ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

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14話

「愛してる」

 

 万感の思いを告げた。

 それは、私の主観では、数百年越しの愛の告白だった。

 しかしながら。

 

「……幼女趣味の変態ですか?」

 

 確かに。

 客観的に見れば、私、パチュリー・ノーレッジは。

 

 外見年齢6歳程度の幼女に求愛する、ペドフィリアだった。

 

 振り払われた手。

 片想いの相手から向けられる、冷めきった視線に。

 後頭部から、汗が噴き出した。

 

 

 

 

 ――……数時間前。

 私は、フランに会いに地下室へ向かった。

 どうしても、彼女に伝えておきたかったからだ。

 

 

 

 

「今日はどうしたの? パチェ」

 

 フランは、嬉しそうに私を部屋に招き入れてくれた。

 その両手は、魔術布と同様の効果を持つ拘束具で覆われている。

 それは、私とフランの共同作業により、50年ほど前に完成した魔道具だ。

 魔術布より頑丈でありながらも、指先は自由に動かせる設計となっており、装着した状態で、紅茶や卓上遊戯を楽しむことが出来る。

 さらに、一人で着脱が可能な作りとなっているので、彼女は自室に来客を迎える際、それを必ず着用するよう心掛けていた。

 

「チェスの続きでもやりにきたのかな?」

「心惹かれるお誘いだけど、今日は別件……大切な話があって来たの」

「大切なお話……?」

 

 首を傾げている彼女に。

 私は、数瞬躊躇った後。

 覚悟を決めて、口を開いた。

 

「そう、とても、大切な話よ。すべては語れない。それでも、貴女に告げるべきだと思った」

 

 ゆっくりと、深呼吸をして。

 スペサタイトガーネットの瞳と視線を交わらせながら。

 静かに、言葉を続けた。

 

 

「……私はね、此処とは少しだけ違う世界から来たの」

 

 

 心臓が、早鐘を打つ。

 そのリズムに、次の台詞を乗せていく。

 

「その世界に居た頃の私は、今よりもずっと未熟で、色んな物が見えていなかった。そう、『貴女』のことも、見えていなかった――……謝るわ」

 

 ゆっくりと、深く、頭を下げた。

 数十秒経過した後。

 顔を上げてから、『告白』する。

 

 

「ごめんなさい。私は――……『貴女』のことを、憎んでいた」

 

 

 数百年越しの『懺悔』。

 だけど、頭を繰り返し下げるつもりはなかった。

 視線を逸らしたくないからだ。

 

 今の私は、しっかりと、『フラン』を見ている。

 

「フラン……今、此処にいる私は、ちゃんと貴女のことを見ている。繊細で優しい貴女を……私の大切な『家族』を、見ているわ」

 

 私が、そう言い切ると。

 それまで、黙って話を聞いてくれていたフランは。

 

「……お話してくれて、ありがとう、パチェ」

 

 眉を下げて、笑いながら。

 穏やかな声で、受け止めてくれた。

 

「正直、内容を完璧に理解出来たとは言えないけれど……でも、私が見詰めてきた貴女は、今此処にいてくれる、かけがえのない貴女だけだから」

 

 きっと、それでいいんだと思うの、って。

 細められた瞳の光は、やっぱり焚火みたいに温かで、優しくて。

 

 ああ。

 そんな、貴女だから。

 

「それでね、フラン」

「うん、なあに? パチェ」

「私ね」

「うん」

「実は、その別の世界に居た頃からね」

「うん」

「ずぅっ、と……好きな人がいてね」

「うん……んん?」

「今から、迎えに行ってくるわ」

「うんぇえええええええ!?」

 

 

 すぐには、難しいだろう。

 それでも。

 

 いつか、私の愛しい『あの娘』と。

 大切な家族である『貴女』が。

 隣り合って、笑ってくれたらいい、と。

 

 心から、そう願っている。

 

 

 

 

 ――……それが、数時間前の話だ。

 

 その後、レミィと共に部隊を編成して。

 美鈴に留守を任せて、此処までやって来た。

 

 私は東から。

 レミィは西から。

 二手に分かれて、襲撃を決行した。

 

 結果、レミィは『当たり』で。

 私は、『ハズレ』を引いたから。

 

 こうしてはいられない、と。

 文字通り、飛んで駆け付けたのだ。

 

 そして。

 彼女を――『咲夜』を、視界に入れた瞬間。

 それまで押し込めてきた、私の『恋心』は――……見事に、決壊して。

 

 

「愛してる」

 

 万感の思いを告げた。

 それは、私の主観では、数百年越しの愛の告白だった。

 しかしながら。

 

「……幼女趣味の変態ですか?」

 

 確かに。

 客観的に見れば、私、パチュリー・ノーレッジは。

 

 外見年齢6歳程度の幼女に求愛する、ペドフィリアだった。

 

 振り払われた手。

 片想いの相手から向けられる、冷めきった視線に。

 後頭部から、汗が噴き出した。

 

 そんな私の隣で。

 

「ぶはっ!」

 

 勢いよく噴き出した親友に。

 

 育て方を間違えた! と。

 

 瞬間的に、青筋を走らせながら。

 

 

 あれ? これもしかして詰んだ? いきなり失恋確定?

 

 

 恐ろしい思考が、脳裏を駆け巡る。

 ……眩暈がしてきた。

 

「い、いや……別に、そんな特殊な嗜好は持っていないけど」

「……」

「本当よ……?」

「……」

「…………」

 

 ――……無言。

 

 ああ、続く沈黙が痛い。痛すぎる。

 銀のナイフのような切れ味で、私の心をズタズタにしていく……っ!

