暗いいつもの病室で、佳蓮はゲームの準備をしてもらっています。未だ昼過ぎ、つまりは二回目のフルダイブで、本来なら勉強の時間なのですが、今日は日曜日です。いつも勉強を教えてくれる先生はお休みなので、午前はお休みすることを条件にお昼もゲームをさせてもらうことになりました。
それを昨日お姉ちゃんに伝えたのですが、すでに友達と約束してしまっていたらしく、とても後悔していました。友達の約束を断ろうか、なんて言っていたのでさすがにお説教しました。ちゃんと友達は大事にしないといけないのです。
そんなわけで、お昼は一人でログインすることになりました。
いつもの自分のホームに降り立ったれんは、とりあえずラッキーとディア、それに猫たちと遊びました。みんなのブラッシングをして、ごろごろもふもふして。しっかりと満喫してから、れんは思います。
いたずら、してみようかな、と。
れんも子供です。たまにはこんないたずら心も出ちゃうのです。
そんなわけで。れんはうんうん唸りながらメニューを眺めます。
おねえちゃんが教えてくれたことがあります。配信で使っているアカウントはれんと共有していて、れんでも使えるのだと。ただ、あくまでそういうものだという説明をされただけなので、使い方は分かりません。
うんうん唸って唸り続けて、これかな、というものを見つけました。はいしん、というそのままのメニュー。それをタッチすると、またずらっといろんなものが出てきたので、とりあえずそれっぽいものを押してみました。はじめる、を。
すると、何かを書き込む枠が出てきました。これはきっと配信のタイトルのことでしょう。
「えっと……。れん、と」
ですが残念ながられんはそもそもとして、配信にタイトルが付けられていることすら知りません。れんはこれが自分の名前の入力欄だと勘違いしてしまいました。
そして、そのまま始めました。
唐突に出てきた光球と黒い板のようなものにれんは驚きましたが、よくお姉ちゃんが使っているものだと気が付いて一安心です。少しすると、コメントが流れてきました。
『なんだこの放送』
『配信者はミレイの名前だけど……』
「あ、あの、こんにちは」
『れんちゃん!?』
『え、え、一人!?』
『ミレイはどうしたの?』
なんだか皆さんとても慌てているみたいです。不思議ですね。
「えと。今日はわたし一人、です。日曜日なので友達と出かけてます」
『れんちゃん残して遊びに行くなんて』
『いやそう言ってやるなよ。ミレイにも同年代の付き合いがあるだろ』
「うん。わたしが今日はお昼も遊べるって知ったら、お友達にごめんなさいしようとしたから、友達を大事にしなさいってめってした」
『怒ったのかw』
『小学生に怒られる高校生』
『れんちゃんえらい!』
そんなに怒ってはいないですけど、なんだかちょっぴり勘違いされてるような気もします。けれど、他に言い方も分からないので、このままにしておくことにします。間違ってはいないですし。
「それでね。今日はわたし一人です」
『れんちゃんもミレイの妹なんだなあ』
『行動力あるよね』
「こーどーりょく?」
『舌っ足らずかわいい』
なんだか微妙にばかにされた気がします。れんがむう、と頬を膨らませると、多分さっきの人が謝ってきました。れんは心が広いので許してあげます。
「今日は、おねえちゃんにいたずらしようと思います」
『れんちゃん!?』
『急にどうしたれんちゃんwww』
『まさかのいたずら配信w』
『何するの?』
「今から新しいお友達をここに連れてきて、おねえちゃんをびっくりさせます!」
『かわいい』
『かわいらしいいたずらだなあw』
『そういういたずらならいいと思う。応援する』
「ありがとうコメントさん!」
『うん。うん。あれ? 俺らって人として認識されてない?』
『俺らの本体はコメントだった……?』
『私は人……コメント……私とは一体……?』
『お前ら落ち着けwww』
なんだか変なことになっていますが、とりあえずコメントさんたちの賛成は得られたので出発することにしましょう。目的地も、次に仲良くなりたい子ももう決まっています。
