咲-Saki- 天元の雀士   作:古葉鍵

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8ヶ月もエタってしまいすみませんでした。
もう忘れた方、見切りをつけた方も多いかもしれませんが、とりあえず再開です。


東場 第二局 八本場

対面に座る衣の「ふふふふーん、んーんー、ふんふふーん♪」という機嫌良さそうな鼻歌をBGMにしつつ理牌を済ませたところで、俺はあることに気付いてしまった。

衣の鼻歌が某有名RPGの戦闘勝利曲だということに、ではない。

 

「あの、そういえば東風戦か半荘戦か決めてなかったんですがどうしましょう?」

 

俺の提議に、透華らが理牌の手を止めて顔を上げる。

 

「そういえばそうでしたわね。私はどちらでも構いませんわ」

「……同じく」

「衣は半荘の方がいい! 長くあそべる!」

 

透華の発言に続いて智紀と衣も意見を述べる。

感情の読み取れない表情でぼそっと呟く智紀と、稚気溢れる笑顔で無邪気な希望を口にする衣は実に対照的だ。

それにしても近くで拝見する智紀はなかなか整った顔立ちをしている。

カテゴライズするならクール系美人といったところだが、無表情が過ぎて本来の魅力を損ねているのは勿体無いと思う。せっかくご立派なおもち(巨乳)をお持ちなのに。

寒いダジャレを交えた邪まな感想を抱いたそのとき。

 

「……?」

 

理牌を終え、手元の牌を眺めていた智紀が何かに気付いたように顔を上げた。

 

「智紀、どうかしまして?」

「……ん、何でもない」

 

智紀の行動に違和感を感じたのか、いぶかしげに透華が訊ねるも、智紀は小さく首を横に振って否定した。

智紀め、視線を向けてすらいないのに何というシックスセンスしとるんだ。女の勘ってヤツか?

とにかく、話題になる前に矛先を変えよう。

 

「そ、それでは半荘にしましょうか」

「わーい!」

 

微妙に動揺した声で俺が言うと、衣は両手を挙げて喜び、透華と智紀は頷いて承諾した。

先の対局が東風戦だったにも関わらず、今回の対局を半荘にしたのは、衣に阿ったわけではなく、単に俺にとっても都合が良かったからである。

対局の主目的が衣の力量把握であることは今更言うまでもないことだが、そのためにはより長く観察時間を取れた方が良いに決まってるし、客分として受け容れられた今ならば、滞在が長引くことによるリスクもさほど高くはない。

こうして俺と衣の希望は利害の一致を見せ、勝負は正式に半荘に決まった。

 

さて、いよいよ噂の天江衣との対局だ。

例によって前半は様子見に徹するつもりだが、データによればかなりの高火力を誇る雀士。

俺がトバされることはありえないが、透華や智紀がそうなることによって即対局終了、なんてことも十分考えられる。

状況如何によっては多少強引にでも場をコントロールして対局を維持する必要がありそうだ。

とりあえず最初は元始開闢を切っておこう。

こちらも例によって透華のギフト覚醒の件に留意してのことだが、本音を言えばそれほど危険視しているわけではない。

万が一目覚めたとしてもなんとかなるだろ、くらいの認識に今は落ち着いている。

当初より警戒レベルを落とした理由は二つ。

ひとつ、透華や純たちの実力が去年とそれほど変わっていなかったこと。

ふたつ、去年の龍門渕のオーダー(対局順)を鑑みるに、大会で当たるとしたら高確率でのどかが相手をすることになること。

ギフト全開の咲とほぼ互角に戦えるのどかなら、ギフト使用込みの透華を圧倒はできないまでも、一方的に打ち負ける、ということもないだろう。であるならば、総合力で清澄(ウチ)の有利は依然変わらない計算となる。

ま、所詮皮算用、と言ってしまえばそれまでだし、透華のギフトが未覚醒のままならそれに越したことはない、というのも確かなのだが。

結局はギフトの自重など保険にしか過ぎない。

そもそもが他人の能力使用が覚醒を促すというなら、日常的なごく至近に天江衣(ギフトホルダー)がいるのに目覚めていない事実をどう説明すればいいんだ。

あれこれ考察しつつ、起家である俺は最初の一打を切る。

ちなみに席順は、起家(東家・親)が俺、南家(下家)が智紀、西家(対面)が衣、北家(上家)が透華、となっている。

北家が理想だったのだが、最悪なことに起家となってしまった。俺が今回半荘対局を支持したのもそれと無縁ではなかったりする。

とはいえ北家になってれば東風戦にしていた、ということもないだろうけど。

俺が親である東場第一局は順調に場が進み、天理浄眼によってモニタリングしている限りでは、肝心要の衣はどうも俺と同じく昼行灯を決め込んでいるようだった。

もっとも、衣の晦冥月姫(ギフト)は効果を発揮する為に一定の溜め(・・)が必要、という制限が存在することから、今は準備期間中、という見方もできる。

いずれにせよ、衣の実力を前半のうちに確認しておきたい俺としては不都合な事態であることに変わりはない。

仕方ない、この一局は透華と智紀の観察に徹するか。

などと暢気に構えているうちに、7巡目で{東}を衣から、9巡目で俺から{九}をポンした智紀が11巡目で透華を直撃させて和がった。

 

