東方殺女王   作:ダイナマイト

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長くなりそうだったので前後編に分けました。


楽園の巫女~前編~

「はぁ・・・」

 

吸血鬼が治める紅魔館の一室、

ここのメイド長を務めるわたし、十六夜咲夜は、三日前から眠り続けている館の客人、蒼々影斗の世話をしていた。

彼がこの館を訪れた日から・・・この館は変わった。まるで止まっていた時が動き出したかのように。

少し人間を舐めているところのあった中国(本みりんさん)は考えを改め直し、鍛練に励んでいる。(その疲れのせいか、最近、一段と仕事中に眠ることが多い。)

パチュリー様はあまり変わらなかったが、話し相手が出来て嬉しそうだった。

かくいう私も、今までお嬢様と・・・この館だけだった世界が広がった気がする。

そして一番変わったのは、お嬢様と妹様だろう。495年間、止まっていた二人の世界が再び動き出したのだ。これまでの遅れを取り戻すかのように、二人はとても仲睦まじく過ごしている。

時を操るわたしが言うのもなんだけど、本当に時が動き始めたようなのだ。

 

 

 

彼の顔色は、この部屋に運ばれたときに比べて格段に良くなっている。最初は本当に真っ青だったのだ。

彼の血液型が分からぬ以上、輸血するわけにもいかず、彼自身が造血するのを待っていることしかできない。

最初は心配していたわたしだけど、お嬢様が

 

「大丈夫よ、彼の死の運命は消えたわ。呆れるわよ、まさか本当に運命を変えてしまうなんてね。」

 

彼が死なないと分かった以上、わたしは彼がいつ起きても大丈夫なようにお世話をさせてもらう。

お嬢様やパチュリー様には

 

「「まるで新妻ね、甲斐甲斐しいわ、ほんと。」」

 

などとからかわれてしまった。別にそんなことはないのですが・・・

今思い出したことと、これからやることを考えて、わたしの顔は真っ赤に染まる。

 

すーは―と呼吸を整えて、影斗の服を脱がした。

・・・勘違いしないでもらいたいんですが、別に寝込みを襲っているわけではないんですよ!その・・・お体を拭かせて貰うだけです。

確かに影斗さんの体は、無駄な脂肪がなく、美しく締まった筋肉をしているいますが・・・

 

ぼうっと、ずっと見つめていたことに気づき、ふるふると頭を振って考えを振り払い、彼の体を拭く。

 

「早く起きてくださいね・・・お嬢様たちが待っています・・・もちろんわたしも・・・」

 

こうして動けない彼を見ると、あれほど威厳にあふれていた姿はない。彼も私と同じ人間なのだと、不謹慎だが安心できる。

 

「う・・・」

 

寝息とは明らかに違う音が聞こえてきた。

その声に、わたしは思わず彼のほうを見る。

彼は、そのキリっと整った瞳を開けて、こちらを見ていた。

 

「・・・ム、ここは・・・」

 

「影斗さんッ!」

 

「ン・・・咲夜か・・・そうか、わたしは・・・」

 

「ご無事で・・・何よりです・・・」

 

彼が無事、目を覚ましたことで、感極まったわたしは、若干瞳をぬらしながら彼に言った。

 

「言っただろう?わたしは君を悲しめたりなんかしないさ、決して・・・」

 

「そうですね。」

 

彼は約束した通り、無事に帰ってきてくれた。

自分が大変な目にあったのに、そんな約束まで覚えててくれた。

だからわたしはにっこり笑っていった。

 

「お帰りなさい。」

 

「・・・ああ、ただいま。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事で何よりだわ、影斗。」

 

レミリアは来て早々そう言った。

あれからすぐにレミリアがフランを連れてやってきた。

フランは姉の後ろに隠れて出てこない。(姉も小さいので隠れきれていないが。)

わたしを警戒しているのだろうか?・・・まあ当然だろう。自分を弄った人間の顔なんか見たくもないだろうからな。

でも、2人の仲が良さそうでよかった。

 

「・・・それより、服を着たら?咲夜にはいいかもしれないけど、わたしやフランには目に毒だわ。」

 

「・・・?まあいいが・・・」

 

「では、こちらを・・・」

 

レミリアの言ってる意味が分からないが、とりあえず咲夜が渡してくれた服を着ようか・・・

 

「きさま!見ているなッ!」

 

右手で顔を隠し、左手で気配のした方を指さし、わたしはそう言った。

 

カシャッ!

 

「・・・あなた、何やってるの?」

 

レミリアが呆れたように言う。

 

「いや、何者かに見られているような感じがして・・・」

 

「そう・・・まあいいわ。」

 

レミリアは腑に落ちないよう顔をするが、したものはしたんだ、仕方ないだろう。

咲夜もいたたまれないような顔でこちらを見ている。

 

「ホントだぞッ!確かに誰かに見られていたッ!」

 

「はいはい、分かったからさっさと服を着て。」

 

「そうです、影斗さん、妹様の目に毒です。」

 

2人が冷たい・・・あんまりだぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、それは災難だったわね、影斗。」

 

ところ変わって、紅魔館の図書館。

わたしはパチュリーと話をしていた。

 

「ああ、ほんとそれだ、いくらなんでも酷すぎやしないか?」

 

「彼女らなりに心を開いてる証拠よ。」

 

ドーンッ!

