ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

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 やっとこさ、さっきゅんのお友達が集結です(*´ω`*)


25話

「も、もうおうちにかえる~っ!」

 

 うわぁあああんっ! ――と。

 舌足らずな泣き声が、博麗神社の境内に響き渡った。

 

「うるさい」

 

 眉をしかめて、容赦なく言い捨てた霊夢は。

 

 ボカッ!

 

 握った拳を、躊躇いもなく振り下ろした。 

 

 小さな頭に生え揃った金髪から盛り上がる、大きなたんこぶ。

 まあるい瞳がさらに見開かれ――……涙がボロボロと溢れ出した。

 

「うわぁあああんっ!」

 

 ――泣き叫ぶその様子を見て。

 流石に、哀れに感じたのか。

 

「……霊夢、もう許してあげなさい」

 

 パチュリー様が、溜息を吐きながら止めに入った。

 私――十六夜咲夜は、その一部始終を黙って見ていたのであった。

 

 

 

 

 霊夢と魔理沙が無事に帰って来てから一週間後。

 いつも通り神社に訪れた私とパチュリー様は。

 二人を追い駆けて魔界から姿を現した幼い魔女と、初の邂逅を果たした。

 

 その名は、『アリス』。

 金髪碧眼の、人形のように美しい少女だった。

 

 今回の事件の経緯を霊夢と魔理沙――友人達から聞いたところ。

 魔界は、そんなに野蛮な場所ではないどころか、むしろ発達した社会が成り立っているらしく。

 幻想郷に訪れた魔界の住人達も、ただの観光目当てだったそうだ。

 しかし、「親玉をこらしめてやる」と魔界に突撃した霊夢と魔理沙の悪童コンビは、見境なく手当たり次第に魔界で大暴れして。

 住人や建造物に多大な被害を齎してしまった、らしい。

 

 それを見かねて幼い正義感から飛び出して来たのが――魔界神の愛娘の一人、『アリス』だ。

 

 しかしながら――彼女は敗北を喫してしまい。

 魔界を治める彼女の母親も、手痛い被害を受けてしまった。

 

 温室育ちが原因で、良い意味では気高く、悪い意味では鼻っ柱の伸びきった彼女には、それは耐え難い屈辱だったらしく。

 なんと、親が保管していた秘蔵の魔導書を持ち出して、リベンジマッチを挑みに遥々幻想郷までやって来たのだった。

 

 

 しかし、その結果は――……またも惨敗。

 

 

 パチュリー様いわく、魔導書の本来の性能を百分の一程度しか発揮出来ていなかったそうだ。

 伸びきった鼻っ柱は見事に圧し折られ、複雑骨折の様相である。

 

 

 

 

「ひ、ひっく、う、うわぁああんっ」

 

 なかなか泣き止まないアリス。

 苦笑しながらそれを眺めている魔理沙と、いまだに拳を握りしめたままの霊夢。

 ……友人ながら、恐ろしい奴である。

 その様子を見てさらに怯えたアリスは、また泣き声を大きくした。

 

「う、うぴゃあーーっ!」

 

 ……もう、泣き声というか、鳴き声である。

 まるで怪獣の赤子のようだ。

 

「ああ、もう……」

 

 パチュリー様は、溜息を吐いた後。

 微笑みながら屈み込んで、アリスと視線の高さをあわせた。

 

「いい加減に泣き止みなさい――……都会派が聞いて呆れるわ」

 

 詰るような台詞だけど、口調はとても穏やかで。

 

「ほら、目を擦っては駄目よ、鼻水も垂れてる」

 

 ついにはハンカチを取り出して、鼻をかませ始めた。

 

「はい、チーンして」

「ぢーっ!」

 

「うん、上手」

 

 一際、優しい声で。

 そんなふうに褒めるから。

 

 ただ、言われるがままに鼻をかんだだけのアリスは。

 泣くのも忘れて、きょとんと目を丸くした。

 

 パチュリー様は、その様子には頓着せずに。

 大きなたんこぶを、そっとさすりながら。

 

「いたいのいたいの、とんでけー」

 

 赤子をあやすように――……囁くような声で、魔法の呪文を唱えた。

 

 

「わあっ」

 