「ロン……場風牌トイトイ(対々和)。5200」

 

【和了:沢村智紀】{一一一六六④④} {④}(ロン) {横九九九} {東東横東} ※ドラ指標牌:{2}

 

■栄和:40符3翻 5200点

白兎:25000

智紀:25000(+ 5200)=30200

衣 :25000

透華:25000(- 5200)=19800

 

 

智紀が晒した手牌をむぅ、と眉根を寄せて一瞥する透華。そして雀卓縁の点棒箱をぱかりと開いて智紀に点棒を手渡す。

 

「ひっかけの可能性を考えてなかったわけではありませんが、少々ホンチャンを警戒しすぎましたわ」

 

透華の言うとおり、智紀の河はわかりやすくピンズとソウズに寄っている。

二副露した時点でトイトイの可能性も考慮しただろうが、警戒の比重を混一色(ホンイツ)混全帯九公(チャンタ)に傾けるのは正しい判断と言えるので、読みきれないのは仕方ない。

とはいえ9巡目のポンでテンパイ察してオリるべきだったろ、なんて透華の見通しの甘さを指摘する向きもあるだろうが、彼女もまた満貫手でダマテン状態だったのを天理浄眼で把握していた俺としては、強気で仕掛けたのは無理もないと思える。

 

「油断禁物……」

 

相変わらずの無表情で智紀がぼそりと呟いた。

透華を慰めようとしているのか注意を促しているのか、はたまた和了したことを得意がっているのか、把握困難なこと甚だしい。オーラの感情色も特に際立った色は見えないし。

竹井先輩のようなタイプにとっては相性悪そうな相手だな。

付き合いが長いためか、透華は特に感銘を受けたり気分を害した様子はなかった。まぁいつものことなんだろう。

 

親が智紀に移って東場第二局。

絶賛様子見中の俺と真面目に打ってるのか疑わしい衣はそのまま、実際やる気があるのは二人しかいないという状況の中で、今度は透華が先ほど放銃した鬱憤を晴らすかのように13巡目にダマテンからツモ和がりを決めた。

 

「ツモ! ですわっ!」

 

くわっ、と顔をいからせて和了を宣言する透華。

随分気合入ってんな……まあ振り込んだ直後だから鼻息が荒くもなるか。

それにしても透華にはお嬢様っぽい外見の割に楚々とした印象がまるでないどころか、むしろ骨太なイメージしか抱けないのだが、それを正直に告げたら怒るだろうか。怒るだろうな。

 

「2000・4000、いただきますわ!」

 

【和了:龍門渕透華】{四四九九②②223377南} {(ツモ)} ※ドラ指標牌:{①}

 

■門前清自摸和:25符5翻 満貫 2000・4000

白兎:25000(- 2000)=23000

智紀:30200(- 4000)=26200

衣 :25000(- 2000)=23000

透華:19800(+ 8000)=27800

 

 

生牌(ションパイ)の{南}を待ちにして七対子(チートイ)か……。

一般的な確率としては和がりやすい待ちかもしれないが、堅いメンツ相手ではどうかな。

まあ実際和がれたわけだし、ケチをつけるつもりはないんだが。

ともあれこれで対局全体の1/4の尺を消化した。そろそろ衣もやる気を出してくれないかなぁ。

それともまさか俺が動き(実力)を見せるまで適当に流し打ちするつもりではあるまいな。そんなのお兄さん許しませんよ!

完全に自分を棚に上げた憤りを抱きつつ、なんとはなしに衣に視線を遣ったら偶然目が合ってしまった。といっても対面なわけだし、北国でキタキツネを見かけて目が合ってしまうほどに稀な出来事というわけではない。そうだ今日の夕食はシチューにしよう。って、同世代でこのネタ知ってる奴はいないか。

衣は唇を三日月型に歪め、ニヤリと笑って俺の視線を受け止めた。直後、衣の纏う気配が急激に膨れ上がる。

 

「擬態を穿つ。本懐を晒せ、フジキ。我らが黄泉比良坂(よもつひらさか)、そろそろ御戸開きといこう」

 

俺の韜晦を見抜いているのか、挑発じみた誘いをかけてくる。しかも口調が本気モード? だし。

俺は内心ぎくりとしながらも、表面上はおくびにも出さず応じる。

 

「明るいうちから胡乱なことですね。先手は譲りますから私に遠慮なくどうぞ」

 

俺の余裕とも、挑発とも取れる台詞に興をそがれたらしく、衣は薄笑いを引っ込めた。代わりに眼光鋭くこちらを見据えながら、ドスの効いた声で気炎を吐く。

 

「……あえて衣に魁を委ねるか。いいだろう――!」

 

ちみっこのくせになんつー迫力出してんだこいつ。今の衣にひと睨みされたら大の大人でもビビりそうだ。これが雀士としての天江衣の本性というわけか。

しかしこれほどとなると対戦する咲がちょっと心配だな。対局の際は強気であれと指導したことで、最近は同格以上の相手でもきちんと実力を出せるようになってきたが、気弱な性格の根っこは変わってないわけだし。

