1. 実際のルーマニアの歴史を参考にしている箇所もありますが、あくまでフィクションです。
2. 過去に書いた自作のパチュ咲小説と一部の設定が共通しておりますが、ストーリー上の繋がりは一切ありません。気にせずにお読みください。
光陰矢の如し。
だから、あっという間にババァになる。
私、パチュリー・ノーレッジも、すでに700歳近い(やはり見た目に変化はないが)。
――……スカーレット卿を打倒した後。
本当に、色々なことがあった。
まず、犬耳の執事……執事長の働きかけで、その場にいた600名程度の妖怪達をレミィの配下とすることに成功。
その後、配下達と共に、スカーレット家の館、後の紅魔館を強襲。
実力で、残りの配下達を説得した。
先代が崩御した今がチャンスとばかりに攻め入ってきた敵対勢力。
それを片っ端から返り討ちにし続け、気が付けば数十年が経過。
その頃には、すでにレミィも当主の貫禄を身に着けており、名実共に新たな『夜の王』となっていた。
レミィが当主となり、100年程経過したある日。
「ねえ、パチェ」
彼女は、目をキラキラさせながら、まったいらな胸を張って言い放った。
「この館、真っ赤に塗ったらカッコ良くない!?」
……みんなで、塗装屋の真似事をした。
『紅魔館』誕生の瞬間であった。
戦況が落ち着き、余裕が出てきてからは、美鈴にも屋内仕事を任すようになった。
信用出来ない優秀な部下よりも、信頼できる努力家の愛娘と仕事したほうが、断然効率が良い。
「お母さんの頼みであれば、自分に出来る精一杯のことはやります……でも」
「でも?」
「やっぱり、私は体を動かすほうが性に合っていると……」
「あ、美鈴、そっちの書類もよろしく」
「おかあさぁん……」
結局。
フランは、己で地下を自室と定めた。
「フラン、本当にいいの?」
私の問いに。
彼女は、曇りのない笑顔で答えた。
「うん、今の私には、まだ完全に能力を制御する自信がないから」
その瞳には、決意の炎が燃えていた。
「パチェ……私、強くなるよ。強くなって、この能力だって使いこなして、みんなを守れるようになる……それがきっと、私の幸せだから」
そう宣言した後。
彼女は、背中に隠していたソレを、私に差し出した。
「……え」
ソレは。
「受け取ってよ、パチェ……私、ホントにあの時、悔しかったんだから」
真っ白い画用紙に。
似合いもしない笑みを浮かべる、紫色の長い髪の女が描かれていた。
「私のほうが、上手く描ける……パチェはもっと美人なんだぞー、って」
お姉様の描いたパチェ、殺人鬼みたいな目付きだったよね、なんて。
照れ臭そうに笑った彼女に、涙腺が緩んだので。
「っわ!? ぱ、ぱちぇー?」
顔を見られることのないように、彼女の顔を私の胸に埋めて、頭を撫で回してやった。
まさしく、光陰矢の如し。
この国の名も、ワラキア公国から幾度か変更され、ルーマニア社会主義共和国となった。
現在、1992年――……つまり、そろそろのはずだ。
「……はあ」
深く、溜息を吐く。
そろそろ『彼女』に出会えてもおかしくないはず、なのだが。
如何せん、手掛かりが少ない。
「……咲夜」
私は、彼女の正確な年齢を知らない。
本人も、わからないと言っていた。
それに、彼女は自分の過去をあまり語りたがらなかった。
それでも、断片的に耳にしたその生い立ちから――……『チャウシェスクの落とし子』の一人で間違いないと睨んでいた。
ニコラエ・チャウシェスク。
此処、ルーマニアの人間社会を、1960年代から80年代にかけての24年間支配し続けた『独裁者』だ。
彼は、「国力とはすなわち人口なり」と掲げ、堕胎と離婚を法律で禁止した。
そして、子供を多く産んだ者には奨学金を出していたが――……1989年に、政権が崩壊。
必然的に捨て子が急増し、孤児院が定員オーバーとなり、街頭にはストリートチルドレンが溢れた。
こうした人口政策で発生した孤児達は『チャウシェスクの落とし子』と呼ばれている。
私は、『十六夜咲夜』もこの政策によって産まれた子供の一人であると、確信している。
――……その為、すでにこの国のどこかで産声を上げているであろう彼女を、こっそり一人で探していたのだが。
首都ブカレストだけで、1000人以上のストリートチルドレンがいるのだ。
捜索は難航していた。
「……まあ、前の世界と同じように推移するなら、何もしなくても、いずれは会えるのでしょうけど」
思い出す。
彼女と、初めて出会った日。
「……」
幼い彼女は。
心身共に、傷付いていた。
「……やっぱり、ただ待っているだけなんて、出来ない」
今度こそ。
彼女を守ると、決めたのだ。
「レミィ」
執務室。
大きな椅子に腰掛けた、小さな夜の王様。
「パチェ、どうしたの? サボり?」
だったら、一緒にお茶でもどう? なんて。
笑いながら問いかけてくる、彼女に。
「レミィ……頼みがあるの」
私は、そう言って。
深く、深く――……頭を下げた。
「私に、力を貸してほしい」
しばらく、沈黙が続いた後。
「頭をあげなさい」
王様は。
力強い笑顔で、応えてくれた。
「水臭いわね――……手伝え、って。一言、そう言えばいいのよ」
だって、私達は。
『親友』なんでしょう?
――……そう言葉を続けて。
照れ臭そうに、頬を染めた彼女に。
私は、勢いよく抱き着いた。
ああ。
そうね。
貴女は、私の――……かけがえのない、親友だわ。
レミィの力を借りて。
人化の出来る部下を総動員し、咲夜の捜索に当たった。
そして――……1年後。
「まさか、もう、奴等の手の内とはね……」
世間一般の人間達には秘匿されているが。
キリスト教には、近代化の著しい昨今でも、化物退治を専門とした暗部が存在している。
そこに所属しているのは、化物に対抗し得る特殊な能力を持つ人間達だ。
彼等は、神の使徒などと称されているが――……ていのいい駒でしかない。
前の世界の咲夜は、その部隊の一員で。
魔女である私を、殺しに来たのだ。
そして――……私と一緒にいたレミィに、返り討ちにされた。
この世界では。
そんな組織に利用される前に、保護したかったのだが。
どうやら、一足遅かったらしい。
「パチェ」
報告書を片手に、俯いている私に。
レミィが、声を掛けてきた。
「パチェ、貴女が探していたその子は、どんな子なの?」
レミィの問い掛けに。
「綺麗な子よ」
私は、世界が変わろうが、何百年経とうが、一向に変わることのなかった、己の感情を。
「銀のナイフみたいな娘なの」
静かに、吐露した。
「私の――……世界で一番、愛しい人」
息を呑む気配。
幾許か経過し。
「そうなの……」
レミィは。
笑いながら私の肩を叩いて、言った。
「――……だったら、さっさとつかまえに行け! 親友っ!」
ああ。
この親友も。
どんな世界だって、変わらない。
親友の激励を後押しに。
この私、七曜の魔女『パチュリー・ノーレッジ』は。
白馬の王子様の真似事を行うことに決めた。
すなわち。
殴り込みである。
次回、ついに。
ついに!
さっきゅん登場!
この小説は、パチュ咲前提、純愛です!!