 アリスの頭上に、キラキラと光が降り注ぐ。

 飛び出すほど大きかったたんこぶが、みるみる縮んで行くのが、傍目にもよくわかった。

 

 

「すごい! いたいの、とんでった!」

 

 

 確か――……今泣いた烏がもう笑う、って言うのだったか。

 アリスは、涙でくちゃくちゃの顔に、ぱぁっと輝くような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「……」

 

 私――十六夜咲夜は、その一部始終を黙って見ていたのであった。

 

「……咲夜?」

 

 魔理沙が、様子を伺うように声をかけてくる。

 

「……」

 

 私は、そんな友人の呼び掛けに返答もせず。

 ただただ無言のまま、パチュリー様の横顔を見詰め続ける。

 

 チッ! と。

 大きな舌打ちが、空気を切り裂いた。

 音の発生源は、依然として拳を緩める気配のない霊夢だ。

 

「おい、そこのロリコン」

 

 いきなりぶつけられた罵倒に、少しだけ眉を吊り上げながら。

 不機嫌そうな様子で、こちらへ顔を向けるパチュリー様。

 

「誰がロリコンよ」

「アンタよ」

 

 おそらく条件反射で発された抗弁を、霊夢は叩きつける様に弾き返した。

 そのあまりの勢いに、パチュリー様は微かに目を見開く。

 心底馬鹿にした様子で鼻を鳴らした霊夢が、追撃の言葉を放り投げる。

 

「今この場じゃ、ソイツが一番チビだものね……アンタにはさぞ魅力的に見えるんでしょうよ」

 

 ――……数瞬の沈黙の後。

 

 

「はあっ!?」

 

 

 飛び跳ねる勢いで、らしくもなく――パチュリー様が叫んだ。

 

「ちょっ……ええ? 馬鹿言わないでよ!」

 

 困惑しているのか、眉を八の字に垂れ下げながらも。

 深呼吸をひとつ挟んでから――彼女は、普段通りに告げた。

 

「私は、咲夜を愛しているわ」

 

 でも、聞き慣れたその台詞では、霊夢は納得しなかった。

 

「そうは見えないけどね。今のアンタは、子供なら誰でもいいロリコン以外の何者でもないわ」

 

 いつも以上に当たりが強い霊夢に対して。

 パチュリー様は、細い溜息を吐いた後。

 

「子供が好きなわけではなくて……いや、普通に好きだけど、そうじゃなくて」

 

 透き通るような紫水晶(アメジスト)の瞳を、揺らすことなく。

 私を真っ直ぐに見詰めながら、言い放った。

 

 

「咲夜なら、年齢なんて関係ないのよ――咲夜が老いて、枯れて、しわしわの老婆になったとしても……その皺の数まで愛し抜くから」

 

 

 当然のことを語っただけといった様子のパチュリー様に対して。

 霊夢は、一瞬だけ目を丸くした後。

 

 意地の悪そうな笑みを作って、問い掛けを口にした。

 

「へえ、しわしわの老婆、ねえ……じゃあ、咲夜がおしめつけた乳飲み子に変わったとしても?」

 

 パチュリー様は、霊夢に視線を移すと、いっそ誇らしげに答えを返す。

 

「もちろん、私が大切に育てるわ――おはようからおやすみまで、つきっきりで」 

「このロリコンが!」

「ッ!?」

 

 私――十六夜咲夜は、その一部始終を黙って見ていたのであった。

 

「咲夜――……ぷはっ」

 

 私の顔を覗き込んだ魔理沙が、勢い良く噴き出した。

 

「……」

 

 私は、未だ霊夢と言い争うパチュリー様にだけは、見られたくなくて。

 自分の顔を、両手で覆って隠した。

 

 ――……物凄く、熱かった。

 

 

 

 

「さて、送ってあげるから帰りましょうか」

 

 気を取り直したパチュリー様が、アリスにそう声を掛けた。

 その、次の瞬間。

 

「え……っ!?」

 

 キュイィィィイインと高音が空気を切り裂く。

 現れたのは、光を放つ魔法陣。

 

「……これは、転送の魔法?」

 

 ――ボフンッ!