「コメントさんたちがいいって言ってくれたから、がんばる」
ふんす、と気合いを入れるれんは、流れるコメントに気が付きません。
『あれ? これってもしかしなくても、共犯にされたっぽい……?』
『お。そうだな。嫌なら帰って、どうぞ』
『ふざけんな。今回神回確定だろ。馬鹿野郎俺は見届けるぞ!』
『ミレイの反応が楽しみすぎるwww』
さてさて、出発です。まず最初に向かうのはセカンです。
このフィールドはいつでも来れるれんのホームです。ここから出るにはメニューを開いて、ファトスに移動をタッチします。すると次の瞬間には、ファトスの転移石の目の前です。
この転移石から、次はセカンに移動。サズも気になりますが、そこに行くとさすがにお姉ちゃんに怒られるような気がします。
セカンについたら、先日お姉ちゃんと一緒に行った草原へ。そこにれんの目的地があるのです。
『れんちゃんれんちゃん。そろそろどこに行くか教えてほしいなって』
そんなコメントが流れてきました。そう言えばまだ言っていませんでした。
「この近くにあるダンジョンだよ。トラとかライオンがいっぱいいるんだって」
『待って』
『それアカンやつ』
『れんちゃんだめだ考え直せ!』
なんだかコメントさんたちが必死です。どうしたのでしょうか。
「むう? よくわかんないけど、だいじょうぶだよ?」
『大丈夫じゃないからあ! 行っちゃだめだあ!』
「……?」
どうしてそこまで言うのでしょう。れんには分かりません。
そしてもう、ダンジョンは目の前です。れんの目の前には、地面にぽっかりと空いた大きな穴があります。ここに飛び込むとダンジョン内部だそうです。
ちなみに、気付かずに転げ落ちた人のために、落ちた先には脱出の魔法陣があるようです。親切ですね。まず穴にするなよとよく言われているらしいですけど。
「行ってきます!」
『ああ! 本当に行っちゃったああ!』
『おいこれ俺らも間違い無くミレイに怒られるぞ!』
『甘んじて怒られよう……。せめて見守ろう……』
穴はとても深かったのですが、不思議な力で落ちるのはゆっくりでした。そのまま地面に着地して、周囲を見回してみます。
薄暗い、いかにもな洞窟です。ゲームやアニメに出てきそう。
「王道? な洞窟! わくわくするね!」
『わかる』
『すっげえリアルだから余計にな』
『冒険してるって気がする』
「うんうん!」
ぴちょん、ぴちょんとどこかで落ちる水の音が雰囲気を際立たせています。本当に、天然の洞窟に来ているかのようです。
「でも、ここにいるのってライオンとトラだよね? こんな洞窟に……?」
『それ以上はアカン』
『そこまでリアルさを求めるとほとんどのゲームは成り立たなくなるからな』
『多分住んでる一部が定期的に狩りに出てるんだよ』
「ふうん……。そうなんだ」
とりあえずれんは、頭にのってすぴすぴ寝ているラッキーを軽く叩いて起こします。ラッキーはすぐに欠伸をして起きてくれました。きょとん、と首を傾げるラッキーを腕に抱きます。
「ラッキー、どっちに行けばいいかな?」
洞窟は道のど真ん中から始まりました。前にも後ろにも道があります。ラッキーはくんくんと鼻を動かすと、目の前に向かってわん、と吠えました。
「ありがとう」
たくさん買って貰ったエサをラッキーに与えます。ラッキーは嬉しそうにぱくりと食べました。
『へえ。小さいウルフにはそんな能力があるのか』
『ますます欲しい……』
『やめとけ。れんちゃんを知った連中が試そうとしたけど、相変わらずすぐ逃げられて何もできなかったらしいぞ』
「そうなの? 大人しい子なのに」
ラッキーを撫でながら進みます。途中の分かれ道も、ラッキーに教えてもらって、迷わず進みます。はずれの道も気になりますが、今は後回しです。
やがて大きな部屋にたどり着きました。そこにいたのは、
「ライオンさんだ!」
部屋の中央に堂々たるたたずまいの、たてがみが立派な雄ライオン。それを守るような布陣の雌ライオン。そのさらに周囲に座るトラたち。
「トラさんっていつからライオンさんの部下になっちゃったの?」