 

 

「……まったく」

 

 やれやれ、とでも言いだしそうな声音で。

 レミィが、咲夜に話しかけた。

 

「おい、銀髪。私達と共に来い」

 

 咲夜は、瞳に警戒心をたっぷりと滲ませて、レミィに問い返す。

 

「私を、どうするおつもりですか」

 

 レミィは、片手を振りながら、軽い口調で返答する。

 

「なに、危害を加えるつもりはない。私は親友の嫁取りの応援をしたいだけだ」

 

 その言葉に。

 数瞬、目を伏せた咲夜は。

 レミィのピジョン・ブラッドの瞳を真っ直ぐに見返しながら、言い放った。

 

 

「体を売るつもりはありません」

 

 

 レミィは、一瞬目を丸くした後。

 楽しそうに口角を上げながら、言った。

 

「おや、身持ちが固いんだな……良かったわね、パチェ。この子、生娘みたいよ」

「ッ、レミィ!」

 

 

 その瞬間だろう。

 レミィは、咲夜を『認めた』のだ。

 

 

「ははっ、ぎんぱ、いや、『咲夜』――……私も、貴女を咲夜と呼ぶわね」

 

 今度は、咲夜が目を見開く。

 少し、考え込んだ後。

 彼女は、短く了承の意を返した。

 

「……はい」

 

 レミィは、満足したように頷いてから、言葉を続ける。

 

「私の親友はね、気難しいところもあるけれど――……魔女のくせに、すごく誠実な奴なのよ。それは、この私が保証する」

 

 その声音は、疑いようのない自信に満ち溢れていて。

 だからだろう、咲夜は黙って、話を聞いていた。

 

「貴女に受け入れて貰えるまで、そういった意味で手を出すことはないでしょう……そうよね? パチェ」

「レミィ……」

 

 私は、親友から向けられた信頼に、目頭が熱くなるのを感じた。

 

「……あ、それとも、もう辛抱堪らん! って感じ? 押し倒しちゃう?」

 

 

 しかし、次の瞬間には、その親友によって感傷をブチ壊された。

 ――……おい、この500歳児め。

 

「レミィ、燃やすわよ?」

 

 悪びれもせずに、彼女は笑う。

 

「ははは! ごめんって!」

 

 その笑顔が。

 本当に悪魔か? って思ってしまうくらいに。

 無邪気で、可愛らしい物だったから。

 

 私は、普段通り溜息を吐いた。

 

 

 うん、なんか、落ち着いた。

 ありがとう、『親友』。

 

 ――……よし。

 どうせ、のっけから愛の告白をしてしまったのだ。

 初志貫徹と行こうか。

 さあ、パチュリー・ノーレッジ。

 

 

 口説き落とせ!

 

 

 

 

「咲夜」

 

 精一杯の、愛情を詰め込んだ声音で。

 私は、睦言を囁くように、言葉を重ねていく。

 

「貴女には、なにがなんだかわからないでしょうけど……私は、貴女に会える日を待っていた。もう、何百年も前から、待っていたのよ」

 

 言葉の真意が伝わることはないだろう。

 別に構わない。

 

「もう一度言わせて」

 

 ただ。

 この想いだけ、届けばいい。

 

「愛してる」

 

 この想いと共に。

 私の500年はあったのだ。

 

「私に、貴女を幸せにさせて欲しいの」

 

 そうして。

 私は、小さな彼女の前に跪いたまま。

 心と手を、差し出した。

 

 

 

 

 再び、沈黙。

 いつまでたっても、取って貰えない手。

 

 ……あれれ~? おかしいぞ~?

 コ○ンくんでもお手上げだ。

 女心は迷宮入りか。

 

 ――……所詮、私は紫もやし。

 カビの生えそうな『魔女』である。

 白馬の王子を気取るには、いささか無理があったのかもしれない。

 

 

 っていうか。

 ヤバい、なんか。

 一気に、恥ずかしくなってきたわ……ッ!

 

 

 羞恥と、絶望感で。

 プルプルと、震えだした手。

 

 その手の隣に。

 小さな手が、もう一本、差し出された。

 

「私からも、提案よ」

 

 レミィは。

 紅い悪魔は。

 傍若無人な、夜の王様は。

 

「嫁入りが嫌なら、ひとまずウチのメイドになってみない? 広い館だから、掃除の遣り甲斐があるわよ」

 

 笑顔で、餌をぶらさげた。

 

 

「衣食住完備、オヤツも付けるわ」

 

 

「よろしくお願いします」

「即答!?」

 

 

 ――……そして、私の愛しい人は。

 私の手ではなくて、私の親友の手をとった。

 

 いや、手をとった、というよりは。

 

 

 見事な『お手』であった。

 

 

 世界が変わっても。

 出会いが変わっても。

 彼女はやっぱり。

『悪魔の犬』であるらしい。

 

 

 

 

 その後。

 咲夜を連れて、紅魔館に帰宅すると。

 

「あ、お母さん! おかえりなさい!」

 

 門前で、美鈴に出迎えられた。

 

「ただいま、美鈴」

 

 美鈴は。

 私の横に居る、咲夜を視界に収めると。

 ゆっくりと、目を見開いていき。

 大きな声で、叫んだ。

 

 

「私のお父さん、ちっちゃいですね!!」

 

 

 ……、

 …………、

 ………………えー。




……ぱっちぇさん、頑張れ(´・ω・`)

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