛官の首筋に冥光を叩きつけた。「ガッ」と言う短い悲鳴が聞こえたかと思うと、護衛官は首筋を押さえる。

 

 しかし、それでも護衛官の男は凛を押さえつけようと体全体でタックルを仕掛けてくる。凛はそれに小さく笑うと男の懐に自らもぐりこみ、男の鳩尾に柄頭を思い切り叩き込んだ。

 

「ガハッ!?」

 

 その途端男が一瞬呼吸を止め、身体をくの字に折り曲げた。凛はそのまま流れるような動きで男から離れると、一気に保脇に迫る。

 

 蓮太郎もまた自身の相手を天童流で下しXD拳銃を抜き放ち銃口を保脇に向け、彼の鼻先に銃口を突きつけ、凛も保脇の喉仏に小尻を突きつけた。

 

「まだやるか?」

 

「くっ……!」

 

「流石に聖居でこれ以上騒ぎを起こすのもどうかと思いますけど?」

 

 二人に言われ、保脇はギリッと歯軋りをすると二人を睨みながら一歩後退し、憎しみの言葉をはき捨てた。

 

「……殺してやるッ! 絶対に殺してやるぞ、里見、断風ッ!!」

 

 彼はそのまま部下達とわらわらと消えていった。その後姿を睨みつつ、XD拳銃をホルスターに納めた蓮太郎は隣にいる凛に溜息をつきながら告げた。

 

「あれ完全に逆ギレだよな?」

 

「だね。でもどうする? 殺害予告されちゃったけど」

 

「どうするもこうするも……殺されねぇようにするしかなくね?」

 

 肩を竦める蓮太郎に対し、凛も小さく笑って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 聖居を出た凛は蓮太郎と分かれ会社に戻った。

 

 いつ戻り事務所の椅子に腰掛けた零子に対し、凛は先程あった出来事を話した。

 

「……なるほど、いくら聖天子付きの護衛隊といっても誠実勤勉と言うわけには行かないようだな」

 

「はい。むしろ下心丸出しでしたよ。僕でさえ気持ち悪いって思いましたし」

 

「ハハッ! 君に気持ち悪いといわれるとはその保脇と言う男はかなり気持ち悪いんだなぁ。杏夏ちゃんはどう思う?」

 

「気持ち悪いですよ!! 最低のクソ野郎です! 生ゴミとしてゴミ処理場に送りたい気分ですっ!」

 

 話を聞いていた杏夏も拳を握り締め怒りを露にしていた。確かに自身と同じ女性の聖天子をその様な目で狙っているやからがいるとすればイラつくのは当たり前か。

 

 零子はそれに笑みを零した。

 

「やれやれ、厄介な任務だな。しかし、拒否権はないわけだ……やれるか?」

 

「勿論。まぁ色々面倒なことはありそうですが」

 

「その辺は仕方ないな。……だが、もし今日のように襲われたりしたら今度は問答無用で無力化して構わん。好きにやれ」

 

 凛はそれに頷くと彼女に頭を下げた。すると、零子は「話は変わるが……」と言いながら机の引き出しから三枚の紙を取り出した。

 

 それには診断書と書かれており、氏名のところには摩那、美冬、夏世の名前が書かれていた。

 

「彼女たちの診断書だ。ガストレアウィルスによる体内侵食率だ」

 

 零子が言った瞬間凛と杏夏の顔に緊張が走る。杏夏は席を立ち零子の机まで来ると美冬の診断書を取った。

 

 その様子を心配してか零子はなだめるように優しげな声で告げた。

 

「大丈夫だ。三人ともまだまだ侵食率は低い」

 

 確かに零子の言ったとおり、それぞれの侵食率はそこまで高くはなかった。

 

 見ると摩那の侵食率は21.1%。美冬の侵食率は20.3%。夏世の侵食率は二人と比べると僅かに高いものの、まだ危険域には程遠い26.8%だった。

 

「幸い皆まだ20%の領域を出ていない。それも君達が彼女達に力を使わせないおかげだな」

 

 零子は薄く笑うが、夏世の侵食率が高かったことを気にかけているのかその瞳は少し悲しげだった。

 

「さて……暗い話をしてしまったな。そろそろ帰っていいぞ」

 

 その言葉に従い、凛と杏夏は軽く頭を下げ会社を後にした。

 

 

 

 

 

 

「それにしてもよかったですね。三人とも何も無くて」

 

 帰り道、夕日に照らされる家路を凛と並んで歩いていた杏夏はホッと胸を撫で下ろすように息を吐いた。

 

「そうだね。けどこれからも気は抜けないね、あの子たちには極力力を使わせないようにしないと」

 

「ですね」

 

 杏夏も覚悟を決めたように拳を握り締めたが、彼女の腕にはまだ包帯が巻かれていた。

 

