Betrayal Squadron   作:胡金音

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※オリジナル艦娘・・・どころか史実に計画すらない艦娘が名前だけですがちらっと出てきます。え、やだ。って方はご注意を。

※また、作中に出てくるどこかで聞いたことあるような地名は、似たような名前の国があるような位置関係の架空の地名、国名です。この作品に登場する国家、団体、人物は実在のそれらに何の関係もありません。・・・位置関係以外は。



九話 三つ巴

 「鳳翔さん、間宮さんから私信を預かってきましたよ」

番兵に場所を尋ね、特製の背嚢に入れた艤装を整備部に預けた伊勢は鳳翔を訪ねて寮に来た。

「あら、伊勢さん。こちらにいらっしゃる艦娘とは伊勢さんだったのね」

「お久し振りです」

「どうぞ、何も無いけどゆっくりして行って」

「ありがとうございます。でも、ここの司令さんにまだ挨拶していないから・・・」

そう言って伊勢は部屋を出た。鳳翔は伊勢に渡された封筒を開く。中には厚い和紙に書かれた古くからの友人に近況を尋ねる文章が綺麗に整った文字で綴られていた。鳳翔はその文章をじっくりと2度読んで立ち上がった。

「さて、少し勿体無いけれど・・・」

 鳳翔は机の引き出しから小刀を取り出し、部屋に鍵を掛けると和紙の端に切り込みを入れて2枚に剥いでいく。厚い和紙は2枚の和紙になった。鳳翔は一旦その和紙を置いて部屋の隅にある洗面台に薄く水を張った。そして軽くかき混ぜながらインクを垂らして洗面台の栓が見えなくなる直前で準備を終えた。文が書かれていない方の和紙をそれに浸すと、片面に多少読みづらい濃さではあるものの文字が浮かび上がった。

 

 