幾ばくかの懸念を抱きながら、衣から吹き付ける冷たい潮風のようなオーラの余波を受け流す。

俺にとっては心地良いそよ風同然だが、衣の晦冥月姫(ギフト)に対抗できるだけの精神力や能力を持たない雀士には大波のようなプレッシャーに感じるだろう。そして蛇に睨まれた蛙の如く萎縮してしまい、あとは煮るも焼くも衣の好きなように料理されてしまうに違いない。

 

序盤の小手調べも終わり、衣の言動もあってやおら雰囲気が緊迫し始めた東場第三局。親は衣。

重苦しい空気を反映したかのように、全く動きのないまま序盤から終盤まで粛々と盤面が進行する。

この間、透華と智紀は一向聴から手が進まず、テンパイどころか鳴くことすらできていない。手牌に対してツモってくる牌の裏目っぷりが異常すぎるからだ。

天理浄眼で視えている俺だからこそ言えることだが、偶然というには余りにも不都合に出来すぎた山の配列に原因がある。こうした事態は低確率であってもありえないことではないし、普通に考えるならたまたま偶然が重なっただけと見るべきなのだろう。

だが今回起きている事の本質はそうじゃない。

今更言うまでもないことだが、衣のギフトが悪さしているからだ。具体的に言えば衣の支配系能力が場を覆い、恣意的な結果を導いている。

とはいえ、能動的に状況を動かすことは困難であっても不可能ではない。

衣の能力(ギフト)を理解した上で的確に打ち回せばあっさり破れる程度の障害(支配)でしかない。ましてガンパイ能力を持つ俺ならそれはなおさら容易だ。

まあ、俺は例外としても、高校生レベルで実際にそれを行える雀士はほとんどいないだろうけどさ。

咲や淡といった同等の能力(ギフト)で対抗できる連中を除けば、のどかや竹井先輩くらいだな、知ってる高校生()で互角に打てそうなのは。

中盤でさっくりテンパイし、あとは衣の打ち筋を観察しつつ流し打ちを決め込んでいる俺に対し、衣はどこか訝しむような眼差しを注いでいる。

どうやら他人のテンパイ気配もかなり正確に洞察できるようだ。

衣の晦冥月姫(ギフト)にそんな能力があるなど天理浄眼は伝えてこないが、恐らく持って生まれた第六感が優れているのだろう。ある意味それも天の贈り物(ギフト)、か。俺が言えた義理じゃないが恵まれてるな。

そんなこんなで終盤を迎えた17巡目、透華が捨てた{①}をポンして衣がテンパイを完成させる。しかしながら手牌を見る限り役が一つもない、所謂形式テンパイ(ケイテン)だ。

常考すれば親を維持する為もあってなりふり構わずテンパイにこぎつけたと判断するだろうが、生憎全てを把握している俺には衣の狙いが透けて見えてたりする。

衣と透華の手牌、山の配列状況からしてまず間違いなくそう来るだろうなと予想はしていたが、元より衣の行動を妨害する気はなかったので特に対策することもなく最後の打牌を終わらせる。

続いて智紀が打牌し、山に残された最後の牌を衣が手に取った。

さて、俺にとって既に読みきった結末だが、少しは驚いたフリでもするべきか。

いや、鋭そうな衣のことだから下手な芝居は見抜かれるかもしれない。やめとくか。

刹那の物思いを余所に、対面の衣は落ち着いた仕草でとん、と手元に牌を静かに置き、はっきりとした口調で和了を宣言した。

 

海底撈月(ハイテイラオユエ)

 

【和了:天江衣】{一二三三四}{赤五赤57北北} {(ツモ)} {①①}{横①} ※ドラ指標牌:{三}

 

■自摸和:30符4翻 3900オール

白兎:23000(- 3900)=19100

智紀:26200(- 3900)=22300

衣 :23000(+11700)=34700

透華:27800(- 3900)=23900

 

 

一翻しかつかない最低役でありながら、普段は滅多にお目にかかることのない稀少な役である海底撈月。

それを成立させ、ケイテンではなく和了で終わらせたにも関わらず、衣は無表情でそこには喜びの色も得意がるような様子もない。

俺のように対局では冷徹な性格に変わるのかもしれないが、プライドの高そうな衣のことだから譲られて得た結果だとでも考えて素直に喜べないのかもしれない。

いささか穿ちすぎかもしれないが、そう的外れでもない気がする。

去年の県予選でも衣は2度ほど海底を和がっている。

偶然ではなく意図的に成立させているように見受けられることから、咲にとっての嶺上開花と同様に、衣の晦冥月姫(ギフト)を最適化した打ち筋なのだろう。

もっとも、ギフトの恩恵があるとはいえ、リスクの高い海底をわざわざ狙うのは、対局者を驚かせ萎縮させるための見せ技的な意味もあるのかもしれない。

去年の全国大会の牌譜から読み取れた情報も鑑みれば、海底のみが衣の特質というわけではない。

遊んでいるとまでは言わないが、今の一局はいいとこ小手調べといったところか。

 

「流石は衣ですわ」

「……まだまだこれから」

 

