ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

28 / 30
27話

「少々話を伺いたい――ご同行願おうか」

 

 鋭い視線で射抜かれて、後頭部から冷や汗を流す私――パチュリー・ノーレッジ。

 

「……」

 

 場所は人里。

 日も高い時刻。

 連れの子供達も、そろそろお腹を鳴かせる頃合いだ。

 

 それなのに――眼前にて仁王立ちの『寺子屋教師』。

 

 ……どうしてこうなった?

 

 

 

 

 アリスの長期滞在が決まった為、身の回りの物を揃えることになった。

 幸い、衣服については咲夜の御下がりが大量にある。

 

 咲夜を館に連れ帰った当初、栄養不足により体の成長が遅れていた彼女は、実年齢よりもかなり小さかった。

 そんな彼女に、再会出来た喜びで舞い上がっていた私は、大量の衣服を用意した。

 

 しかしながら、私の手料理と十分な睡眠により栄養状態が改善された咲夜は、すくすくと成長した。

 その為、碌に袖を通さないうちにサイズの合わなくなった衣服も多かったのだ。

 

(館から持って来た衣服の量と種類に、咲夜以外の子供達からはドン引きされた)

 

 洗面用具等についても、紅魔館の来客用の予備がある為、問題ない。

 ――なのでまあ、改めて買い揃えなければならない物は少ない、のだが。

 

「荷物持ちが必要だよな! 駄賃は美味い昼飯でいいぜ!」

 

 調子良く宣いながら、ぞろぞろとついてくる子供達。

 たかる気満々である。

 

「……はあ」

 

 溜息をひとつ吐きはしたが、特に拒みはしなかった。

 

 幻想郷へ引っ越した後も、外へのパイプは残している。

 代理人を通して資産運用も行っているので、金銭的な問題は一切ない。

 

 牛鍋屋にでも連れて行ってやるか、と。

 そんなことを考えながら、苦笑した。

 

 

 

 

 人里に向かうに辺り、相応しい服を身に纏うことにした。

 

「はぁー……化けたもんね」

 

 霊夢の失礼な物言い。

 ただ、その声音には感嘆が含まれていた。

 

 人里に出掛ける日を想定して、以前から用意していた仕立ての良い着物。

 私は藤色、咲夜は空色、アリスには咲夜の予備として用意していた薄桃色の着物を宛がった。

 

 咲夜とアリスは髪が短いのでそのままで問題ないが、私の髪は腰より長いので、まとめておくことにした。

 編み込みにした髪を高めの位置でひとまとめにして、派手過ぎない程度に花飾りで彩ってみたのだが、なかなかの自信作である。

 

「……」

 

 視線を感じて振り返る。

 咲夜と目があった。

 

「えっと……」

 

 ジィッ、と見詰めてくる。

 いっそ、威圧感すら感じた。

 たまらず、視線を逸らす。

 恐る恐る、問い掛けた。

 

「に、似合わない……?」

 

 キュッ、と。

 やわらかく、手を握られた。

 

「……いいえ」

 

 ゆっくりと、顔を向けると。

 穏やかな笑顔に迎えられた。

 

「良く、お似合いです」

 

 ――カァッ、と。

 頬が、熱を持つ。

 

 

「いつまでやってんのよ」

 

 頭から冷水をぶっかけられた気分になりながら振り返る。

 呆れた顔をした霊夢が、言葉を続けた。

 

「さっさと行くわよ、ロリコン」

 

 その後ろには、悪戯っぽく笑う魔理沙と、目を真ん丸くして頬を染めたアリスの姿。

 

「……ッ」

 

 ――やっば、恥ずかしっ!

