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前からは飛びつかれ、後ろからは頭突きをかまされ。
横からは罵倒と爆笑で鼓膜を揺らされて。
実は結構満身創痍な私――パチュリー・ノーレッジ。
こめかみが鈍く疼くのを堪えながら、思い返す。
魔法陣で転送されて来た目算三十センチ四方の木箱には、魔界でしか採取できない貴重な薬草と鉱石が詰められていて。
その上に、一通の手紙が添えられていた。
宛名として『七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジ様へ』、
差出人は『魔界神兼アリスちゃんのお母さんである神綺より』と記載されていた。
手紙の内容を要約すると、
1. 遠視の魔法で一部始終見守っていた
2. 娘は世間知らずなので同年代の子との関わりも必要だと感じた
3. 急ぎでこちらの身辺調査をしたが、信頼出来ると判断した
結論は「娘をよろしく!」だ。
……正直、予想外の展開。
それというのも、私はこの異変のことを知っていた。
前の世界で、
異変発生当時、幼かった彼女は、初めて味わった無残な敗北を切っ掛けに、より魔法にのめり込み。
万が一敗北を喫した場合に、一時撤退して再起を図る余力を残す為、滅多なことでは本気を出さなくなったのだ。
そう――……私にこの異変について語った同業者は、成長して一角の魔法使いとなった『アリス』だ。
前の世界では、魔法の共同研究を行ったこともあり、それなりに親しい間柄だった。
その前の世界のアリスから聞いた話では、霊夢にリベンジマッチで敗北を喫した後、数日間に渡り召使いのように扱き使われた、ということではあったが――今回のように、彼女の母親直々に滞在を命じる、という流れではなかったはずだ。
これも、私がここに存在することによって生じた差異だろうか。
「……」
この差異が、悪い結果を招かなければいいのだけれど、と。
独り、静かに思考に沈みかけて。
「パチュリー様?」
「ああ……いいえ、別に」
うん、そうだ。
今更である。
「たいしたことじゃないわ」
もし、悪い方に転びそうなら――力尽くで良い方に蹴り飛ばしてしまえばいい。
この五百年、そうしてきたように。
――そこまで、考えたところで。
ぐうぅぅうううううう……。
「……」
皆の視線が、一カ所に集まる。
「……なによ」
気まずそうな霊夢。
音の発生源は、彼女のへこんだお腹だった。
「そうね、もういい時間よね」
山の稜線が、残照に滲んでいる。
カラスも鳴き終わる頃だ。
「ひとまず、晩御飯にしましょうか」
買い出しには遅い時間の為、残り物でどうにかしようと博麗神社の食料貯蔵庫を確認。
「……」
無言で備蓄の食材を睨んでいると、霊夢が早口で喋り出す。
「な、なによ、ろくなもん残ってねーなって思ってるんでしょ?」
その頭にポンッと手を置いて、言葉を返す。
「ただ、献立を考えていただけよ」
次の瞬間には、振り払われる手。
「あっそう――……それじゃ、お手並み拝見させてもらうわ」
苦笑を漏らす。可愛くない。
「そうね、見てなさい」
材料を手に、台所へ向かおうとしたところ。
服の袖を、ギュッと掴まれた。
視線をあわせることなく、小さな声で霊夢は言う。
「……まあ、少しは手伝ってあげてもいいわ」
――いや、可愛くないのが、微妙に可愛い、かもしれない?
「このロリコン」
「なんでよ」
気のせいだった。
やっぱり可愛くない。
食料貯蔵庫で見つけた使えそうな食材は、以下の5点。
1. 白米
2. 薩摩芋
3. 味噌
4. 干し椎茸
5. 漬物
確かに肉も魚もないが……なんとかなりそうだ。
「霊夢、お米洗ってくれる?」
「冷たいからイヤ」
「……」
「パチュリー様、私が洗います」
「いえ、咲夜はいいのよ。もう冷え込む時期だし、風邪ひいたらいけないから」
「おいコラ」
そんな軽口を叩きながら、調理を続けた。
そして。
「完成ね」
~本日の献立~
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薩摩芋の炊き込みご飯
椎茸の味噌汁
漬物
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皆で揃って手を合わせて――……。
「「「「「いただきます」」」」」
「美味い!」
一番に声を上げたのは、魔理沙だった。
「おまえ、料理得意だったんだな!」
「お菓子はたまに作って来てたでしょ?」
味噌汁を飲んでいた霊夢も口を開く。
「まあ、悪くないんじゃない?」
「可愛くない」
「あ゛?」
ふと、視線を向けた先では。
咲夜とアリスが、二人で話をしていた。
「こうやって持つの」
「こう?」
「いいえ、こう」
「……むずかしい」
どうやら、二人の話題は『箸の持ち方』らしい。
