ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

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あけましておめでとうございますっ(*´ω`*)


21話

「とも、だち……?」

 

 きょとん、と目を丸くして。

 私の愛しい人(さくや)が、小首を傾げた。

 

 そのあどけなさに、絆されたのか。

 案外、本当に子供好きなのか。

 微笑ましそうに目を細めて、紫は言葉を続ける。

 

「ええ、友達。一緒に遊んで、時々、喧嘩もする。そういう、かけがえのない相手」

 

 それを聞いた、咲夜は。

 

「……」

 

 口を閉ざして、俯いてしまった。

 そうしていると、小さな彼女が、余計に小さく見えた。 

 

「……咲夜」

 

 囁くように、呼びかけて。

 やわらかな銀髪に、そっと指先を滑らせる。

 

 きっと。

 生きるのに精一杯だった彼女には。

 

『友達』なんて、夢物語の存在だったのだろう。

 

 戸惑うのも、無理はない。

 

 だけど。

 

 

「……あのね、友情、ってね」

 

 少し、照れ臭いけれど。

 確かな『真実』。

 

 

「生きていくうえで、もっとも大切な物のひとつなのよ」

 

 

 私、パチュリー・ノーレッジは、心の底からそう思っている。

 

 

 そんな私の言葉を聞いて。

 咲夜は、ゆっくりと顔を上げた。

 私の顔を見上げた彼女は。

 その目を、緩やかに細め、口角を上げる。

 

 ああ。

 可愛いなあ。

 

 

「……明後日」

 

 愛しい人(さくや)の、まだまだ小さな手を、優しく握って。

 彼女の代わりに、答えを返した。

 

 

「明日、というのも急だから、明後日。私とこの子の二人で、神社に伺うわ」

 

 

 

 

 ――……そこまでが、昨日の出来事。

 約束の日は明日だから、今日も二人で映画を鑑賞中。

 

「……」

 

 本日の映画は『猫〇恩返し』。

 猫好きの私としては、はずせない名作である。

 だけど。

 

「……」

 

 隣の咲夜は、ずっとそわそわと落ち着きがなくて。

 映画の内容なんて、まったく頭に入っていないっぽい。

 

「……うーん」

 

 どうしようか。

 ずっとこの調子では、明日の朝には疲れ切っていそうだし。

 

 そんな感じで、こっそり悩んでいる間に、映画も終盤。

 猫の王子様が、美しい雌猫に、プロポーズをするシーン。

 

 プロポーズ、かあ。

 咲夜は、きっとウエディングドレスが似合う。

 いやいや、白無垢も捨てがたい。

 そうすると、私はタキシードか、紋付袴を着ればよいのだろうか?

 ……でも、私だって、花嫁衣装にそこはかとなく憧れはあったりするし。

 

 なんて。

 脇に逸れた思考を、引き戻す。

 

 画面には、誓いの指輪代わりの『魚の形をしたクッキー』が映っている。

 

 ……うん。

 これだ。

 

「咲夜」

 

 呼びかけると。

 数拍の間を置いてから、咲夜がこちらへ視線を向けた。

 微笑みながら、提案する。

 

 

「手土産に、クッキーでも作りましょうか」

 

 

 

 

 

 バターに砂糖、卵に小麦粉、バニラエッセンスも添えて。

 二人で協力して、生地を作った。

 最初は戸惑っていた咲夜だけど、段々と表情を和らげていくのが分かった。

 

「型抜き、どれ使う? 色々あるのよ」

 

 ガシャガシャ音を鳴らしながら抜き型を調理台に広げた。

 定番の形から、そんなのもあるんだ、ってビックリするような形まで、数多く揃っている。

 

「すごいですね、こんなにたくさん」

 

 三日月の抜き型を手に取った咲夜が、感心した様子でそう言った。

 

「はじめにクッキーを作った時はね、私の趣味で、コレとコレを使ったんだけど」

 

 猫と肉球の抜き型を手に取って、咲夜に見せる。

 

 

「……猫、好きなんですね」

「うん、好き」

 

 似合わないかしら? って。

 はにかみ笑いを浮かべながら、そう答えると。

 何故か咲夜は、その2つの抜き型を、端に除けてしまった。

 

「え?」

「……」

「咲夜?」

「……」

 

「……猫、嫌いなの?」

「別に――……でも」

 

 犬の方が、役に立ちますよ、なんて。

 

 少しばかり不満気に、そう言いながら。

 私の愛しい人(さくや)は、三日月の抜き型をてのひらの上で転がした。

 

「……?」

 

 彼女は犬派、ということだろうか?