 

 音を立て、ピンク色の煙が噴き上がる。

 その煙が、晴れた先。

 

「手紙と、木箱……?」

 

 警戒しながらも近寄ったパチュリー様は。

 探知系と思われる魔法を数種類使用して危険がないかを確認した後で、それらに手を伸ばした。

 ――……そして。

 

「アリス、この手紙は貴女宛てよ」

 

 そう言って、アリスに手紙を差し出した。

 

「え、私……?」

 

 アリスは、恐る恐るその手紙を開いた。

 それを、私達は横から覗き込む。

 

 アリス宛の手紙には、

 

『アリスちゃんへ

 お母さんのご本を勝手に持ち出したらダメでしょう?

 めっ、ですよ!

 悪い子のアリスちゃんは、罰として、しばらくお家には入れてあげません!

 お母さんより』

 

 ――と、記載されていた。

 

 

「そ、そんなあーーッ!?」

 

 悲鳴を上げるアリス。

 パチュリー様に視線を向けると、木箱の中に入っていたもう一通の手紙をひらひらさせながら、

 

「こっちは私宛だったわ――……娘をよろしく、ですって」

 

 そう言って、溜息を吐いた。

 

 

 

 

 アリスが落ち着くまで、数十分を要した。

 最終的には、霊夢が拳を掲げて無理矢理黙らせたので、落ち着いた、には語弊があるかもしれないが。

 

 今の議題は、『アリスがどこに寝泊まりするか』だ。

 

「紅魔館が、一番無難だと思うのだけど」

 

 パチュリー様がそう提案した。

 確かに、紅魔館は広くて部屋も余っているし、お嬢様も駄目だとは言わないだろう。

 ――しかし。

 

「却下よ」

 

 それに否やと返したのは霊夢だった。

 

「余所者だもの、おかしいことをしないか見張る必要があるわ――そうなれば、博麗の巫女の仕事よ」

 

 霊夢は、握り拳を見せ付ける様にしながら、アリスを睨み付けて言い放った。

 

「アンタは、当分の間ウチの居候よ――……家主の命令は絶対よ、いいわね?」

 

 いいわけあるか! と。

 アリスの背後に大きな描き文字が見えた気がした。

 

 だが、実際には、それは言葉にならず。

 涙目のアリスは、小動物のようにぷるぷる震えながら、パチュリー様を見上げた。

 

「貴女のお母さんに頼まれたからね――……毎日、ご飯を作るついでに様子を見に来るわ」

 

 そんなパチュリー様の言葉に、アリスはまたもや涙腺を決壊させて。

 

「ぜ、ぜったいだからねーーっ!?」

 

 唯一頼りになりそうなその存在へ、縋るように飛びついた。

 

「わっ、とと」

 

 パチュリー様は、なんとかそれを抱き留めた。

 そのまま、優しい手付きで頭を撫でる。

 伊達に、子供を3人も育て上げていない、といったところだろう。

 非常に手馴れていた。

 

「……」

 

 私――十六夜咲夜は、その一部始終を黙って見て……いられずに。

 

 

「ぐへぇっ!?」

 

 その背中に、頭突きをかました。

 

「は、え、なにっ? さ、さくや?」

 

「……」

 

 そのまま。

 無言で、顔を押し付ける。

 

「ロリコン」

 

 霊夢の短い罵倒。

 

「わははははっ!」

 

 もう耐えられないと言った様子の、魔理沙が発する笑い声。

 

「……」

 

 

 

 私は。

 誰にも聞こえないくらい、小さな声で。

 

「パチュリー様の、ばーか」

 

 細い背中に、悪態をぶつけたのだった。





 怪綺談の時点では、アリスはマーガトロイドの姓を名乗っていません。
 その為本作内では、独り立ちを決めて魔界を飛び出す際にマーガトロイドの姓を名乗ることにした、という設定です(*´ω`*)

 ……ちなみに、私はぱっちぇさんを愛しておりますし、さっきゅんが大好きですが、アリスのこともとーっても好きです。
 この『ぱっちぇさん、逆行!』の連載を始める前、長編を書こうと決めた際にある程度までプロットを組んだ作品のひとつは主人公が霊夢で、ヒロインはアリスの予定でした。※今年の人気投票でも、上述の4人には清き一票を投票しました。
 最終的にパチュ咲への愛が勝り、『ぱっちぇさん、逆行!』のプロットを採用したわけですが――……要は、レイアリも好きです(*/∇\*) キャ

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