キャラ崩壊が一番激しいのがこの方ですね。
2014.3.31 修正+追加
リビングで夢の世界へ旅立ったなのはをこのまま放置するわけにもいかないので、今日は不在の姉の部屋に運ぶ。
俺の部屋で一緒に寝るわけにもいかないからな。
横抱きで運んでいるのだが、丸まって子猫みたいに俺の懐に収まっている、かわええなぁ。
『愛らしいマスターが無防備に寝ているからといって、変な事しないでくださいね』
「しねぇよ、寝てる女襲うほど欲求不満じゃねぇよ」
『マスターはまだ幼いというのに、女として見ているのですね。警戒レベルを一段階引き上げました』
「そういう意味で言ったんじゃない。おいなんか光ってんぞ、さっきの録音とかしてねぇだろうな」
レイハとバカな掛け合いをする、かなりの割合で俺が貶されているが、こいつも楽しそうなのでよしとしようか。
ユーノは半分以上寝てしまっているが、こいつは俺と一緒に風呂行きだ。
レイハは…なのはの枕元にでも置いておこう。
姉の部屋に入り、なのはをベッドの上に乗っけたのだがどうしよう、服を掴んで離してくれない。
なにか代わりに持たせられるような物は、と探していたら微かになにか聞こえた。
なのはが寝言を言ってるようだ。
耳をそばだてる、なのはの言葉なら一言一句逃さないぜ!
「わた……が、まも……、……らね、徹おにぃちゃん……」
どうやら夢の世界の俺は頼りないようだな。
でも、こう言ってくれてるんだから感謝はしておこう、ついでにおやすみの意味も込めて。
起こさないよう、優しく静かになのはの額に口付けをした。
ふと横を見ると、レイハの上に【REC】の赤い字が回っていた。
「レイハ、お前の言いたいことはわかるがまず聞いてくれ。誤解だ」
『そうでしょうか、私には寝ているのをいいことに、小学三年生の身体を抱っこと称して触りまくったあげく、キスまでしたように見えましたが?』
なんと悪意に満ち溢れた解釈だ……
「な、何もかもが違うな。抱っこしたのは、風邪引いたら大変だからベッドに運んだだけだ。キスは……あれだ、お前がいた世界ではわからんが、俺達のいるこの世界では寝る前に良い夢見ろよって感じで額にちゅっ、てやるんだよ。なにもおかしなところはない」
こいつはこっちの世界のことを、まだ詳しくは知らないはずだ。
ならこういう言い方をすれば、無知なレイハは俺の意見を認めざるを得ない!
『Zzz…あ、言い訳終わりました?』
このデバイスぅぅ!
せめて、まともに聞く姿勢くらいはとってくれよ!
『ふぅ……なんと浅慮な考えと弁解でしょうか。どうせ、私はこの世界の事をまだ十分に知っていない、とでも考えたのでしょうが、それがまず間違っているのです』
よかった、聞いてはいてくれたみたいだ、ぼろくそに言われてるけど。
『この世界のことはリビングにあった情報端末から既に収集済みです、残念でしたね、お馬鹿さん。外国では割とメジャーのようですが、日本ではあまりしないようですね、家族でもないのならなおさらです』
リビングにある情報端末っていうと……パソコンか?
パソコンをハッキングでもしてネットに繋ぎ、情報を集めていたとでもいうのか。
そんなことができるとは予想外だ。
それに結構細かいところまで調べたんだなぁ……
『私は優秀であるというのは徹も知っていたはずですが、おあいにく様。徹の想像以上に、私は優秀であることが証明されてしまいました』
俺を言い負かしたことで機嫌がいいのか″頑張ればあなたにもできるようになるかもしれませんよふふっ″とか煽ってくる。
さすがにここまで言われると悔しいが、如何せん、言い訳があっさりと看破されたこの状況では打つ手がない。
なぜなら、
『さて、言い訳をして嘘をついたということは、後ろめたいことをしたという証拠になりますね。これはもうQEDと言ってもいいのではないでしょうか? 動画も押さえてあることですし』
こういうことだもんなぁ……全部説明してくれやがった。
これが詰みという状態なんだな、勉強になったぜ。
「わかった、俺の負けだ認めるよ……で、だ。俺に何を要求するつもりだ? 俺に出来ないことは求めんなよ」
どうせ、なんらかの取り引きの材料にするつもりなのだろう。
あまり無茶なこと言ってくれるなよ、頼むから。
『なんてことはありません。て、定期的に先ほどしたようにおて、お手入れしてくれるとここで約束するだけでいいです。それで先ほどのデータの削除を考えてあげましょう』
なんでちょっと言葉に詰まってんだよ、お前口とかねぇのに。
まぁ、それくらいで済むなら構わないか。
最初はなのはにやらせるつもりだったんだけどな。
「わかった、それでいいなら約束しよう。さぁ、データを消してくれ」
後々の手間が増えてしまうことになるが、そんな手間よりこのデータの方が危険だ。
これが恭也の目に入ってみろ、血の雨が降ることになるぞ。
もちろん100%俺の血で。
『ちゃんと録音しましたからね? 約束ですからね?』
「約束は守るって。それよりもデータだ」
『いいでしょう、削除を
は? ちょ、おい何言ってんの?