 

「そうだといいんだがね・・・」

 

ガチャリ

 

わたしたちが話していると、不意に後ろの扉が開く。

現れたのはフランだった。

 

「おや?フランどうしたんだ?」

 

姿を現したフランに、内心驚いたわたしだが、いったいどうしたのだろうか?

 

ズガーンッ!

 

「あ、あの・・・影斗に言いたいことがあって・・・」

 

「言いたいこと?」

 

ふむ、言いたいことか・・・

やはりあの事か?

わたしがそう考えているとフランは口を開いた。

 

「う、うん・・・影斗・・・あなたがわたしを助けてくれたのよね?」

 

「・・・君の狂気を吹き飛ばしたことなら、確かにやったよ。」

 

「その・・・ありがとう・・・影斗。

わたしの狂気を晴らしてくれて・・・。」

 

「わたしがやりたいようにやっただけだ、フラン、君が気にすることはないさ。

・・・それよりどうだ?あの部屋の外というのは?楽しいか?」

 

「うん!新しいことばっかりで、すっごくッ!」

 

そう言ってからも、フランはなお続けた。

パチュリーのことは以前から知っていたらしいが、咲夜や妖精メイドにあったこと、それにレミリアと過ごした時間のこと。

楽しそうに話す彼女を見ると、やってよかった、と改めて思う。

 

「そうか・・・ならいいんだ、それで十分さ。」

 

「そう?

・・・でもほんとにありがとう、

それじゃあお姉様に呼ばれてるから・・・」

 

ドッガーンッ!

 

「そうか、だったら早く行くといい、また今度。」

 

「ええ、また今度。」

 

手をこちらに振りながら、フランは部屋から出て行った。

 

「・・・ところでパチュリー・・・」

 

ドグォォォンッ!

 

「あら、なにかしら?」

 

「さっきからしているこの音は何だァ?だんだんと近づいてきているッ!」

 

「たのもー、この霧の異変、霧雨魔理沙様がわざわざ解決に来てやったぜ。」

 

「それだけじゃないでしょう、魔理沙、影斗のことも・・・

さっきの門番が言うにはまだ生きてるらしいじゃない。」

 

「おお、そうだったな。人質を離すんだー、君たちはすでに包囲されている~。」

 

「・・・はあ。」

 

扉から出てきたのは、コスプレのような巫女服と、魔法使いのような格好の少女が現れた。霊夢と魔理沙だ。

 

「・・・どういうことだ・・・パチュリー・・・?」

 

「レミィが幻想郷を紅霧で包んだのよ。

ほら、吸血鬼にとって太陽は天敵じゃない?」

 

「わたしがここに来たときには、そんなものはなかったはずだが・・・」

 

「ええ、あなたが眠ってからやったことだもん。当たり前じゃない。」

 

「何故だッ!?

わたしが帰ってからでも遅くはないだろーがッ!」

 

「そんなことわたしに言われたって知らないわよ。」

 

彼女にはいくら言っても無駄なようだ。

 

「わぁ、本がいっぱいだぁ。後でさっくり持っていこ。」

 

魔理沙がそういうと、パチュリーは目の色を変え、魔理沙のほうへすっ飛んで行った。

 

しばらく言い合いが続き、弾幕ごっこが始まった。残された霊夢はこちらに気づいたようで、こちらに向かってきた。

 

「んで・・・あなたはこんなところで何をしているのかしら。」

 

「何を・・・と言われても・・・

見ての通り、本を読んでいるんだ。ここは図書館だからね。」

 

「そんなことを聞いてるわけじゃないんだけど・・・

それで・・・影斗、あなたはこの異変に関係はあると考えていいのかしら?」

 

「いやいや、わたしは至って無関係だ。勘違いしないでほしい。」

 

「そう・・・だったらわたしはもう行くわね、めんどくさいけどこれがわたしの仕事なのよ。

そうそう、一回神社に寄りなさい、文が心配してたわよ。」

 

「そうか・・・そうだな、元々その予定だったし、一回帰ろうと思うよ。

だが霊夢、少し待ってはくれないか?」

 

「ん?なによ、なんか用?」

 

「いやなに、スペルカードルール・・・だったか?

あれをいろいろ考えたものでね、少し相手をしてもらいたい。」

 

わたしはそう言って、彼女のことをじっと見る。するとめんどくさそうにしていた彼女が、ふぅ、とため息を漏らしカードを構えた。

 

「スペルカードは?」

 

「3枚。」

 

こうしてわたしのスペルカードルールによる初陣が始まったのだ。

 

 

 

 

 




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