2014.3.30 修正
「ごちそうさまっ、おいしかったです!」
「はい……お粗末様でした……」
手をぱちっ、と合わせて、元気よくご馳走様した。
やっぱり料理はおいしいと言ってもらえるのが一番嬉しいな。
今日の晩御飯は俺にとっては、天国と地獄を行ったり来たりするようなものだったが……
「徹兄さんの料理本当においしかったです! すごいですね、あんなに喋りながら作ってたのに!」
ユーノも褒めてくれた。
ん? 褒めてくれてくれてるんだよな?
もうユーノの中で俺の呼び方は、兄さんで固定されてしまってるようだ。
訂正しようとも考えていないな、こいつ。
『誰でも一つくらいは、得意なものがあるのですね』
なぜ素直に褒めれないのか。
そういえばレイジングハートは大丈夫なのだろうか、電池とかのエネルギー的なもの。
「飯も食ったし風呂入るわ。ほれユーノ、行くぞ」
はい、と返事をして俺の肩に乗る。
「お背中流し……」
「もういらないよ、そういうの」
なのはがまたいらん事を言いそうになったので、言い終わる前に先回りしてばっさり切り捨てる。
これ以上なにかされたら、さすがに俺の鉄壁の理性もどうにかなってしまいそうだ。
むぅ、とうなるなのはを無視してレイジングハートに水を向ける。
「レイジングハート、お前はどうする? すこし汚れてんじゃねぇの?」
『助けてくださいマスター! 野獣が私の体を狙っています!』
親切心で洗ってやろうかと思ったのに、何てことをいいやがる。
この赤い宝石は俺をなんだと思っているのだろう。
お前襲うとかどんな性癖だよ。
「ちょっと待ってろ、今すぐやすりを持ってきてやっから」
リビングを出て自分の部屋へ、必要なもの取りに行く。
後ろでレイジングハートがわめいている声と、なのはがそれを落ち着かせるような会話が聞こえた。
ユーノが、お手柔らかにしてあげてください、と頼んできたがそれは保証できないな。
「さあ、レイジングハート……裁きの時だ」
戻ってきた俺が、リビングの扉を開け放つと同時にレイジングハートに宣告する。
あれ、テーブルの上に転がっていたはずの赤い宝石の姿が見えない。
代わりになのはが隅っこで、カーテンに隠れるように丸まっていた。
それ隠れる気あんのかよ…
ゆーっくりと、なるべく恐怖を与えるように近付き、うずくまるようにしているなのはの肩を掴む。
「なのはちゃーん、隠しているもん出そうか?」
「持ってません、なにももってないですよお兄様?」
嘘下手か、なんかもう一周回ってかわいいわ。
なのはの手の中から、かたかたっ、とレイジングハートが震える音出ちゃってるのに。
「はぁ、ほら大丈夫だから。レイハこっちに渡せ」
俺が持ってるものをなのはの視界に入れる。
俺が持ってきたものを見て安心したのか、はふぅと詰まっていた息をはいて、レイジングハートを俺の手に乗せる。
突然の主の豹変ぶりに、レイジングハートが驚いたように声を上げる。
『マスター!? 私を見捨てるのですか! こんな……野蛮で粗野で、私の名前を省略するような男に!』
色々文句つけてるけど、一番怒ってる理由は名前短くしたからみたいだな。
「省略じゃない、愛称だ。その方が親しみやすいだろうが」
『私はもとから、貴方の十倍は親しみやすいですよ、この強面!』
たしかに俺はちょこっと愛想が悪いし、少しだけ凶悪な顔をしているとは言われるが、そこまで言わなくてもいいじゃないか。
なんでこんなに俺を嫌ってんのかね。
「それじゃ始めるか」
『きゃあーっ! 私の自慢の、美しい曲線美に傷をつけないでください!』
脚線美ではなく曲線美か、うまいことを言う。
さて、まずは乾いた布で表面の汚れを拭く。
こいつ、ただの球体だからやり甲斐がねぇな。
『わひゃあっ、な、なにを』
汚れがひどかったら少し湿らせた布で拭くんだが、今回はその必要はなさそうだ。
『んっ、あぅ、ひぅっ……』
汚れが落ちたら、専用のオイルをしみ込ませた布で表面に薄く塗布していく。
なんか手を動かす度にレイハが反応してくるんだが、こいつ感覚とかあるのか?
『ふぅっ……はぁっ……だっ、だめっ……』
あとは、綺麗な布で余分なオイルを拭えば終わりっと、もう終わっちまったよ、早いな。
こいつ手をかけるところ無いからなぁ、真ん丸だし。
俺、うまいこと言ったな。
つうか、なんでなのはは目を覆ってんだよ。
ちゃんと見とけよ、これからはお前がするのに。
『はぁっはぁっ……貴方、一体何をしているのですか!』
なんで息荒げてんの、どっかで呼吸してるの?
「レイハ、お前本当に俺にやすりで削られると思ったのか?心外だな、お前の中の俺のイメージどんだけ短気なんだよ」
失礼な話だぜ、俺は常に仲良くしようとしていただろうに。
なのはは、もう終わったかな? 大丈夫かな? という風に、ちらちらと手の隙間からこちらを見ている。
ユーノの気配がさっきからしないなーと思ったら、俺の肩で布団干すみたいな感じで寝てしまっている。
魔法も使ったし疲れてたんだな。
『ジュエルシードの思念体に、生身のステゴロで挑む位ですから。それはもう、極めて野蛮な人間なのでしょう』
その部分だけを抜粋されると俺、人間じゃないみたいだな。
「俺だって、できることなら戦いたくは無かったぜ。あの時はやるしかないからやったんだ。この際だからはっきりと口に出しておくが、俺はな、レイハ。お前とも、良好な関係を築いていきたいと考えてんだよ。常になのはの一番近くにいて、有事の際はお前が一番なのはを守ることができるんだ。俺にはできない事も、お前にならできるんだからな」
レイハは言葉が出てこないのか光で応答する。
一応、俺の話を聞いてはいるようで安心した。
「まぁそういうことだ。これから頼むぜ、レイハ」
『わかりました、私の想定以上に、あなたは善良な人間のようです。評価を一段階引き上げて差し上げましょう、精進することですね。……これからよろしくお願いします、徹』
相変わらず俺のことは呼び捨てのようだが、少しはお互い歩み寄れたようだ。
目先の問題がたくさんあるのなら、近いところから一つずつ解決していこう。
次の問題は、寝落ちしてしまったユーノとなのはをどうするかだな。
なのははついさっきまで起きてたじゃんかよぉ……
はぁ、とため息をこぼす俺に、レイハが、恐らく応援の意味を込めてぴかぴかと光を送ってくる。
前よりも、光が強く優しく感じるのは、手入れして綺麗にしたからだけではないと信じたい。
レイハさんと仲良くなる回、誰得かわからないサービスシーン、どうしてこうなったのでしょうか。
話の進行スピードが亀より遅いですね、自分でもわかっていますので見捨てないでください。