 

 羞恥心で喉を詰まらせていると。

 握られたままの手を、ゆるく引かれた。

 

「行きましょうか」

 

 手は繋がれたまま。

 歩き出した咲夜の後を追う。

 

 ――……背中越しに見える耳は、赤かった。

 

 

 

 

 洒落た模様が描かれた湯呑みや、丁度良い大きさのお茶碗とお箸等。

 ああでもないこうでもないと言い合いながら購入した。

 

 湯呑みについては、アリスの分だけではなく、記念として全員分購入し、プレゼントした。

 霊夢は柳と雲、魔理沙は星と天球儀、アリスは兎と花の模様が描かれている湯呑みだ。

 

 私は自分用として、猫と月の湯呑みを選んだのだが、咲夜がそれを欲しがって。

 逆に、咲夜の選んだ犬と月の湯呑みを渡された。

 

 まあいいか、とそのまま購入したが――……何故か、咲夜が魔理沙に小突かれながら笑われていた。

 よくわからなくて首を傾げながらその様子を見ていたら、これ見よがしに霊夢に溜息を吐かれた――……解せない。

 

 

 

 

 買い物も一段落し、そろそろ子供達のお腹も鳴り始める頃合いなので、牛鍋屋を探していた。

 ――その時である。

 

「もし、其処な御仁」

 

 厳めしい口調で、声を掛けられた。

 

 ――……なんだか、とても面倒な予感がする。

 

 直観的にそう感じ取るも、無視するわけにもゆかず。

 

「……何用かしら」

 

 努めて落ち着いた声音で返しながら、振り向いた。

 

「なに、初めてお見掛けする顔だと思いましてな……失礼、私の名前は上白沢慧音(かみしらさわけいね)と申します」

 

 真っ直ぐに背筋を伸ばし、言葉を続けるその人物とは、この世界では初対面である。

 しかしながら、前の世界では、極稀に顔を合わせることもあった。

 

 知識と歴史の半獣――上白沢慧音(かみしらさわけいね)

 白沢(ハクタク)と人間のハーフでありながらも、陰になり日向になり人里を守り続け、子供達のより良い未来の為にと寺子屋を開いている人格者だ。

 少々、頭が固すぎる(色々な意味で)とも、言われていたけれども。

 

「そう……名乗るほどの者でもないわ。私はただ、買い物と食事に訪れただけよ」

 

「ほう……食事、ですか」

 

 ――ああ、めっちゃ疑われてるわ。

 

 

「ひさしぶりだな、先生」

 

 

 私と慧音の間に割って入ったのは、魔理沙だった。

 

「おお、魔理沙か」

 

 慧音が少し目を見開き、言葉を続ける。

 

「おまえ、人里を飛び出して何してるんだ」

 

 一瞬、気まずそうに眉を寄せた魔理沙は、咳払いをひとつ挟んでから、会話を繋げた。 

 

「それなりに、毎日楽しくやってるさ――……それより、コイツは別に、悪い奴じゃあないぜ」

 

 そう言いながら、顎をしゃくって私を指し示した。

 

「そ、そうですっ、ただ、私のコップとか、お箸? を買いに連れて来てくれただけで」

 

 慌てながらも、アリスも一緒になって弁明してくれた。

 

「……」

 

 咲夜は、無言で私の手を握っている。

 

「貴女達……」

 

 うわあ、なんか感動した。

 良い子達だ。

 

「……」

 

 こちらを見定めるように見詰める慧音の眼差しが、ほんの少し和らぐ。

 

「そうね」

 

 最後に口を開いたのは、霊夢だった。

 

 

「コイツは別に、悪人じゃないわ――ただのロリコンよ」

 

 

 ……。

 …………。

 

「ちょっ!?」

 

 目を引ん剝く私。

 

 

「あー、そうだな」

 

 ニタァッ、と歪み切った顔で笑いながら、私にとっては(はなは)だ不本意な内容に同意する魔理沙。

 

「特定人物に対してだけだから、無害なロリコンだぜっ」

 

「う、うんうんっ」

 

 頬を染めたアリスが、理解しているのかいないのかは不明だが、追随するようにこくこくと頷いた。

 

「え、ええ……?」

 

 困惑の声を上げる私。

 

「……」

 

 咲夜は、無言で私の手を握っている。

 

 

「貴女達……」

 

 うわあ、

 なんていうか――うわあ。

 

 

「少々話を伺いたい――ご同行願おうか」

 

 鋭い視線で射抜かれて、後頭部から冷や汗を流す私。

 

「……」

 

 場所は人里。

 日も高い時刻。

 

 それなのに――眼前にて仁王立ちの『寺子屋教師』。

 

 

 ……どうしてこうなった?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。