『それはあれだよ。ゲーム的な都合ってやつさ』
『気にしちゃだめなやつ』
「そっかー」
ライオンさんたちを見てみます。みんな寛いでいるみたいです。大きな猫みたいでかわいいです。
れんちゃんが部屋に足を一歩踏み入れると、全ての視線がこちらへと向きました。
『ヒェ』
『ゲーム的には大して強くないけど、本能というかなんというか、今でも怖い』
『分かる』
そしてれんは。
「かっこいい!」
そう言って、駆け出しました。
『躊躇なく行ったー!』
『まじかよww』
『さすがに草』
『いやでもやばくないかあいつら全部アクティブだぞ!』
ああ、なるほど、とちょっとだけれんは思いました。だからみんな焦ってくれていたのか、と。普通ならアクティブモンスターは、こちらが何もしていなくても襲ってくるモンスターらしいです。れんのことを心配してくれていたのでしょう。
でも、れんは知っています。山下さんが教えてくれました。敵意がなければ襲われないって。
果たしてトラたちはこちらをじっと見つめるだけで襲ってはきませんでした。
「わあ……。おっきい……」
どことなく警戒されているような気もしますが、一先ず襲われる心配はなさそうです。座っているトラに近づいてみます。トラはこちらをじっと見つめるだけです。
「さ、触ってもいいかな……? 怒るかな?」
『それよりもどうして襲われていないのか、これが分からない』
『お、おう。エサでも上げてみればいいんじゃないか』
「エサ!」
早速エサを取り出して、トラに近づけます。トラは一瞬だけ身を硬くしたようですが、すぐにれんの持つエサに鼻を近づけてひくひく動かしました。
「かわいい……」
『え』
『あ、うん』
『カワイイナー』
どうやら理解してもらえなかったようです。こんなにかわいいのに。
トラはしばらくエサの臭いを嗅いでいましたが、やがてべろんと大きな舌で食べてしまいました。もぐもぐと少しだけ口を動かして、すぐに呑み込んでしまいます。そしておもむろに立ち上がりました。
「おっきい……」
『今度こそやばいのでは!?』
『逃げて! れんちゃん逃げてー!』
そしてトラは、れんのほっぺたをべろんと舐めました。
「うひゃ! び、びっくりした……」
『ええ……』
『懐くの早すぎませんかねえ……』
『れんちゃんのピンチに頭を悩ませていたはずが、いつの間にか肉食獣とのほのぼの動画を見ていたらしい……』
一匹目の後は、どんどんと周りからきました。トラはもちろんのこと、雌ライオンもたくさん寄ってきます。エサはたくさん用意していたので、みんなにせっせと配っていきました。みんな嬉しそうに食べてくれます。そんなに美味しいのかなこれ。
「…………。あむ」
『いきなり何食べてんのれんちゃん!?』
『いや、分かる。どの動物もモンスターも、美味しそうに食べるもんな』
『テイマーはみんな試す。そして後悔する』
「まず……」
何でしょう。この、表現の難しい味は。なんか、すごくすごくねばっこい肉団子でねっちょりしていて、お肉の味なんてせずにむしろ苦みがあってとても不味い。
れんが呆然としている間に、そのかじられたエサを横からトラが食べてしまいました。なんというか、ちょっとだけこの子たちの正気を疑ってしまいます。
『れんちゃんの表情がwww』
『分かる。分かるよれんちゃん。そういうものだと割り切るしかないよ』
『まさか食べる人なんているとは思わなくて適当に味が設定された、気がする』
そうなのでしょうか。そうかもしれません。あまりに不味すぎます。
最後に近づいてきたのは、たてがみりっぱな雄ライオンでした。
「はい、どうぞ」
ぺろん、とそのライオンも食べてしまいます。美味しそうで満足そう。あと、ふわふわそう。
『れんちゃんの視線がライオンに固定されてるんだけど』
『れんちゃんにとってはあれももふもふ枠なのか……?』
『いや、でも、気になるのは分かる』
そっと手を伸ばして、たてがみに触れてみます。すごく、ふわふわ。
「はわあ……」
これは、いい。とてもいいもふもふです。
『れんちゃんの顔が!』
『すっごいとろけてるwww』