 小首を傾げた後、ひとまず話題をもとに戻すことにした。

 

 

「えっと、それでね? さっきの抜き型で作ったクッキーを、レミィ達に初めて振る舞った時にね?」

「はい」

「蝙蝠の型はないのかー、とか。2種類だけじゃつまらないー、とか。色々言われたのよ」

「……ああ」

 

 その情景が、目に浮かんできたのか。

 咲夜が、薄く苦笑を浮かべた。

 私も、思い返しながら、眉を下げて笑う。

 

「だから、クッキーを作るたびに、新しい抜き型を用意するようになっちゃって」

 

 コレとか、自作なのよ? って。

 蝙蝠の形の抜き型を指先で弾きながら語ると。

 咲夜が『心底驚いた』といった様子で、目を丸くした。

 

「わあ……器用ですね」

 

 感嘆の声を漏らす咲夜。

 素直過ぎて、照れ臭い。

 熱くなった頬を誤魔化すように、軽く首を横に振りながら、言葉を返す。

 

「慣れれば簡単よ。デザインを決めたら、アルミ板を曲げていくだけだし……ッ!?」

 

 

 どんっ!

 

 唐突な『衝撃』。

 よろめいて、調理台に手をついた。

 

 危ない。

 自分の顔で型抜きをするところだったわ。

 

「きゃっ……あっぶな、え、なに?」

「おかあさーんっ、お父さんとお菓子作ってるんですかー?」

 

「……美鈴!」

 

 背中からとびついてきたのは、私の愛娘だった。

 

「いきなり抱き着いたら、危ないでしょう?」

「えへへ、ごめんなさーい」

 

 嗜めてみても、一切曇りを見せない、輝く笑顔。

 溜息を吐く。

 

 ああ――……可愛い。

 

 そんなふうに、感じてしまって。

 結局、叱りつけるどころか、頭を撫でてやる私は。

 

 多分、駄目親である。

 

 

「あら、なにやってるの?」

 

 ――……千客万来。

 

「レミィ」

 

 今度は、親友様の御出座しだ。

 

「あ、クッキー! 私の分もあるわよね?」

 

 そう問いながら、蝙蝠の形の抜き型を指先でつまみあげて。

 にぱぁっ! と笑う、夜の王様。

 そして、それを見ても。

 

 ……可愛いなあ、もう。

 

 やっぱり、そう感じてしまう私だから。

 

「はいはい……はじめから、多めに用意してあるわよ」

「わぁい!」

 

 ……我ながら、クッキーよりも甘い対応だ。

 過剰な甘さは、毒にもなる。

 何事も、加減が大事なのだ。

 

 でも、まあ。

 私は、魔女だし。

 魔女なんて、古来より、他者を堕落させる存在だと、相場が決まっている。

 だから、これでいいのだ。

 うん。

 ……うん。

 

 

「ってことは、皆でお茶会ですね! 小悪魔さんも誘っちゃおうっ」

 

 そんな、美鈴の台詞を聞いて。

 

「ッ!」

 

 

 脳裏に過った、『スペサタイトガーネット』の煌めき。

 

 

「……」

 

 数瞬、黙考。

 まったく不安がないと言ったら、嘘になる。

 ――……でも。

 

『今の彼女』を、まっすぐに見据えると。

 

 私は、そう決めた。

 

 

「……レミィ」

 

 それに。

 もし、万が一。

 

「パチェ?」

 

 いや、億が一。

 悲劇の引き金が引かれてしまっても。

 

 

「フランも――……お茶会に参加して貰いましょう」

 

 

 私のすべてを懸けて。

 誰一人、傷付けさせはしない。

 そう、それこそ。

 

 フラン自身も含めて、守ってみせる。

 

 

 

 

「あらためて、ごきげんよう」

 

 背筋は伸ばしたまま。

 片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ。

 見事なカーテシーを披露しつつ、自己紹介。

 

「私の名前は、フランドール・スカーレット。紅魔館当主、レミリア・スカーレットの実妹よ」

 

 フランの放つ、確かな気品。

 その優雅さに圧倒されて、小悪魔が数歩後退った。

 ……情けない奴だ。

 

 一方、咲夜は、ぎこちない動作ではあるが、しっかりと返礼した。

 

「ごきげんよう……先日は、ありがとうございました。十六夜咲夜と申します」

 

 まだ幼いけど、流石、咲夜。

 

 ――……立派よ、可愛い!

