そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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前回の話の続きです。
本当なら繋げて書きたかったんですけどね、長くなりそうだったので。
実際繋げて書いていたら長くなっていました、分割してよかったです。


このトリガーハッピー共がっ!

 足元に障壁を作り出し、空中を立体的に移動する。

 

いかになのはのディバインシューターが追尾性能に優れるといえど、ここまで上下左右に揺さぶられてはついてこれない。

 

地上で回避するよりも空中の方が格段に容易いな。

 

「もうっ、もうっ!」

 

『マスター、戦いは冷静な人間が勝利します。落ち着いてください』

 

「状況判断が大事だ。視野を広く、判断は早く。誘導弾はなのはがコントロールしているんだろう、しっかりしろ」

 

 俺が判断の速さに関してとやかく言う筋合いは本来ありはしない、俺となのはは種類が違うからな。

 

俺は常に相手がどう動くかを予想して備えるのに対して、なのははその場その瞬間で直感的に動けるタイプだ。

 

直感とか第六感で動ける人間は大成する。

 

戦い方はまだ荒削りな原石だが、今から磨いていけば相当なものになるぞ。

 

 かなり厳しめの言い方になってしまっているが、それだけ期待を寄せているからだ。

 

戦う力があればその分自分が生き残る確率も上がるし、仲間を助けられる可能性も出てくる。

 

辛辣な物言いになってしまうのも致し方ない。

 

「わかってるもんっ! ディバインシューター!」

 

 近寄れば不利になるというのは重々承知しているのだろう、なのはは後退しながら誘導弾を準備した。

 

一定の間隔で一発ずつ、計四発の桜色の魔力弾が放たれる。

 

「少しはテンポをずらして撃て、読みやすいぞ」

 

「~~っ!」

 

 魔法では俺は一枚どころか二枚三枚と落ちるが、戦術や読み合いなら俺に分がある。

 

いくら追尾してくるとはいえ、単調な上にそれほどの速さもないのなら障壁を展開するまでもない。

 

 ジグザグに跳躍移動しながら誘導弾を回避しつつ接近する。

 

「むぅ~っ! プロテクションっ!」

 

「いつまでも同じ方法で防げると思ってたら怪我すんぞ」

 

 なのはの防御魔法はとても強固だ。

 

もともとの魔法はそれほどの防御能力はないが、なのはの適性の高さと潤沢な魔力のおかげで恐ろしいまでの堅固さに至っている。

 

襲歩で加速して繰り出した拳も、踏み込みの勢いと共に放った膝蹴りも防ぎ切ったほどだ、俺が持つ火力では普通に攻撃したところで打ち破ることはできない。

 

 だからといって、『こりゃダメだ、諦めよう』なんてことはできない。

 

ならどうするか……答えは決まっている、俺の特色を使って突き崩すだけだ。

 

「これなら絶対に防げる、なんていう凝り固まった固定観念は危険だ。気を付けろよ」

 

 展開された桜色の障壁に左手を添えて、なのはの障壁の術式に俺の魔力を這入り込ませ、防御魔法のプログラムをぐちゃぐちゃに書き換えていく。

 

「なにを……えっ、なにこれっ……!」

 

 こちらで強引に術式に手を加えて脆弱にして、最後に魔力の供給までを断つ。

 

いくら立派な城壁と言えど、穴が開いてしまってはその効果は万全に発揮されることはない。

 

「模擬戦で経験できてよかったな。実戦では命に係わるかもしれないんだから」

 

 障壁に触れていた左手を外に払い、勢いよく右の拳を振るう。

 

 飛行魔法とは異なり、俺は障壁の上にいるので踏み込みにもしっかりと力が籠められる。

 

障子紙程度にまで急落した性能の障壁を突き破り、魔法の行使者にダメージを与えることも十分に可能だ。

 

「ひゃあっ!」

 