「お前が約束破るのかよ!? こら、この赤丸が! 万力持ってくるぞこの野郎!」
『野郎ではありません。それに約束通りじゃないですか、削除を考えると私は言ったのですから』
この……詐欺師かよこいつ……確かにそう言ってたけど!
『あまり騒がないでください、マスターが起きてしまいます。大丈夫です、悪用はしませんからご安心ください』
信用できねぇ、できねぇけど信用する他ない。
「絶対に悪用すんなよ? その言葉信じるからな」
『心配性ですね、大丈夫です。私、揚げ足は取りますが嘘はつきませんので』
確かにこいつ嘘はつかねぇんだよな、解釈の仕方や見方が歪んでいるだけで。
……十分厄介だな、ある意味嘘つきよりも厄介だ。
『貴方はもう少し、駆け引きについても学ぶ必要がありそうですね。もう時間もだいぶ遅くなっていますよ。早く入浴してきたらどうですか、疲れているように見えますよ?』
「お前のせいで、遅くなったし疲れることになったんだよ」
俺は、数分前より倍くらい疲労感が増した身体を引きずりながら、負け犬らしく尻尾を巻いてそそくさと風呂場へ向かうのであった。
「徹兄さん、今さらこんなこと言うのも遅いとは思うんですが、僕喋ってていいんでしょうか?」
俺が身体を洗い終わり湯船につかって一息ついた時、湯を張った洗面器を湯船にしているユーノが要領を得ないことを聞いてきた。
ちなみに肩の傷は、少し寝たことで魔力が回復したらしいユーノが治してくれた、これで全快だ。
おかげでゆっくりと風呂に入ることができる。
「いきなりなんだよ。どういう意味だ?」
「いえ、基本的に一般人にばれちゃいけないので、徹兄さんのご家族に見つかったら大変だなぁと思いまして」
「本当に今さらな話だったわ、意外にぬけてるとこあるんだな」
そのあたりの事って、最初から気を使ってないといけないんじゃないの?
俺の家にいる限りは、必要ないと思うがな。
「この家なら気にしなくていいぜ。姉ちゃんは今日、仕事でいないから」
「ご両親もお仕事ですか?」
「俺の親はもう、どっちもいないんだ。二年前に交通事故で二人ともな」
湯船につかり、タオルを目の上に置いて風呂の縁に頭を置く。
もう二年も経つんだな、早いような、遅いような。
「す、すいません……無神経なことを……」
「気にすんな。って言ってもお前は気にしちまうんだろうな。両親は死んじまったけど、俺には姉ちゃんがいるし恭也……なのはの家の人達も助けてくれたから、割と本当に大丈夫だったんだよ」
洗面器の中で、気落ちしてしまったユーノの頭を指で撫でる。
今はもう慣れたものだが、料理とかの家事をやるようになったのも両親が死んでからだった。
家事をし出した理由は、一人で頑張っていた姉を手伝いたかったという考えからだ。
両親を突然亡くしてまだ小さかった俺を育てるために、姉は大学を辞めて働きに出た。
家を遺してくれたとはいっても、日々暮らしていくのに金はどうしても掛かるし貯金も心許なかったらしい。
そんな姉を少しでも手助けしようと、習っていた道場をやめて家事全般をするようになった。
いやぁ懐かしいな、あの時はまだ料理もへたくそで、姉ちゃんから″まずい″とはっきり言われて発奮したのを憶えてる。
「俺の父親の知り合いに道場の先生がいてな。そこに見学に行って、その日に"これから通え"って突然父親に言われたんだ。あの時は焦ったわ」
ユーノがなるべく気にしないよう、陽気に話す。
こちらの意を察してくれたのか乗ってくれた。
「その経験があったから思念体相手にも戦えたんですか?」
「そうだなぁ、道場での経験がなかったら生き残ってはいなかっただろうな。でも、もう一度同じことをやれって言われても出来る気はしねぇよ?あれはただ、運が良かっただけだろう」
あの時はひたすらに必死だったからな、なのはを守るためにも退けなかったし。
覚悟を決めたら力が湧いてきたのは驚いた、あれが火事場の馬鹿力というのだろう。
いや、少し待て、そんな都合良く何とかなるか?
