ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

4 / 30
4話

 ――……美鈴を拾ってから、間もないある日。

 スカーレット卿――『お館様』のもとに呼び出された私――『パチュリー・ノーレッジ』は、何を言われるのだろうかと、内心、気が気ではなかった……の、だが。

 開口一番、彼は言ったのだ。

 

「よく考えたものだな」

 

 ……、

 …………はあ?

 

 よく考えたものだな――……とは、いったい、何のことなのか。

 まったく思い当るところがなかった。

 その為、むしろ、貴方は何を考えた、いや、何を妄想したのか、と。

 そう、返しそうになったのだが。

 私が何事かを口にする前に、彼は不敵に笑いながら言葉を続けた。

 

「君が拾ってきたあの『雑種』、育てればそれなりの物に仕上がりそうだ。今食って僅かな糧とするよりも、手懐けて使ってやり、役立てた方が得だろう。いらなくなれば、食ってやれば良いのだし」

 

 ――うわあ。

 

「は、ははっ」

 

 自然と、私の口からは、乾いた笑いが零れ落ちた。

 それをどう勘違いしたのか、お館様も笑みを深めた。

 

 ――……やはり。

 お館様と、レミィとでは、似ても似つかない。

 お館様は、非常に冷徹で、残酷な――『怪物』だ。

 

 そう考えながら。

 しかし、同時に、私は思ってしまったのだ。

 

(人の話をろくに聞かずに、全てわかっているって雰囲気を醸し出しながら、自信満々な顔して笑う――……しかも、見た目だけなら文句なしに『夜の王』って感じ)

 

 ――……やはり。

 お館様と、レミィは。

『親子』なのだなあ、と。

 そう思ってしまい――……小さく、溜息を吐き出したのだった。

 

 

 

 

 しかしながら。

 傍目から見れば、確かに、お館様の予想していた通りに、事態は推移したかも知れない。

 

 成長した美鈴は、役に立つ、なんて物ではないほど、凄まじい働きぶりだった。

 朗らかに笑いながら、『親孝行がしたいんですよ』なんて言って、現場仕事を代行してくれるようになったのだ。

 おかげで、私の仕事は館内での事務仕事がメインになったのだった。

 

(なお、現在のスカーレット家の行っている主な仕事はふたつだ。ひとつめは、一部の人間の権力者に単純な武力等を提供してやり、金品および『不要と判断された人間』を貢がせている。ふたつめが現在の私が担当している仕事だが――貢物の金品や、その伝手で得た貴重品等を適切に捌いて、何倍もの収入に膨れ上がらせるという仕事だ。『元の世界』でも、私の仕事は似たような物だった)

 

 自分の能力には、自信がある。

 その辺の木端共に対して敗北を喫する程、情けなくはないつもりだ。

 だけれども――……肉体労働は、向いていないのだ。

 

 自作の魔法薬で己の体を誤魔化しながら、戦闘任務をこなしていたが――ぶっちゃけ、すっっっごい! しんどかった!!

 

 ホント、美鈴様様である。

 ――……と、まあ、そんな感じで。

 それなりに安定した日々を過ごしていたのだが。

 

 

 ある満月の夜のこと。

 お館様が、一人の女性を連れて帰ってきた。

 

 

「――……おお、ノーレッジ。紹介しよう」

 

 彼は。

 出会って以来、初めて見るような、『やわらかな笑み』を浮かべて。

 傍らの女性の細い肩に、そっと手を置きながら、言ったのだ。

 

 

「彼女は、私の妻になる女だ」

 

 

 ――……ああ。

 やっと、か。

 

 

 

 

『奥方様』は。

 とても、美しい女性だった。

 金糸の髪に、オレンジがかった赤い瞳。

 宝石のように光り輝く『翼』。

 

 つまりは。

『妹様』に、瓜二つであった。

 

 少なくとも、外見は、レミィが父親似で、妹様が母親似のようだと私は思った。

 しかし、奥方様が館で暮らすようになってから、しばらく経ち――私は、認識を改めた。

 

 奥方様は、物静かで、思慮深く。

 あまり、感情を表に出さない人物で。

 それは、精神状態が安定している時の妹様を思い起こさせた。

 

 どうやら。

 内面も、妹様は、母親似であったらしい。

 

 

 

 

 季節が一巡した頃。

 奥方様が『懐妊』された。

 

 日に日に膨らんでくる腹を、多少距離を置いて眺めながら。

 静かに、胸に熱が広がるのを感じた。

 

 

 

 

 お館様から、出産に立ち会ってほしいと言われた。

 治癒は専門ではないが、簡単な回復魔法ならば行使出来る私を、『万が一』の時の為に、傍に置いておきたいらしい。

 お館様は、奥方様にだけは、優しかった。

 私は、一も二もなく、頷いた。

 

 

 

 

 そして。

 産声が響いた。

 

「――……貴女の名前は、レミリア。レミリア・スカーレットよ」

 

 奥方様は、息を乱しながらも、腕の中に納まった『産まれたての赤子』に、そう囁いた。

 

 薄く生えた髪の色は、蒼銀。

 ピコピコと揺れ動く、小さな、黒い翼。

 ふと。

 赤子が、こちらに視線を向けた。

 

 その瞳の色は、とても見慣れた『紅』だった。

 

 ――……胸が、熱い。

 恋情ではない。

 私がその感情を捧げる相手は、たった一人だ。

 

 だけど、この感情は。

 それにも匹敵するものだろう。

 

 微笑んで。

 声には出さず、呟いた。

 

 

 ――……はじめまして、親友。

 

 

 

 

 後日。

 お館様に、重要な話があると言われ、呼び出された。

 何事か、と。

 身構えていたのだが。

 

 

「レミリアの、教育係を任せたい」

 

 

 配下の中では、君がいちばん教養を持っているのだよ、と。

 お館様が、微笑んだ。

 

「……えー」

 

 いや。

 だから。

 

 ――……どうして、こうなるのだ。

 




 今回は、繋ぎのお話なので、短めです。
 次回はレミリアお嬢様回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。