ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

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ついに、幻想入りです!
ここまで長かった……(^_^;)


18話

 総合的に、検討した結果。

 これが、最善の道であると。

 私、パチュリー・ノーレッジは答えを導き出したのだ。

 

 ――……しかし。

 

「……」

 

 隣の席で。

 机に広げた算数ドリルに、シャーペンを走らせる咲夜を覗き見しつつ。

 

「…………」

 

 どう話を切り出したものか、と。

 私は、頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 この国の名が、ワラキア公国から幾度か変更され、ルーマニア社会主義共和国となるまで。

 過ぎ去っていった、数百年の年月が脳裏に去来する。

 

 この、『最低の国』は。

 それでも、紛れもなく、私にとって。

 

 第二の『故郷』だ。

 

 そして。

 目の前の彼女にとっては。

 それこそ、紛れもなく――……。

 

「……はあ」

 

 大きな溜息が、静寂を裂いた。

 

「どうしたんですか?」

 

 軽く、眉間に皺を寄せながら。

 目の前の愛しい人(さくや)が、問い掛けてきた。

 

「え……っと、」

 

 喉がつっかえる。

 

「……」

 

 上手く言葉を発せない私を、静かに見上げる、青い瞳。

 

「……あのね?」

 

 意を決して、口を開く。

 

 

「引越し、しようと思っているの」

 

 

 

 

 住み慣れた土地を棄てる。

 簡単な決断ではない。

 それでも、これが、最善の道であると。

 私、パチュリー・ノーレッジは答えを導き出したのだ。

 

 ――……色々と、理由はあった。

 特に大きな理由は、以下の三つ。

 

 1. このままでは、教会の連中との全面戦争が避けられない。

 

 現在の私達の実力であれば、敗北を喫することはないはずだ。

 しかし、決して楽に勝利を手にすることも出来ない。

 確実に、血の雨が降る。

 大洪水レベルで。

 

 2. 勝利したとして、このままこの世界にしがみついていても、未来はない。

 

 私達『妖怪』は、人間の『畏れ』を糧に力を保っている。

 私は『魔女』で、レミィやフランは『吸血鬼』。

 小悪魔は、その呼び名の示す通り、『悪魔』。

 美鈴も、混ざり物とはいえ、『龍』の血脈だ。

 いずれも、名の知れた『種族』である。

 

 名前も知られていないようなマイナーな妖怪とは異なり、現在でも一定の『畏れ』を得ることが可能だ。

 

 ――……しかし、永らく暗闇に閉ざされていたこの国にも、ようやく光が差し込もうとしている。 

 これから、どんどんと『科学』的に発展していくはずだ。

 そうすれば。

 人々は、未知を既知へと変えて、『畏れ』を忘れていく。

 

 緩やかに、しかし、確実に。

 私達は、弱体化していくだろう。

 

 そして。

 なによりも大きな、3つめの理由は――……。

 

 

 

 

「とても、良い場所があるの」

 

 思い出す。

 

「そこにはね、妖怪どころか、神様だって居て」

 

 あの、『幻想に満ち溢れた秘境』を。

 

 

「貴女と同じ、特殊な能力を持った人間達も、普通に暮らしているのよ」

 

 

 (そら)を舞い飛ぶ、紅白と。

 風を突っ切る、黒白を。

 

 

 春は桜、

 夏は星、

 秋は月、

 冬は雪を、肴にして。

 盃を酌み交わし、時にはぶつけあった。

 

 

 愛しい『幻想郷』。

 

 

「ねえ、咲夜――……私達に、ついてきてくれる?」

 

 小首を傾げて。

 恐る恐る、問いかける。

『前の時間軸』では、咲夜は私達と共に幻想郷へ行くことを選択した。

 

 しかし、今回も同じとは、限らない。

 

 

「……っ」

 

 私の言葉を聞いた、咲夜は。

 一瞬、目を丸くして。

 小さく、唇を震わせた後。

 

「……もし、」

 

 微かに、掠れた声で、問い返してきた。

 

 

「もし、私が、拒否したら――……貴女は、私を置いて行けるんですか?」

 

 

「ッ!」

 

 今度は、こちらが目を見開く番だった。

 

「……ああ」

 

 そうか、そうだ。

 その通りじゃないか。

 

「ごめんなさい、馬鹿なことを、聞いたわね」

 

 正しく『愚問』。

 悩むまでもなかった。

 

「もし、貴女が『一緒に行きたくない』って、言ったとしても」

 

