「はぁ・・・」
吸血鬼が治める紅魔館の一室、
ここのメイド長を務めるわたし、十六夜咲夜は、三日前から眠り続けている館の客人、蒼々影斗の世話をしていた。
彼がこの館を訪れた日から・・・この館は変わった。まるで止まっていた時が動き出したかのように。
少し人間を舐めているところのあった中国(本みりんさん)は考えを改め直し、鍛練に励んでいる。(その疲れのせいか、最近、一段と仕事中に眠ることが多い。)
パチュリー様はあまり変わらなかったが、話し相手が出来て嬉しそうだった。
かくいう私も、今までお嬢様と・・・この館だけだった世界が広がった気がする。
そして一番変わったのは、お嬢様と妹様だろう。495年間、止まっていた二人の世界が再び動き出したのだ。これまでの遅れを取り戻すかのように、二人はとても仲睦まじく過ごしている。
時を操るわたしが言うのもなんだけど、本当に時が動き始めたようなのだ。
彼の顔色は、この部屋に運ばれたときに比べて格段に良くなっている。最初は本当に真っ青だったのだ。
彼の血液型が分からぬ以上、輸血するわけにもいかず、彼自身が造血するのを待っていることしかできない。
最初は心配していたわたしだけど、お嬢様が
「大丈夫よ、彼の死の運命は消えたわ。呆れるわよ、まさか本当に運命を変えてしまうなんてね。」
彼が死なないと分かった以上、わたしは彼がいつ起きても大丈夫なようにお世話をさせてもらう。
お嬢様やパチュリー様には
「「まるで新妻ね、甲斐甲斐しいわ、ほんと。」」
などとからかわれてしまった。別にそんなことはないのですが・・・
今思い出したことと、これからやることを考えて、わたしの顔は真っ赤に染まる。
すーは―と呼吸を整えて、影斗の服を脱がした。
・・・勘違いしないでもらいたいんですが、別に寝込みを襲っているわけではないんですよ!その・・・お体を拭かせて貰うだけです。
確かに影斗さんの体は、無駄な脂肪がなく、美しく締まった筋肉をしているいますが・・・
ぼうっと、ずっと見つめていたことに気づき、ふるふると頭を振って考えを振り払い、彼の体を拭く。
「早く起きてくださいね・・・お嬢様たちが待っています・・・もちろんわたしも・・・」
こうして動けない彼を見ると、あれほど威厳にあふれていた姿はない。彼も私と同じ人間なのだと、不謹慎だが安心できる。
「う・・・」
寝息とは明らかに違う音が聞こえてきた。
その声に、わたしは思わず彼のほうを見る。
彼は、そのキリっと整った瞳を開けて、こちらを見ていた。
「・・・ム、ここは・・・」
「影斗さんッ!」
「ン・・・咲夜か・・・そうか、わたしは・・・」
「ご無事で・・・何よりです・・・」
彼が無事、目を覚ましたことで、感極まったわたしは、若干瞳をぬらしながら彼に言った。
「言っただろう?わたしは君を悲しめたりなんかしないさ、決して・・・」
「そうですね。」
彼は約束した通り、無事に帰ってきてくれた。
自分が大変な目にあったのに、そんな約束まで覚えててくれた。
だからわたしはにっこり笑っていった。
「お帰りなさい。」
「・・・ああ、ただいま。」
「無事で何よりだわ、影斗。」
レミリアは来て早々そう言った。
あれからすぐにレミリアがフランを連れてやってきた。
フランは姉の後ろに隠れて出てこない。(姉も小さいので隠れきれていないが。)
わたしを警戒しているのだろうか?・・・まあ当然だろう。自分を弄った人間の顔なんか見たくもないだろうからな。
でも、2人の仲が良さそうでよかった。
「・・・それより、服を着たら?咲夜にはいいかもしれないけど、わたしやフランには目に毒だわ。」
「・・・?まあいいが・・・」
「では、こちらを・・・」
レミリアの言ってる意味が分からないが、とりあえず咲夜が渡してくれた服を着ようか・・・
「きさま!見ているなッ!」
右手で顔を隠し、左手で気配のした方を指さし、わたしはそう言った。
カシャッ!
「・・・あなた、何やってるの?」
レミリアが呆れたように言う。
「いや、何者かに見られているような感じがして・・・」
「そう・・・まあいいわ。」
レミリアは腑に落ちないよう顔をするが、したものはしたんだ、仕方ないだろう。
咲夜もいたたまれないような顔でこちらを見ている。
「ホントだぞッ!確かに誰かに見られていたッ!」
「はいはい、分かったからさっさと服を着て。」
「そうです、影斗さん、妹様の目に毒です。」
2人が冷たい・・・あんまりだぁ・・・
「ふふふ、それは災難だったわね、影斗。」
ところ変わって、紅魔館の図書館。
わたしはパチュリーと話をしていた。
「ああ、ほんとそれだ、いくらなんでも酷すぎやしないか?」
「彼女らなりに心を開いてる証拠よ。」
ドーンッ!