身近な人間なだけあって、衣の異常性を良く理解しているのだろう。透華と智紀は動揺する様子もなく衣へと点棒を渡す。

彼女らに続き俺も点棒を手の平に載せて衣の目の前へ差し出すが、なぜか衣はそれを受け取ろうとはせず、どこか憮然とした面持ちでじっと差し出された手の上の点棒を見つめている。

 

「……衣?」

 

不審な衣の態度を訝った透華が声をかけた。

その声に促されたのか、衣は小さくため息をつき、ゆっくりと右手を伸ばして点棒を掴み取る。そして一際強い視線を俺に向けながら口を開いた。

 

「あにはからんや。フジキ、なぜ和がろうとしない。衣を愚弄するつもりか」

「……何のことです?」

 

うわ、もしかしてわざと当たり牌を避けながらテンパイ維持してたことまでばれてる?

俺は動揺を押し殺し、平然を装ってすっとぼけた。

 

「侮るな。韜晦を見抜けぬほど衣は暗愚じゃない。……それともフジキは、やっぱり衣なんかと麻雀を打ちたくはなかったのか?」

 

糾弾する台詞の途中で突如本気モード? から子供モードに切り替わった衣がしゅんとした表情で俯く。

うーん、理由はよくわからんが衣は自信家のように見えて妙なところで内向的というか、自虐的な面があるな。実年齢と見た目がアンバランスなだけに精神状態まで不安定なのか?

それはともかく、まずい。事情はよくわかってなさそうだが、透華ら周囲の視線が痛い。

 

「まさか。天江さんとの対局は刺激的でとても楽しいですよ? 今はただ、様子見の段階ってだけです」

 

雰囲気がこれ以上悪化しないうちにと、俺はひとまず弁解した。

物は言い様だが、様子見という事実に嘘はない。

俺が「とても楽しい」と言ったところで衣は嬉しそうに顔を輝かせたが、「様子見の段階」の部分で訝しげな表情へと変わった。

手加減の理由が「様子見」とか言われても、そりゃ納得いかないよな。

 

「そういえば、藤木さんは先ほどの対局でも後半から連続和了しましたわね」

 

俺の発言を裏付けるように透華がフォローを入れてくれる。グッジョブ透華。

 

「そのとおり、実は私は後半爆発型なのです。いわば前半は力を溜めているのです」

 

俺はすかさず適当な理由をでっちあげた。

すると衣は、言葉の真偽を見抜こうとするかのように俺の目をじっと見つめた。

やましさ満載の俺は目を逸らしたかったが、ぐっと我慢する。

視線で対峙することしばし、俺の瞳から何を読み取ったか、衣はニヤーッと挑発的な笑みを浮かべた。

 

「……フジキの事情はわかった。なれば衣は、フジキが音をあげるまで淡々と追い詰めることにしよう」

 

物騒な台詞を放つ衣からは、まるで獰猛な獣が獲物を見定め、舌なめずりをしているかのような印象を受ける。

いわゆる肉食系女子というやつか(違)。衣よ、野菜も食べないと大きくなれないぞ。

しょうもないことを考えている俺を余所に、東場第三局一本場が始まった。

 

 

 

「ロン! 18300っ!」

 

【和了:天江衣】{①②③⑤⑥⑦⑧⑧南南} {(ロン)} {横東東東} ※ドラ指標牌:{⑦}

 

■栄和:40符6翻・跳満 18300

白兎:19100

智紀:22300(-18300)= 4000

衣 :34700(+18300)=53000

透華:23900

 

 

覇気の篭った鋭い声で和了を宣言する衣。

二巡目で{東}をポンし、ダブル役牌を成立させた衣は次巡で早々に智紀から出和がった。

 

「っ……!」

 

放銃した智紀の表情に微かな動揺が浮かぶ。

親ッパネを直撃され、智紀の残り持ち点は4000点まで減った。このままでは次局で智紀が衣にトバされかねない。

先程衣が宣言した通り、速攻で追い詰められてしまった。ちみっこめ、やるじゃないか。

衣の評価を上方修正しつつ、俺は小さく嘆息した。そして決断する。

偵察という目的も、透華を刺激しない為の自重も全て忘れる。そう、ここからは――

人外の対局を、楽しもう。

 

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

 

 

出し惜しみはなしだ。

――と、いきたいところだが、咲の例がある。

霊的感受性が強い相手に対していきなり元始開闢(オーラ)を全開すると、精神面への過剰な圧力となって身体へも悪影響を及ぼす可能性がある。

もっとも衣の場合、体はちみっこくとも精神力は強靭そうなので案外平気かもしれないが……。

ひとまず元始開闢(ギフト)の出力は半分程度にしておこう。

方針を定めた俺は、自動雀卓の中央に開いた回収孔に牌を落とし込み終えてから、衣へと微笑みを向けた。

 

「月の出てない時分だというのに、天江さんがこれだけ打てるとは正直予想以上です。お強いですね」

 