生粋のルーマニア人である咲夜も、箸の持ち方には相当苦労したから。
見るに見かねて、アリスに教えてやっているようだ。
そして、苦戦しながらも、アリスは炊き込みご飯を頬張った。
「……ッ!」
アリスのまあるい目が、さらにまあるく見開かれ。
青い瞳が、キラキラと輝いた。
「美味しい!」
その言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
洋食しか食べたことのない子のようだから、気に入って貰えるか内心不安だったのだ。
「パチュリー様」
差し出された、空の茶碗。
「おかわりください」
うん。
作って良かった。
夕食と後片付を終え、ついに帰宅時間となった。
博麗神社には寝具が二組しかないので、普段は泊まることの多い魔理沙も、今晩は帰るらしい。
「……」
出荷される前の子牛のように潤んだ瞳でこちらを見詰めるアリスを残して帰るのは、少々心苦しいが。
「さっさと帰りなさいよ」
シッシッ、と。
野良犬を追っ払うように霊夢が手を振って見せるので、仕方なく。
「じゃあ、また明日」
アリスの幸運を祈りながら、咲夜を抱えて帰路に着いたのだった。
――アリスは、不安でいっぱいだった。
親元を離れるのは初めてのことだ。
母親が仕事で忙しく傍に居られない場合も、誰かしら近しい大人が子守りをしてくれた。
それなのに、今晩は見知らぬ神社に同年代の少女と二人きり。
しかも――……。
「なによ」
その少女は、すぐに拳を固めて自分を脅しつける。
こんな目にあったことはないし、想像したこともなかった。
「……なんでもない」
恐怖で俯く。
――おうちに、帰りたい。
ひたすらそう考えながら、しばらくの間、ジィッとしていた。
「……きゃっ」
驚きに声を上げる。
手を握られて、引っ張られた。
「ついてきなさい」
いったい、なにをされるのだろう。
目頭が、どんどん熱くなる。
「脱げ」
連れて行かれた先で。
唐突にそう言われ、わけがわからなかった。
「え」
思わず間抜けな声を上げると、霊夢が溜息を吐く。
怒らせてしまったかとビクビクしていると、面倒臭そうに言われた。
「風呂よ、風呂。ばっちいでしょうが」
――……確かに。
今日は、たくさん動いたし、汗もかいたと思う。
でも。
「……ったこと、ない」
「は? なに、聞こえない」
アリスは、自分の服の裾をギュゥッと握り締めながら。
小さく掠れた声で、白状した。
「私――……一人でお風呂入ったこと、ない」
「はあっ?」
それを聞いた霊夢は、信じられない、といった様子で目を見開いた後。
「……はあ」
大きく溜息を吐いてから、己の服に手を掛け、脱ぎ始めた。
「仕方ないわね」
状況が呑み込めず、きょとんとしているアリスに、投げ遣りに言葉を放る。
「ほら、自分で服脱ぐくらいなら、出来るでしょ?」
さっさとしなさい、って。
続けられた台詞に、数回目を瞬かせて。
「……う、うんっ」
アリスは、急いで服を脱ぎ始めたのだった。
風呂上がり。
「もっとちゃんと拭きなさいよ、風邪ひくわよ」
丁寧に、頭を拭いてくれた。
「それじゃ左前じゃない、まだ殺してないわよ」
放たれる言葉は、相変わらず恐ろしかったけれど。
寝巻を用意してくれて、着付けもして貰えた。
「は?
真夜中、三時過ぎ。
眠っているのを起こしてしまったのに。
手を引いて、便所まで連れて行ってくれた。
――アリスは、安心して眠ることが出来たのだった。
「おはよう、アリスは無事……みたいね」
大量のたんこぶが生成されていないかと心配で、朝一番に訪れた博麗神社。
何故か、アリスはニコニコ笑顔を浮かべていて。
霊夢は、目の下に隈をこさえている。
「アリス、霊夢にいじめられなかった?」
一緒に来た咲夜が、単刀直入にアリスに問いかけた。
それに対して、アリスは。
「ううん! 霊夢、すっごく優しかったのよ!」
とても嬉しそうに、笑いながらそう言った。
「……え?」
信じられない台詞に、疑問符を浮かべている私達に向って、アリスは言葉を連ねていく。
「あのね、お風呂で綺麗に洗ってくれたし、服も着せてくれたの! それにね、おトイレにも一緒に」
――ボカッ!
「あいたぁっ!?」
振り下ろされた、握り拳。
「え? ……れ、れいむ?」
強烈な痛みと困惑に涙を浮かべながら、頭を押さえるアリス。
「アンタ、朝っぱらからうるさいのよ」
霊夢は、人殺しの様な鋭い目つきでそう言い放った。
――……その頬は、赤かった。
「……もうっ! 霊夢の見栄っ張り! ばかーっ!」
「ほう? そんなに頭をこぶで飾りたいの?」
泣きながらも反抗するアリスと、意地悪気な笑みで拳を振り上げる霊夢。
「……」
そんな二人の様子に、私と咲夜は顔を見合わせて頷いた。
――……うん、意外と上手くやってるみたいだ。
レイアリ可愛いよレイアリ(*´ω`*)
ウチのレイアリはこんな感じです。
次回もよろしくお願いしますっ!