 妖艶な色の灯りが座敷を薄暗く照らし、畳の上に並べられた膳台と将校を取り巻く和服姿の女性達の影を浮かばせている。

「将校さん。お替りは如何ですか?」

酒瓶を両手で持った女性が先ほどから上機嫌で酒を飲んでいた中年将校に声をかけた。

「おぅ、気が利くじゃねえか!」

将校は意味も無く大声で答えると徳利を突き出した。女性はそれに清酒を注いでいく。

「ん? 」

酒を注ぐ女性の胸元に目をやった将校が何かに気付き不意に声をかけた。

「あんた、たしか昨日もここで・・・」

「まあ!覚えていてくださったんですか!?嬉しい!」

女性は徳利の八分目まで注ぐと酒瓶を起こして大仰に喜んで見せた。

「おめぇも一緒に飲め、ほら」

将校は女性の肩を抱いて強引に隣に座らせ、杯を握らせた。

「まだ若くてこんな別嬪さんなのに酒保で働いてるなんてえれぇじゃねぇか。今晩どうだ?出世できるように掛け合ってやる」

「嫌ですわ、私なんて将校さんには吊り合いませんよ」

明け透けな将校の誘いを女性はやんわりと断る。

「そんな事ねぇ、こんなに綺麗な女はそういねぇさ。飲め飲め」

「では一杯だけ頂きます」

そう言って女性は杯に口を付けた。

 「さて、返事を聞かせてくれるかな?」

女性が杯の半分ほどまで酒を飲み終え、将校は女性を口説き始めた。

「よして下さいな」

「いいじゃねぇか」

将校の手が徐々に女性の肩から下に降りて腰まで来たところで女性はやんわりと手を添えて焦らすように止めた。

「もっと将校さんの事、教えて下さいな。お話しているうちに気が変わるかもしれません」

女性は満面の営業スマイルで言った。

 「へぇ、将校さんは艦娘さんの提督さんなんですか」

「おうよ。艦娘ってぇのは水上を駆け回って何百メートルもある軍艦だって沈めてしまう訳だ。俺はその指揮を毎日執ってるのさ」

「すごいですねぇ。きっと艦娘さんの装備もお高いんでしょうねぇ」

「そりゃぁそうよ、一式揃えると豪邸が建つ。寿命もみじけぇしなぁ」

「えっ!?じゃぁ寿命が来てしまったらどうするんです?」

「今の艦娘は年をとらねぇから寿命はねぇよ」

「じゃあ昔はどうしてたんですか?」

「おっと、それは言えねぇなぁ。なんせ機密扱いの内容だ」

「誰にも話しませんから、ね?教えて下さいな」

女性はあぐらをかく将校の膝に手を乗せ、前かがみになって将校を見上げた。

「そこまで言うなら今夜は来てくれるんだな?」

「その秘密、教えてくださるなら・・・」

そう言って女性は髪をかき上げて耳を将校に向けた。薄暗い中でも分かる白さのうなじが顕になった。

「しょうがねぇなぁ」

将校は後頭部を掻き毟って女性の耳に顔を近づけて話す。

「昔、つっても年をとる艦娘は数年前まで造られててな。古くなった艦娘から順に沈めちまうんだ。最近、外交の雲行きも怪しいってんで新型艤装の研究やらで解体にかける時間も金も無いんでな。機密が漏れちゃあ困るから娘達にはわりぃが犠牲になってもらってる。・・・この事は他言無用だぜ」

 そこまで話すと将校は女性の耳に息を吹きかけた。

「ひゃっ・・・!何するんですかぁ、もうっ!ほらもうお仕舞いですか?夜までにもう一杯如何です?」

「おう!いくらでも来い」

女性が将校の持つ杯に酒を注ぎ終えた時、和服の袖が膳台に引っかかった。膳台の上に置いてあった女性の杯が落ちて彼女の和服を濡らす。

「きゃっ。ごめんなさい、軍服に掛かりませんでした?」

「おお、大丈夫だ」

「ちょっと着替えて来ますね」

「そうか。どれ手伝ってやろう」

「後でゆっくり見せて差し上げますからここで待っていて下さいな」

女性は立ち上がろうとした将校の肩を押さえて座らせると座敷を後にした。

 女性が座敷を出て襖から漏れた笑い声が響いている廊下をしばらく行くと割烹着姿の女性を見つけた。

「間宮さん」

先ほどまで将校の相手をしていた女性が呼びかける。

「お疲れ様~。首尾はどう?」

「余裕ですよ。やっぱり間宮さんの仰った通りだったみたいですね。証言が取れました」

「そう。ありがとうね~、また早めに詳しく聞かせてね」

「それといつもの事なんですけど・・・」

「ん~?」

間宮はわざとらしく首を傾げて見せる。

「今晩あの将校と寝る事になったので助けて下さい」

「はいはい。また廊下で偶然会った振りをして引きとめてあげる~」

大真面目な顔で頼まれて間宮は飲み物でも頼まれたかの様に引き受けた。

「お願いしまーす」

廊下を小走りで駆けて行く女性に手をひらひらと振って応える。女性は今度こそ着替えに廊下を曲がって行った。

「さて、どうやって鳳翔に伝えようかしらね・・・」

間宮は建物の出口に向いながら呟いた。

 

 

 鳳翔は寮の自室で一つ溜息を吐いた。傍の座卓には経った今読み終えた間宮からの報告と、当たり障りの無い内容の手紙が置かれていた。

「さて、こういう物は早めにいらない書類と一緒に処分しないと。ついでに基地司令に頼まれていた書類整理も済ませてしまおうかしら」

鳳翔は早速行動に移し、棚に積んでいたいらない書類に報告が書かれた和紙を紛れ込ませた。

 

 

 伊勢が到着した日の翌日、55号大隊基地の食堂の朝はいつもに増して賑やかだった。食堂の壁には臨時の掃除当番表が貼られている。朝礼で連絡された午前訓練を中止して建物の清掃をする旨は午後の司令長官着任に備えてに他ならない。また、長官着任の際は正装に身を包み出迎えなければならない等の暗黙の了解も手伝って、朝礼直後の食堂は込み合っていた。

 そんな中、訓練が無くなり北間大佐の秘書任務があるという事で掃除も免除された加賀は比較的時間に余裕を持って朝食を取っていた。慌しく食事を終えなければならない艦娘や職員の邪魔にならないようにと一番奥の席に座った彼女の向かいには、同じく秘書任務で掃除を免除された赤城が、隣と斜向かいには空いているテーブルを求めて来ていた金沢と北間が箸をとっていた。加賀はいつものように赤城の話しに耳を傾けながら、相槌を打ったり、時折自分の意見を伝える。

 「やっぱり子供は元気が一番よね。あ。話は変わるけど、私達まだここで正装を支給してもらって無いわね」

加賀との会話の話題が一区切りついたところで赤城は言った。艦娘の正装は所属する基地で発注される事になっており、異動があればその先の基地で改めて用意する事になっている。軍の上層部が少しでも本部の経済的負担を減らそうとした結果の取り決めだった。