挑発の意図はなく、本心からの賞賛だ。

いずれまた対局が叶うなら、次は衣の能力(ギフト)が最大のポテンシャルを発揮できる満月の夜に打ってみたい。

俺の発言に看過できない内容が含まれていることに気が付いたのか、透華がぎょっとした表情でこちらへ振り向いた。

二人の背後に立って観戦している純やはじめもまた、険しい顔で俺を見つめ……いや、睨んでいる。

なぜお前が衣の特性を知っているのだ、という疑問を皆が抱いていることだろう。

しかしながら当の本人である衣は、周囲の反応ほど驚いた様子を見せなかった。

 

「ほう……フジキは衣が本領でないことを弁えているのか?」

「ええまあ。視れば(・・・)解りますから」

 

どこか面白がる様子で訊ねてくる衣と視線を合わせ、俺は率直に事実を述べた。

 

「すごい! フジキは見鬼の能力(ちから)があるのだな!」

 

端的な説明だったにも関わらず、衣は顔を輝かせてあっさり俺の能力(天理浄眼)を言い当てた。

予期したことではあるが、やはりギフトホルダーの直感力は侮れない。些細な手がかりからでも事の本質を見抜いてしまう。案外探偵とか刑事とか天職かもしれない。のどかが瞳をキラキラさせて「わたし、気になります!」とか言い出しても対応できそうだ。

俺はこほん、と咳払いをして答える。

 

「ご明察。そんなわけで、天江さんの能力は概ね把握しました」

「なんですって!?」

 

ガタッと音を立て、透華が血相を変えて立ち上がる。

俺は横目で透華を一瞥するが、取り合わずに発言を続ける。

 

「驚くほどのことではないでしょう。全国に行けばこれくらい出来る人が他にもいますよ。それこそ、宮永照さんとかね」

「なッ!?」

 

驚愕に顔を引き攣らせ、再び大きな声をあげる透華。

他の者も少なからず衝撃を受けたようで、表情が硬い。

 

()のチャンピオンを最強たらしめてる要因の一つが、相手の打ち筋や特性を即座に見抜く直感力であり分析力です。故に彼女と対局した者はたとえ初見であっても丸裸にされるでしょう」

「…………」

 

立ち上がった姿勢で卓の上に手を着き、こちらへ身を乗り出していた透華が無言でごくりと喉を鳴らす。

インハイチャンピオンの能力の一端を知り、その圧倒的な実績と実力を思い出して気後れしているのだろう。

唯一衣だけは目を輝かせて「フジキは物知りだな!」とズレた感心をしていた。

 

「まあそれはともかく。天江さんの能力を見せていただいたので、私も手の内を晒さないとフェアじゃないかな、と」

「つまり、それが宮永照と同じ能力だと仰りたいのですの?」

 

確認口調で問いつつ、落ち着きを取り戻して着席する透華。

俺はすぐには答えようとせず、瞼を閉じ、小さく深呼吸をする。

たっぷり五つ数えるほどの間を置いてから、俺はゆっくりと目を開けた。

 

いいえ(・・・)

 

否定の言葉を合図とし、元始開闢を開放する。

キンッ、という澄んだ霊妙音が冴え渡り、純白のオーラ波動が放たれた。

 

「「「!!?」」」

 

一瞬で周囲の空気を真白く塗り潰すほどの圧倒的なオーラを肌で感じ、龍門渕の面々は精神的衝撃を受けて絶句した。

ガタタッ! とけたたましい物音を立て、透華と衣が同時に床を蹴って立ち上がる。

 

「おいおい、マジかよ……」

「この感じ……まるで衣みたいな……」

「ぞくぞくする……」

「藤木さん、貴女一体何者ですの……?」

 

純が怯えを孕んだ眼差しをこちらへと向け、はじめは呆然と呟き、智紀は眼鏡を光らせ、透華は青褪めた表情で慄いた。

身近に衣という規格外の存在がいるために霊的感受性が磨かれているのか、衣以外のメンバー全員が俺の――正確に言えば元始開闢(ギフト)の――脅威を肌で感じ取ったようだ。

そして衣は……無言、無表情で俯いている。

咲のように体調を崩した、という様子ではなさそうだが……。

ハテ、何か予想した反応と違うな。

 

「天江さん……?」

 

不審に思って声をかけると、衣はビクッ、と体を震わせた。

怯えている……のか?

そう考えたのも束の間、衣はくしゃりと顔を綻ばせ、

 

「――ふくっ、あははははっ! フジキはやっぱり、衣が見込んだ通りの鬼だ!」

 

喜色満面にころころと笑いだした。

豪気な反応に、俺は不覚にも一瞬呆気に取られる。

――ち、やっぱコイツ、強敵の存在に迎合的なタイプか。厄介だな。

強気の性格は自信を育てやすく、ギフトやセンスの超常能力を引き出す上で大きな力となるからだ。

 

「喜んでいただけて何よりですが……私が鬼とはどういう意味です?」

「そんなの決まってる! 人外の気配を放つフジキは衣と同じ、他の人とは違う”特別”ということだ!」

「へー」

 

いまいち要領を得ない衣の回答に、俺は無感動に相槌を打った。

まあ言葉の意味は不明だが言いたいことはなんとなくわかった。要するに同じような特殊能力者(ギフトホルダー)としてお仲間だと言いたいんだろう。

俺はそれ以上の理解を諦め、小さくため息をついた。

 

「……ま、そうですね。天江さんと私は正しく”同類”ですよ」

「衣とフジキは”どうるい”か! そうかそうか!」

 

投げやり気味な俺の台詞のどこに感銘を受けたのやら、ますます機嫌を良くしてはしゃぐ衣。

そんな衣の様子に毒気を抜かれたのか、透華たちも平静を取り戻して苦笑や微笑を衣に向けている。

天然のムードメーカーと言うべきか、衣のおかげで場の空気がすっかり和んでいた。

「俺は怒ったぞフ○ーザァァァ!!」と俺が覚醒した場面だというのに、どうしてこうなった。やはり金髪にならないからインパクトが足りなかったのか。

いや、別に衣を驚かせてドヤ顔したかったわけじゃないよ?

