午後六時十分前。私は最初に選べる街の一つ、ファトスに来ていた。ファトスの中央には大きな噴水があって、初めてのプレイヤーは必ずここに現れるのだ。
最初はチュートリアルのクエストがあるから初心者さんは見守るのがマナーなんだけど、リアル知人の場合はその限りではない。まあ、当たり前だね。
噴水の側で待っていると、ちらちらと私の方にも視線が向けられてくる。でもすぐに興味なさそうに逸らされた。知り合いを待ってるんだろうと判断されてると思う。
のんびり待つことしばらく。噴水の側に魔法陣が唐突に現れて、白く光り始めた。誰かが来る合図だ。みんなが興味深そうにちらちらと視線を送ってくる。今から驚く表情が目に浮かぶね。
次の瞬間、ふわりと、小さな女の子が降り立った。
「んー……?」
あはは。容姿については何も書かなかったんだけど、全くいじらなかったみたいだね。毎日見てる姿のままだ。れんちゃんは周囲を見回して、そして空を見て、何か感じ入っている様子。VRゲーム内とはいえ、太陽なんて久しぶりに見ただろうから、それでかもしれない。
で、その姿を見た周囲のプレイヤーは、例外なく驚きに固まっていた。まあ、当然だと思う。
VRゲームはリアルとの齟齬を最小限にするために、体の骨格を変更することはできない。身長はリアル準拠ということだ。
それはつまり、年齢相応の見た目のれんちゃんは、いわゆる合法ロリか、本当の小学生ということになるわけで。さらには小学生は普通ならプレイできないことを考えると、合法ロリの可能性が極めて高くなるってことだね。
合法ロリなんてそうそういるわけがないのに、男どもはいったい何の夢を見ているのやら。
ざわざわとうるさい周囲を無視して、私は最愛の妹に駆け寄った。
「れんちゃーん!」
「あ、おねえちゃ……むぐう」
ぎゅっと抱きしめる。ああ、さすがAWO。抱き心地もリアルと同じだ。素晴らしい。れんちゃんはゲーム内でもかわいいなあ!
「お、おねえちゃん、だよね……?」
「ですよー! れんちゃんの頼れるお姉ちゃんだよ! ちなみに私以外はこうして抱きしめることなんてできないから、安心していいよ」
「そうなんだ……。お姉ちゃんのことはどうすればひきはがせるの?」
「ひどい!?」
私がショックを受けていると、れんちゃんは小さく噴き出した。冗談だったみたいだ。よかった、本気で言われていたら一週間は立ち直れなかったと思う。
「さてさてれんちゃん。ここは騒がしいので場所を移動しましょう」
「うん」
れんちゃんの小さな手を握って、歩き始める。周囲はすごく声をかけたそうにしているけど、全て無視だ。
れんちゃんを連れて行った先は、街の外の草原フィールド。初心者さんが最初に狩りをするフィールドで、今もれんちゃんと同じ初期装備の人がせっせと最弱モンスターを倒している。
れんちゃんはそれを見て、ちょっとだけ嫌そうな顔をした。ゲームでも生き物を殺すのは嫌みたいだね。……あれ、ゲームの選択肢、間違えたかな……?