「そうね。提督・・・私達の正装はいつになったらいただけるのかしら?」

加賀は赤城の話に同意して北間に視線を投げた。

「加賀。当日朝まで確認しに来なかったのにそういう言い方はどうかと思うぞ?」

北間は渋い顔になって言った。

「まあまあ。加賀さんも悪気があってそう言った訳では無いでしょうし、上官に催促もしにくいでしょう。今日まで正装が必要になる出来事が無かったから渡していませんでしたがちゃんと用意してます。後で主計科に行って受け取って下さい。赤城さんも」

「分かりました・・・」

「むっ!むむむひあひ・・・げほっ」

急に名前を呼ばれて赤城は慌てて応えようとしてむせた。

「ふっ・・・無理しなくていいですよ。では僕はこれで。ゆっくり食べて構わないので9時までに執務室に来てください」

「・・・はい」

金沢は食後の挨拶をすると空の食器が載った長角盆を持って立ち去った。

「加賀も9時頃には来てくれ」

「はい」

「じゃ、ごゆっくり」

続いて北間が。2人だけになって赤城が口を開く。

「提督にあんなところ見られた・・・」

「・・・笑われてたわね」

両手で顔を覆う赤城に加賀が追い討ちをかけた。

 

 

 提督2人が一足先に食事を終えて席をたった後。艦娘2人は列が短くなった配膳口にご飯のお代わりを貰いに来ていた。その後ろを空になった食器を返却して睦月達が駆けて行く。

 「こら、食堂で走るな!」

「ごめんなさーい」

彼女達の上官が注意した。一緒に居た士官が何か思い出したように口を開く。

「あ、そうだ。昼の集合はちゃんと正装で来てよー」

「分かってるよ!」

「昨日の夜、赤城さん達も一緒にクローゼットにあるのを確認したから大丈夫です」

「それと・・・」

「正装に着替えるのは昼ご飯の後ですよねー」

「さっきも聞いたし覚えてるって」

口々に返事をしながら食堂を出て寮に向って行った。

 「・・・あの子達は先に正装、貰ってたのかしら?この基地への配属は同じ時期だったはずだけど・・・」

加賀はご飯が盛られた茶碗を受け取りながら疑問を口にした。

「単に私達の提督達が忘れていただけじゃない?」

赤城も同じ様にご飯が盛られた茶碗を受け取りながら応えた。

 

 

 日が南中を過ぎた頃。55号大隊に所属する艦娘、将校、陸戦隊員が練兵場に集まっていた。普段は艦娘と陸戦隊員が一堂に会する事は有り得ない。艦娘所属基地の責任者は風紀の観点から艦娘と陸戦隊員の生活空間を分離させる事が義務付けられている。号令台から見て右端から左に陸戦隊員1000名、左端に艦娘13名、手前に将校が並ぶ。陸戦隊員とその将校は在り来たりなカーキ色の戦闘服、金沢をはじめとした提督はいつもの白い詰襟、艦娘達も正装で揃えて統一感のある隊列を組んでいた。睦月を始め駆逐艦娘の正装は白を基調としたセーラー服で階級章と所属章は襟に、そしてその襟、袖、スカートの裾を金糸で装飾したもので簡単なデザインながら正式な場に挑むのに相応しい形になっている。古鷹ら重巡艦娘と空母、軽空母艦娘は提督とそろいの白の詰襟を基に、提督のそれにはないグレーのラインや所属章が付けられており見分けがつくようになっている。陸戦隊の数名が物珍しげに艦娘を横目で見ていた。

 番兵からの連絡を通信室で待っていた陸戦隊員が本館から金沢の元に駆けて来た。

「長官がお見えになりました」

「ご苦労さまです。所属する隊の列に戻って下さい」

「はっ」

陸戦隊員が列の後方に収まり門の方角からエンジン音が聞こえてきた。

 1台の乗用車が練兵場に来て号令台の傍に停まった。三ツ屋が駆け寄って運転席側の後部座席のドアを開くと壮年でしっかりした身体つきをした将校が地面に足を付ける。将校の顔付きに刻まれた物々しさに反し、勲章を一つも付けてられていない白の軍服が異様過ぎて逆に将校が只者で無い事が伝わる。彼に続いて秘書といくつかの勲章で軍服を飾った将校が車から降りて来た。