俺はほのかな落胆を胸に秘め、対局の再開を促す。

 

「とりあえず、後半戦を始めましょうか」

「うんっ!」「了解」「望むところですわ!」

 

喉元過ぎればなのか、衣らの表情には俺に対する畏怖や警戒など微塵もない。

まあ、楽しく打てるならそれに越したことはない。特に失う物もない一局だし、無用に緊張感を抱く必要もないだろう。

期待したより反響が小さかったからって、別に悔しくなんかないんだからねッ!

ぐぬぬ。

 

東場第三局二本場。ここからずっと俺のターン!

イレギュラーが起きなければね。とか言うとフラグを立てそうな気がしてアレだが。

俺は素早く理牌を終え、手牌を確認する。

 

【手牌】{三四九九①678北発発中中}  ドラ指標牌:{北}

 

元始開闢が早速機能し、三元牌含みの二向聴という良配牌。まずは予定通りの滑り出しだ。

ここからの組み立ては、{発}と{中}を揃えて役牌を作り、可能なら混一色(ホンイツ)混全帯九公(チャンタ)、ドラを混ぜていくといったところか。

終局まで見据えての戦略としては、三元牌による役牌和了で速攻し、大三元に繋げて一挙にまくるという常套パターンが鉄板だ。しかしそれだと偵察という第一義的な目的が疎かになる。

なので、できるだけ衣や透華からの出和がり(栄和)を狙い、智紀を生かしつつオーラスまで対局を引き伸ばすのが理想だ。

ひとまずの目論見を立てた俺は、衣らの手牌と山牌を天理浄眼で把握する。

衣はピンズ多めの三向聴、透華が良形の二向聴で智紀が五向聴といったところ。序盤で山から{中}を引けそうなので、{発}の方は鳴いて揃えよう。

出力5割でも衣のギフト(晦冥月姫)の支配力を制圧できているので(卓上を覆うオーラ色を見れば一目瞭然だったりする)、自発的にヘマをしない限り一向聴地獄に陥ることはない。

まあ今回は欲張らずに役牌オンリー速攻でいいか。

 

「ポン」

 

開始早々、透華が手牌で浮いてる{発}を即捨てしたので手に入れる。鳴かれた透華の眉がピクリと動くが、表面上の動揺は見られない。まあまだ1巡目だしな。

3巡目に山から{中}を引き、予定通りテンパイ。そして5巡目に透華が{二}を河に置いたところで和了を宣告する。

 

「ロン。3200」

 

【和了:発中白兎(藤木)】{三四九九678中中中} {(ロン)} {横発発発} ※ドラ指標牌:{北}

 

■栄和:40符2翻 3200

白兎:19100(+ 3200)=22300

智紀: 4000

衣 :53000

透華:23900(- 3200)=20700

 

 

「不覚ですわ」

 

はぁ、とため息をついて点棒を渡してくる透華。

俺のテンパイを警戒してなかったわけではなかろうが、まだ序盤の上、透華は役高めの一向聴だった。防御より攻めを選択したのは間違いではない。

 

「見事だフジキ。衣の親を流すとは」

「ふっ、もっと褒めてくれていいんですよ?」

 

まだまだ余裕たっぷりの態度で俺を賞賛する衣に、俺は不敵な笑みをくれてやった。

 

「……結構似た者同士ですのね」

 

お互いニヤニヤ笑いながら温い視線をぶつけあう俺と衣を見て、透華が呆れた様子で呟いた。

そう言われてみればそんな気がしないでもない。稀少なギフトホルダーであること以外にも、外見的に兎っぽい動物イメージの衣と、白”兎”という名前の近似があったりするしな。

衣は一瞬きょとんとしてから、俺はやれやれといった態で、ほぼ同時に口を開いた。

 

「とーかの言うとおりだ! 衣とフジキは”どうるい”だからな! でも……」

「否定はしませんが、仮にそうだとしても――」

 

お互いの言葉がいったん途切れ、一瞬の沈黙の後。

 

「強いのは衣の方だ!」

「強いのは私の方です」

 

またしても示し合わせたかのようなタイミングで、ほぼ同じ台詞を言い放った。

顔を見合わせたまま、俺と衣は「むっ……」と唸り、睨みあう。

 

「――ぷっ、二人とも面白いですわ。まるで本当の姉妹……いえ、見かけは違えど双子のように性格も似てますのね」

 

