Betrayal Squadron   作:胡金音

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13日分の更新ですm--m



八話 波のまにまに

 ―国民の皆様方に至急お知らせしなければならない事がございます。昨夜未明、外務省は合衆国首脳部と交渉は決裂した、との旨を公表いたしました。速報、繰り返させていただきます。合衆国との交渉は決裂いたしました。これを受け内閣府は今後の対応を本日正午記者会見で公表するとの・・・・・・―

 

 

 ある日の朝、いつもの様に朝礼で講堂に集まっていた艦娘達は本土から流れる一般のラジオ放送を聞いていた。

「この通り、一般国民にも交渉の決裂が公表されました。宣戦布告の件は未だ公表されていませんが、我々は開戦に備えた用意をしなければなりません。知っての通り本日の午後、横須賀艦娘師団の精鋭が到着します」

正面に置かれた大型のラジオの横で金沢は言った。

「我々はベイリア領フェリピ群島の占拠を任務とする彼らの支援にあたります。この作戦は今後を左右する重要な作戦の為、連合艦隊が結成され大本営から指揮官が派遣されます。この基地は作戦司令部となるので失礼の無い様に」

それから朝礼は最低限の連絡を伝えて終了した。解散後金沢は北間に訊ねた。

「大佐、合衆国との戦争はどうなると思われますか?」

「我々はすべき事をなすだけです。・・・ところで基地司令は赤城との仲はどうなりました?」

金沢は苦笑いで答える。

「ご心配なく。もう1ヶ月も前の事です」

 

 

 深海棲艦の泊地襲撃からひと月が経った。その間、前々から芳しくなかった日ノ本国とベイリア合衆国の関係は徐々に悪化、日ノ本世論は開戦に傾いた。事態を重く見た両国は外相会談を開いていたが日ノ本交渉団は世論に圧され融和路線を進みかねる。ベイリア交渉団は譲歩する前提として強硬的な試案を提出。しかしどこからか漏洩した試案の内容が日ノ本で大々的に報道され世論の不満は爆発した。内閣は解散に追い込まれ、圧倒的多数で選定された次期首相は強硬主張で有名な人物で彼の選挙公約の筆頭は“対ベイリア戦争の勝利”であった。日ノ本交渉団は本国の指示により強硬姿勢に転じる。その結果、首相の目論見通り交渉は破談。日ノ本政府は宣戦布告の準備を着々と進めていた。

 なお、52号大隊に残された衣笠の遺品受け渡しの交渉は遅々とも進展していない。

 

 

 講堂を後にした睦月達は道すがら談笑しながら廊下を歩いていた。

「ねぇねぇ、基地司令が時々夏島に出かける用事って何だと思いますぅ?」

「それは基地司令が言ってる通り、会議や公用じゃないですか?」

睦月の顔には何か“面白い考え”を期待していますと顔に書いてあったが三日月は真面目に答えた。

「でもここ一ヶ月に固まってるのはおかしいかな」

「でしょ?でしょ?」

「何かやましい事でもあるんじゃないか?」

「・・・浮気してる旦那じゃあるまいし」

皐月や長月が話題について行くのを見て望月が呆れたように言った。

 

 「旦那って事は・・・。提督、私達って夫婦みたいに見えます?」

睦月達一行の後ろを歩く赤城は会話が耳に入り、少し赤くなって金沢に訊ねた。

「望月なりの冗談じゃないですか?」

金沢は特に興味が無さそうに答えた。

「・・・そうですね」

赤城は少し肩を落とす。

 

 「そうですねー、赤城さんも詳しくは知らないみたいだし。やましい理由が無いなら秘書艦にぐらい話してもいい筈ですし?」

「・・・夏島の繁華街には若い女性ばかりが接客する酒場があるらしい」

「なにそれー?」

菊月がボソリと言って文月が興味を持った。如月が直ぐに説明する。

「エスプレイじゃなぁい?エスプレイって言うのは・・・」

「こらっ如月姉さん!」

三日月が止めた。

 

 金沢が苦々しい表情になった。

「まったく。誰がそんな言葉、教えたんだか・・・また大端さんですかね?」

「・・・」

そんな金沢を赤城はジト目で見つめた。

「赤城さん?・・・あっ別にそういう所に行っている訳ではありませんよ!?」

 