思えばあの思念体は、金属で出来た門やコンクリート製の壁を壊すほど力があった。
そんな破壊をもたらす触手を俺は、拳で弾いた。
あんな力を振るわれて、普通の人間が威力を流したとはいえ出来るのか?
解は出ている、出来るわけがない。
あの時、心の奥の方から力が湧いたのを俺は"死の間際だから"と結論付けた。
今なら違う可能性があるのを俺は知っている、魔法だ。
「ユーノ、魔法が発動している気配があるかしっかり見といてくれ」
「は、はい。わかりました」
突然黙り込んだ俺の顔を、訝しむように見ていたユーノにお願いする。
戸惑いながらも了解してくれた。
俺は、戦っていた時の感覚を思い出しながら深呼吸する。
集中し、心の奥に意識を集める。
身体をなにかが――恐らく魔力が――循環しているような感覚がある。
そうだ、手や足の末端まで力が込み上げてくるような、この感覚だ。
「魔力色が透明のせいか魔法陣も見えないし、僕の知っている魔力付与とも違うようですが……確かに発動しているようです」
「やっぱりそうだったか」
あの時俺は無意識のうちに魔法を使っていた。
なにがきっかけで、使えるようになったのかはわからないのがむず痒い。
とりあえず今は《ジュエルシードにあてられたから》ということにしておこう。
「やはり徹兄さんは、魔力付与に才能があるみたいですね」
「感覚でやってるところがあるから不安だな。また今度しっかり教えてくれ」
自分の可能性が見つかって、今すぐ詳しく調べたいが今は無理だな。
「ユーノ、もう出よう。のぼせちまう」
「そうですね、頭がくらくらします」
のぼせてんじゃねぇか、早く言えよ危ないだろうが。
ユーノの胴体をつかんで急いで風呂を出た。
徹さんのお話。
昔小さい時、今もまだ小さいけどもっと小さかった時、お父さんが倒れて、家もお店も大変になった。
みんなばたばたと慌ただしく動き回って、毎日忙しそうにしていた時期があった。
お兄ちゃんやお姉ちゃんはできることがあったけど、小さかった自分は何もできなくてお店にいても迷惑かけちゃうから、ずっとお家でお留守番。
一人で家にいて寂しかったけど、みんなにはやらなきゃいけないことがあって、家に帰ってくるのは夜の遅い時間。
みんなが帰ってくる時間まで起きて待っていても、お兄ちゃんもお姉ちゃんもお母さんも、疲れてすぐに寝てしまう。
そのことに文句を言おうとは少しも思わなかった。
だって……みんな頑張ってるんだから。
家のため、お店のため、家族のために頑張ってるんだから。
でも寂しかった。
なんでもいいから私に構ってって、お話ししよって言いたかった。
だけど弱い私は、大好きなはずの家族にさえ負担になるんじゃないかなんて考えて、その幾つかの言葉すら言うことができない。
徐々にふさぎ込むようになっていったある日、お兄ちゃんの友達の逢坂徹さんがやってきた。
徹さんは私に″遊びに行くぞ″って手を差し伸べてくれた。
独りぼっちで家にいて、寂しさと孤独感で真っ暗になっていた私に光をくれた。
大げさだけど、当時の私は本当にそのくらいの気持ちだった。
徹さんのお父さんとお母さんが亡くなった。
交通事故だったそうだ。
それがいつ位の頃だったかは詳しくは憶えていないけれど、あの時の徹さんの顔は忘れられない。
周りの人に心配をかけないように、拳を握りしめてくちびるを噛み締め、必死で泣くのを我慢している姿。
それでも堪えきれずに涙が溢れるから上を向いて零れないようにしていた、あの時の表情。
いつも頼りになる徹さんが見せた、唯一の泣き顔。
そんな見ていて痛々しいくらいの仕草が、徹さんのご両親が亡くなったと聞いた時よりも悲しくて辛かった。
いつかそんな彼を守れるようになろう、と思っていたけどまさか、魔法という形で力になれることになるのは予想外だった。
今まで守って、支えてもらった分お返ししなきゃだよね。
これからは私が守るからね、徹お兄ちゃん。
これは、家族に対する大切さとは少し違う感覚の大切さ。
この感覚がなんなのか、まだ少しわからないけれど、徹さんのことを考えると心が暖かくなる。