笑劇じみた展開に透華が噴き出し、クスクス笑いながら言った。

精神年齢40代半ばの俺が、見た目相応に内面もおこちゃまな衣と性格が似てるだと……。

抗弁したいところだが、返す言葉が見つからない。

 

「フジキと姉妹なら、衣がおねーさんだ!」

「え」

 

透華の見立てを無邪気に喜ぶ衣。

微笑ましくはあるが、身の丈を省みないにしても限度ってものがあるだろ……。

 

「や、それはちょっと」

 

無理があるんでない。と続けようとしたところで透華の発言に遮られる。

 

「そういえば藤木さんは1年生でしたわね。であれば、衣の方がお姉さんですわ」

 

確かに実年齢上では衣の方が年上だけどさ……。微妙に納得いかない。

衣を「おねーさん」とか呼ぶくらいなら、むしろ衣に「お兄ちゃん」と呼ばせたい。

いやまあ、実際の妹は雀姫一人で間に合ってますが。

 

「なんなら、この対局で負けた方が勝った相手を”お姉さん”と呼ぶことにしたらどうかな? 点差のある状況で条件を加えるのはフェアじゃないけど」

「それは神算鬼謀!」

 

不服そうな俺の様子に気付いたのか、とりなすようにはじめが妙な提案をし、衣が即座に喰い付いた。

続いて透華が苦笑しつつ「私も構いませんわ」と言い、智紀も少し思案してからコクリと頷いた。

てっきり俺と衣だけに適用される条件だと思ったのだが、透華と智紀は拡大解釈してしまったらしい。透華が承諾を口にした直後、その背後ではじめが困った表情をしたのを俺は見逃さなかった。

しかしはじめは二人の誤解に言及しなかった。お遊びのような賭け事だし、誰が勝とうが負けようが大した実害はない、とでも考えて放置したのだろう。

4人中3人が賛成済で断り辛い空気であるが、麻雀の勝敗で決めるなら俺とても異存はない。

 

「面白そうですね。乗りましょう」

 

くくく、愚かな。俺は内心でほくそ笑んだ。

勝って「お姉さまこそ世界最強の雀士ですわ」と言わせてやるぜ。謎の美少女雀士《白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)》とか呼ばれる日も近いな。

 

「ここからは衣も全力だ!」

 

ふむっ、と鼻息を荒くして衣が意気込んだ。

ほー、まだ本気ではなかったと。面白い。ならば我も真の力を見せてやろうではないか子兎よ! フゥーハハハハハ!!

胸中で某マッドサイエンティストをインスパイアした高笑いをしつつも、表面上は淑やかに微笑んだのだった。

 

 

 

透華を親番とする、東場第四局。

 

【手牌】{七九①④④赤⑤69白白発中中}  ドラ指標牌:{3}

 

前局より配牌時の三元牌は増えてるが、全体で見れば四向聴なので状況は逆に不利と言える。

それでも10巡程度で和がれる自信があるが、ここは少々目先を変えて打つのもありか。

対局者全員の手牌と山牌を読み取り、終局までの目算を立てる。

1巡目、俺は敢えて対子を崩し{白}を河に捨てた。

 

「ポン……」

 

俺と同じく、{白}を対子で持っていた智紀が鳴いて役牌を成立させる。

智紀が対子で所有している以上、河に捨てられる可能性は低い。となれば、抱え続けても雀頭や小三元くらいにしか使い道がない。

なので智紀に譲ることにした。無論考えあってのことだ。

副露させることによって手牌の選択枠を減らし、成立可能な役を制限する。そうすることで思考が読みやすくなり、間接的に行動を誘導することも容易となる。

俺は続けて智紀の必要とする牌を提供することにした。2巡目に{赤⑤}、4巡目に{6}と、俺の捨てた牌を智紀は連続チーで獲得する。

 

「チー……」

「……またですの?」

 

智紀が三度目となる副露宣言を行うと、透華が呆れたような口調で呟いた。

透華の訝しむような眼差しが、副露した智紀ではなく俺の方へと向けられる。狙って智紀に牌を提供しているのではと疑っているのだろう。

4巡中3回も同じ事を繰り返せば、故意なのではと疑惑を抱かれるのは無理もなかった。

俺は面の皮を厚くして、そ知らぬふりを決め込む。

 

「ポン」

 

7巡目に今度は俺が鳴いた。衣の捨てた{中}を掴み取り、手元の2個と合わせて右隅に寄せる。

衣が僅かに眉を顰めた。単にテンパイを警戒しただけなのか、それとも俺の行動に何かを感じ取ったのか。

どちらにせよもう手遅れだよ、衣。

 

「……ツモ。役牌三色ドラ2、2000・3900」

 

【和了:沢村智紀】{四五六六} {(ツモ)} {横645} {横赤⑤④⑥} {横白白白} ※ドラ指標牌:{3}

 

■自摸和:30符4翻 2000・3900

白兎:22300(- 2000)=20300

智紀: 4000(+ 7900)=11900

衣 :53000(- 2000)=51000

透華:20700(- 3900)=16800

 

 