「れんちゃんれんちゃん。こっちこっち」
「んー?」
手招きして、さらに少し移動。たどり着いたのは、初心者キラーと名高い草原ウルフが出てくるエリア。
このエリア、初心者が狩るモンスターのエリアと隣接する上、同じ草原フィールドなので、調子に乗った初心者さんが手を出してよく殺されている。ある意味通過儀礼として定番のイベントだ。修正しろ運営。
ただ、このフィールドのモンスターはボスのウルフリーダーを含めてノンアクティブ、つまりあっちから襲ってくることはないので、のんびり雑談するのは問題ない。
「さてさて。れんちゃん、ステータス見せて」
「どうするの?」
「こう、指を下から上に振ると出てくるよ。運営さんが私限定の可視モードにしてくれてるはず」
「かしもーど? おかし?」
「れんちゃんはかわいいなあ!」
なでくりなでくり。れんちゃんの表情が微妙なものになっていたので大人しくやめます。嫌われたくはないのだ。
れんちゃんが言われた通りの動きをすると、黒っぽい長方形の枠が出てくる。のぞき見ると、ちゃんとステータスが表示されていた。
「ふむふむ……。名前はれん、なんだね。呼び方変えなくていいから私は楽だけど、よかったの?」
「え?」
首を傾げるれんちゃん。ああ、これ、よく分かってなかったパターンか。まあ、本名でもないし、大丈夫かな。
「スキルはっと……。え、なにこれ。武器スキルは!?」
「んー……。げーむますたー? のやましたさんが、いらないって」
何故、と首を傾げる私に、れんちゃんは頑張って説明してくれた。その説明の内容は、初めて知るものだった。
いやいや。ちょっと待ってほしい。アクティブモンスターが敵意に反応するとか、初めて知ったんだけど。新情報じゃないのそれ。
でも、言われてみると納得することもあるんだよね。実は。
以前、急いで別の街に行こうとしていた人が、アクティブモンスターが大量にいるエリアを突っ切ったことがあったらしい。多少のダメージは覚悟して突っ切ったらしいけど、驚くことに一切襲われなかったそうだ。
それを聞いた検証大好きな変人たちが、いろいろなパターンを試して実験したらしい。同じように隣の街を目的に駆け抜けてみたり、装備なしで近づいてみたり。どこかへと駆け抜けた時のみ襲われなかったそうだ。
それで検証の人たちは、アクティブモンスターが反応するまでに多少の猶予があるのだろうと結論を出していた。急ぐ人のための温情措置だろうと。
でも、れんちゃんの話だと、あたらずとも遠からず、だったみたいだ。
別の街に行くのはモンスターへの敵意がないから反応しなくて、装備を持たずに近づいた場合はモンスターが目的だから敵意と判断された、のかもしれない。多分。
脳波を読み取るか何かしているVRゲームならではのシステムかな。実際の内部処理は分からないからなんとも言えないけど。
「でもだからって、武器スキルなしは思い切ったね……。驚いたよ」
「戦いなんていらないもん。なでなでしたいだけだもん」
ちょっと拗ねて頬を膨らませるれんちゃんかわいい。天使だ。いや女神だ。拝もう。
「それはもういいよ」
「はい。ごめんなさい。まあ、そういうことなら、そのままいってみよっか」
武器スキルなんて習得そのものはとても簡単だ。必要になれば覚えればいい。
「それじゃあ、れんちゃん!」
「はい!」
「お手本、ではないけど、こんな子がいるよってことで」
テイムスキルは私も持っているのだ。私も動物は好きだからね。生き物に責任を持つっていうのがちょっと怖くて飼ってないだけで、もふもふは大好きです。
「おいで、シロ」
私が呼ぶと、目の前に魔法陣が現れて、のっそりと名前の通りに真っ白な狼が出てきた。
私の自慢の子。通常の草原ウルフは茶色系統の色なんだけど、ごく稀に真っ白な個体が出現するのだ。たまたま見かけて、エサをあげてみたらなんと懐いてくれた。
それ以来、毎日のように手入れしてあげてる。かわいがってる。すっごくもふもふだ!
「わあ……!」
れんちゃんの目が輝いてる! ふふふ、いいでしょうかわいいでしょう!