 珍しく如月はあっさりと引き下がりにんまりとした笑みを浮かべる。

「それにしても赤城さんも苦労するわねぇ」

「基地司令も罪だね」

「そだねー」

「赤城さんと基地司令がどうしたのー?」

「おやおや?文月は知りませんでしたかー。実は・・・」

睦月が何やら文月に耳打ちする。

「三日月、今度は止めなくて良いのか?」

文月に入れ知恵をする睦月をみて長月が冗談っぽく訊ねた。

「まあ、睦月姉さんなら・・・」

「ちょっと、それどういう意味ぃ?」

如月が頬を膨らませて見せた。その後ろでは睦月の話を聞いた文月が目を丸くしている。

「ふぇ!?・・・じゃあ赤城さんは基地司令の事好きなのぉ!?」

「・・・!声が大きい!」

隣を歩いていた菊月が文月を嗜めた。

 

 「そうなんですか?」

数メートル後ろで金沢が確認を取った。本人に。

「!?そっ・・・そそそそそんな事ないに決まってるじゃないですかっ!!」

赤城の大声に睦月たちがハッとした表情で一斉に振り向いた。どうやら2人がいる事に気付いていなかったらしい。そのまま不味いといった表情で固まっていた。

「・・・済みません。冗談が過ぎました」

豆鉄砲でも喰らった鳩のような様子で金沢が赤城に謝った。

「いえ・・・こちらこそ急に大声を出してしまって、済みませんでした」

ようやく金沢は振り返ったまま固まっている睦月達に気付く。

「おしゃべりも良いですが訓練には遅れないように。そろそろ時間ですよ。」

何事も無かったかのように軽く手を叩きながら金沢は言った。

 

 

 太陽が南中を越えて少し経った頃。来訪者が基地の門を潜った。そのまま門番の詰所を通り過ぎて行く。

「っ!・・・待て待て、勝手に入るなっ」

足を机に載せて思い切りだらけていた番兵が慌てて来訪者を止めた。同時に肌蹴ていた制服のボタンも留める。

「今更身だしなみを整えても遅いんじゃない?」

軍の制服である半袖のYシャツとズボン姿の女性は振り返って言った。やたら大きな背嚢を振って軽々と背負っている姿を見て番兵は訊ねる。

「・・・艦娘か?」

「正解~。じゃあそういう事で」

「いや待てって」

「あ、そっか。許可証よね。ありますよっと・・・はい」

艦娘は背嚢をそっと置いて腰のポーチから葉書程の大きさの紙を取り出す。

「・・・大尉でしたか、失礼しました」

入場許可証に書かれた階級を見て番兵は敬礼した。

 「ところで先程の・・・」

「あー、職務態度の事なら黙っといてあげるわよ」

艦娘は多少面倒くさそうに答えた。

「ありがとうございます。では一応こちらに名前を頂けますか?」

「はいはい」

番兵が出した書類に艦娘は艦名を書き込む。

「伊勢型戦艦一番艦、伊勢・・・っと」

 

 