俺が鳴いた直後、お膳立てした甲斐あって智紀がツモ和がりを決めた。鳴くことでツモ順をずらし、智紀に当たり牌を掴ませた結果だ。

なぜ回りくどい真似をしてまで敵に塩を送ったかというと、智紀がトバされて対局終了という不確定要素をなくすためだ。

衣と透華から出和がって逆転することは難しくないが、力量差はあれどギフトホルダー相手では万が一がありうる。何より、偵察という目的を完全に諦めたわけではない。

なので俺の親番の前に智紀のテコ入れをしておきたかったのだ。

 

「……途中でもしやとは思いましたけど、これを狙ってたんですの?」

 

じろりと透華が疑惑の眼差しを向けてくる。やり方が少々露骨過ぎたし、疑われるのは無理もない。

これを、と曖昧に言ったのは、確信に欠けるためか、それとも一種のカマかけか。透華の性格からして恐らく前者だろうが。

 

「何のことです?」

 

いささか白々しい態度で聞き返した俺を、透華はしばらく強い視線で見つめていたが、やがて目を閉じてハァ、とため息をついた。

 

「何でもありませんわ。気にしないでくださいまし」

 

俺に答える気がないと判断したのか、透華は追及を諦めたようだった。

俺はあくまで心当たりのないフリをして「はあ……」と生返事をする。

いくら仲良くなっても答えられないことはある。というか、雀士なら対局で真実を見極めるんだ!

とはさすがに言えなかった。

 

 

 

南入し、対局は後半戦に突入した。

俺が親なので、ここで連荘し衣との点差を逆転しておきたいところだ。

 

【手牌】{二三⑥⑦14南北白白白中中} {9} ドラ指標牌:{九}

 

三向聴と配牌も悪くないし、とりあえず速攻で行こう。

方針を定め、第一打を切る。都合の良いことに、次の智紀が{中}を捨てたので即座に戴く。どうやら俺に対して三元牌は危険だとまだ警戒されてないようだ。まあ俺や照さんじゃあるまいし、たかが数局で打ち筋を見切れるはずもないが。

その後は2巡目で{⑤}をツモり、3巡目で透華の捨てたドラの{一}をチー。トントン拍子でテンパイに至る。

そして5巡目、衣がツモ切りした{北}が当たり牌となり栄和を決める。

 

「ロン。7700」

 

【和了:発中白兎(藤木)】{⑤⑥⑦北白白白} {(ロン)} {横一二三} {中中横中} ※ドラ指標牌:{九}

 

■栄和:40符3翻 7700

白兎:20300(+ 7700)=28000

智紀:11900

衣 :51000(- 7700)=43300

透華:16800

 

 

「むーっ」

 

衣が不満そうに頬を膨らませて唸った。視線が俺の手元に注がれている。振り込んだ原因や俺の打ち筋を見極めようとしているのだろう。

雀頭の単騎待ちを予測するのは難しい。まして河には{北}が既に2個捨てられており、衣が掴んだのは最後の1牌だった。確実な安牌が手元にない状態でこれを振り込んでしまうのは無理もない。

もっとも、今回は衣への直撃を狙った必然の結果だ。衣が多少テンパイ気配を読めたところで、天理浄眼による俺の精密な寄せから逃れることはできない。勘で避けようにも、能力(ギフト)が力負けしている状態では正常に機能しないだろう。

 

「早い……」

 

やや掠れた声音で智紀が呟いた。

恐らく早和がりよりも、衣からあっさり出和がったことに驚いたのだろう。逆に言えばそれだけ普段の衣が堅いという証左でもある。

さて、ホープ失墜による透華の反応はどうだろうか。

珍しく静かな透華が気になってちらりと一瞥すると……どうも様子がおかしい。

口を開くどころか、無表情で卓の中央付近を睨んだまま微動だにしない。智紀みたく驚いたり、ショックを受けているようにも見えないし。

 

「龍門渕さん……!?」

 

不審に思い声をかけた瞬間、天理浄眼が異変を察知し脳裏にある映像を浮かび上がらせる。

大嵐で荒れ狂う大河から漆黒の長蛇――龍が飛び出し天空へと舞い上がる。降り注ぐ雷の軌跡を逆行するようにして黒龍が分厚い雲に飛び込むと、あっという間に風雨が収まり、みるみるうちに水面が平穏を取り戻していく。そんな幻想的とも言える光景を刹那のうちに幻視する。

 

――これはまさか、咲と同じ……!?

 

ギフトの共鳴現象とでも言おうか。それによって咲の場合はギフトの進化が起こった。ならば、今回は?

今更考察は必要なかった。これは予測していた事態なのだから。即ち――

 

ギフトの、覚醒である。

 




見直しが足りてないので粗が多いかもしれません。
某所でオリ小説を書いてた時期を挟んでいるので、以前とは作風が多少変わってる可能性も。

vs衣戦は前後編に分けました。

白兎覚醒時の没ネタ
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衣「な……なっ……何者だ!」

白兎「とっくにご存知なんだろ?」

ごごご(背景音)

白兎「……私は他校から貴様を倒すためにやってきた雀士……」

衣「あ……あ……」(ワナワナと震える)

白兎「穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の雀士……」

どどーぉん!!(背景で火山噴火)

白兎「超雀士! 藤木だァァァーッ!!」

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オチは特にありません。
おあとがよろしくないようで(何

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