「閣下、お待ちしておりました。第55号大隊基地司令を勤めております。金沢と申します」

号令台の前で彼らを待っていた金沢が敬礼をして口上を述べた。一ヶ月前の襲撃で負った負傷が原因で肩が上がらずにやや不恰好な敬礼になった。

「出迎えご苦労。しばらく世話になるがよろしく頼む。少し彼等に話をしても良いかね?」

「勿論です。どうぞ」

閣下と呼ばれた将校が号令台に登り、もう1人の将校、秘書、金沢は台の脇に控えた。金沢の号令で大隊構成員1000人超が敬礼を揃える。将校は敬礼を返した後、全員が敬礼を下ろすのを確認して将校は話し始めた。

「諸君、出迎えご苦労。横須賀海軍司令部所属、今回の作戦で長官を務める事になった大将の大都(だいと)だ。宣戦の事は皆知っていと思う、開戦時刻は明後日午前0時。我々の勢力下に孤立している敵勢力が目標とは言えど本作戦の失敗は、今後腹に火種を抱えて戦う事に直結する重要な作戦だ。失敗は有り得ないものと思え。出発は明日、陸戦隊は1600、連合艦隊は2300だ。それまでは作戦に備えゆっくり体を休めよ。以上」

短い訓示が終わり再び敬礼の送やり取りがあった後、金沢の指示で集会は解散した。号令台を下りた大都は金沢に言う。

「少将。指揮室を確認したい、案内せよ」

「畏まりました」

金沢は一礼と共に答えた。

 

 

 「紹介がまだだったな」

金沢に指揮室へ案内されている道中、集合が解かれたばかりで人気の無い司令棟の玄関で司令長官の大都はおもむろに口を開いた。

「今作戦で参謀として連れて来た柳(やなぎ)准将、秘書の手宮(てみや)君だ」

基地に同行させた2人を簡単に紹介する。

「本作戦で参謀を務めさせていただきます。柳です、お見知りおきを」

「ご紹介に与りました。秘書の手宮です」

「本基地の司令を務めております。金沢少将です、こちらこそよろしく」

金沢は歩を緩める事無く2人と握手を交わした。

「ん?手宮さんは以前どこかでお会いしましたか?」

「・・・いえ。初対面のはずです」

「そうですか。なんとなく貴女に見覚えがあったのですが・・・。手宮さんのお名前を教えていただけますか?」

金沢は少しの間考え込むしぐさをして手宮に尋ねた。それを見て柳が眉を顰める。

「金沢少将、そういう話は勤務時間外にお願いします」

「柳君は相変わらずお固いところがあるな。もっと肩の力を緩めて置け」

「しかし、このような重要な作戦の用意中に」

大都は有無を言わせぬ口調で言う。

「だからこそだ。艦隊を海に出してから最善の判断を為せるよう今は気を張るな」

「・・・承知しました」

「かと言って。少将も初日から秘書を口説くようでは、艦娘の提督としての素質を疑いかねんな」

「そのようなつもりは・・・申し訳ありませんでした」

金沢は頭を下げた。

 話しを続けながらも、一行は玄関を通り抜け2階に続く階段に差し掛かる。

「ところで、先に来た伊勢から聞いているかも知れんが、連合艦隊に組み込む予定だった二航戦の“翔鶴”が艤装の不調で参戦出来なくなった。今作戦は台港(ダイコウ)に待機する第一戦隊に敵の目を向けさせて手薄になる南部から高速戦艦で奇襲する」

「は、高速戦艦ですか?」

「そうだ。先日試験を終えたばかりだが長門、陸奥を連れて来たのはその為だ。艤装の高速戦艦への改造は公になっていないから少将が知らないのも無理は無い」

「そうですか・・・連合艦隊には加賀を起用しようかと思っていたのですが」

「資料を見たところ加賀は速力に難がありましたね。」

「一航戦を引退したとはいえ足の速さ以外は現一航戦の“鶴龍”や“陽鶴”、改大鳳型の“神鳳”にも劣りませんよ」

「こちらは赤城を使いたいと考えていましたが彼女はどうですか?」

「正規空母を、という事でしたらこちらは構いません。閣下、よろしいですか?」

「よし、明日までに新型艦載機の扱いに慣れさせておけ。烈風改と流星改はここに置いておく」

「承知致ししました。では伊勢は何故?彼女は高速戦艦になった訳ではありませんよね?」

「あれは水上機を使った索敵と陸戦兵輸送の護衛用に起用した。襲撃に成功しても占拠に当たる彼らが深海棲艦にやられては元も子もないからな。詳しくは明日の作戦会議で話す」