『いいなあ、俺も触ってみたい』
もう、幸せです。左手でエサを持ちながら、右手でもふもふ。幸せなのです。
しばらくなでなでさすさすしながらエサを上げ続けていると、ぽろんと何かのメッセージが出てきました。
『友達になれました!』
あ。
「おともだちになれたよ」
『うっそだろ』
『ライオンはテイムの難易度高いはずなんだけど』
『いや、まあ戦いもせずにエサを上げ続けていたら妥当、なのか……?』
難しいことはよく分かりませんが、れんとしてはちゃんとお友達になれたので満足です。ちなみに雌ライオンとトラもテイムしていました。それぞれ二匹ずつです。
「あのね、ライオンさん」
たてがみのライオンに言うと、ライオンはじっとこちらを見つめてきます。とりあえずもふもふ。
『れんちゃんwww』
『なんだろう、ライオンが困惑しているように見えるw』
「もふもふもふもふ……。あ、そうだった! ねえライオンさん。白虎さんってどこにいるの?」
なぜかコメントさんたちが騒ぎ始めました。何しようとしてるの、危ないから、とか色々言われていますが、れんの目的は最初から白虎と遊ぶことです。
ライオンはこちらをまじまじと見つめ、やがてその場にぺたんと座りました。そしてこちらをまた見つめてきます。乗れ、ということでしょうか。
「乗っていいの?」
こくん、とライオンが頷きます。れんは破顔してライオンにまたがりました。ライオンがちょっと大きすぎて、他の雌ライオンやトラに手伝ってもらったのは内緒です。
『なんだこのほのぼの』
『乗りたくても乗れなくてしょぼんとするれんちゃんを他のライオンやトラが手伝って乗せてあげる。いい』
『誰に向かっての解説だよw』
ライオンにまたがって、たてがみをもふもふしながら移動開始です。ライオンがのっしのっしと歩いて行きます。それに追随する雌ライオンとトラたち。なんだかちょっぴり楽しくなります。
『鼻歌歌うれんちゃんがかわいい』
『歌上手いな。お歌配信してくれないかな?』
『ミレイに言ってみ。多分通るぞ』
途中何度もライオンたちがいる小部屋に入りましたが、ライオンたちはれんを一瞥するだけでした。みんな思い思いに過ごしています。毛繕いしたり、二匹で遊んでいたり、見ていてちょっと面白いかも。
『いや本当に、どうなってんのこれ』
『こいつらアクティブだよな?』
『なんで襲われないの?』
「んっとね。アクティブモンスターって、敵意があるかどうかで判定してるんだって。それがなかったら襲われないらしいよ」
『え、なにそれ』
『初めて聞いた』
『誰から聞いたんだそれ』
「げーむますたーの山下さん」
運営の情報かよ、とコメントさんたちはまた大騒ぎです。これって言ったらまずかったのかな? 少しだけ思いましたが、まあいいかと流します。きっと大丈夫。
『街の移動でアクティブモンスターに襲われないのはそれが理由か』
『確かに移動に敵意も何もないな』
『いや、でもそれでもれんちゃんはおかしくないか? テイムしたいは敵意だろ』
『多分、最初は敵意判定で警戒されたんだろ。それなのに実際にライオンを見たれんちゃんの反応がかっこいいかわいいだぞ? モンスも困惑するわ』
『長文乙。なんとなく納得した』
「だってかっこいいもんねー。もふもふもかわいいよね!」
たてがみをもふもふしつつぎゅっと抱きしめます。がう、と返事がありました。なんてかわいいのでしょう。もっともふもふしちゃいます。もふもふもふもふ。
『主目的が忘れられてる気がするのは俺だけか』
『奇遇だな、俺もだ』
『でも! それがいい!』
のんびりライオンの背中に揺られること、十分ほど。なんだか大きな部屋にたどり着きました。その部屋の中央に、とっても大きな白いトラがいます。白いトラ、白虎はれんを見つめて小さく首を傾げていました。
『ついに来たぞ』
『いつ見てもでけえ』
『さあ、れんちゃんの反応は……』
白虎の大きさはディアぐらいでしょうか。つまり今更この程度の大きさで特に驚くこともなく、つまり残るのは白くてかっこいいトラさんという要素。
「かっこいい!」
つまりもふる対象なのだ!