「そうだといいんだがね・・・」
ガチャリ
わたしたちが話していると、不意に後ろの扉が開く。
現れたのはフランだった。
「おや?フランどうしたんだ?」
姿を現したフランに、内心驚いたわたしだが、いったいどうしたのだろうか?
ズガーンッ!
「あ、あの・・・影斗に言いたいことがあって・・・」
「言いたいこと?」
ふむ、言いたいことか・・・
やはりあの事か?
わたしがそう考えているとフランは口を開いた。
「う、うん・・・影斗・・・あなたがわたしを助けてくれたのよね?」
「・・・君の狂気を吹き飛ばしたことなら、確かにやったよ。」
「その・・・ありがとう・・・影斗。
わたしの狂気を晴らしてくれて・・・。」
「わたしがやりたいようにやっただけだ、フラン、君が気にすることはないさ。
・・・それよりどうだ?あの部屋の外というのは?楽しいか?」
「うん!新しいことばっかりで、すっごくッ!」
そう言ってからも、フランはなお続けた。
パチュリーのことは以前から知っていたらしいが、咲夜や妖精メイドにあったこと、それにレミリアと過ごした時間のこと。
楽しそうに話す彼女を見ると、やってよかった、と改めて思う。
「そうか・・・ならいいんだ、それで十分さ。」
「そう?
・・・でもほんとにありがとう、
それじゃあお姉様に呼ばれてるから・・・」
ドッガーンッ!
「そうか、だったら早く行くといい、また今度。」
「ええ、また今度。」
手をこちらに振りながら、フランは部屋から出て行った。
「・・・ところでパチュリー・・・」
ドグォォォンッ!
「あら、なにかしら?」
「さっきからしているこの音は何だァ?だんだんと近づいてきているッ!」
「たのもー、この霧の異変、霧雨魔理沙様がわざわざ解決に来てやったぜ。」
「それだけじゃないでしょう、魔理沙、影斗のことも・・・
さっきの門番が言うにはまだ生きてるらしいじゃない。」
「おお、そうだったな。人質を離すんだー、君たちはすでに包囲されている~。」
「・・・はあ。」
扉から出てきたのは、コスプレのような巫女服と、魔法使いのような格好の少女が現れた。霊夢と魔理沙だ。
「・・・どういうことだ・・・パチュリー・・・?」
「レミィが幻想郷を紅霧で包んだのよ。
ほら、吸血鬼にとって太陽は天敵じゃない?」
「わたしがここに来たときには、そんなものはなかったはずだが・・・」
「ええ、あなたが眠ってからやったことだもん。当たり前じゃない。」
「何故だッ!?
わたしが帰ってからでも遅くはないだろーがッ!」
「そんなことわたしに言われたって知らないわよ。」
彼女にはいくら言っても無駄なようだ。
「わぁ、本がいっぱいだぁ。後でさっくり持っていこ。」
魔理沙がそういうと、パチュリーは目の色を変え、魔理沙のほうへすっ飛んで行った。
しばらく言い合いが続き、弾幕ごっこが始まった。残された霊夢はこちらに気づいたようで、こちらに向かってきた。
「んで・・・あなたはこんなところで何をしているのかしら。」
「何を・・・と言われても・・・
見ての通り、本を読んでいるんだ。ここは図書館だからね。」
「そんなことを聞いてるわけじゃないんだけど・・・
それで・・・影斗、あなたはこの異変に関係はあると考えていいのかしら?」
「いやいや、わたしは至って無関係だ。勘違いしないでほしい。」
「そう・・・だったらわたしはもう行くわね、めんどくさいけどこれがわたしの仕事なのよ。
そうそう、一回神社に寄りなさい、文が心配してたわよ。」
「そうか・・・そうだな、元々その予定だったし、一回帰ろうと思うよ。
だが霊夢、少し待ってはくれないか?」
「ん?なによ、なんか用?」
「いやなに、スペルカードルール・・・だったか?
あれをいろいろ考えたものでね、少し相手をしてもらいたい。」
わたしはそう言って、彼女のことをじっと見る。するとめんどくさそうにしていた彼女が、ふぅ、とため息を漏らしカードを構えた。
「スペルカードは?」
「3枚。」
こうしてわたしのスペルカードルールによる初陣が始まったのだ。
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