「そうでしたか・・・・・・さて到着しました」

話している間に4人は指揮室の扉の前に着いていた。

「こちらが作戦司令部になります。どうぞお入り下さい、設備や通信機の説明をさせていただきます」

金沢は扉を開けて3人を招き入れた。

 

 

 「提督、お呼びでしょうか?」

大都、柳、手宮の3人が基地の視察を終えて泊地本部がある夏島に向った後。赤城は金沢に呼ばれて彼の執務室に来ていた。

「はい。伊勢が来た時に話していた空母に1人代員が要るという話は覚えていますか?」

「ええ。私を呼び出したという事は出撃しろという事ですね。」

「そうです。話が早くて助かります。整備部に行って任務用の新型艦載機を受け取って今日中に慣らしておいて下さい」

「分かりました。この任務受けさせて頂きます。・・・提督、代わりにと言う訳ではありませんが・・・教えて貰えませんか?」

「何を、です?」

「昨日の事です。あれからいろいろ考えましたが納得できません。艦娘の私信も検閲しようとせず、機密事項も直ぐに話してしまうような人が隠すような事ってなんなんですか?」

「・・・職務怠慢と言われても仕方が無いと自覚していますが、それは貴女達を信頼してであって上層部からならともかく貴女から咎められるような覚えはありませんが」

「別に提督のそういうところを咎めるつもりはありません。只・・・提督の言うヒントが気になって昨日の夕食後、睦月ちゃん達にもう一度訊ねてみたんです。そしたら彼女達は口をそろえて始めて配属されたのはこの基地だって言うじゃないですか。じゃあ私の初陣で一緒に出撃したあの子達は誰なんですか?睦月ちゃん達は何者なんですか?」

「・・・僕の口からは言えません」

金沢は呻るようにして答えた。なおも赤城は問い続ける。

「昨日、大本営からの要請は私達艦娘の今後の扱いに関わるって言いましたよね?」

「しかし・・・」

「なにか私達にとって悪い知らせだったんですか?」

「・・・・・・」

「提督。私は人には自分に関わる事について知る権利があると思っています。軍規上で艦娘は兵として扱われたり、備品として扱われたり。場合によってさまざまですが提督には人として接してはいただけませんか?」

「・・・分かりました。すべて話しますから外が明るいうちに新型機に慣れて来て下さい。この事で基地の運営に支障を出すわけには行きません。夕食後の自由時間にここで話しましょう」

 

 

 その日の夕食後。1日を新型艦載機の訓練に充てた赤城は一度荷物を整理しに寮の自室に帰っていた。食事を共にした加賀も一緒で食事中に話さなかった事を口にしていた。

「赤城さん。・・・大丈夫なの?」

「何が?」

赤城は昼間着た正装を丁寧にたたみながら聞き返した。

「明日の出撃の事よ」

「・・・加賀さんらしくないわね。重要な作戦ではあるけど困難な作戦ではないわ」

詰襟を畳む手を止めて振り返ると赤城はあっさりと答えた。

「でも今回の相手は深海棲艦でも軍艦でもない。何があってもおかしく無いわ」

加賀はなおも心配そうに言った。赤城は洋服たたみを再開しつつ答える。

「噂では史上初の艦娘同士の戦闘が予想されているわね」

「赤城さん、貴女の事だから分かっていると思うけれど・・・」

「戦った相手を直接、殺めることになるわ」

赤城は加賀の言葉を先んじて口にした。

「・・・そうよ。・・・軍艦は沈めても乗組員に少しは生き残る可能性があった、深海棲艦は人ではないと言えた。でも今度の相手は私達と同じ艦娘よ。それなのに十分な準備も無しに出て大丈夫なの?」

正装をたたみ終えて赤城はそれを洋服箪笥にしまう。

「これは提督の指示で私達は艦娘。それだけよ」

「・・・そう」

そして赤城は急に悪戯っぽく笑って続けた。

「引退したとはいえ私達は一航戦、鎧袖一触よ」

「・・・・・・」

加賀が3回瞬きする間があった後、赤城は立ち上がった。

「それじゃ。提督と話しがあるから行くわね」

「・・・え、ええ」

赤城は加賀に見送られて自室を後にした。

 

 