「撫でてもいいよ?」
私がそう言うと、れんちゃんはおっかなびっくりといった様子でシロの体に触れた。シロもこの子が私の身内と分かっているのか、抵抗なんてしない。むしろれんちゃんのほっぺたをぺろぺろ舐めてる。
「かわいい……!」
れんちゃんがシロを抱きしめた。すりすり頬ずりしてる姿は本当に愛らしい。いやあ、眼福眼福。
「お姉ちゃん、私もわんちゃんがいい!」
「お目が高いねれんちゃん!」
犬扱いされたシロが少しショックを受けてるけど、気にしちゃいけない。シロが抗議の視線を送ってくるけど、気にしちゃいけない! あとでご飯をあげてご機嫌を取ろう……。
「それじゃあ、れんちゃん。テイムのやり方を教えるね」
「うん!」
元気よく挨拶をするれんちゃん。挨拶しつつも、シロをもふもふし続けている。シロの毛並みを気に入ったのかもしれない。
「やり方は簡単。テイムしたいモンスターにエサをあげるだけ。モンスターが食べてくれれば、絶対にではないけど友達になってくれるよ」
「それだけでいいの?」
「うん」
正確には、それが最低限の方法、というだけだ。実際は最初に戦闘をして、相手の体力を残りわずかにしてからエサをあげれば仲間になる確率は高くなる。でも、そんなことはれんちゃんに教える必要はないはず。教えても、嫌がるだろうから。
それに、ここのモンスターは全てノンアクティブだ。エサを上げ続けていれば、そのうちどの子か仲間になってくれるはず。
「それじゃあ、手を出して」
素直に両手を差し出してきたれんちゃんに、私が作っておいた魔物のエサを渡してあげた。れんちゃんにあげる、と口に出せば、システム的にも譲渡完了だ。
れんちゃんに渡したのは大きな巾着袋。その中にはお団子みたいなエサが十個ほど入っている。これだけあれば草原ウルフならテイムできるはず。
「それじゃあ、がんばれ、れんちゃん!」
「うん!」
れんちゃんはもう一度シロを抱きしめると、早速駆けだしていった。
最初のテイムは、なんだかんだと特別だ。私もこのシロが初めてテイムしたモンスターだけど、やっぱり他よりもかわいく思える。
まあ、だから、れんちゃんが悩むのも仕方ない。右を見ても左を見ても草原ウルフだらけの中、れんちゃんは考えながら歩いて行く。私は暇だし、というよりもれんちゃんのためにいるようなものだし、のんびりと付き合ってあげよう。
れんちゃんはたまにこちらに戻ってくると、シロをもふもふなでなでしていく。よほど気に入ったみたいで、シロも喜んで受け入れていた。なんだろう、見ていてとっても和む。
「ごめんね、お姉ちゃん。時間かかっちゃって」
「いいよいいよ。気にせずゆっくりしてね。シロとのんびり待ってるからさ」
ありがと、とれんちゃんが頷いた直後、シロがぴくりと鼻を動かして、耳を動かして、そして少しだけ首を動かして視線を固定させた。なんだろう?
「何かあるの?」
れんちゃんも気付いてそっちに視線をやれば、
「あ」
「へえ……」
視線の先、少し遠い場所に、白いウルフが出現していた。しかも、小さい。かなり小さい真っ白な狼。
珍しいものを見た。あれはこのフィールドに低確率で出現するレアモンスターだ。シロみたいな白い草原ウルフよりもさらに稀少。噂では、一日に一回、こっそりと出てきて、そしてすぐに消えてしまう、なんてことも言われてる。
見られただけでも運がいい、と思ったけど。
「シロ。もしかしてシロって、あの小さいウルフを見つけられるの?」
シロがこちらを見る。何を今更、みたいな顔、の気がする。そういうことなんだろうなあ……。
「かわいい!」
れんちゃんが真っ直ぐに駆けだしていった。
「あ、れんちゃん、その子は……!」
あの子が稀少と言われる理由は、出現頻度もそうだけど、何よりもその逃げ足にある。プレイヤーを見つけると、あっという間に逃げ出して見えなくなってしまうのだ。高レベルのAGI極振りプレイヤーですら追えないほどの速さで。だから、こうして、見守ることしか……。
「あれ?」
驚いたことに、小さいウルフは逃げなかった。なんとれんちゃんは無事にたどり着いて、小さいウルフを撫で始めている。
「うわあ……。ふわふわもこもこ……」
「お、おお……」
どうしよう。すごく気になる。すごく! 気になる! でも私が行くと、今度こそ逃げられちゃいそう! いいなあれんちゃん! 私も撫でたい!
結構な時間、れんちゃんはその子をもふもふしていたけど、思い出したみたいにエサを上げた。うんうん。せっかくのチャンスなんだから、ちゃんとチャレンジしないとね。さすがに一個じゃ無理だろうけど、あの様子なら何回かチャンスが……。
うん。うん。なんで一回で成功してるの? なんで嬉しそうにれんちゃんの足下を走り回ってるの? え、いや、え? はい? なんで?
