太陽が昇り、雲のあいだから光がもれ始めたころ
一人の少女が森の近くの空を飛んでいた。
空を飛んでいるところから判るとおり彼女は人間ではない。
幻想卿に存在する妖怪の山をなわばりとする天狗、彼女はその内の鴉天狗という種族の一人だ。
「なにかイイネタはありませんかね~、その辺に転がっていればいいんですけど・・・」
鴉天狗は天狗という種族の中でいわゆる報道部隊を担当している。彼女もその例外ではない。
彼女が出版する<文々。新聞>は鴉天狗の出版する新聞のなかでは人気が高く、彼女も新聞を書くことが好きなようだ。
しかし、人気といっても、そもそも鴉天狗の出版する新聞は内輪受けを狙ったものが多く、事実と内容が大きく違ったものがほとんどである。
彼女の新聞はそのなかでは考察がしっかりとされているというだけで、外の新聞とは比べるまでもない。例えるならこの作品と、通算UA順に並べたときトップに来る作品くらい違うのである。
そんな彼女に森から一つの声が聞こえてくる。
「しまった~ッ!あいつに森の出方を聞きゃあ良かった~ッ!」
「・・・なにやらネタのにおいがしますね。」
そう言って彼女は声のする方へ飛び出していった。
「・・・ちくしょ~、失敗したぜ・・・」
木々の隙間からのぞく朝陽を浴びながら、俺はそう呟いた。
「あやややや、やはり人間でしたか・・・」
彼女は空(・・)から現れた。
俺は彼女を見て思った、まるで天使(・・・)の様だと思った。
肩ほどで切られた煌びやかな黒髪、大きな目に紅く染まった瞳、肌は雪のように白く透き通っていた・・・
先ほど妖怪に襲われたばかりにも関わらず、俺はそう(・・)思ってしまったのだ・・・
「君は・・・天使か何か?」
「何を思って天使といったのかは分かりませんが、違いますよ?わたしは鴉天狗の射命丸 文≪しゃめいまる あや≫です。以後、お見知りおきを・・・」
くそッ!やはり妖怪か・・・
わたしの希望は、はやくも崩れ去ったのだ。
(キラークイーンッ!)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
わたしはキラークイーンを出しながら彼女に凄みを効かす。
「君も・・・わたしを食いに来たのか?」
「いえいえ、わたしは何か声が聞こえてきたので来ただけです。ですからそんなに睨まなくても大丈夫ですよ」
「そうか、失礼した、わたしは蒼々 影斗≪そうぞう えいと≫という。よろしく」
わたしはキラークイーンをだしたままそう答え、右手を差し出した(・・・)
「ええ、よろしくおねがいします。」
そう言って彼女も右手を差し出す。
ガシッ
これが吉良吉影ならその手をのこして彼女・・・射命丸 文を爆破させるのだろう、もちろんわたしはそんなことはしないがね・・・
そんなことを考えながら、私は文と握手を交わす。
「と・こ・ろ・で・・・」
文はぐいっとこちらに顔を近づけながら言った。
文の整った顔が俺のそれと数センチの距離まで近づく・・・
俺は不覚にもドキッとしてしまった。俺は彼女にバレないように高鳴った心臓をおさえようと必死になる。
「先ほどあなたは[君も]と言いましたよね、それはなぜですか?」
文は俺の心の葛藤も知らずにそんなことをいってくる。
「あ、ああ、先ほど君とは違う妖怪に襲われてね・・・」
わたしはそこで考える、ホントのことを言ってしまっていいものなのかと・・・
そういえばと、わたしはいまだに出しているキラークイーンのほうを見た。
(いま彼女の命を握っているのはわたしだ・・・ならば言ってしまっても大丈夫だろう)
そこまで考え、わたしは再び口を開く。
「追い払ってやったよ、わたしは少し変わった能力をもっていてね、それを使ったんだ。」
それを聞いて射命丸 文は少し考える
(能力を使えると言いましたね、しかしそんな人が人里にいれば有名になっているでしょう。
ならば里に最も近い天狗と呼ばれるわたしが知らないのはおかしい。)
そう考え、私は再び蒼々 影斗と名乗った男のほうを見る。
少し・・・いや、かなり整った顔をしている、男なのに妖しい色気が漂っている、さぞモテたんだろうなと私は思った。しかし、いま注目すべきはそこではない、彼の服(・・・)だ・・・見慣れない格好をしている。
・・・やはり
(外の人間ですか・・・)
しかしそれだけで確定ではない。
私は彼に次の質問をした。
「なぜ、こんなところにいるんですか?ここは危険だからと、人間はあまり近づかないはずですが・・・」
私がそう聞くと彼の整った唇が言葉を紡いだ。
「それがわたしにも分からなくてね、確か家の近くの道路歩いていたのだが・・・」
それをきいて私は確信した。どうろというのは聞きなれないが外の世界のものだろう。だからこそ彼が外の世界の人間だと裏付けるには十分だ。
ならば・・・
「あなたは外の世界の人間ですね、ここは幻想卿・・・外の世界から忘れられたものが集まる世界です。」
(忘れられたものがあつまる・・・ね)
それを聞いてわたしは苦笑した。
(どちらかというと、わたしは外の世界を(・・・)わすれたのだがね)
もし神が記憶消したことを忘れていたら、わたしはこうも落ち着いてはいられなかっただろう。
では・・・
と文はいった。
「わたしについてきてください。」
そういうと彼女はふわりと浮かび上がった
「ほら、はやくしてください。」
ああ、人間は飛べないのか、めんどくさいですね・・・と文は呟く。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、わたしは君を完全に信用したわけじゃあないんだぜぇ~?」
「ならここでのたれ死ぬんですか?あなた。」
「むぅ。」
「さっき叫んでたじゃないですか、森の出方が分からないんでしょう?」
そういわれると困ったものがある。ここは従ったほうがいいのかもしれない・・・
「わがままいってないで従ってください。ほらつかまって。」
そういって文はこちらに手を出す。
(とりあえずは従っておくか、まあ、すこしでも怪しい動きをしたらすぐにでも吹き飛ばしてやるッ!)
そう考えて、わたしは彼女の手を取った。
「違います!!それじゃあ運びにくいでしょう!・・・ほら腕あげて」
・・・さっそく怒られてしまった。
感想おまちしております。