 手を伸ばす。

 やわらかな頬に、指をすべらせる。

 目が合う。

 揺れる、夕暮れ時の空色に。

 

 どうしようもなく、胸が高鳴る。

 

 

「手放せる訳、ないんだから――……聞く意味がなかったわ」

 

 

 ごめんね、って。

 謝りながら、苦笑する。

 きっと、今の私は、とても情けない顔をしているだろう。

 

「……」

 

 そんな、格好悪い私のことが、見るに堪えなかったのか。

 咲夜は、不機嫌そうに、視線を逸らした。

 

 でも、隣に座ったまま。

 触れた手を、振り払われることも、なかった。

 

 

 

 

 配下の妖怪達に招集をかけて。

 引越し計画について発表した。

「ついてこい」と、レミィは強制しなかった。

 その後、教会の連中と小競り合いをしている間に、三ヶ月が経過し――……。

 

「付き従うことを選んだのは、非戦闘要員を含めて、100名弱か」

 

 犬耳の執事(しつじちょう)から手渡された資料を捲りながら、大広間を見渡す。

 私達と共に、幻想入り(ひっこし)することを選択した配下――……戦闘員の狼男や、妖精メイド達が、緊張した面持ちで視線を返してきた。

 

 

 この場に居ない大多数の配下達は、幻想入りを拒んだ。

 このまま此処に居ても、近いうちに必ず訪れるであろう破滅について、大多数は理解しているようだったが。

 

「人間程度に背を向けて、逃走することなど、出来はしない」と。

 

 教会相手に、最期に一花咲かせてやると、意気込んでいた。

 ――……まあ、それも一つの選択だ。

 

 

「さて、この場に残った貴様等に、言っておくべきことがある」

 

 レミィが、笑う。

 その笑みは。

 大胆不敵で。

 傲岸不遜で。

 

 それでも。

 親愛に、満ち溢れていた。

 

 

「これからもよろしく――……私の家族達」

 

 

 その言葉ひとつで、皆の顔に広がる歓喜。

 それは、私の親友が、正しく『王』として、敬愛されている証拠だ。

 

「さあ、始めようか」

 

 王様は、左手を振り上げ。

 勢いよく、前方を指差した。

 

 

「盛大に、念入りに――……一家総出で、挨拶回りだ!」

 

 

 

 

 そして。

 ルーマニアのシギショアラに、長く居を構えていた『真っ赤な館』は。

 東の最果て、小さな島国へと、一瞬のうちに『転移』した。

 

 

 

 

 幻想郷。

 巨大な結界で覆われた秘境。

 様々な妖怪や神が暮らす、幻の『楽園』。

 

 その日。

 その各地で、大混乱が勃発した。

 

 

「紫様!」

 

 切迫した声に、妖怪の賢者――……八雲紫(やくもゆかり)は振り向いた。

 

「突如現れた外部の勢力は、幻想郷各地で見境なく交戦中! ついに、妖怪の山にも侵攻を開始したようです!」

 

 部下の九尾の狐の言葉に、金色の髪をかきあげながら、溜息を吐く。

 

「元気の良い新入りさんのようねえ……目的は、この土地の完全な支配かしら」

 

 その呟きに。

 

「……いえ、あの」

 

 九尾の狐――……八雲藍(やくもらん)は、言い辛そうに口籠った。

 

「なあに?」

 

 紫は、軽く眉を顰めながら、言葉を促す。

 

「あちら様から、何か声明があったのかしら?」

 

 主の問いに、藍は視線を泳がせながらも、口を開いた。

 

「……実は、各現場には、コレが残されておりまして」

 

 おずおずと。

 言葉と共に、差し出されたソレ。

 

「……は?」

 

 常ならばあり得ない、間の抜けた声を漏らす主へ。

 藍は、戸惑いながらも、答えた。

 

「片っ端から、幻想郷各地の妖怪を殴り倒しながら……コレを、投げつけていくそうです」

 

 九本の尻尾が、力なく垂れ下がる。

 最後の台詞は、溜息と共に紡がれた。

 

「引越しの祝いだと、言いながら」

 

 

 

 それは。

 ビニールパックされた、『蕎麦』だった。

 

 

 

 

「みんな蕎麦は持ったな!! 行くぞォ!!」

 

 

 後に。

 この出来事は、こう呼ばれる。

 

 

 吸血鬼異変、

 またの名を、

 

 

『引越し蕎麦異変』と――……。




ゆかりん「どういうことなの……( ゚д゚)ポカーン」

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