 ガキィン、という音が二つ、ほぼ同時に重なる。

 

一つは障壁を粉砕した音、もう一つは俺の拳となのはが持つ杖がぶつかった音だ。

 

 咄嗟に杖で防いだのか、素晴らしい判断だ、直撃していたら継戦することは出来なかっただろうからな。

 

「おーい、大丈夫か?」

 

「わ、わたしは平気っ……レイジングハート、ごめんね……大丈夫?」

 

『お構いなく、マスター。徹を見くびっていた私の責任ですから』

 

 俺の攻撃の余波で後退しながら言葉を交わす、また距離が開いてしまったな。

 

「これ模擬戦ってこと忘れてませんか?! 憶えてますよね!?」

 

「ちゃんと憶えてるって、心配すんなユーノ!」

 

 ユーノがベンチの上から大声で呼びかけてくる。

 

全くユーノは心配性なんだから、これが実戦だったら俺はもっと薄汚く小賢しく戦うっての。

 

 ちらりと視線を向けると十数メートル離れたところで、なのはとレイハが内緒話でもするように顔を近づけて小声で喋っていた。

 

作戦会議か? 本番では敵に隙を見せるなんて以ての外だが、ユーノから忠告されたようにこれは模擬戦、色んな戦法を試すという理由で今回は不問に付すとしよう。

 

 少ししてなのはが頷き、こちらへいつもの可愛らしい表情とは違う、きりっとした凛々しいお顔を向ける。

 

「ミーティングは終わったか?」

 

「うんっ! ここからはわたしたちのターン、反撃するからね徹さんっ!」

 

『目に物見せてやります。マスターの全力の一撃をお見舞いして差し上げますから、どうぞ遠慮なくお受け取りください』

 

 はは……怖いなぁ、ちょっと焚き付けすぎたかな……。

 

音叉型の杖の先端を向け、『戦闘準備万端、いつでも来なさい!』みたいな空気を出して俺を見据えてくる。

 

一度間を置いたことでなのはも落ち着いたようだ、ここからは心機一転して取り組まないといけないな。

 

 俺も深呼吸して魔力付与を再度、身体全体へ巡らせる。

 

頭のてっぺんから爪先まで十全に行き渡る感覚、俺も準備OKだ。

 

「模擬戦なんですからねーっ!? 怪我しないでくださいよぉ!?」

 

 苦労人ユーノの注意喚起の言葉で火蓋が切って落とされた。

 

「ディバインバスター!」

 

 戦闘が再開された瞬間、砲撃が俺を焼き貫こうと向かってくる。

 

初っ端からディバインバスターとは……なにか考えはあるんだろうけども。

 

 足元に移動用の障壁を展開、それを足場にして左斜め前方へ襲歩で移動する。

 

砲撃を避けつつ接近するという考えだ。

 

『やはり……かかりましたね』

 

「うんっ! ディバインシューター!」

 

 俺の移動先の空間に、五つの桜色の誘導弾が機先を制する形で殺到していた。

 

マジかよっ、動きが読まれたのか?!

 

 幕開けの砲撃は誘導弾を隠すための壁にして囮、俺を誘導させるための罠だったのかっ。

 

『徹の人外じみた移動法、あれは右足を軸足にすることでしか使えないのですね。なので咄嗟に使う時は、前方から左斜め後方までの角度にしか移動できない……そうではありませんか?』

 

 自分から誘導弾に突っ込んでしまった、即座に障壁を展開するが誘導弾に角度を合わせる余裕がない、なので適当に角度変更型障壁を発動させる。

 

二発はなんとか弾くことができたが、三発目で障壁が破壊された。

 

障壁を破壊した時にワンテンポ遅れたので、三発目の誘導弾は躱すことに成功したが……まだ二つも残っている。

 

しかも一つは左から、もう一つは右から迫っている、理に適っていて合理的な配置だな。

 