 海からの温い風が通る執務室に香ばしい湯気が昇っていた。風が吹いている間は心地よいが、風の無い時は日陰でも暑い。屋根や壁からの熱が伝わる南の角部屋なら尚更だった。

「提督は本当に熱いコーヒーがお好きですね。今日みたいな日ぐらい氷を入れては如何ですか?」

「コーヒーは熱いほうが美味しいですよ」

赤城は断ってから執務机の端で金沢のカップに淹れたてのコーヒーを注ぎ、自らのカップにも注いで幾つか氷を入れた。

「グラスもありますよ?」

カップでアイスコーヒーを作った赤城を見て金沢が声をかける。

「いえ、こっちが良いんです」

「そうですか」

金沢は赤城にコーヒーの礼を言った後、万年筆を置いてカップに口を付けた。

「・・・こうしていると、いつ開戦してもおかしく無い事なんて忘れてしまいそうですね」

そして金沢は一服する。赤城は執務机の斜め前にあるソファーに座った。

「そうですね。・・・いっそ宣戦なんてなければ良いのに」

指揮官は秘書の弱気ともとれる言葉を咎めはしなかった。

 「失礼しますっ!!戦艦伊勢、参上しましたっ」

ノックはあったが返事の前の入室だった。金沢と赤城は同時に部屋の入り口に目を向ける。

「伊勢ですか。久し振りですね」

「あれっ?金沢さんじゃない!」

伊勢が金沢の姿を見て驚きの声を上げた。

「お知り合いですか?」

「海大実習の時の秘書艦です」

金沢は赤城の質問に答えると2人を紹介した。伊勢と赤城は簡単に挨拶を交わす。赤城がコーヒーを勧めて伊勢は冷たいものを頼んだ。

 「あの、海大実習って何ですか?」

赤城がコーヒーをグラスに注ぎながら訊ねる。氷が涼しげな音を立てた。赤城の隣に座った伊勢が礼を言ってそれを受け取る。

「卒業前に実際に艦娘を運用して適正を見極める実習です。これと学科の結果が出世に響きます」

「金沢さんは見事これに大成功して将補生に選ばれたのよねー」

「自慢する様な事では無いのだから止めて下さいよ。それに僕以外にも1人選出されています」

「今の私の提督ね。でもそれにしたって簡単に選ばれるものじゃないじゃない」

伊勢が金沢を肘で小突いて冷やかした。

 「そういえばそうでしたね。三崎(みざき)は元気にしてますか?」

「そりゃもう元気よ。この間も他所の提督を病院送りにして」

「あの・・・将補生っていうのは?」

話に置いてけぼりにされた赤城は少し遠慮がちに尋ねる。

「え、知らないの?」

「赤城さんは空母不足でずっと前線に居たから知らないのでは?」

赤城はこくこくと頷いた。なるほど、と前置きして伊勢は説明を始める。

「将官候補生って言うのはー・・・。えーと・・・キャリア中のキャリアって事よ」

「それじゃ分かりませんよ。艦娘の指揮官になるには、最低限佐官になっている事が必要なのは知っていますね?」

「はい。それで提督方は皆さん海大出身なのですよね」

「海大を出て尉官から昇格するか、兵から叩き上げで昇格するかは自由だけどね」

伊勢が補足した。

 「そして海大の成績上位者は佐官候補生と言って卒業後直ぐに少佐になる特殊教育を受けられる制度があります」

「さらに人員不足だけど適当な人材が居ない時なんかは即戦力としてエリート揃いの佐補生の中でも優秀な人を将補生として育てるのよ」

「じゃあその将補生は卒業すると少将に?」

「惜しいっ!20代の若造准将が誕生するって訳」

元若造准将は苦笑いでその説明を聞いていた。

「へぇ。提督がその将官候補生に選ばれたんですか」

「意外でしたか?」

「意外でした」

赤城の即答を聞いて伊勢が爆笑した。

 

 

 「それで他に横須賀からは誰が来ているんですか?」

伊勢が落ち着いたのを見計らって金沢は声をかけた。

「51号大隊基地で長門、陸奥が待機しています」

「ドックの規模的には妥当ですね。長官は?」

「明日、航空機で来られます」

「了解しました」

「それと提督。これは後で長官からもお話があると思うんですけど、今回の作戦に参加する予定だった翔鶴が艤装の不調で出撃出来ませんでした」

「代員の空母をこちらで用意しろという事ですね」

話の意図を察して金沢から言った。

「そうなると思います」

「分かりました。念頭に置いておきましょう」

金沢と伊勢が作戦の打ち合わせをしている間、赤城は大人しくコーヒーを飲んで控えていた。

 それから3人は少しの間雑談に興じた。しばらくして金沢が時計を見て言う。

「長くなってしまいましたね。赤城さん、伊勢を寮の客間に連れて行くついでに基地を簡単に案内して貰えますか?」

「承知致しました」

「それと、伊勢」

金沢は伊勢に向き直る。

「遅くなりましたが・・・ようこそトラック泊地へ。しばらくの間、またよろしく」

 

 