つんつん、とシロが足をつついてくる。そちらを見やれば、シロは何やってるんだお前、みたいな顔をして、れんちゃんの方へと歩いて行ってしまった。なんだろう、とても、負けた気がする。シロに負けた気がする! 悔しい!
シロに続いてれんちゃんの元へと向かえば、れんちゃんは小さいウルフを腕に抱えてもふもふしていた。なんだこれ。かわいい。かわいいとかわいいがまざりあって最強だ。
改めて見ると、本当にこのウルフは小さい。子犬程度の大きさしかない。本当に子供だったりするのかな。
「れんちゃん、テイムできた?」
「うん。えっと、ともだちになれました、て出てきたよ」
「その表示もれんちゃん専用なんだね……」
ちなみに普通は、テイムに成功しました、だ。すごく特別扱いされてないかなこの子。
「ステータス見せてもらってもいい?」
「えっと……。こう、かな」
れんちゃんが表示してくれたステータスを後ろから見てみる。
このウルフは、ラッキーウルフ、というらしい。そのまんまかい。
種族の説明には、草原ウルフの上位種、白いウルフに守られているウルフのお姫様、とあった。戦闘能力は高くないけど、連れて歩けばいろいろな恩恵があるらしい。
説明文を読み上げてあげれば、へえ、と気のない返事。そっちには興味がないらしい。れんちゃんらしい。
「れんちゃん。名前を考えてあげないと」
「名前!」
ふわふわもこもこウルフを抱いていたれんちゃんがむむ、と唸る。いい名前をつけてあげてね。
「らっきー!」
「まって。いやほんとに待って。え、え? それでいいの?」
首を傾げるれんちゃん。その仕草もかわいいね! でもね、本当にそれでいいの!?
ラッキーって、そのまんますぎるよ! それに確かに犬の名前にラッキーって使われる時もあるけど、その子、狼だからね!?
「おねえちゃん、登録されたよ!」
「う、うん……。そっか。いや、れんちゃんがそれでいいなら、いいんだけどね?」
なんとも色々と言いたくなるけど、れんちゃんがいいなら、いいか。うん。
「えへへ。らっきー」
「わふん」
ぺろぺろれんちゃんのほっぺたをなめるラッキー。あざとい。実にあざとい。狼じゃなくて犬だね、間違い無い。
ところで。そう、ところで、だ。私はね、とっても嫌な予感がしているわけですよ。
ラッキーウルフの説明文には、ウルフのお姫様とあった。それはつまりさ、親がいるってことじゃないかな。王様みたいなのがいるってことじゃないかな!? そして私は残念ながらそれに心当たりがあるんだよね!
ずしん、と地面が揺れる。まあくるよね、と振り返れば、大きな大きなウルフさん。他のウルフの五倍ぐらいの大きさ。でかい。このフィールドのボスモンスターだ。
娘さんを取り返しにきたのかな。そうなんだろうな。そうとしか思えない登場の仕方だったよね。
まあ、倒せるのは倒せる。危なげなく倒せる自信がある。フィールドボスといっても、最初のフィールドだしね。今更後れを取るとは思わない。
でもなあ……。れんちゃんの前で、ゲームのモンスターとはいえ、生き物を殺したくないなあ……。
「おねえちゃんおねえちゃん!」
「んー? お姉ちゃんは修羅場を乗り切る方法を考えるのに忙しいけど、どうしたの?」
「友達増えた!」
は? とまた振り返れば、草原ウルフが三匹ほど取り囲んでれんちゃんをぺろぺろしていた。なんだこれ。しかも全部テイムしたみたいだし。
「あ」
お、れんちゃんがボスに気が付いた。
「おっきないぬ!」
やめてあげて! 犬扱いにボスですら一瞬動き止まったから! モンスターにもAIが積まれてるかも、とは聞いたことあるけど、真実味が増すね。こんな気づき方はしたくなかったけど。
そしてれんちゃんは恐れることなくボスに向かっていった。すごいよれんちゃん。怖い物知らずだね。
まあ、ノンアクティブだから問題はないんだけどね。ぺたぺたボスを触って、ふわあ、なんて間延びした声を上げてる。ぺたぺた、というか、もふもふ、というか。いいなあ、柔らかそう。