右から飛来する一発は右手に流す魔力付与を強め、魔力弾の横っ腹を殴り飛ばすように拳で殴り飛ばし、左から来るものは覚悟を決めて腕でガードする。

 

「くっはぁ……痛ぅ……。よく気付いたなぁ……右足でなら実戦で使える程度にはなったんだけど、左足を軸足にしたらまだ成功率が六割くらいなんだよ。六割じゃあ実戦で使うには不安が残るからな」

 

 土日の二日間を費やして使えるようになった神無流の技は襲歩唯一つ、しかも右足を軸に行ったものでしか合格点を貰えなかったという始末だ。

 

左足ではまだ戦闘に使える水準に達していない。

 

情けない限りだが、使えるものは使っていくのが俺の方針、ハッタリにはなるし戦闘中には気付かれないと思ったが……正直こんな早くバレるとは思わなかったぜ。

 

これからも研鑽を積んでいかないといけねぇな。

 

「もう一回っ、ディバインバスターっ!」

 

「それ何発目だよっ! どんだけ元気と魔力が有り余ってんだっ! ちょっとくらい分けやがれ!」

 

 右手は案外無事だが、左手が未だに痺れている。

 

だがあの殺人砲撃を食らうと痺れるなんてものでは済まないので、足元に障壁を展開し跳躍移動の準備をする。

 

「模擬戦終わったら元気わけてあげるねっ!」

 

「魔力の方を所望するっ!」

 

 襲歩で左側へと移動し、なのはの視線がつられたのを確認した瞬間、足に魔力を集中させ右側へと跳躍する。

 

これでわずかな時間とは言え、視界から俺の姿を消失(ロスト)しただろう。

 

 なのはの背後を取るように跳躍移動を繰り返していく。

 

足場にする障壁を斜めに配置することで、素早い方向転換が可能になるという点では、地面を足場にするよりも空中の方が融通が利く、これも跳躍移動のメリットの一つだな。

 

 俺を見失って周囲を見渡すなのはの背後から、稲穂を刈り取るような鋭い足刀を繰り出そうと、身体の重心を傾け始める。

 

勝ったっ! と思った瞬間、身体の動きが停止した。

 

「くそっ! 拘束魔法……しかもこれ……設置型かっ!」

 

「レストリクトロック。かかったねっ、徹さんっ! ディバインバスターのチャージも百二十パーセント完了済みっ」

 

『予定通りの計算通りです。徹ならこう動くと思っていました。さあマスター、決めてしまいましょう』

 

 完全に読まれた! 考えが浅かったっ! ディバインシューターで俺の動きを止めたというのも伏線、俺ならまた移動すると予想されてたのか。

 

そしてレイハが俺の移動法について言及し、その弱点を暴いた。

 

それを聞いた俺は、相手がすでに知っている情報を逆手にとって襲歩を囮に使い、なのはの照準から逃れようとする。

 

ここからだ……ここから二人は考察し、俺の性格を鑑みて『ディバインバスターの照準から逃れるだけでは終わらない、射線から逃れながら攻撃に移る』という想定をした。

 

その想定から更に考えを深めたんだ、『攻撃するのならば保険を掛ける意味合いも兼ねて、背後から攻撃を仕掛けるだろう』と。

 

 作戦を考えて罠を張っていた二人と、行き当たりばったりで策も持たずに攻めに転じた俺との差が如実に表れた。

 

『Lock on』

 

「全力全開っ! ディバインっ……!」

 

 急いで拘束魔法へハッキングして破壊を試みるが、如何せん、時間が足りなさ過ぎる。

 

手を縛っていた魔法は砕くことができたが……足の拘束を解くのは間に合わないっ!