 「だぁーっ!やってられっかぁ!」

赤城が伊勢を連れて基地を案内している頃、大端は自身の執務椅子で大声を上げた。

「あんのぉ~ヒゲ親父め!」

「ヒゲ親父って・・・52号大隊の岩瀬(いわせ)中将の事ですか?」

訓練中に大端に呼び出せれて彼女の執務室に居来た千歳が、水出しの麦茶を3つ用意しながら聞いた。隣では千代田がそれを手伝って居る。

「そうよ!今朝もわざわざ朝から向こうの基地まで出向いてやったって言うのに会いもしないってどういう事よ!」

「提督、疲れてるね」

千代田が湯飲みを渡しながら大端を労った。大端は麦茶を一気に飲み干すと叫んだ。

「ちとちゃん、お酒!お酒、頂戴っ!」

「駄目です」

「ケチ!」

 千歳が断るのを聞くや否や大端は壁際のサイドボードに取り付いて、中の日本酒のビンを取り出そうとする。

「あっ、勤務中は飲ませない!千代田!」

「了解!」

千歳に名前を呼ばれた千代田は直ぐに反応した。背後から大端を羽交い絞めにする。千歳も両手に湯飲みを持った湯飲みを置いて、千代田と協力して大端を椅子に座らせた。

「お酒は夜まで我慢なさい!」

「だってぇ・・・」

千歳と千代田はそれぞれ執務椅子の左右を塞ぐ形で大端の退路を文字通り塞ぐ。大端は机に突っ伏した。

 「そもそも提督はなにしにその中将さんのところに出掛けてるの?」

「・・・色仕掛け」

「違うでしょ」

誤魔化そうとする大端を千歳は問い詰めようとする。

「って、色仕掛けに行って面会も出来ませんでしたって・・・私馬鹿みたいじゃない!」

「ご自分で言っておいて何言ってるんですか!」

 やがて大端は少しずつ千代田に話した。

「・・・・・・そりゃ規則では艦娘が残した遺留品とかの処分はその艦娘が所属する基地に一任されてるわよ。でもずっと近くに居た姉妹にだって受け取る権利はあるはずよ」

「衣笠さんの事?じゃあ青葉さんの為に提督は52号の指令に交渉しに行ってたの?」

「基地司令の指示でね。ここ1ヶ月、私だけじゃなくてここの指揮官が交代で行ってるわ」

大端は気だるげに答える。

 戸がノックされた。

「誰ー?」

「三ツ屋です」

「帰れ」

「失礼します」

三ツ屋少佐は執務室の主の断りも無しに戸を開けた。手には書類の入った封筒を持っている。

「帰れって言ったでしょ」

「理由も無しに追い返されるような事をした覚えはありません」

しれっと言い返して机越しに大端に向いに立った。

「基地司令からこれを・・・その様子だとまた追い返されたようですね」

「理由もなくね」

 「・・・もう止めましょう。規則に添って言えば無理を言っているのは我々です」

三ツ屋はあっさりと言い放った。

「基地司令の指示よ」

「私が言うのも何ですが・・・基地司令はお若い。対して岩瀬中将は海軍でも有数の古参です。さらに戦力における艦娘の割合が増えるに連れて厳格な古参の士官よりも紳士的な若い士官の方が出世しやすい傾向にあります。体面的にも岩瀬少将が指令の説得に折れる事はまず無いでしょう」

「何が言いたいの?」

「私からも進言します。中佐からも指令の説得を」

「あんたねぇ・・・そりゃ他人の管轄に口を出してるのは私達の方よ、でも基本的に艦娘の遺留品はその姉妹に譲渡されてきたじゃない! 」

「規律を前面に持ち出している人間にそんな不文律は通用しませんよ」

「青葉ちゃんの直属の上司であるあんたが最後まで粘らなくてどうするのよ!」

大端は今にも掴み掛からんばかりに怒鳴った。

「・・・中佐は少し頭を冷やして下さい」

そういうと三ツ屋は脇に居た千歳に封筒を押し付けた。

「基地司令から、フェリピ占拠作戦の資料です。中佐が落ち着いたら渡してください」

そう言って三ツ屋は部屋を出た。

「提督、これ以上説得を続けるのはさすがに無理があるんじゃないかな・・・?」

「じゃあ千代田は千歳が異動先で沈んで何も残らなくて言い訳?」

「それは・・・」

大端は額を押さえて指示を出した。

「休憩でも取ってきなさい。書類は置いて行って」

千歳、千代田は上官にかける言葉を見出せなかった。

 