ぴょん、とライオンから飛び降りて、白虎の方へと走りました。
『行ったー!』
『一切の躊躇なし! ぶれねえな!』
『さすがやでれんちゃん!』
白虎に近づきます。白虎は困惑しているようでしたが、れんが触るのを嫌がりませんでした。そっと、その大きな足に触ってみます。
「さらさらしてる」
『へえ』
白虎が顔を近づけてきました。とっても大きなお顔です。鼻を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めました。かわいい。
「わあ! かわいい!」
『おまかわ』
『大きすぎてちびりそうになるけど、こうして見るとかわいいかも』
『ウルフのボスと並び立つ初心者キラーなのに、こうして見ると本当にかわええ』
鼻の頭をかりかり、喉あたりもかりかり。とても気持ち良さそうにしてくれているのが分かって、れんも楽しくなってきます。ずっとこうしていたいです。
『れんちゃん、エサもあげなよ。食べてくれるよ』
「あ、そうだね!」
れんにとってはとても不味いエサですが、この子たちにとっては美味しいらしいです。手にとって差し出してみると、ぺろっと食べてしまいました。うん。美味しそう。
「もっと食べる?」
エサを取り出してみると、またぱくりと食べました。もぐもぐと、味わっているみたいです。
ライオンたちにも渡すと、こちらもまた食べました。
「よく食べる子はよく育つんだって。たくさん食べてね」
『いやれんちゃん、その子らは所詮データだから……』
『やめろよ。楽しそうなんだから、野暮なこと言うなよ』
『そうだよ。空気読んで』
『あ、はい。すみませんでした』
喧嘩はよくないと思います。
白虎たちにエサをあげていたら、れんもお腹が空いてきました。そこで取り出したのは、お弁当箱です。なんとこちら、お姉ちゃんにもらったものなのです。
『なにそれ』
「お弁当! 昨日、おねえちゃんが作ってくれたの」
昨日、明日のためにとゲーム内で食べられるお弁当を作ってくれていました。綺麗なお花畑がある場所も教えてもらっています。安全な場所なのでピクニックにでも行っておいで、ということだったのでしょう。
「だから今日のこれはピクニックなの」
『ピクニック(ダンジョン)』
『ピクニック(ウィズ肉食獣)』
「おこるよ?」
『ごめんなさい』
『許して』
「仕方ないなあ」
にこにこお話ししながら、お弁当の蓋を開けます。中は塩味をしっかり効かせたおにぎりと、唐揚げやサンドイッチなど。れんの大好物です。
『おいしそう』
『ミレイのスキル構成が謎すぎる。料理までできるのかよ……』
ぱくりとおにぎりを食べます。美味しい、幸せなお味。
『なんだこのかわいい生き物』
『ふにゃふにゃれんちゃん』
『いい。すごくいい』
もぐもぐ食べていると、白虎がれんのお弁当を見つめていました。食べたいのでしょうか。
一応、トラは肉食らしいです。なので唐揚げを差し出してあげると、ぺろんと食べてしまいました。ちょっと残念と思わなくもありませんが、美味しそうに食べてくれたので良しとしましょう。
『お友達になりました』
「あ」
『ん? どした?』
「おともだちになったよ」
『草』
『はやすぎぃ!』
『仮にもボスなのにwww』
理由は分かりません。少し不思議です。けれど、友達になれた事実は変わりないので、れんとしては満足です。このまま一緒に連れて帰っちゃいましょう。
「一緒に来てもらえる?」
れんが聞くと、白虎は頷いてくれたのでした。