テイマー姉妹のもふもふ配信   作:龍翠

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壁|w・)れんちゃん視点です。


キャラ作成

 

 

 佳蓮は暗い部屋で、じっと時計を見ていました。もう何度も読んでほとんど記憶してしまった、大好きなお姉ちゃんからのお手紙を改めて読みます。

 お姉ちゃんは、よく分からない佳蓮の病気を怖がらなかった数少ない人です。原因が分からない病気なのでみんなが、それこそ一部の看護師さんも佳蓮を避けるのですが、お姉ちゃんはためらうような素振りも見せず、佳蓮のことを抱きしめてくれました。

 

 だから、佳蓮はお姉ちゃんが大好きです。忙しいのに毎日顔を見せてくれて、いろいろとお話ししてくれるお姉ちゃんが大好きなのです。

 そのお姉ちゃんがプレゼントしてくれたゲームは、動物が大好きな佳蓮の興味を惹くのに十分なものでした。動物と友達になれるなんて、とっても素敵です。

 わくわくしながら待っていると、佳蓮の病室にお医者さんのお兄さんが入ってきました。

 

「やあ、佳蓮ちゃん。待たせたね」

「んーん」

 

 首を振る佳蓮に、お兄さんは優しく笑ってくれます。

 お兄さんは部屋の隅にある機械を、ごろごろと足が回る台にのせて持ってきました。その機械は、佳蓮が使っているVRマシンです。大きな、けれど特殊な素材でとっても軽いヘルメットを佳蓮の頭にかぶせます。

 お兄さんもヘルメットをかぶりました。初期設定までは一緒にやってくれるそうです。

 

「それじゃあ、始めるよ」

「うん!」

 

 お兄さんがヘルメットの顎のところにあるボタンを押すと、音声が流れてきました。

 

『十秒後にログインします』

 

 ベッドに横になって、目を閉じます。するときっかり十秒後に、不思議な浮遊感を感じて、次に目を開けると夜の草原にいました。

 

「ちゃんとログインできたね」

 

 その声に振り返ると、にこにこ笑っているお兄さん。

 

「ほら、れんちゃん。前を向いて」

「前?」

 

 言われて、もう一度振り返ります。目の前にきれいなお姉さんがいました。

 

「初めまして。アナザーワールドオンラインへようこそ、大島佳蓮様」

「え、あ、あの、初めまして!」

 

 挨拶は元気よく! 佳蓮が大きな声で言うと、お姉さんは微笑んでくれました。

 

「うん。改めて……。私はゲームマスターの山下よ。運営の人で分かる?」

「分かる!」

「ふふ、いい子ね。本来はAIでの自動案内なんだけど、佳蓮ちゃんは特殊な事情なので私が手伝ってあげるね」

 

 山下さんはそう言って佳蓮を撫でてくれます。むむむ、この撫でられ心地はお姉ちゃんに匹敵するかもしれません。強敵です。

 

「まずは、ゲームで使う名前を決めるね。どんな名前がいいかな?」

「名前? 佳蓮だよ?」

「ふふ……。そうじゃなくて、ゲームで使うあだ名みたいなものよ。ゲーム中は本名は使っちゃだめなの。分かる?」

「分かる!」

 

 つまりあだ名を自分で考えてほしいということでしょう。あだ名を自分で考えるのって普通なのでしょうか。ちょっぴり恥ずかしいです。

 

「じゃあ、れん、で!」

「え? あ、ええっと……。本当のあだ名ということじゃなくて……。うーん……」

 

 山下さんが困ったように佳蓮の後ろを見ます。多分、お兄さんの方を。佳蓮も振り返ると、お兄さんは苦笑して頷きました。

 

「問題はないでしょう。そのまま進めてあげてください」

「畏まりました。それじゃあ、佳蓮ちゃん。ゲーム中は、れん、と名乗ってね?」

「はい!」

 

 ぽん、と佳蓮の目の前に、黒い四角形が出てきました。なまえ、と書かれていて、その横にはれんと書かれています。これがステータス、というものなのでしょう。ちょっと感動です。

 

「では次に、ステータスの割り振りです。Str、とか言っても分からないかしら……。れんちゃんは何の能力を上げたいのかな?」

「んっと……。お姉ちゃんにお勧めを聞いてるの」

「そうなの?」

「うん! えっとね、直接戦うことはあまりないはずだから、移動しやすいように……あれ? なんだっけ」

 

 何を上げるのか確かに書いていたし覚えていたはずなのですが、忘れてしまいました。横文字、ということは分かるのですけど。

 

「えっと……えっと……。あじ、あじ……あじり!」

「惜しい! AGI、アジリティね。他に希望は? なければ、他は万遍なくしておくけれど」

「じゃあ、はい。それで」

 

 難しいことはよく分からないのでお任せです。山下さんは頷くと、手元で何かしています。見えないキーボードでもあるのでしょうか。すぐに、佳蓮のステータスが追加されました。

 

 ちから:5、ぼうぎょ:5、たいりょく:5、きよう:5、はやさ:35、まほう:5。

 

「ステータスは一度だけ無料でリセットできるから、変更したい時はよく考えてね。もしもその後も変更したくなったら、課金アイテムになっちゃうから、お姉ちゃんに相談するように。大丈夫?」

「うん、だいじょうぶ!」

 

 お金がかかることはしたくないので、多分このままになるでしょう。

 

