申し訳ありません。
このたび、めでたく友人となった咲夜の案内のもと、わたしは紅魔館の廊下を歩いていた。
しかしホントにこの館は悪趣味だ。紅い、とにかく紅いのだ。主の趣味が簡単に想像できる。
(しかし、それにしても・・・)
「長い、どこまで続くんだ?この廊下は・・・」
先の見えない廊下を前にわたしはそう呟いた。
「申し訳ございません、影斗様。
お嬢様が住まれる館なものですから・・・わたしが空間を広げたんです。」
わたしの呟きに咲夜がそう答えた。
「いや、別に君のことを責めてるわけじゃあないんだ、咲夜。ただ少し疑問に思っただけでね。
それと・・・咲夜、様付けは止めてくれないかい?」
「い、いえ、影斗様はわたしとは違って上に立たれるお人ですッ!わたしのような者がそのようなことは・・・」
「そこまで言われると悪い気はしないが・・・、わたしはね・・・咲夜、君とは対等に付き合いたいんだ。」
「しかし・・・ッ!」
「友達だろう?」
わたしは彼女を諭すよう、微笑みながら言う。
「わ・・・わかりましたぁ・・・///」
咲夜は顔をうつむかせながらそう答えた。声に艶っぽさが混じっている気もするが気のせいだろう。
わたしは、いまだ顔をうつむかせる彼女と共にその長い廊下を歩いて行った。
「影斗さん、お嬢様の準備が整うまでこちらでお待ちいただけますでしょうか?」
果てしなく長かった廊下を越え、その先にあった一際大きな扉の前で、咲夜はわたしにそう言った。
どうやら咲夜のわたしへの呼称は「さん」付けで安定したらしい。
「いやいや、急に訪ねてきたのはわたしのほうだ、咲夜が気にすることじゃあない。
もしここの主が会う気がないと言うならそれでもいい、君と友人になれたんだ。」
そう言ってわたしは咲夜の煌びやかな銀髪を撫でた。
「う・・・分かりました///
では、少々お待ちくださいッ!」
そう言って彼女はその扉の中へ、逃げるように消えて行った。
ふむ、なにか気に障るようなことしてしまったのだろうか?・・・気をつけなければならないな・・・
バタンッ!
「ハァ、ハァ・・・」
わたしは、あらぶった呼吸と高鳴った心臓を、胸をおさえつけることで落ち着かせた。
返事もろくにせず、走ってきてしまったけど・・影斗様・・・いや、影斗さんに失礼なことをしてしまったのではないだろうか?
でも・・・あれは反則だろう・・・あの顔で、あんな風に微笑みながら髪を撫でてくるなんて・・・
彼は分かっているのだろうか?自分の魅力というものを・・・
曇りない金髪と射抜くようで包み込むようなきりっとした目、日本人離れした高く、スッとした鼻筋、色気が滲み出てくるような唇、そこから紡がれる言葉には堕ちてしまいそうな甘ったるさがある。
あの彫刻のような長く美しい指で髪を撫でられたのだ、仕方のないことだろう。
そう考え直し、思考を打ち切ると、わたしに一人の少女が話しかけてきた。
「あれ?咲夜さん、そんなに急いでどうしたんですか?」
背中に禍々しいつばさをはやした彼女・・・小悪魔、通称こぁは、わたしにそう言った。
どうやら彼女は、わたしの荒れた呼吸を走ってきたからだと思ったようだ。
「お客様が来てるのよ。
パチュリー様さえよければ、お嬢様のが起きるまでここでお待ちいただこうと思って。」
「そうですか・・・分かりました、ではパチュリー様に確認をとってきますね!」
「あら、わたしなら別にいいわよ。」
そういって彼女は本棚の陰から姿を現した。
紫色の髪が特徴的な少女、パチュリー・ノーレッジは続けて言う。
「あなたたちの戦いは見てたわ、それで興味がわいたのよ。」
パチュリー様はそう言った。ならば招いても大丈夫だろう。そう思いわたしは口を開く。
「わかりました、では少々お待ちください。」
「レミィには、貴女と美鈴に勝ったと伝えなさい。多分会うって言うわ。」
「はい、かしこまりました。」
そういってわたしは影斗さんを呼びに行く。さてどうなるのでしょう・・・
咲夜の案内のもと、この紅魔館で図書室にあたる場所へ入った。