 

 頭を回せ、ギアを上げろ、今日は比較的ゆっくりしてただろう俺の脳みそよ、その分を今取り戻せ。

 

思考しろ……この拘束魔法は空間自体に固定している、腕だろうが足だろうが拘束されている以上は身動きをとることは不可能だ。

 

動けないのならば障壁で防ぐしかない、だが俺如きの障壁では障壁の意味を成さない。

 

文字通りに食い破られるだろう、角度変更型でも焼け石に水ってもんか……いや柄杓で山火事消すくらいに無謀だ。

 

密度変更型ならどうだ、何枚か重ねれば防げるかもしれないが防御範囲が狭すぎる、あれは胴体をカバーする程度の大きさしかない……頭隠さず尻隠さずだ、どこも隠してねぇじゃんか。

 

狭い……っ! かなり無茶だが……一つ、閃いた。

 

『Fire!』

 

「バスターっ!!」

 

 俺の顔面めがけて極至近距離で桜色の殺人砲撃が放たれる、震えて竦みそうになる足へ必死に力を籠めた。

 

こんなもん直撃したら上半身が消し飛ぶ、これは非殺傷設定とかガン無視で命を奪い去る魔法だっ!

 

 組み立てろ、俺っ、死にたくないなら術式を組み立てろ! ベースになるのは密度変更型障壁だ!

 

硬い代わりに身体を覆う範囲が小さい障壁をいくつも展開、互い違いに折り重なり障壁同士が触れ合うように配置して、少しでも威力が分散されるようにする。

 

大きさは俺の身体を覆う程度でいい、重ねる数は四枚、四重の多重障壁を構築……魔力を流し込んで展開、発動させる。

 

 寸でのところで俺となのはの間に、急造品の障壁を割り込ませることができた。

 

濃厚な魔力の粒子が、岩にぶつかる水のように飛沫を周囲にまき散らす。

 

後はなのはの砲撃の照射が終わるまで、この障壁がもってくれることを神に祈るだけだ。

 

「貫けぇぇぇ!!」

 

『Fire! Fire! Fire!』

 

 こいつらキャラ変わってるじゃねぇかっ、このトリガーハッピー共がっ!

 

 表面の障壁が崩れ始め、侵食していく。

 

幾重にも折り重なったバリアに阻まれ行き先を失った魔力の奔流が、障壁の上下左右へと流れていく。

 

「くっ、おおおぉっ!」

 

 展開されている障壁に更に魔力を流し込むが、じわじわと食い破ってきている。

 

俺を焼き殺そうと殺人鬼のような桜色の閃光が近づいてくる……恐怖が、狂気がすぐそこまで迫っているっ。

 

 三重目までが弾け飛び、最終防衛ラインである四重目の障壁に大きな亀裂が入ったところで、やっとディバインバスターはその光を弱め、そして消えた。

 

はぁ…………助かった……。

 

「もう一発っ……!」

 

「ギブアップっ! もういいだろ、ふざけんな! ゲーム終了っ! 素晴らしい、得るものの多い模擬戦闘だった!」

 

『ちっ……仕留め損ないましたね……』

 

 ダメだ、こいつら……完全に俺を消し去るつもりだった、やる気じゃない……殺る気(やるき)が満々だった。

 

九死に一生、絶体絶命のピンチからなんとか生還できたのは、ひとえに諦めない心のおかげ……もしくは助かりたい一心のおかげ。

 

「早く下に降りてユーノの批評を受けようぜ、なんか俺めちゃくちゃ疲れた……」

 

「徹さん凄いねっ! どうやってあれを防いだのっ?」

 

『徹には訊きたい事がたくさんあります。後から詳しく説明してもらいましょう、マスター』

 

「うんっ!」

 

 なのはが一切の手心を加えなかったために命の危険もあったし、今もかなりの疲労感が俺の肉体を襲い続けているが……なのはの純粋な眩しい笑顔を見たら何も言えなくなった。

 

今回はいい経験ができた、そういうことでいいだろう。

 

 ベンチの上で手を振っているユーノを見て、再度生きて帰れてよかったと本気の本気、心の底から安堵した。


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