 

 内心で、拍手喝采。

 

「ふぅん……」

 

 しかし。

 何故かフランは、探るような眼差しで、ジィッと咲夜を見詰めた。

 

「……フラン?」

 

 私が呼びかけると。

 ハッとした顔になり、ブンブンと首を横に振って。

 

「うん、よろしくねっ」

 

 そう言って、綺麗に笑った。

 

「……?」

 

 首を傾げる。

 なにか、様子がおかしい。

 まともに会話するのは初めての相手だし、緊張しているのだろうか?

 

 そこで。

 

「さあ、みなさん速く席に着いてクッキーをいただきましょうっ」

 

 美鈴が、明るい声で言い放った。

 

 

「お母さんとお父さんの『初めての共同作業』の結晶ですよ!」

 

 

 ――……唐突に爆弾を放るのは、いい加減に勘弁してほしい。

 まったく、誰がこんな娘に育てたんだ。

 

 私だ。

 

 

「……め、美鈴の言う通り、席に着いて食べましょう。紅茶が冷めるわよ」

 

 顔が熱い。

 多分、今の私の顔は、熟れた林檎より赤い。

 

 チラリ、と横目で咲夜を盗み見る。

 特に様子に変化はない。

 どうやら、まだ『初めての共同作業』の意味を知らないらしい。

 

 ホッとしたような、少し寂しいような。

 複雑な想いが、胸を過った。

 

 

「ぱーちぇっ!」

「きゃあっ!?」

 

 席に着くなり。

 私の右隣に座ったフランが、腕に飛びついてきた。

 

「ふ、フラン?」

「ぱちぇー、ハート型、可愛いねっ」

 

 フランは、指先でつまんだハート型のクッキーを。

 私の唇に、そっと押し付けてきた。

 

「あーんして?」

 

 上目遣いで、甘ったるい声で。

 少しだけ、頬を染めて。

 

 ああ、甘える時のこの仕草は、幼い頃から変わらない。

 可愛い。

 

 ――……拒めるわけがない。

 

「あー、ん」

 

 口に入ってきたクッキー。

 細い指先が、一瞬だけ、舌先に触れた。

 

「……っ!」

 

 フランの顔が、耳まで赤くなり。

 スペサタイトガーネットの瞳も、潤んで揺らいだ。

 

 

 ――……次の瞬間。

 

 

「ふご……ッ!?」

 

 思いっきり、髪を引っ張られ。

 追加で『犬型のクッキー』を口に押し込まれた。

 

「……っ、……ッ? ……ッ!?」

 

 強制的に振り向かされた、左隣。

 銀のナイフのような剣呑な光を宿す、青い瞳と視線が交わる。

 

 何故か。

 非常にご立腹らしい、私の愛しい人(さくや)

 

 かわ……怖い。

 うん、こわい!

 

 

「ちょっと! パチェにひどいことしないでよ!」

 

 怒鳴りながら、さらに私に密着するフラン。

 

「ひどいことなんてしてません……食事中なんだから、離れたらどうですか」

 

 淡々と言い返しながら、さらに私の髪をひっぱる咲夜。

 

 え、ちょ、もう。

 ホントにわけがわからない。

 

 

 助けを求めて、対面の席の左側から順番に視線を走らせる。

 

 

「うわあ……」

 

 小悪魔は、何故かうんざりした顔で私を見ていた。

 

 なんでよ、私悪くないでしょ?

 

 

「仲良しですねっ!」

 

 美鈴は、いつも通りの笑顔だ。

 

 ちょ、貴女のお母さん大変なことになってるのよ美鈴?

 貴女のお母さんハゲちゃうわよ美鈴!?

 

 

「……」

 

 ――……レミィは。

 何故か、先程のフランと同じように。

 ジィッと、私達を見詰めていた。

 

「れ、れみ……っ」

 

 そして。

 

 

「あーーっ! もうっ! 私も混ぜろっ!!」

 

 

 髪を掻き乱し、そう叫ぶなり。

 

「きゃああああっ!?」

 

 

 テーブルを越えて、とびかかってきた!?

 

 

「ふらーんっ! お姉様にもあーんしてー!」

「い、いつもしてあげてるじゃんかあ!」

「……離れてください」

「ちょ、も、本気でやめ……ッ」

 

 

 ずるっ!

