ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

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今回もさっきゅんのターン(*´ω`*)


23話

 袋から取り出したクッキーを手に、博麗の巫女――……霊夢が発した、第一声。

 

「なにこれ……煎餅?」

 

 ――……煎餅?

 首を傾げるしかないルーマニア人の私、十六夜咲夜。

 つられて霊夢も同じ方向に首を傾げたものだから、首を傾げたまま見詰め合う、というおかしな光景が出来上がった。

 

 そんな光景にヒビを入れるように、掛けられた声。

 

 

「違うぜ、霊夢。それは外の世界の食べ物なんだ」

 

 

 多少驚きつつ、振り返る。

 しかし、背後には、誰もいない。

 

「上だ、上」

 

 声に従い、顔を上げる。

 

「よう、はじめまして、だな?」

 

 そこには、箒に跨って空を飛ぶ、魔法使い(幼女)の姿があった。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に警戒し、臨戦態勢に入る私。

 そんな私に構いもせず、霊夢がのんびりと応待する。

 

 

「あら、魔理沙。素敵な賽銭箱はあっちよ?」

 

 

 どうやら、霊夢の知り合いらしい。

 

 パチュリー様の方に視線を向ける。

 彼女は、紫と並んで縁側に腰を下ろし、静かにこちらの様子を見守っているようだ。

 目が合うと、小さく微笑んでくれた。

 

「……」

 

 少し、気恥ずかしく思いながら、視線を戻す。

 

 ちょうど、霊夢がクッキーを口に放り込んだところだった。

 

 もきゅもきゅ、咀嚼音が響く。

 霊夢の眦が、ゆっくりと垂れ下がる。

 ごくん、と喉を鳴らした後。

 口角を上げながら、霊夢が感想を溢した。

 

 

「うん、この外の世界の煎餅、美味しいわね」

 

 

 苦笑しながら地面に降り立った魔法使い――……魔理沙が、訂正の声を上げる。

 

「だから、煎餅とは違うって。クッキー、って言うんだ」

 

 そして、霊夢の抱えている袋に手を突っ込むと、クッキーを摘み上げ、齧り付いた。

 

 

「うん、美味いな!」

 

 

 美味しい。

 その言葉は、素直に嬉しいと感じる。

 なにせ、料理を作ったのは、初めてだ。

 

 ……まあ、作った、とは言っても。

 実際には、パチュリー様の指示通りに生地を捏ねたり、型抜きをした程度だけど。

 

 

「あんた、名前は?」

 

 問い掛けられて。

 答えられる名前を得たのは、つい最近の出来事だけど。

 随分、自然に答えられるようになってきたと思う。

 

「私は、咲夜。十六夜咲夜よ」

 

 

 ――……それよりも。

 気になることが、ひとつ。

 結局のところ。

 

 

「……ねえ、煎餅って、なに?」

 

 

 単純に、疑問だった。

 

「あー、食べたことないの?」

 

 後頭部を掻きながら問い掛けてきた霊夢に、頷いて返す。

 

「そっか……紫―!」

 

 霊夢は、少し思案顔を見せた後、紫に声を掛けた。

 

「はいはい」

 

 微笑みながら、紫が空中に指を滑らせる。

 空間に走った亀裂、そのスキマから。

 落ちてきたのは、菓子器に盛られた――?

 

「これのことだぜ」

「そう、これが『煎餅』よ」

 

 ニンマリと、悪戯っ子その物の顔で笑って。

 両側から私の手を引く、霊夢と魔理沙。

 

「ほらっ」

 

 二人に促されて、恐る恐る口へと運ぶ、未知のお菓子。

 

「……っ!」

 

 それは。

 初めて食べる味だけど。

 

 

「……美味しい」

 

 

 自然と零れた、そんな言葉に。

 さらに、笑みを浮かべる二人。

 

「でしょ? お茶にあうのよ」

 

 紫ー、お茶―! って。

 さらなる要求を叫ぶ霊夢。

 

 やれやれ、と。

 溜息を吐いた後。

 結局は微笑んで台所へと向かって行く、妖怪の賢者様。

 

 驚きと呆れで目を丸くしながらも、煎餅を齧り続ける私。

 

 そのすべてを楽しそうに眺めつつ、私の作ったクッキーを齧っていた魔理沙が、口を開いた。

 

「でも、このクッキーだって美味いぜ! それにコレ、手作りだろ?」

 

 一人で作ったのか? と。

 そう問われて、自然と視線を向けた先。

 こちらの様子を微笑ましそうに見守っていたパチュリー様と、視線が交わる。

 

「いいえ、パチュリー様と一緒に……」

 

 私の視線の先を追う、霊夢と魔理沙。

 先に疑問を口にしたのは、霊夢だった。

 

 

「咲夜の保護者?」

 

 