 

 三ツ屋は大端の執務室を出て自らの執務室に向った。執務室は階級順に並んでいて彼の部屋は大端の一つ隣になる。

「三ツ屋少佐」

彼の名前を呼んだのは栗崎。大佐である彼の執務室は大端の部屋を挟んで三ツ屋の2つ隣になる。

「ずいぶん騒がしかったようだが何かあったかね?」

「岩瀬中将との交渉について話し合っていました」

「・・・君はこの交渉に反対かね?」

「開戦前に内輪揉めをしている場合ではないかと存じます。大佐はまだ交渉を続けるおつもりのようで」

「そうだ」

栗崎は短く肯定した。

「水兵からの叩き上げで大佐まで上り詰めた様な方の考えとは思えませんね」

「古鷹や加古、もしくは私に何かあった時の為に恩を売っておきたいだけだ」

「大佐がどうされようと構いませんが基地総出で連合艦隊の足を引っ張る様な真似は」

三ツ屋がここまで話した時、大端の執務室から千歳と千代田が出て来て話を止めた。

「えっと・・・」

「少佐、君の言いたい事は分かった。引き止めて悪かったな。2人もそんなところで立ってないで行きなさい」

状況を呑めていない千歳達を見て栗崎は話を終らせた。

 

 

 大端の執務室の前で栗崎と三ツ屋の会話を小耳に挟んだ千歳と千代田はついさっき沸いて出た休息時間を使って、女子寮のある部屋にやって来ていた。

「鳳翔さーん。居ますかー?」

千代田が戸を叩いた。直ぐに返事が聞こえて鳳翔が顔を出した。

「あら2人とも。こんな時間にどうしたの?」

千歳が真昼間から休憩時間ができた経緯を説明する。

「そう・・・。よかったらお茶にしていかない?」

鳳翔は2人を部屋に招き入れた。

 「散らかっていてごめんなさいね」

鳳翔は座卓と畳の上に広げていた大量の紙束や封筒を手早く片付けて3人が座れる空間を作った。

「これ何の資料ですか?」

「いろいろ、ですよ。提督から資料整理をお願いされていたものだから」

「私で良かったら手伝わせて下さい」

「いいんですよ。これは私の仕事だから。・・・じゃあ棚のお茶菓子を出してくれる?」

千歳が小皿を用意し、千代田があられを盛り付ける間に鳳翔は慣れた手付きで煎茶を注いだ。

「さあ、どうぞ」

「いただきます」

「ありがとうございます」

 3人は湯飲みに口を付けて一息つく。最初に口を開いたのは千代田だった。

 「鳳翔さんはもう弓をとらないんですか?」

「そうねぇ・・・今の私の任務はあくまで貴方達の育成と秘書の子の補助ですから」

「そうですか・・・」

「今朝の事とさっきの事、不安かしら?」

鳳翔は優しく微笑んで千代田を見つめた。

「別にそんな事は・・・無い、です」

千代田は言いよどみながら答えた。

 「鳳翔さんは今までに“深海棲艦以外”と戦った事はありますか?」

そう訊ねたのは千歳。ちなみに艦娘は日ノ本国以外にも居る。鳳翔は表情を硬くした。

「ええ。私が前線に居た頃、巨大な軍艦は海上を駆け回る艦娘達に為す術も無く沈められていったわ。敵も見方も。彼の地の鎮守府に奇襲をしかけた事もあります。でもその頃はまだ艦娘の絶対数が少なかったこともあって艦娘同士の戦闘は無かったわね」

「では今度、戦争が始まったら・・・」

「大丈夫。ここの任務は支援だから誰も欠けたりしないわ」

「そう・・・そうですよね!」

「そうですよ。それにここの指揮官は優秀な人達ばかりだから指揮に私情を挟んだりしないわ。はい、これでこの話はおしまい。・・・このお茶菓子、美味しいですよ」

鳳翔はあられを一粒摘んで見せて2人に勧めた。

「では改めて頂きます」

「・・・あっ!お姉、これ美味しい!」

 