きっとこれはすごく大事な気持ちなんだろう、この気持ちを無くさないように心にしっかりと保管しておこう。
この形容し難い気持ちは、これからゆっくり育んでいけばいいのだから。
バチリ、と心の奥に電撃のような痛みが走った。
視界が移り変わる。
海の上、どす黒い雲と降りしきる雷雨、鳴り響く轟音。
私の上空で、庇うように両手を広げる徹さんが見える。
視界が移り変わる。
また海の上、大きな岩が海から生えるように立っている。
複雑な魔法陣の上に立つ彼の頭上から、とんでもなく大きい光が空間を貫き、呑み込んだ。
視界が移り変わる。
山岳地帯、大きな船がたくさん浮いている。
ひときわ大きく立派な船に、傷だらけの徹さんが突貫していく。
行かないで、死んじゃうよ。
そう思うのに口は動かず、声は出ない。
視界が移り変わる。
どこか大きな街、高いビルが競うように建っている。
さっきのシーンよりも傷がたくさんあり、血をたくさん流している徹さんがいる。
助けに行こうと足を動かしても一向に近付かない。
私の目になにかが入った。
灰色の噴煙の尾を引きながら、なにかが飛来してくる。
なにかが飛んできている事は気が付いているはずなのに、徹さんは動こうとしない、いや動けないのだろう。
自分に何ができるわけでもないけれど、徹さんの満身創痍な状態に見ていられなくて、自分の身体を盾にしようと必死に近付く。
思いが通じたのか、手が触れる距離まできて膝をつく彼を抱き締めようとした時、なんの手応えもなく身体が通り抜けた。
すり抜けてしまい、彼の背後に回った状態で呆然とした自分の耳に、たった一言だけ彼の言葉が届いた。
″ごめんな″
何に対する謝罪なのか、誰にあてた言葉なのかも判断できなかった。
爆炎と衝撃が周囲を覆い尽くした。
目を開く、枕が涙で濡れてしまっている。
部屋にある数々の変わった趣味の置物を見るに、ここは徹さんのお姉さんの部屋のようだ。
時計を確認するまでもなく、真夜中だった。
さっきまで見ていたのは夢だ。
そんなことわかってる。
でも、心臓の鼓動が止まらない、冷や汗や涙も同様だ。
いやに現実味のある夢だった。
今では、あれは夢だったと吐き捨てることができるが、夢の中では本当に、自分がその場にいるような気がした。
身体の震えが止まらない、両手で肩を抱いてもなお寒い。
身体ではなく、心が凍えているかのようだ。
さっきのが夢ではなく、本当のことだったらどうしよう。
そう考えるだけで心がざわつき、無意味な焦燥感に駆られる。
不安や孤独感、身体を襲う寒さや震えで心が壊れてしまいそうになる。
「いやだ、そんなのやだ……徹お兄ちゃん……」
精神に余裕がなくなり、冷静な考えができなくなる。
「どこ?徹お兄ちゃん…」
ふらふらと夢遊病患者のような足取りで歩みを進める。
彼の部屋の前まで来た。
扉を開けて彼がいなかったらどうしよう。
錯乱状態になるかもしれないが、今は心を掻き乱し続けるこの不安感を取り除くことが先決だ、と決心した。
ゆっくりと扉を開く、ベッドに膨らみがある。
近付いて覗き込んでみると、目を閉じ一定のリズムで呼吸を繰り返す彼がそこにいた。
目を瞑っていると、いつもより幼く見えてすこし可愛かった。
「徹お兄ちゃん……いた、よかった」
ただそれだけで、落ち着きを取り戻す。
あれほど荒れていた心中は、今は凪いだ水面のように静かなものだった。
この安心感を、彼の体温と一緒に感じるため布団に潜り込んだ。
徹の腕に頭を置いて、彼の胸の中へと進んでいく。
彼の腕を枕にして、彼の匂いと温もりに包まれたなのははこれ以上ないほど安心し、いい夢みれたらいいなぁ、なんて他愛ないことを考え、眠りに落ちた。
レイハさんと主人公仲良過ぎです。
なぜかこの二人は絡ませやすいのです。
なのはの夢。
主人公への呼び方が二つありましたがこれは意図的に分けました。…本当ですよ?
なのはは声に出すときはお兄ちゃんをつけて、心の中ではさん付けで呼んでいます。
なのはさんちょっと依存しすぎですね。
おかしいな、マジ可愛さ1000%にするつもりだったんですけど。
そういえば初のなのはsideでした。
ほとんど地の文ですね、すいません。これから精進します。