 保護者。

 まあ、世間的に見るならば、間違いではない。

 衣食住と教育、そのすべてを面倒みて貰っているのだ。

 でも。

 それでもやっぱり、私と彼女の関係性は――……。

 

 

「旦那さんよ」

 

 唐突に告げられた、『解』。

 急須と湯呑をお盆に載せて台所から戻って来た紫は、笑顔で言葉を続けた。

 

 

「彼女は、咲夜の旦那さん」

 

 

 数拍の沈黙を挟んだ後。

 

 

「「はあっ!?」」 

 

 

 大声を上げる、霊夢と魔理沙。

 

「……えー、っと」

 

 痛みさえ感じそうな視線の集中砲火を浴びながら。

 咳払いしつつ、口を開いたパチュリー様。

 

「……はじめまして。私の名は、パチュリー・ノーレッジ。種族は魔」

「「このロリコンめ!」」

「ッ!?」

 

 自己紹介を罵倒と共に遮られ、困惑を隠せないパチュリー様。

 汗を垂らしながらも、弁解を口にする。

 

「ろ、ロリコンじゃないわ、私はただ……」

 

 次の台詞は。

 真っ直ぐな眼差しで、言い切った。

 

 

「咲夜を愛しているだけよ」

 

 

 その、あまりにも堂々とした物言いに。

 呆気にとられる霊夢と魔理沙。

 

 しかし、幾許か経過後。

 霊夢が、ゆっくりと問いかけた。

 

「あんた、何歳?」

 

 パチュリー様は、視線を泳がしながら、小声で答える。

 

「……700歳くらい?」

 

 その返答に。

 勢いよく指を突きつけ、魔理沙が叫んだ。

 

 

「やっぱロリコンじゃん!」

 

 

 私は。

 そんな、騒がしい光景を眺めながら。

 なんだか、胸がポカポカと温かくなるのを感じた。 

 

 

 霊夢が、私の腕を引きながら問い掛けてくる。

 

「咲夜、あいつと祝言挙げたの?」

 

 祝言……聞き慣れない言葉に首を傾げた後、思い当り、口を開く。

 

「結婚式のこと? いいえ」

 

 私の答えに、魔理沙が意地悪そうに笑いながら、パチュリー様を煽る。

 

「じゃあ、夫婦(めおと)ではないな」

「~ッ!」

 

 少しだけ眉間に皺を寄せ、息を詰まらせるパチュリー様。

 その様子を見ながら、私は頷いた。

 

「そうね」

 

 そんな、私の肯定を聞いて。

 軽く下唇を噛みながら、パチュリー様は俯いた。 

 

「……」

 

 その様子をジッと見詰めながら。

 私は、言葉を続けた。

 

 

「でも私、パチュリー様の娘には『お父さん』って呼ばれてるわ」

 

 

 再び、魔理沙が叫んだ。

 

 

「子連れかよ!?」

 

 

「っていうか、それじゃあ咲夜が旦那じゃない?」

 

 首を傾げつつ、指摘する霊夢。

 

 よせばいいのに、パチュリー様がしたり顔で返答する。

 

「いいえ、咲夜は私のお嫁さんよ」

 

 もちろん、霊夢と魔理沙は声を揃えて叫んだ。

 

 

「「ロリコン!」」

 

 

 幼子からぶつけられる罵倒に、仰け反るパチュリー様。

 いつも綺麗な紫水晶(アメジスト)の瞳が、潤んで揺れる。

 

 わあ、涙目だ。

 

 

「……ぷっ」

 

 思わず、噴き出した。

 面白い、とか。

 そういうのじゃなくて。

 

 

 可愛いなあ、って。

 

 

 そう思ったら、なんだか。

 自然と、笑ってしまったのだ。

 

 

「ねえ」

 

 声を掛けられて、振り向く。

 紫が身を寄せてきた。

 楽しそうに細められた、金色の瞳と視線が交わる。

 小さな声で、質問された。

 

 

「貴女は、ウエディングドレスとタキシード、どちらが着たいかしら?」

 

 

 私は。

 数瞬の沈黙の後、口を開く。

 

「よく、わかりません……でも」

 

 これも、境界の妖怪の能力なのか。

 その台詞は、本当に自然に、唇のスキマから零れ落ちた。

 

 

「パチュリー様には、ドレスが似合うと思います」

 

 

 私の言葉を聞いて、一口お茶を飲んだ後。

 楽しそうに、でも穏やかに、紫は笑った。

 そんな彼女から視線を外し、立ち上がる。

 

 まだまだ、わからないことばっかりだけど。

 ひとまずは。

 

「さ、さくやー……」

 

 

 霊夢と魔理沙にいじめられ、涙目のパチュリー様を、助けてあげよう。




さっきゅんには、あともう一人お友達ができる予定です(*´ω`*)

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