「包帯、いつ取れるんだっけ?」

 

「えーっと確か来週の終わりごろには取れたはずです。もう痛くないんですけどお医者さんがちゃんと骨と骨がくっつくまであまり動かすなって言ってて」

 

「まぁ骨はちゃんとくっつけた方がいいからね。けど、それならよかった」

 

 凛は何の気無しに杏夏の頭をなでたが、その瞬間彼女の頬が真っ赤に染まった。

 

 しかし、夕日で照らされているためか凛がそれに気が付いた様子はない。

 

 ……うぅ~……。凛先輩ってこういうの本当に自然にやって来るんだもん心の準備が出来ないよ。

 

 凛になでられ自身が高揚していることに気が付く杏夏であるが、凛は全くそれに気がついていない。

 

 この一連の様子からもわかる様に、春咲杏夏は断風凛のことが男性として好きなのである。それは既に零子や美冬も知っていることだ。

 

 好きになったのは今から数年前、凛との合同任務の時彼が杏夏をガストレアから守ってくれたことから始まる。

 

 最初は感謝こそすれど好きだという感情は芽生えていなかった。しかし、その後段々と一緒に仕事をこなしたり、凛の何気ない優しさに触れたりする後とに段々と男性として意識してしまうようになってしまったのだ。

 

 勿論当初はそんなことが信じらえず否定しようとしていてのだが、凛が綺麗な女性と話していれば妙にイラついたり、摩那と楽しげに遊んでいれば自分とも遊んで欲しいという感情が芽生えるようになってしまった。

 

 そして、既に気付いた時には時遅くどうしようもな凛が好きになってしまっていたのだ。本当は蛭子影胤を追う任務にだって行っては欲しくなかった。

 

 いつものように自分の隣でコーヒーを飲みながら一緒に仕事をしていたかったのだ。だが彼は行ってしまった。だから杏夏は凛が帰ってくるまでずっと祈り続けていた。無事に帰ってくるようにと。

 

 しかし帰って来た時には凛に抱きついてまで喜んだのに、彼はそれを仲間として心配してくれていたんだと解釈してしまったようだった。

 

 ……もう! いくらなんでも凛先輩気が付いたっていい頃だよね!? 大体摩那ちゃんとはあんなにいちゃついてるくせになんで私には……。

 

 内心で悶々と考えながら俯く杏夏であるが、ふと自身の額を何かに押される感覚がした。彼女はその正体を確認しようと前を向くが、その瞬間固まってしまった。

 

「うーん、熱はなさそうだけど……」

 

 凛が自分の額を杏夏の額にあて熱を測っていたのだ。恐らく杏夏の顔が赤くなっていたことに気が付いたのだろう。

 

「り、凛先輩!? な、なななな、何してりゅんでしゅか!?」

 

 あまりにびっくりしてしまったからか二回も噛んでしまった。

 

「うん? なにって熱測ってるんだよ。顔真っ赤だったし」

 

「そ、そうれならちゃんと了承を得てください!!」

 

「? 取ったよ? そしたら杏夏ちゃん頷いたじゃん」

 

「へっ?」

 

 杏夏は先ほどまでの自分の行動を思い出す。

 

 すると、彼女は思い出したようにはっとした。確かに凛のことを悶々と考えているときに顔を俯かせてしまった。

 

 恐らく凛にはそれが了承に見えたのだろう。

 

「そ、それは……いろいろ違うんですーーーーーッ!!!!」

 

 全てを思い出した杏夏は更に顔を真っ赤に染め全力ダッシュで家に急いだ。

 

「ちょ!? 杏夏ちゃん!?」

 

「ごめんなさい! 用事を思い出したのでこれで失礼しますー!!」

 

 杏夏はそのまま走っていってしまったが、彼女の口元は緩みまくっていた。

 

 結局凛はそれに気がつくことはなく、首を傾げると少々疑問を残しつつも自宅に帰った。

 

 その日の夜、摩那にそのことを話したらなぜか頭を齧られた凛であった。




意外! それは突然の恋愛要素ッ!!(CV大川透)

さぁ二日連続での投稿でございます。
そして急に始まった杏夏の恋愛要素。まぁ成就するかはわかりませんが……
影胤を追うところで凛の心配をしてた描写あったし……これぐらいあってもいいはず……。
いや、まぁいいんですぜ? 恋愛なしのバリッバリの戦闘ものにしても……けどそうすると花がないじゃないすか……。
というわけではじめてみました恋愛要素。この後も展開次第では更に増えていくかも知れませんね凛くんの彼女を決めるお話が。

では感想などありましたらお願いします。

(P.S.保脇さんプライドズタズタとか言っちゃダメ。あとキモイと言ってもダメ……いや、これはいいか)

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