ボスもまた白いウルフで、じっとれんちゃんのことを見つめていた。顔を近づけて、ふんふん臭いを嗅いでいる。
「あ、そうだ! あなたも食べる?」
れんちゃんが、エサを差し出して。ボスが、ぱくりと食べて……。
「えー……」
ボスのテイムに成功するとか、どういうことなの……。
ボスのテイムは、テイマーたちがずっと試してきたことだ。眠らせてみたり、ぎりぎりまで体力を減らしてみたりして、どうにかテイムしようとみんなが躍起になっていた。
けれど、誰一人として成功することはなかった。確率が低いだけなら、いつかは誰かが成功するだろうに、ただの一人も成功しなかったのだ。
出された結論は、ボスモンスターはテイムできない、というもの。私もそれを疑ってなかったんだけど……。
「えへへー。ディアももふもふだあ」
ボスの背中にのって、全身でもふもふを堪能するれんちゃん。現実逃避したくなる。
そのれんちゃんの頭の上には、小さいウルフのラッキー。なんか、すごい光景を見てる気がする。
ちなみにボスはディアと名付けられました。かっこいい名前だね。うん。
他の草原ウルフについては、名付けはなし。何か名前をつけようとしたけど、私が止めた。
テイムには二種類ある。名付けをするかどうか、だけど、この差が大きい。
名付けをした場合は、どこにいても名付けをした子を呼び出せる。ただしこれには上限があって、一人につき五匹までだ。取り消しもできるけど、れんちゃんがそれをするとは思えない。この先に他の出会いもあるかもだし、草原ウルフの名付けは止めさせてもらった。
名付けをしない場合は、フィールドに来るたびにテイムした子たちが駆け寄ってくる。これは何匹でもできるけど、来てくれるのは毎回ランダムで五匹まで。もふもふするなり一緒に戦うなりは人次第だね。
この辺りのシステムは後日のアップデートで変更が入るかもしれないけど。
「それにしても……」
まだ一時間程度だというのに、なんでこんな怒濤の勢いでやらかしてるのかな。誰かに迷惑かけるようなことじゃないからいいけどね。いいけどさあ!
「ごろごろー」
ああ、大きな犬の上でごろごろ転がるれんちゃんがかわいい……。なんか、考えるのが面倒になる。いいなあ、私もごろごろしたい。
「シロでごろごろとか……。どう考えても無理か」
うん。変なこと言ったのは分かってる。何言ってんだこいつ、みたいな冷たい視線はやめるんだ。
草原の隅っこで、ウルフたちと戯れるれんちゃんをのんびり眺める。なんだかこう、幸せな気持ちになる。と思っていたら、れんちゃんがディアの背中から下りてきた。草原ウルフが集まってきた。何も知らない人が見たら初心者さんが襲われてるように見えるのかな。
「わ、わ、わ……!」
ウルフたちにもみくちゃにされてる。ほっぺた舐められまくってる。見ていてちょっと面白い。
ウルフたちはひとしきり舐めると満足したのか、離れていく。一定距離まで離れて、丸くなった。あれは、もしかしてれんちゃんを守る布陣なのかな。
「おねえちゃーん!」
おっと、呼ばれたので行きますか。
シロを連れて、れんちゃんの元へ。れんちゃんはとことこ走ってきて私に抱きついてきた。ぎゅっと抱きしめておく。
「わぷ……。おねえちゃん、苦しいよ?」
「寂しかったもので」
「えー」
嘘ではないけど、まあ見ているだけでも十分でした。こっそり視覚撮影でスクリーンショットもたくさん残した。ほくほくですよ私は。
「それで、どうしたのれんちゃん。もういいの?」
「んー……。この後は何するのかなって」
「特に予定はないよ。街を案内しようかなと思ったけど、れんちゃんはこの子たちと遊びたいんでしょ?」
「うん!」
「それなら、街は明日にしよう。今日はたっぷり遊んでおいで」
背中を押してあげると、れんちゃんは嬉しそうにディアの元へと駆けていった。あんなに楽しそうなれんちゃんを見るのは久しぶりだ。
ディア、ラッキーと遊び始めるれんちゃんを眺めながら、私はシロをもふもふした。寂しいわけじゃない。ないったら、ない。