 

「んなあっ!?」

 

 バランスを崩し。

 椅子から、勢いよく滑り落ちる。

 

「うぐっ!」

 

 床で背中を強打した上に。

 私の上に倒れ込んでくる、3人。

 

「ぐえっ!」

 

 怪我しない様に、と。

 咄嗟に抱え込んだ咲夜の頭が。

 ちょうど、鳩尾にクリーンヒット。

 

「ぱ、ぱちゅりーさまっ!」

 

 焦りに満ちた、咲夜の呼び掛け。

 それに応える気力さえ、すでになく。

 

「むきゅー……」

 

 ああ。

 色々、覚悟はしていたのだけど。

 

 この展開は、予想外という他ない。

 

 と、いうか。

 サッパリ意味が分からない。

 

 

 ――……薄れゆく、意識の中で。

 

 

「小悪魔さん、小悪魔さん、あーんっ」

「えっ、め、美鈴さん?」

「あーん、ですよ!」

「……あ、あーん」

「えへへっ」

 

 

 そんな会話が、耳に届いた。

 

 ……小悪魔め。

 目が覚めたら覚悟しておきなさい。

 

 普段の十倍、扱き使ってやる。

 

 

 

 

 ――……翌日。

 綺麗にラッピングしたクッキーを胸に抱いた、咲夜。

 そんな咲夜をお姫様抱っこして空を飛ぶ、私。

 

 ※咲夜はまだ自力では長距離の飛行が出来ない。

 また、魔法を使用しているので、重さはほとんど感じない。

 

「……」

 

 非常に緊張した様子の咲夜を抱く腕に、ギュッと力を込める。

 こちらを見上げてくるタンザナイトを、静かに見つめ返した。

 

 そのまま、数十秒が経過。

 

 咲夜の身体から、少しずつ力が抜けて。

 眦も、穏やかに下がっていく。

 

「っ!」

 

 息を呑む。

 咲夜が、私の肩口に、ほんの少しだけ、頬をこすりつけた。

 

 とても控えめな。

 でも、確かな。

 

 甘えた仕草。

 

 

「……う、」

 

 声が漏れそうになって。

 慌てて、下唇を噛む。

 

 うわあ、うわあ、うわあうわあうわあ……っ!

 

 腕の中には、私の愛しい人(さくや)

 それは、とても幸せなことだけど。

 

 両手が塞がっているせいで。

 

 

 真っ赤に染まっているであろう顔を、隠すことも出来ない……っ!

 

 

「……ふふっ」

「ッ!?」

 

 小さく、吐息のように。

 咲夜が笑い声を溢した。 

 

 

 堪らず、視線を空へと逃がす。

 太陽が眩しい。

 本日は、快晴。

 

 

 ――……あの巫女に会うのに、相応しい日だ。

 

 

 

 

 正面鳥居の手前に着地し、軽く一礼。

 左足から踏み出して、境内に入る。

 咲夜も私に倣い、同様の作法で後に続いた。

 

「ごめんください」

 

 声を上げるが、返答はない。

 そのまままっすぐ進み、周囲を見渡すが、人影はなく、出迎えもない。

 

「……留守でしょうか?」

 

 咲夜が小首を傾げる。

 どうだろうか。

 人が訪れることを分かっていて、外出することもないと思うが。

 いや、もしかして、紫が今日の予定を伝えていないのだろうか?

 

「……」

 

 顎に指を添え、しばし黙考。

 

「……もしかして」

 

 今から会う巫女が。

 私の知っている、あの巫女のままであれば。

 一番、可能性が高いのは。

 

「パチュリー様?」

「咲夜、こっちきて」

 

 咲夜の手を引いて、歩き出す。

 

 

 

 

「……やっぱり」

 

 母屋の裏庭。

 その縁側に寝転がっている、小さな人影。

 

「すぴー……」

 

 気持ち良さそうに寝息を上げている、その人物こそ。

 

「博麗の巫女、博麗霊夢(はくれいれいむ)

 

 

 ぐーっ、と。

 

 未だ眠り続けている霊夢の腹が、賑やかに鳴いた。




第14回東方人気投票は、1月14日より投票開始予定だそうですよ!
皆さん、誰に投票するか決めましたか?
毎年恒例ですが、今年も最大7キャラクタまで投票可能(そのうち一押しを1人選び、そのキャラクタには2ポイント)だそうです。
魅力的なキャラが多すぎて、誰に投票するべきか、私はまだ悩んでいます。
しかしながら、以下のキャラは投票確定です!

一押し:ぱっちぇさん
二人目:さっきゅん
三人目:おぜう様

あとは、どの子に投票しよう……。
悩むなあっ(*´Д`)

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