 赤城が金沢の執務室の戸を開くと部屋に染み付いた香ばしい香りが鼻を掠めた。金沢はいつものようにコーヒーを片手に作戦の資料に目を通している。

「・・・来ましたか」

「勿論です。出撃する前になるべく心残りは断っておかないと」

「良い心がけですね。・・・赤城さんも飲みますか?」

「あっ、お構いなく。自分で淹れますから」

赤城は立ち上がった金沢を手で制したが彼は尋ねた。

「ご注文は?」

「はい?」

「ご注文はお決まりですか?」

金沢は面白そうに繰り返した。

「どうしたんですか?急に。・・・じゃあ提督と同じものを」

楽しそうに赤城はホットコーヒーを注文した。

 

 

 「前にもこんな事がありましたね」

金沢と赤城はそれぞれカップ一組を手に執務室のソファーに並んで座っていた。赤城のカップからは金沢が淹れたばかりのコーヒーが湯気を立てている。

「そうですね・・・たぶん加賀さんが塞ぎこんだ時以来です」

「もうそんなに前になりますか・・・。あの時は赤城さんに話してもらいましたし今日は僕の番ですかね?」

「そうですね。話してください」

「・・・どうしてもですか?」

「どうしてもです」

金沢はコーヒーを一口飲んでカップを左手に持った受け皿に乗せた。小さく陶器が音を立てた。

「あの要請書には艦娘を破棄せよとの旨が書かれていました。これを認めては今後、上層部は艦娘を道具のように切り捨てるようになるでしょう」

「破棄?解体ではないのですか?」

赤城は隣に座る金沢の顔を覗き込んで訊ねる。金沢は右手をカップに添えたままソファーに軽く凭れ掛かった。

「・・・現在、艦娘はどうやって艤装を動かしていますか?」

「それは、身体に埋め込んだ艤装の一部で脳からの信号を拾って機関部や兵装に伝えていますが・・・。この事と提督の隠し事に何か関係があるのですか?」

金沢は赤城の疑問には答えず質問を繰り返した。

「では艦娘を解体する時はどうしますか?」

「・・・身体に埋め込んだ艤装を取り出します」

「そうです。艦娘の艤装は軍艦の火力と速力を人の大きさに凝縮するが故に莫大なエネルギーの塊でもあります。それは身体に埋め込んだ内部艤装も例外ではありません」

 「提督、本当に話してくれるんでよね?」

「ちゃんと話しますよ・・・」

しびれを切らした赤城を制して金沢は話し続ける。

「内部艤装は艦娘の身体と同調させているので解体の際は不安定になりやすく、安全に解体するには相応の投資が必要になります。ですが今の軍は予算を解体に回す余裕はありません」

「では・・・艦娘を破棄するとはどういう事ですか?」

金沢は観念したように息を吐いて赤城の質問に答えた。

「要請書にあった“艦娘を破棄せよ”とは資金をかけずに艦娘を辞めさせろという事、具体的に言うならば事故死や戦死に偽装して艦娘を処分しろという事です。手を下せ、大本営は僕にそう要請してきました」

 

 

>>>To be contemew【十話 キッカケ】

 




 軍服については第一種が黒、第二種が白、第三種が開襟、って言うぐらいしか分かってないが艦娘にいつもと違う制服を着せたかった。こんばんは作者の胡金音です。そこのあなた!どうせ1日遅刻の更新だと思ったでしょ?前々回は丸1日遅れで前回は日付変わっちゃってたから今回も毎月29日更新(笑)とか思ったでしょー?今回は昨日までにちゃんと書き終えてましたー。ほんとに。3度目の正直って言うじゃないですか。・・・そりゃ確かに2度あることは―――とも言いますけど・・・。
 気が付けばこのBetrayal Squadronも9話目、番外編込みで10話目ですかー。当初の予定ではそろそろクライマックスだったんですけど話は折り返し地点も通過していません。六話の後書き時点では冗談のつもりだったのに本当に20話前後になりそうっていうね。
今回だってフェリピ島攻略作戦編終らせて次回は次の**編への足がかり的な話にしたかったのにまだ出撃もしてませんよ、ここの人たち。おい、金沢。コーヒー飲んでないで出撃早よ。(ネタバレ防止の為、一部伏字)
 まあ、こんな感じの話ではありますがもし気に入っていただければ嬉しいな、せめて時間の無駄だったって思われないぐらいの作品には仕上げたいな、と思って書いてますのでよかったら最期までお付き合いいただけると幸いです。ちょっと良さげな事を書いたところで今回の後書きは終了です。また次回の後書きでお会いしましょう!ノシ


>>>つーべーこんてぬー【十話 後書き】


[追記]
あ。そういえば次回お会いしましょうとか言って、ちゃんと後書き書くの久し振りな気がする・・・。えっと・・・以後ちゃんと書くようにします。

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