 

 「提督、大本営より小包が届いていましたよ」

夕方、その日の演習を終えた赤城は報告のついでに事務課で預かった金沢宛の郵送物を持ってきた。小包は確認で一度開けられており、保護の包装は中身の手のひらサイズの木箱の下に敷かれていた。

「いつもすみませんね」

「いいえ。これも仕事です」

赤城は金沢の執務机の端に置いた。

「なんですか?これ・・・あっ!もしかして婚約指輪?」

「新型の艤装です」

「なんだ。見ても良いですか?」

「すみません。検められては居ますが一応極秘扱いなので駄目です」

金沢はきっぱりと言い切る。

「むぅ。提督は何も教えてくれませんよね。これでも秘書なのに・・・。しょっちゅう夏島に出かける理由も、提督が隠してる封筒の事も。知っているんですよ?提督が私に隠して何か書いていたの」

「ひと月以上の前の事じゃないですか。それに軍の極秘事項を僕の一存で話す訳にはいきません」

「それはそうですけど・・・」

赤城は頬を膨らませた。

「拗ねないで下さい」

「拗ねてません」

「・・・」

「・・・」

金沢が溜息を吐いて言う。

「・・・分かりましたよ、僕の負けです。でもすべては話しませんよ」

 赤城はソファーに座って話を聞く体勢を整えた。

「加古さんが演習で実弾を撃って問題になった日の朝。赤城さんが持って来てくれた封書の事を憶えてますか?」

「はい。たしか泊地長の富山中将からのものですよね」

「そうです。あの中身は大本営から来た要請書、まあ実質命令ですね。それの写しでしたが肝心の内容は今後の艦娘の扱いに大きく影響が出るようなものでした。僕が書いていたのはそれを撤回して貰う為の資料、本部に何度も顔を出していたのはその説得の為です」

「・・・大本営はその要請を撤回したのですか?」

金沢は横に首を振って言った。

「それが以外と上手く話が進んだようでして・・・こんな事を言っては不謹慎ですが戦争になりそうなお陰です。陣頭指揮のついでにこちらを視察した上で判断する、との返事を頂きました」

「では司令部に選ばれたのは・・・」

「あくまで視察は“ついで”です。この基地が攻略戦の司令部に選ばれたのは設備がそろっていたからでしょう」

「提督。大本営からの要請ってなんだったのですか?」

「そういう訳でこの案件は派遣される指揮官の一存で決まると言っても過言でない以上、今回の作戦は失敗許されません」

「提督・・・」

金沢は答えなかったが赤城はそのまま無言で返事を待った。

「・・・資料で見たんですが赤城さんは初陣の時に睦月型艦娘を僚艦に連れていましたね」

「え?えっと・・・はい。あの子達は憶えていない様でしたが」

「彼女達がヒントです。そろそろ夕食の時間ですよ。行きましょうか」

金沢はそう言って話を切り上げた。

 

 

 機体が旋回して左に傾く。日が高くなり、窓からはトラック諸島の島々が照らされて鳥瞰図と同じように広がっていた。窓の向こう、直ぐ後ろでは発動機が羽を回していて振動が伝わってくる。

「閣下。間も無く到着いたします」

「そうか。到着したら一度春島の作戦司令部を確認する。この作戦、陛下に特別の御期待を賜っているのだ。なんとしても完遂せねばならん」

「畏まりました。移動手段を用意しておきます」

閣下と呼ばれた男は鷹揚に頷くと後ろの座席を振り返った。

「柳参謀も来たまえ」

「はっ・・・ご一緒させていただきます」

その席に座っている将校は軽く頭を下げて答えた。

 

 

>>>To be contemew【九話 三ツ巴】

 




 なんとなーく、話がドロドロしてきましたと思います。こんばんわ。寝不足で眠いです。本編書いてる最中は後書きで書くネタ決めてたのに忘れました。ちくしょう。作者の胡金音でした。
2014/9/14 0:10                        胡金音

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