「次は、スキルです。初期スキルの中から三つまで自由に習得できるよ。ここで習得しなくても、ゲーム内でも条件を満たせばいつでも習得できるから、気楽に考えてもいいけど……。希望はある?」

 

 山下さんに聞かれて、佳蓮はお姉ちゃんからお手紙を思い出します。ええっと、確か……。

 

「テイムと、調合と、片手剣!」

 

 テイムはとても大事です。これが一番大事です。動物と友達になれるとっても素敵なスキルです。

 調合は、材料さえあればなんと動物のご飯を作れるそうです。ご飯を作って、手にのせて、食べてもらう……。想像しただけでとても楽しみです。

 片手剣は自衛手段らしいです。お姉ちゃんが片手剣を使っているそうで、お姉ちゃんが使っていた剣を譲ってくれるとのことでした。

 それらも山下さんに説明すると、山下さんはなるほどと少し考えて、

 

「そうね……。少しだけ、アドバイスしてもいいかな?」

「はい!」

 

 これはお姉ちゃんにも言われていたことです。もしかしたらスキルについてはお勧めを教えてもらえるかも、と。その時はちゃんと自分でよく考えるように言われています。

 

「片手剣スキルじゃなくて、騎乗スキルにしましょう。きっとれんちゃんも気に入るよ」

「んー? でも、モンスターさんに襲われることもあるんだよね?」

 

 佳蓮は戦いなんてしたくありませんが、襲われたら逃げるためにも少しは必要だと思います。そう言うと、山下さんは考えるように少しだけ視線を彷徨わせました。

 

「ちょっと待ってね……」

 

 山下さんの動きが止まります。どうしたのでしょう。

 

「多分、一時的にログアウトして上司か誰かに何かを聞いているんだろうね」

 

 お兄さんがそう教えてくれました。なるほどです。

 すぐに山下さんは戻ってきたみたいで、こほんと咳払いをしました。

 

「れんちゃん。あまり一プレイヤーに肩入れ、えこひいきはしちゃだめなんだけど、れんちゃんにはきっと必要な知識だから特別に教えてあげる」

 

 はて。何でしょう。

 

「このゲームに限らず、ほとんどのゲームのMMOにはノンアクティブモンスターとアクティブモンスターがいるの。ノンアクティブがプレイヤーが近くにいても襲ってこなくて、アクティブが襲ってくるモンスターね。分かる?」

「うん。大丈夫」

「うん。それでね、このゲームのアクティブモンスターは、ちょっと特殊なシステムになっているのよ」

「特殊?」

「そう。このゲームのアクティブモンスターは、プレイヤーの敵意に反応して攻撃してくるの。つまり、敵意さえ向けなければ、襲われることはないの」

 

 なんと。それはびっくりです。つまり、

 

「近づいてもふもふするだけなら大丈夫!?」

「そう。大丈夫。あと、PVPシステムもれんちゃんは小学生だから、オフにされてるよ。プレイヤーに襲われることは、どこにいてもあり得ない。だから、れんちゃんに片手剣スキルは必要ないと思うな」

 

 そういう理由なら片手剣はいらないでしょう。佳蓮も戦いたくはないのです。自衛がいらないのなら、ひたすら動物をもふもふなでなでするスキルがいいです。

 

「じゃあ、それで!」

「はい。じゃあ、それで設定しておくね」

 

 ステータス画面がさらに追加されました。

 

「次は、容姿だけど……。身長や体格とかは、リアルとの誤差を最小限にするために変えられないの。顔の輪郭とかならある程度変更できるけど、どうする?」

「りんかく?」

「ああ……。形ね。顔の形。あとは、目や髪の毛の色も変えられるわ。希望はある?」

「そのままで!」

 

 姿を変えるつもりはありません。だって、それをすると、お姉ちゃんが気付いてくれないかもしれないのです。お姉ちゃんに気付いてもらえなかったら、とっても寂しくて、多分ゲームなんてやめちゃいます。

 山下さんは頷いて、そのまま進めてくれました。

 

「最後に、最初に転移できる街を三つから選べるわ。街の名前は……知ってる?」

「知らないです!」

「ふふ。正直なのはいいことね。それじゃあ、特徴だけ……」

「あ、あの、お姉ちゃんが、ファトスって街で待ってるの!」

「あ、そうなんだ。それなら、ファトス開始にしておくね。……これで、よし」

 

 どうやら終わりのようです。なんだかちょっぴり長く感じました。

 でも、これで、いよいよお姉ちゃんと会えて、動物と友達になれる! そう考えると、とても、とっても、わくわくします!

 

「それじゃあ、れんちゃん。僕はここでお別れだから。お姉ちゃんと会ったら、いっぱい楽しんでくるんだよ」

 

 お兄さんがそう言ってくれたので、れんちゃんはしっかりと頷きます。お兄さんは満足そうに笑って頷くと、消えてしまいました。

 

「それでは、れんちゃん。楽しいファンタジーライフを!」

 

 そう言って、山下さんが手を叩きます。すると、佳蓮の体がゆっくりと浮き上がりました。

 

「れんちゃん! 最後に、お姉さんから、個人的なアドバイス!」

「んー?」

「このゲームのモンスターは、どんなモンスターでもテイムできるから! 友達になれるから! たくさんのモンスターと出会ってみてね! 友達になりたいっていう気持ちのテイムなら、敵意判定は受けないから!」

 

 その後も何かを言っていたようでしたが、残念ながら山下さんの姿は見えなくなってしまい、声も途切れてしまったのでした。

 

 


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