その図書室というのが本当にすごかった。廊下と同じように先が見えない、おそらく咲夜によって空間を弄られたのだろう。
ゆうに万を超える本があるのだろう。少し興味がわく。
中に入ると二人の少女がいた。小悪魔、パチュリーというらしい。そのパチュリーというのがなんと100才を越えているらしい、ちなみにここの主人は500才だそうだ。
「では、お嬢様を起こしてまいります。しばらくお待ちください。」
「ああ、いい知らせを期待するよ。」
わたしがそういうと咲夜はニコッと笑い図書室から出て行った。少しドキッとしたのは内緒だ。わたしは案外惚れっぽいのかもしれない。
「どうぞ、椅子にすわって。こぁ、紅茶を。」
「かしこまりました、パチュリー様。」
パチュリーにそういわれ、小悪魔はふよふよと奥へ引っ込んでいった。
わたしはまず座ることにした。
「目的は何?」
彼女はそう言った。どうやら善意で部屋に入れてくれたわけではないらしい。
「ここの主人にあいさつに来た、それだけだよ。」
「ちがう、わたしが聞いてるのはそうじゃないのよ。
それはあくまで手段・・・あなたの目的を達成するための手段の一つでしかないわ。
もう一度聞くわ、あなたの目的は何?」
わたしを見つめるパチュリーの眼には、嘘は許さないという意思が込められている。
「もってまいりました~」
そこに小悪魔が現れた、もうすこしタイミングというものを考えた方がいいと思う。
「ありがとう、いただくよ。」
パチュリーは小悪魔を睨みつけている。頼んだのは君だろうに・・・
まあいい、そう思いわたしは言った。
「・・・パチュリー、君は人間・・・いや、人間じゃなくてもいい、妖怪、幽霊そう言ったものだ。
それらは何のために生きるのか考えたことがあるか?」
「・・・続けて。」
「わたしは、不安や恐怖を克服して、安心して生きるためだと思っている。
名声を手に入れたり、自分以外の存在を支配したり、金儲けをするのも安心するためだ。
聞けばここの主も幻想郷に来たとき、他の妖怪をその配下に置こうとしたらしいじゃあないか。
それも安心するためじゃないのかね?ここで安心して生きていくために、まずここの妖怪たちを支配しようとした、そうは考えられないか?」
「・・・面白い意見ね、だったら貴方も安心するために来たというの?」
「ああ、その通りだ。わたしは戦いというのが嫌いでね。
戦いにはストレスというものがどうしてもついてくる、わたしはそれが嫌いなんだ。
負けたらそれまでだし、勝っても次の戦いまでストレスがたまる。
頭を抱えるようなトラブルも、夜も眠れないといった敵もつくらない・・・
人間の一生は短い、深い絶望も激しい喜びも必要がない。あくまで平和に暮らせたらいいんだ。
ここでは能力を持った人間というのは珍しいのだろう?
大きすぎる力はいずれ何らかの争いを生む、それを避けるために、ここに来たんだ。
もっとも、戦ったとしてもわたしは負けんがね・・・」
それからわたし達はとるに足らない話をした。
パチュリーの魔法理論のことだったり、スペルカードのことだったり、好きな食べ物だったり・・・
そんな些細なことだ、それでも楽しい時間だった。
ガチャリ
「失礼します、パチュリー様、影斗様、お嬢様のご支度が整いましたのでご向かいにまいりました。」
そこに咲夜が姿を現した。
「咲夜・・・さっきも言ったが様付けなんて、堅苦しいものは必要ないんだ。」
「いえ、今は友人である前に、この紅魔館のメイドとして貴方を客人として接しさせてもらいます。」
そう言った咲夜の目は真剣そのものだ。これはいくら言っても無駄だろう。
「むう・・・君がそこまで言うなら仕方ないが・・・」
わたしはそう言って席を立つ。
「パチュリー、いい経験になった、楽しかったよ。」
「わたしも楽しかったわ、影斗、またいつでも来て、歓迎するわ。」
「ああ。」
その後わたしは咲夜に導かれるまま図書室を後にした。
さて鬼が出るか蛇が出るか。
・・・吸血鬼だから鬼が出るのかな。
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